LEGEND OF KNIGHT-03



 パズズとガーゴイルが魔物として共通の習性を持っているのなら、ガーゴイルと戦うのは昼間であるべきだ。更にガーゴイルの潜伏場所は外ではないという事でもある。


「亜種の洞窟にいる可能性、ますます高くなったね」


「洞窟で戦うとなれば、戦える空間が狭いという事ですね。ガーゴイルは自身が最も戦い易い場所を選ぶでしょう。場合によっては数人ずつで戦わなければ」


「はい。俺もステアも途中までは行っているので、戦える場所は幾つか分かります。不意打ちを避けるため、入り口付近から声の届く範囲で数名ずつ配置してもいいかと」


「我らクラムが連携を取っても良いだろう。不測の事態が起きれば逃がす事も出来よう」


「ガーゴイルもゲートがあれば瞬間移動でたよね。ただ、ゲートを開くには自分の力も負の力も沢山使うよね」


「うん。今回は全員に役割をお願いしないとね。待機組なんて作る余裕はない」


 机上の空論とならないよう、キリムとステアが知っている全てをエバノワに伝える。エバノワは息子の体を利用され、何としてでもガーゴイルを討ちたいと考えている。自分は必ずガーゴイルと対峙する組に入りたいと申し出た。


「俺とスレイプニルが共に行こう。あやつ、俺の命令でも入り口で待つと思えん」


 外ではスレイプニルがじっと家の中を見つめている。エバノワと共に行かなければ、オーディンに対しても拗ねて暴れそうだ。


「後はキリム達が見つけたっつう別の5人組が、どれくらい強いかだな。等級は?」


「あ、等級は聞かなかったな……そう、そうだった! エンキ、その5人のうち、3人なんだけど」


 キリムは嬉しそうに5人の名前を紙に書いた。ジュディは姓が違うため分からないとしても、エンキはグウェインとディランの姓にもいまいちだ。


 エンキは共に行動した期間が短く、名前までハッキリとは憶えていないのだろう。だがキリムが念のためとディランの写真を見せると、エンキの目がまんまるに見開かれた。


「これ、こいつあの……誰だ、キリム達を指導してた! 屋敷で戦った時にいたよな!」


「これは子孫のディランくん。マーゴさんの子孫の2人、こっちがリビィの子孫の女の子」


「うわ、本当か!? 会ってみたいな、連れてきてくれよ!」


「懐かしいね! リビィがおいらに欲しい装備のデザインをくれる時は、必ず説明が必要だった」


 ワーフとエンキからも笑みがこぼれる。残念ながら、旧友の子孫が今どこで何をしているか、そこまではもう追いきれていない。けれど、彼らは子孫にキリム達の縁を語り継いでくれていた。


 一気に250年ほど前の出来事が蘇り、楽しかった若かりし日の思い出話が始まる。エバノワは付いて行けずにいたが、目の前の若く見える男達が、本当に250歳超えなのだと思い知るには十分だった。


「あなた達が大切に思っていたものが、この世界にはまだちゃんと残っているのですねえ」


「ああ。俺達は今を生きていて、昔の方が良かったとは思わねえ。大切なもんがあったにせよ、今の世界もいいもんさ」


「その世界を脅かさない為にも、息子を……ガーゴイルを止めなくちゃなりません。装備が出来たら、私もどうか特訓の場に」


「あと3日ありゃ完成する。バーンスパイダーの糸も布も大量に手に入った。そうだな……そいつらの装備、どこで買ったか聞いといてくれ」


 エバノワの準備も間もなく整う。残りのメンバーも多ければ多いほどいい。キリムは少し休むと言って自室に戻り、久しぶりに旧友達の夢を見た。




 * * * * * * * * *





 翌日。ノウイはもう昼前だったが、キリムとステアは5人に会いに行った。エンキにも会わせたいと告げると、5人はキリムの宿への誘いに快諾してくれた。


「わー、お洒落な宿だな。雑誌の特集で見た事あったけど、思ったより広い」


「あっ! あなたもしかしてエンキさん!?」


「クラムワーフの写真、額に入ったの見たよね!」


 5人はエンキの存在を知っていた。ジュディが「ジュディス・エーギル」と名乗ってもピンとこないが、「オリビアの子孫のジュディです」と名乗れば、笑いながら握手をする。


「見た感じは似てねえけど、なんか声はリビィと同じ気がする」


「うん、時々頭の中にリビィが出てきて混乱するよ」


 キリムが最初にエバノワを紹介し、今回の経緯などを改めて説明した。73歳という年齢に驚いてはいたものの、かつてギルド支部長に推薦されたと言えば、実力は分かったようだ。


