cryptograph-11



 魔窟で出会ったジュディ達と共に地上へと戻り、キリムは5人と共にノウイの宿へ向かった。


 ガーゴイル戦についての打ち合わせが目的だが、キリムは久しぶりに友の気配を感じ、どうしてももう少しだけ話がしたかったのだ。


「オレ達の家系に伝わっていた話とおおよそ一致しますね。オレも兄も、言い伝えでならガーゴイルを知っています」


「あたしのご先祖様は、ガーゴイルと直接対峙してないらしいの。でも話は聞いてる。ほらディラン、敬語禁止だよ?」


「あ、そうだった」


 パバスが襲われた話、召喚士ギルドの支部長の体を乗っ取っている話など、俄かに信じがたい事を打ち明けられ、キリムは5人が怯むだろうと思っていた。


 だが、5人は特に怖気づく様子もない。共に計画を立て、ガーゴイルの特徴に類似する魔物を挙げていく。


「ドラゴン種ともちょっと違うけど、人の姿に似た女面鳥身のハーピーっぽいね」


「奴らはどん欲だ、食い物なら何でも漁る」


「ガーゴイルって名前の語源、石像らしいんだ。でもその石像に似た姿だからそう付けただけって。だとしたらモデルがあるはず」


「何かをモデルにした石像、か。石だったらラクチンなのにね」


「わざわざ像を彫るくらいだからさ、それなりに強いってことよ。だとしたら……」


 キリムが促さずとも、5人はどんどんガーゴイルについての考察を重ねていく。姿はキリムが説明し、攻撃の特徴はステアが教えていく。そうするうちに、ある似た魔物の存在が浮かび上がった。


「パズズ……っていう魔物、よく似てるよね。わたし達も1度しか戦った事はないけど」


「パズズ? ねえ、どんな魔物? 僕はどんな魔物からでもみんなを守るために、どんな魔物か知っておきたいんだ」


「簡単に言えば、人の上半身のような胴体に、大きな翼が4枚付いてる。頭はワシ、トラ、個体差があるらしいけどそんな感じ。足はトカゲみたいで、尻尾が蛇になっていて、羽ばたく度に毒を撒き散らす」


「毒までは防げないけれど、直接の攻撃なら大丈夫そうだ。うん、有難う」


 キリムとステアはパズズを知らない。だが、毒を撒き散らすという点を除けばガーゴイルとの共通点が多い。相違点はキリムが1つ1つ書き出していき、個体差の範囲であって、殆ど同じではないかという結論に達した。


 体の大きさや尻尾の形状など、幾つか違いはある。負の力を溜め込んだ結果、より強力になる過程で進化したのかもしれない。いずれにせよ、似ている魔物がいるだけで戦いやすくなる。


「パズズって、どの辺りに現れるのかな。出来ればパズズと戦って、少しでもガーゴイル戦前に慣れておきたいんだ」


「元々、俺達は魔窟で戦闘の勘を取り戻そうとしていた。全く異なる魔物より、似ている魔物の動きを掴んだ方が良いものでな」


「そうですね……あ、そうだね……、それだとやっぱり北の廃墟かなあ」


 ディランがクシャクシャの地図を広げ、ラージ大陸の北を指す。美しい湖の町ベンガの北には、油田村があったはずだ。


「油田村って……今はもうないの?」


「ベンガを金持ちの町に発展させたのが油田だった。ベンガが衰退したとは聞いていないが」


「石油が完全に枯渇したという事で、40年ほど前に放棄されたらしい。新しい油田は幾つか他の場所にあるよ」


「40年か、結構経ってる……」


 旅人が立ち寄らない場所の情報は入りづらい。キリムの宿があるダイナ大陸は、旅人が数多く訪れるような場所でもない。ダイナ大陸はむしろヤザン大陸などの方が近く、そもそもラージ大陸の情報はそれほど入って来なかった。


 ベンガが保有する油田は、北西の島に移っているという。その新たな油田村が出来てから既に60年が経っている。キリムは長い年月の間に、世界が大きく変わっていた事を思い知った。


「直接訪れた事はないが、ベンガから数日だろう。行くぞ」


「ああ、えっと……オレ達は」


「2日後の昼に迎えに来る。俺が瞬間移動すれば済む事だ」


「みんなは今日と明日、休養を取って欲しい。あと2週間弱で、戦いの精度を上げる特訓をするから」


 キリムが5人に今後の予定を告げ、万全の準備を整えるように指示する。キリムが工面する事も考えたが、5人はそれを断った。


「私達、まあまあ稼いでるから。大丈夫、装備だっていいものに新調したばかり」


 剣盾士のロイカ、斧術士グウェイン、槍術士ディラン、攻撃術士ジュディ、治癒術士エミー。宿で待機しているエバノワを合わせたなら、もう6人の仲間が揃った事になる。


 以前の戦いを考えるなら、あと最低でも3パーティー15人は欲しい。ただ、キリムは懐かしい友達の子孫に出会え、俄然張り切っている。前回よりも戦いの経験を積み、強くなった。装備も良くなった。


 5人に別れを告げ、キリムとステアは買い出しに向かう。


「キリム、嬉しそうだね」


「え? うん……嬉しいというか、懐かしいというか。いつまで経っても、やっぱりマルス達は俺にとって特別な友達なんだよ」


「その友がこうしてまた力を貸してくれる、か。人の繋がりは実に興味深い」


 石畳を踏むキリムの背後には、長い影が伸びている。ただそれだけのはずだった。


 けれど、キリムは振り返ればかつての友がいるような、そんな気がしていた。


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