第4話 大貫衣弦、自分を知る!
こうでなきゃ面白くない。
せっかくのファンタジー世界、RPGゲームのようにステータスが見れれば自分の強さは簡単にわかるってもんだ。
自分のステータスをどうにか見れないものかと実は結構前から考えていたが、まさかこういった手段をとってくるとは予想外だったぜ。
「な、なによ·····。急に大きな声出さないでよね!」
「これが発狂せずにいられるかってんだ。例えるなら、ずっと好きだった子と放課後西日が差し込む教室で二人きり。窓の外では野球部が練習に打ち込んでいて、その声が微かに教室まで届いている。彼女が少し寂しそうな顔でその様子を眺めながら呟くんだ。私達がこうしていられるのももうあと僅かなんだね、と。そこで俺は、あと僅かかもしれないけど終わりじゃない、だろ?と言ったところに彼女が、ねぇ·····私と一緒にいてくれる·····?って言われた時の感覚と同じだよ」
「いやもう全く何を言ってるのかさっぱりわからないんですけど」
「想像力が足りんな偽妹よ」
「その偽妹って言い方なんか腹立つから言わないで」
「ほう、じゃあナナと呼ぼうか」
「そ、そんないきなり馴れ馴れしい呼び方!?」
「なんだ不服か?」
「ま、まぁ特別に許可してあげるわよ」
元々妹の名前がナナなので、同じ顔を持つナナリーをそう呼ぶ事は俺にとっては自然な事。
小学校の時クラスの担任の事を間違ってお母さんとか呼んじゃうように、俺もその内間違えてナナって呼びそうだから先にそれを定着させてしまおうという作戦だ。
「なら私もあなたの事をイヅルって呼ぶわよ」
「いやそこはお兄ちゃんと呼びなさい」
「却下、こんなのがお兄ちゃんな訳ないし」
「あーお兄ちゃん傷付くよそういうの。妹は目をキラキラさせてくっついて甘えてくるのが基本だろ」
「知らんわそんなの」
本当の妹の七夏もそんな事してくるわけねーけどな。
さて、ナナの相手はこれくらいにしといて、俺はいよいよ本題へ入ろうと思う。
俺のスマホにインストールされていた『あなたのステータス』という名前のアプリ。
これはこの世界における俺のステータスを教えてくれるアプリに違いない。
ゲーム内だったらステータスの重要性はそのままこの世界の自分の運命と置き換えてもいい。
初期ステータスが常人よりも高ければ強キャラだし、低ければ弱キャラでこの異世界を生きなければならないのだ。
他に特殊なスキルなんかを持ち合わせていれば最高だ。
チート級の最強スキルプリーズ。
あと最初からレベルカンストとか、そういうのでも全然構わないよ。
「おやおや、こんな所で何をしてるんだチビ召喚師」
俺のワクワクとドキドキに水を差すように、まるで俺にそのアプリを見せまいとしているかのように姿を現したのは二足歩行のクマだった。
「クマが喋った!ハチミツ!ハチミツ!」
俺の知っている喋るクマは黄色くてハチミツが好きなあいつか、赤い帽子を被ったマーマレード好きな紳士か、酒と女が好きな中年のテディベアしかいないが、さすが異世界、さっそく見せつけてくれる。
「なんだこの小僧は」
睨みをきかせてくる二足歩行のクマ。
頭にカウボーイハットを被り、革ジャンを着て、ブーツまで履いてるぞ。
しかしクマだけにやたらデカい。
2m以上の高さから見下ろされるとその威圧感は想像を超える。
「イヅル、下がってて」
するとクマの後ろからぞろぞろと同じような二足歩行クマが何体も現われる。
モヒカンのクマもいれば、サングラスをかけてガムを噛んでるクマもいるぞ!珍百景だ!
「何しに来たのよヴェルム」
「何しにって、ちょっと遊びに来ただけだ。このタッタ村は遊び甲斐があるからなぁ!ウケケケケケ!」
「笑い方キモッ!」
「ああん!?」
しまった!
あまりにもキモい笑い方をするもんだからつい口が滑ってしまった!
俺の方へとその巨体が近寄ってくると、久々にいつか不良に絡まれた時の恐怖が蘇ってきた。
だが今回の場合は相手はクマであり、あのモフモフの手から繰り出されるであろうベアクローを受ければ俺は死ぬ。
恐怖の次元が明らかに違った。
「この小僧、死にてーようだなぁ。俺様の爪の餌食にしてやろうか、ああん?」
「やめて、この人は関係ないわ。この村の人間でもないし」
「どこの人間だろうと俺様には関係ねぇ。あんまり舐めた事言ってるとその内蔵引きずり出してやるぞ?」
ヤバイ、このクマやばいぞ。
見た目は滑稽だがメキシコのギャングみたいな感じだぞ。
「まぁ今回だけは見逃しといてやる。俺様は忙しいんだ。ウケケケケケ」
笑い方はやはりキモいな。
最初の敵なので雑魚感がすごいが、あくまで見た目はクマ。
現世でも人間が生身でクマに勝つなんてことは範馬勇次郎にしか出来ない芸当だ。
せっかく異世界に来られたというのに即死亡なんて展開は避けねばなるまい。
この世界の俺の強さはまだ未知なので、勝てるイメージの湧かない相手に突っ走るのは愚策。
ここは冷静に動向を見守るのが吉だ。
「行くぞ、野郎ども」
「ヘイアニキ!」
うーん、やっぱりどう見てもかませ犬な感じだが。
あ、かませグマか?