「こんな婆さんに何が出来ると思うだろうけれど、宜しくお願いしますね、お嬢さん方」


「お嬢さんだなんて……フフフッ、やだあ、久しぶりに言われた!」


「お前にお嬢さんなんて言う奴いたのかよ」


「あー失礼! あー失礼! わたしだって鎧着てない時は綺麗ですねって言われてんだからね」


「分かった、分かったよ。悪かったさ」


 男女比は逆だが、会話もどこかかつての旧友を思い出させる。ひとしきり笑った後、キリムは自室からアルバムを持ち出し、テーブルの上に並べて見せた。


 マルス、リビィ、ブリンク、サン。少し後のページには、ズシの町で紹介されたイグアスの姿もある。


「あーっ! ご先祖様可愛い! えー全然昔の人って感じじゃない!」


「これ絶対そうだよな? 本当だ、オレそっくり……これがご先祖様! へー、剣盾士って話は本当だったんだ」


「わははっ! これお前だろ。ディランがもう少し年取ったらこうなるのか」


 ジュディはリビィを見つけて興奮し、グウェインとディランはマーゴの写真を見ている。ロイカとエミーは無関係だったが、2人は当時の装備のデザインなどを見ながらキャッキャと騒いでいた。


「女の人で鎧着てる人、写ってないかなー。個人的にだけど、男の人とあんまり装備の差って要らないんだよね。今ってさ、胸のあたり強調した装備ばっか流行ってる」


「ローブも一緒だよ。胸の部分だけパット入れたりさあ、違うんだってば。私は別に魔物を女の魅力で誘おうなんて思ってない」


「そー、そーだよね! だいたいさ、剣盾士って激しく動くんだから、ちょっと胸周り締め付けてるくらいの方がいいんだよ」


 2人が装備に対しての不満を漏らし、もっとシンプルな装備が良いと漏らす。ただ、強敵と対峙する剣盾士は、やはり装備がどうしてもゴツくなってしまう。


 そんな時は、エンキとワーフの出番だ。


「おいお前ら、装備はどこで買ってんだ?」


「え、装備?」


「あたしの故郷のゴーンで買ったよ。ジェインズっていう有名な店」


「やっぱりな。最近腕利きの鍛冶師が引退して、何人か交代した」


 ジェインズはかつてエンキも所属していた「イサさんの店」だ。もちろんもうイサはおらず、子孫の1人が店を継いでいるのだが、その頃と店の方針や鍛冶師の持ち込み制度は変わっていない。


 エンキとワーフは時々指導にも行っている。ただ、代替わりの際にはどうしても新人の装備が不評だったり、製作が安定しない場合があった。


「ちょっと装備見せてくれ」


 エンキはロイカの装備を預かり、その仕上がり具合を確かめる。グウェインとディランの装備に関しては、細かく見る前に顔を離してしまった。


「ワーフ様、行きましょう。これじゃ駄目だ。これ、ベリントンんとこの坊主の作品です」


「見に行こう。君達はきっと強いのだと思うけれど、ガーゴイルを舐めてはいけないよ。この装備で命を守りたいのなら、下にもう1式装備を着た方がいいね」


「えっ……」


「装備の最低ラインはクリアしてるぜ。でも親の忠告を聞かず、安易に流行に寄せちまったんだ。造り慣れない形状に苦戦してる」


「新人が装備を売るのは大変なんだ。そこに模倣を取り入れて自分のものに昇華するなんて、本来はベテランの域でやるものさ」

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