ritual-04
ゼタンは、強い魔物を放った場合、死人が出てしまうので連れて行かないと言う。用意しても檻の中に入れて放つぞと脅すだけだ。
フィアーウルフは既に4カ所に運んだ実績があり、どこの村でも檻から出したことはなかった。
「貴様らの言う事が間違っているのではないか」
「そんな……だって、実際に実行するのは俺達ですよ? 考えに賛同した仲間も、ハイランドウーガを仕向けたらどうなるか分かるはずです」
「つう事は、今ゼムニャー島を襲ってる奴らは全然別モンか? それにゲートを開発したのはデルであって、召喚士ギルドじゃねえ」
「そうか、召喚士ギルドはゲートの存在と発生要因を利用しただけ、元々あったんだ」
ゼタン達は全ての襲撃地点を知っている訳ではない。ただ、エンキの疑問に対しては、はっきりと「終末教徒のとは別の組織だ」と言い切った。同時期に別の組織が動いている可能性がある。
「しかし、まずい事になったなあ。召喚士ギルドの関与を公にしちゃうと、終末教徒以外の奴らの仕業まで召喚士ギルドのせいになるよね」
「強い魔物をけしかけていると思われたなら、ギルド側の主張も話に無理が生じてしまう」
「吾輩が旅のパーティーと目指した町の手前でも、強い魔物が現れたのである。あちらはギルドじゃない者の仕業かにゃ?」
「僕達が戦ったところだよね。グラディウスが力を貸してくれた戦いだ。魔物は強かったし、僕達がいないまま、あの魔物が町に流れ込んでいたら……」
「町の者達が死んじゃうって事だね。そうなる前に、おいら達に出来る事はないかい」
終末教徒の動きについては、この際警戒しなくても死者は出ない。いずれは召喚士ギルドの関与だと世間に知らしめ、首謀者を罰するとしても、それはそう難しくないことだ。
問題は召喚士ギルドとは別の動きをしている者達だ。一体、ゲートはどこまで知れ渡ってしまったのか。
「キリム、ステアと一緒に召喚士ギルドに行ってこい」
「え?」
「俺もワーフ様を召喚している身だ、能力はある。でも召喚士じゃねえから口出しできねえ。召喚士のキリムがこんなことを見逃せるわけねえだろ。ゼムニャー島へ駆け付ける前に済ませとけよ」
エンキはキリムの兄貴分のつもりで、時々決断の背中を押してやることがある。
キリムは相変わらずスパッと決断が出来ない。優しく、相手の話を聞き、出来るだけ穏便に済ませようとする性格は勿論長所だろう。しかし時にはそれが自分を苦しめる。
誰かが抱える思いを認めてやらなければ、キリムはそのまま悩み続けてしまう。ステアだけでなく、エンキもそんなキリムの性格をよく理解していた。
「分かった、行ってくる。いずれにしても怯える人達が減るなら、今すぐやるべきだね」
「あ、あの、俺達のこと……」
「大丈夫、名前は出さないよ」
召喚士ギルドの関与を誰から聞いたのか。それを打ち明けたとしても、計画は阻止できない。別の者を経由した遂行に代わるだけだ。ゼタン達を売っても意味はない。
「心配すんな、キリムに任せとけ。あんたらを利用した召喚士ギルドを問いただすのが先だ」
「手段は絶対に間違ってる。だけど……クラムの事を心配してくれたことは有難う」
キリムは支度を済ませ、またしばらく留守にすると告げてパバスへと消えていった。バベルは念のため残り、宿を守る担当だ。
バベルがこの時期に誕生したのは、召喚士ギルドの策略の賜物かもしれない。
世界を意図的に脅威に晒し、クラムを発現させることが出来るとしたら。そんな事実が明らかになってしまえば、バベルは今後ずっと苦悩する事になる。それがバベルを連れて行かない理由でもあった。
「なーんか、最近は俺達が宿を任される事が多くなったな。ま、あいつが他人を頼れるようになったのはいいことだ」
エンキはそう言って、全員に好きな部屋を使えと指示する。バレッタも村にこれ以上の被害がないと分かり、幾分落ち着いたようだ。
