第6話 大貫衣弦、妄想拡張!
タッタ村。
自然豊かな森に流れる一本の大きな川。
その川の中流に出来た小さな村。
村には300人程度の人々が住んでいて、子供も大人もストレスなく伸び伸びと生活している様子だ。
その村に今、危機が迫っている。
森の中に住む獣人ベア族が俺たちの命を狙っているという話だ。
理由は俺が竜騎士を名乗ってしまったから。
「そうですか。遅かれ早かれ、いずれはその時が来るとは思っていましたが·····」
そして俺達は村長にその旨を伝える事となった。
かなりの老人である村長、頭部はツルツルでサイドに僅かに残った白髪、眉毛や髭も白くてまさに長老という風格だ。
村長は取り乱すかと思ったが、案外その話をしっかりと受け止めてくれる。
さすが歳を召しているだけはあって落ち着きようも目を見張るものがあるな。
「奴らベア族はここ数年、この村からあらゆる物を奪っていきました。食料や金品など、人々を脅して自分の村へと持ち去っていくのです」
「なんだか浅からぬ因縁があるように見えたがそういう事だったのか。今まで奴らに戦いを挑んだ奴はいなかったのか?」
「何度か反抗を試みた勇敢な者はいましたが、もちろん全く歯が立たず、帰らぬ者となりました」
つまり強い力で他者を蹂躙し、恐怖で事実上の支配下にされている訳だ。
単純な弱肉強食という奴だ。
これは俺の世界の構図とよく似ている。
軍事力という武器を持つ事により戦争が起きて、沢山の命が散っていく。
大小の差はあれど、どの世界でもこういったいざこざは変わる事はないものなのかと、俺は少し落胆する。
「しかし今回は村の存亡に関わる重大な危機。ベア族の脅威は常にあったとはいえ、それでもこの村は比較的平和に過ごしておりました。あなたとナナリーがその引き金を引いたのは紛れもない事実。この村に災いをもたらす者をこのまま村に置いてはおけません」
「当然そうなるわな。けど引き金を引いたのは俺で、ナナリーは関係ない。罰を受けるのは俺だけでいいはずだ」
「そういう訳にもいきません。ナナリーがあなたを呼び寄せてしまったのなら、責任は重大です。私が許したとしても村の人々はそう割り切れないでしょう」
隣のナナは顔を俯かせ、少しだけ肩を震わせているようだった。
悔しいのか悲しいのか、あるいは両方なのか、彼女の感情が全てわかるほど俺はすごい人間ではない。
「あなた方二人はこの村を出ていってもらいます。心苦しいですがナナリー、あなたには追放処分を言い渡します」
「·····はい」
「この村は私達が守ります。あなた方はこれ以上関わらないで下さい」
あれほど息巻いたというのに、俺はナナを守るどころか巻き込んで、この村からの追放処分という残念な展開になってしまった。
「えっと·····ナナ、ご、ごめんな。俺のせいで·····」
「仕方のない事よ。あなたは謝らなくていい」
彼女の住んでいる家に戻ってきた俺たち。
ナナは早くも荷物をまとめ始めていた。
「どこか行く宛はあるのか?」
「ないわ」
「そうか·····」
女の子との会話なんて妹ぐらいとしかまともにした事がないので、こういう時になんと言えばいいのか引き出しがない。
俺が慰めるというのは全く逆効果だというのはよくわかっている。
だってこの状況に陥れた張本人だもの。
そんな風に俺がたじろいでいると、彼女の方が先に口を開いた。
「けど、この村を見捨てる気はない」
「え?それって·····」
「ここは私にとって大切な村なの。ここの人達にどれほど救われてきたか。どこの誰かもわからない私を受け入れて、優しくしてくれた。だからこの村が危ないのなら、私はそれを守る者となりたい。それが私に出来る恩返し」
追放処分となってもまだ、ここまでの恩義を忘れない、風化させないナナはなんて義理堅いいい子なんだろう。
俺だったら不貞腐れて勝手にどっかへ行っちゃっていたかもしれない。
·····俺ってなんて小さい人間なんだろう。
「その覚悟、確かに聞き届けた。元はと言えば俺のせいなんだし、最後までやってやろうじゃんか」
「イヅル·····」
