ritual-03
* * * * * * * * *
ひとまず宿の中に戻り、キリムは3人の縄を解いた。ここで悪さをしようがしまいが、終末教徒らが逃げる事は出来ない。素性を知られた事で、3人も逃げる意味がなくなった。
3人は計画の一切を暴露し、おかげで本部の場所まで知ることが出来た。ただ、その内容はあまり知りたくないものだった。
「しまった、協会に知らせるべきだと思って、もうヘルメスが連絡を入れてしまったはず」
「ああ。パバスは特に大きな町だ、ヘルメスが1番に向かった可能性もある」
終末教徒の背後には、パバスの旅客協会が絡んでいた。ゲートを開き、多くの僻地を襲っているのが旅客協会だと知れ渡れば、この世界の旅人の信用は地に落ちる。
ゼタン達は元々旅人であり、偽造の旅人証は元々の素性を隠すためだった。戦いにも長け、本来の等級は4ではなく6だ。等級を4と偽ったのは警戒心を解かせるためだ。
終末教徒を組織した旅人協会の狙いの1つは、近年の旅人の能力低下だった。
「強い魔物と言っても、せいぜいハイランドウーガなどの種まで。魔窟で修行をしても、発揮する場所はない……か」
「機械による移動手段も増えて、結界の質も上がった。だから旅人の出番も少なくなったし、旅人になりたい人も減ってきたって聞いたことがあるね」
「そういやあ、鍛冶師の数も年々減ってるよな。100年前と比べたらゴーンの店に並んでる武器防具も少なくなった」
「でもキリム、ジュビテの職員さんは知らなかったよね。なんで?」
「そういえば……。旅客協会が絡んでいたのに、あの人達が嘘を付いていたようには思えない。もし目論見があるなら出張所なんかない方がいい」
黒幕が旅客協会というのは嘘なのか。どうにも真実の前に疑問が多過ぎる。ゼタン、セリュー、ダイムの3人はそれぞれ頷き合い、決意した目でキリムへ声を掛けた。
「……俺達、騙されていたのかもしれない」
「はい?」
「いや、俺達は間違いなく終末教徒だ、今更違うだの何だのと言い訳するつもりはない」
「でも、何だか聞いていた話と違うの。私達は……」
セリューが戸惑いを見せつつ、ダイムへと視線を向ける。ダイムは「嘘と思うならそれでもいい」と前置きをし、ゆっくりと口を開いた。
「パバスの旅客協会が黒幕、というのは間違っちゃいない。俺達が聞いている限りでは。でも、もっと正確に言うとしたら」
ダイムも少しだけ躊躇う。それは黒幕を恐れてというより、キリム達を心配するような間だった。
「召喚士……ギルドなんだ」
「何だって?」
キリムは思わず驚きを声に出した。キリム自身が召喚士であって、それは明らかに召喚士達の総意ではない。クラムも町を滅ぼすことに加担する意思はない。
「魔物が弱くなる、戦闘が楽になる、旅人が少なくなる。そうしたら存在意義を失うクラムが出てしまう」
「俺達、クラムがいなくなった世界は荒廃し、再び魔物が強靭な力を取り戻すと力説されたんだ!」
「あんたら、もしかして世界のため、クラムのためとそそのかされて実行犯になったのか」
ゼタン達は俯き、小さな声でハイと呟く。その様子に納得がいかなかったのはバレッタだった。
「ふっ……ふざけないで! 平和な村を襲っておいて、間違いでしたとでも言う気!? あたしを脅してこんな所まで連れてきて、今更そんなつもりなかったなんて」
「……」
「何のつもりだ。何故急にそこまで明かす気になった」
ステアの威圧的な態度に、ダイムの口が一瞬震えた。代わりにゼタンが言葉を絞り出す。
「お、俺達は……さっき言った通り、考え方に賛同したんだ。大義のためだ、村の家々が壊れる、怪我をする、それくらいは仕方ないと」
「仕方ないだと?」
「ま、魔物もとても弱いウォーウルフなど、狩猟経験者なら簡単に仕留められる個体ばかりだ! 俺達が関わった村は、少なくとも死人を出していない」
「だからって、許されるとは思ってないわ。でも、私達は脅すだけって、魔物が少ない場所に、魔物を発生させる門を作るだけだって聞いたから……」