「バレッタさん、本当にすまなかった。俺達はあんたの村を、利用してしまった」
「……許すかどうかは父に任せるわ」
バレッタはそう告げ、エンキに手伝いを申し出た。その横ではワーフが調理器具を準備し、ニキータが自身の販促物の棚の売り上げをチェックしている。
人がクラムと同じ空間に生き、ごく普通の生活を共有している。ゼタン達はこの不思議な空間に身を置く事で、意図的な魔物の発生や戦いの場など、そもそも要らなかったのだと気付いた。
「クラムはな、元々人と共に生きていたんだよ。何千年も前の話だけどな。クラムの力を誰が味方につけるかで争いが起こって、クラムは人前から姿を消した」
「キリムは、人とクラムが共に生きる世界に戻そうとしてくれているんだ。おいら達は魔物を倒したいんじゃない。みんなを守りたい、人と共に存在したいだけなのさ」
「俺達、召喚士ギルドの存在意義のために利用されていたのか」
「召喚士じゃなくても、この宿ではクラムと話が出来る。頼みごとが出来る。これが本来の姿だったのね。召喚なんてしなくても……」
セリューが自嘲を混ぜた笑いを零す。その言葉を聞き、バベルはハッとして顔を上げた。
「ねえ、この宿を襲わせたのは、攪乱のためだったよね」
「まあ、多分そうだとしか言えないけれど」
「でも、攪乱と思わせただけかも……パバスの召喚士ギルドは、キリムが乗り込んでくることを最初から想定していたんじゃないかな」
「えっ?」
バベルの疑問に、思わずセリューが聞き返す。
弱い魔物を宿周辺に集めた所で、クラム達が退治して終わりだ。ゲートの報告はキリム達が行わなければ誰にも知られる事はない。真の目的が終末教徒によるゲート発生、それではあまりにも無意味だ。
エンキはバベルが何を言いたいのか分かったようだ。
「しまった、あいつら……キリムの性格を利用しやがった」
「ど、どういうことですか」
「おかしいと思ったんだ。俺は終末教徒の仕業に、わざわざバレッタさんを使う理由が分からなかった。でもバレッタさんが来れば、誰かが送り届ける必要が生じる」
「そうか! しかも召喚士ギルドが関与しているから、用心のため旅客協会にバレッタさんを任せる事も出来ないんだね」
「そう。となれば、必ずキリムが動く。ワーフ様、今回狙われているのは……」
バレッタも、ゼタン達もハッとして顔が青ざめた。召喚士ギルドは、ゼタン達が身分を明かす事を最初から想定していたのだ。
「キリム、だね」
「ええ。この宿の状況、奴らには良く思われてなかったんですよ」
「お、俺達が召喚士ギルドの関与を……喋っても喋らなくても、最初から全部仕組まれてたってことか」
「じゃあ、魔物を発生させて旅客協会の支部を作るって話は? 私達、二重に騙されていたって事?」
「そ、そんな……俺達はもしかして、キリムさんをおびき出すため」
「パバスの召喚士ギルドは、召喚士の枠を超えて活動するキリムが邪魔になった」
協会の支部があれば旅人が立ち寄る。そこで戦闘があり、召喚士がいたならクラムが呼ばれる。キリムやエンキがカーズとなって以降、クラム同士の連携も増えた。クラムがキリム達に応援を頼む事もある。
そんな連携を逆手に取った可能性があった。
「弱い魔物をけしかけて出張所の開設を促す。召喚士を含んだパーティーを派遣して……」
「計画の裏を知らない現地に強い魔物をおびき寄せて、キリム達が駆け付けるのを待つ」
「まずいぞ、ゼムニャー島も召喚士ギルドの差し金かもしれねえ。そこを乗り越えても、今度はヌクフェ。ステアが現地に行けば、キリムは次から一瞬で駆け付けられる」
「そもそも、キリムは今パバスに向かっちゃったところだよ?」
「……罠にはまっちまった。バベル、洞窟に戻ってクラムの皆に知らせてくれ! キリムが危ないかもしれない」
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