こうなったらやけくそだ。
もうどうなってもいいや。
こんな所で人生最大のピンチが訪れるとは思ってもみなかったが、いちいち考えても仕方がない。
やれるだけやってみよう。
結果がどうあれ、足掻いたのなら胸を張れる結末になるはずだ。
たとえここで死んだとしてもだ。
死ぬにしても惨めに逃げ回って、泣き叫んで死ぬよりは潔く突っ込んで死ぬ方がカッコイイだろ。
ゲームやアニメ、映画や史実なんかでも自己犠牲をやってのけたキャラクターは人の心を動かし伝説となる。
竜騎士オオヌキイヅルが伝説となるのならそれは悪くない。
「本当に私と一緒に戦ってくれるの?」
「あぁ」
「私、弱くて力になれないかもしれないのよ?」
「大丈夫だ!俺の方が弱い!」
俺の力が特段強くなったようには思えない。
剣術を習った訳でもなく、武術に関する知識も皆無に等しい。
単純な戦闘能力はゴミレベルと言える。
「わかった·····。なら一緒に戦おう。ベア族の進行を食い止める。私達が先に出ればもしかしたら村には手を出さないかもしれない」
「俺が餌になるさ」
唯一可能性があるのはスキル。
完全にあの謎に包まれた二つのスキルに託すしかない。
じゃなきゃ本当にただの餌になるだけだ。
携帯を取り出して再び画面の表示を確認する。
げ、もう電池30%しかないじゃん。
かといってこの世界に充電器があるとは思えないし、そもそもコンセントないし、ていうか電気はあるのか?
そんな事を考えつつも再び『あなたのステータス』を確認してみる。
オオヌキイヅル
18歳、男
人間族
クラス、竜騎士(笑)
特徴、妄想癖、童貞
スキル
ぅおおい!なんだ竜騎士(笑)って!
こいつ俺の事をバカにしてるぞ!携帯のくせに!
「ナナ、お前召喚師なんだよな?」
「一応ね」
「て事はなんかこう、召喚獣とか大精霊みたいなものを召喚出来たりするのか?」
召喚師といえばまさにそういうものだ。
ある意味俺も召喚獣の一つなのかもしれないが
、俺にはちょっと召喚獣としての役割を全う出来そうもない。
「私の体には大精霊サラマンダーと大精霊シルフの加護が宿っているの」
「おおっ!すげーじゃん!」
「けど、今は召喚が出来なくて·····。使えるのは火と風の魔術だけ。大精霊召喚の力を取り戻す為に頑張ってみたけど、代わりにあなたを召喚してしまった」
火と風の魔術を使えるというだけで充分俺よりも強いはず。
さて、俺はこれからどうやって戦おうか。
さすがに丸腰にこのキツキツの服では瞬殺されてしまう。
「せめて武器が必要か·····」
武器·····武器·····。
このファンタジー世界で武器といえばやはり剣だろう。
カッコイイ剣といえば真っ先に浮かぶのはエクスカリバー。
あらゆる創作物に登場するアーサー王の剣。
ああいう武器を持っていれば見栄え的にも相手を威圧出来そうなもんだが。
その時、家の中だというのに突然風が巻き起こり、部屋の中にあった紙などが宙に舞い上がる。
「イヅル!何をしたの!?」
「え、俺?」
風はすぐに収まったが、どういう訳かさっきまでなかったはずのものが俺の目の前に横たわっていた。
それを見たナナも驚いて硬直する。
俺はそれ以上に驚きを隠せない。
「おいおいマジかよ·····」
そこには先程想像していた、エクスカリバーの形とそっくりの剣があった。
俺はあくまでその剣を想像していただけ。
この世界にあるのかどうかも怪しい剣を想像しただけに過ぎない。
「剣·····もしかしてこの剣はあなたが·····」
そこで理解力のある俺はすぐにどういう事なのか一瞬で答えにたどり着く。
「
「イリュージョンメイカー·····?」
スキル
どういう効果なのか未知だったその能力。
この一件ではっきりとわかった。
「いけるかもしれん·····。なれるかもしれん·····。この世界の主人公に·····!」
俺が授かったのは最強レベルのチートスキル。
妄想を現実へと変える能力。
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