「魔物がどんなものか、知らなければ戦えない。平和な村に魔物の恐怖を教え、備えをさせるんだと」
「……では、ここでゲートが開かなければ村が壊滅するというのも嘘か」
どこまでが本当で、どこからが嘘なのか、3人の話では全く分からない。しかし、最初に比べて3人にはどこか必死さが垣間見えた。
旅客協会……いや、召喚士ギルドは魔物を発生させ、平和な村々にも恐怖と武力を持たせるつもりだった。魔物が多ければ戦いが増える。戦う力を望めば、それはクラムの存在意義にもつながる。
何故そんな回りくどい事をするのか、今の時点では定かではない。だが、キリムは方法として間違っているとハッキリ言い切った。
「フィアーウルフだって、檻から魔物を出すつもりはない。不安、恐怖、憎悪、魔物の発生に不可欠なそれら負の力を増やすのが目的だから」
「村長の娘を人質にしたのは、私達への恨みや怒りを引きだすためなの」
「待っておくれ。おいらは、そんな事のために装備を作っている訳じゃない。おいら武器防具を作るのは好きだけれど、武器防具が要らない世の中になるならそれでいいんだ」
「鍛冶師に出来る事は、何も戦いの装備品製作だけじゃねえからな」
「俺も、魔物がいて欲しいと考えた事はない。双剣がただの飾りになろうと、たとえ存在意義を失って消滅しようと、それはそれで構わん。キリムまで一緒に消えたとしても、それは定め、互いに覚悟の上だ」
3人はため息をつく。召喚士ギルドの暴走だったとようやく気が付いたのだ。
クラムは今回の事件を全く望んでいない。魔物の強化や人々の武装など、そもそも人々を救う側のクラムが求めるはずがない。
「目的は分かりました。それで、ステアの質問に答えてくれませんか」
キリムが知りたかったのは、何故今になって真実を打ち明けたのかだった。あわよくば見逃して貰おうと考え、擦り寄ってきただけなら、あまりにも無責任だ。
「……終末教徒であり続けなければならない理由はなくなった。それだけだ」
「私は召喚士ギルドの言い分にも一理あると思ってる。私は召喚士じゃないけどね。だけど確かにやり方はまずかった。別の方法を考えようと思ったの」
「俺はゼタンともセリューとも少し違う。俺は、あなた達ならこの計画を止められると思ったからだ。もう終末教徒はやめた。ただの村々を襲った咎人だ」
3人はゲートの仕組みを伝え、把握しているゲートの予定地を告げていく。それはおおよその地点で旅人に縁のない僻地だった。
「出張所の場所とも重なるね。恐らくパバスの召喚士ギルドは、わざと不穏な噂を流し、出張所を構えさせているんだ」
「そして構えていて良かった、警戒していて良かったと思わせる訳だな。出張所の開設を躊躇っている地域は、弱い魔物をけしかけて、開設を促す」
「そう言えば……確かにヌクフェは襲われたけど、死人は出ていません。旅客協会の人から連絡があったような事も、父から聞いています。父はよく分からなかったので断ったと」
「この宿の襲撃は? 何でここが狙われたんだ?」
「クラムのためではなく、クラムを狙う動きを見せるためよ。ここはクラムが常にいるから、弱い魔物が集まっても無事は確実」
咄嗟の嘘にしては筋が通っている。セリュー達は自身が終末教徒である事を忘れているかのように、次々と整理していく。だが、1つだけ妙な点があった。
バベルはゲートと思われる現象により、自身を必要とされる程の戦いを幾度か経験している。
「ねえ、それにしては厳し過ぎる戦いが多いよ? ゼムニャー島だって旅人が1組しかいないのに、ハイランドウーガなんかに襲わせて大丈夫なの?」
バベルの問いに、その場が一瞬静まる。今度はゼタン達が驚く番だった。
「何かの間違いじゃないのか? 俺達はそんな強い魔物を用意した事はないんだが……」
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