「待って!」
村に向かおうとするクマ達をどういう訳かナナが止める。
その小さな体でクマに挑むのは少々無謀過ぎるが、恐らく召喚師である彼女になら駆逐出来るのかもしれない。
「ああん?」
「村には手を出さないで。お願い」
いたいけな少女のいたいけなお願い。
その目には少し涙が溜まっているようにも見える。
ナナがこの村の事を大事に思っているって事は、その涙が存分に物語っていた。
でも俺には手に取るようにわかってしまう。
こういう時、悪役であるあのクマがどういう反応をするか。
もはや見慣れた、定型文のような展開が容易に想像出来る。
「ウケケケケケケ!聞いたか野郎共!この落ちこぼれ召喚師が俺様に向かって意見したぞ!これは傑作だ!」
ナナは涙目のままクマのアニキを睨み付ければ、いよいよクマの方もイカつい睨みを返し、まさに一触即発といった様子。
やめろ!そのメンチビームを今すぐやめろ!殺されるぞ!
「あぁ、その反抗的な目、嫌いじゃねぇぞ。そういう目をした奴らの苦痛に歪む顔は最高だからよ」
「ヴェルム、あんたみたいな奴に私は屈しない!」
「いつも通り威勢だけはいいなガキ。あまり殺しはするなって言われてんだが、そろそろお前もウザくなってきたからな。一人くらい殺してもいいよなぁ」
おいおいおいおい急展開すぎんだろうが!
まだ経緯も何も聞いてないんだけど!
「イヅル、逃げて。殺されるわ」
この世界で頼れるのはナナしかいない。
ここで殺されてしまっては非常に困る。
特に妹に似ているってのもあるが、女の子のピンチに逃げ出す訳にもいかないだろう。
「チッ!」
ここから思い付く最高の展開は、俺が実はめっちゃ強くて、目の前のクマ共を圧倒しナナを助ける。
それにはまず俺は自分の事を知らなければ。
敵を前にして俺は自分の携帯を見て、『あなたのステータス』アイコンをタップし た。
「おい小僧!お前何してやがる!」
「ええいうるさい!今忙しいんだちょっと待ってろ!」
アプリを起動すると、すぐに俺の情報が表示される。
オオヌキイヅル
18歳、男
人間族
クラス、一般人
特徴、妄想癖、童貞
「なんだこのどうでもいい情報は!」
魔術師とかそういうのないの!?
なんだよ一般人って!知ってるわ!
もう18年間も一般人やってきたわ!
18年間も童貞やってきたわ!泣くぞ!
「変更だ。もう一人殺す。その小僧も殺す。バラバラに切り刻む」
ステータスってこういう感じのやつなの!?
パラメーターが数字で表示されたりするやつじゃないの!?
物理攻撃999とか、レベル99とかそういう目に見える俺の強みはないのか!?
ただの一般人?この異世界でも?
て事はここで俺の異世界生活は終わり?
クマのアニキはそのモフモフの手から、自慢の爪をむき出しにする。
その爪は俺の知ってるクマのそれではなく、アメコミヒーローウルヴァリンのそれに近い。
あれで抉られたら間違いなく体はバラバラになるだろう。
待て待て落ち着け、冷静になれ。
何かあるはずだ、突破口が。
ここは異世界だ、やれるぞ俺なら。
そして俺はようやく気付く。
ステータス画面にスキルの項目がある事に。
画面に食いついたまま俺は自らのスキルを確認した。
なんだこのカッコよすぎるスキルは。
絶対強いぞ間違いない。
てかスキルの効果が書いてないじゃん!
なんて不親切な説明書なんだコノヤロー!
「死ぬ覚悟は出来てるよなぁ?出来てなくてもお前らの死は確定してるがなぁ!」
「いよっ!アニキ!やっちゃってください!」
近寄ってくるクマのアニキと俺との間に割り込むナナ。
しかし先程のナナの会話を聞く限り、戦闘に於いて彼女に自信があるとは思えない。
「バカ、さっさと逃げろって言ってんのよ!本当に殺されるわよ!」
どうする、本気で逃げるか?
ここは異世界で、俺が逃げたとしても誰も咎める者はいない。
本気で逃げれば逃げ切れる可能性もあるんじゃないのか。
ナナを置き去りに一人逃げ出したと言えば聞こえは悪いが、ナナが俺の為に道を切り開いてくれたと言えば真っ当な理由になりそうだ。
「ふふふ、逃げる?この俺が?笑わせてくれるじゃないかナナリー」
「え?誰?」
俺はナナの肩を掴んでニヤリと不敵な笑みを見せる。
彼女を押しのけ、無理矢理俺の背後へと下がらせると、異変を感じ取ったクマのアニキも足を止める。
「·····さっきとは明らかに雰囲気が違う·····。てめぇ、何者だ!?」
「俺の名前はオオヌキイヅル、またの名を·····」
不敵な笑みを崩さず、右手を前に突き出し手のひらを大袈裟に広げてみせた。
「漆黒の
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