「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey
【chit-chat】encore-02 召喚士の旅~ULTIMATE LIFE~04
【chit-chat】encore-02 召喚士の旅~ULTIMATE LIFE~04
「分かった、じゃあ皆さんは念のためにこの小屋から出ないでくださいね」
仕事とはつまり、この宿のすぐそばにいる魔物を退治する事だ。よくある事だからか、特に慌てる事もなくキリムとステアは外へと向かう。
キリムが軽鎧を着て、短剣を腰に掛ける。
エンキの自信作、黒くも光に当たると赤みを帯びて見える全身アダマンタイトで作られた軽鎧は、見る者を圧倒する。旅で稼いだ金で僅かに売っていた材料を長年かけて集め、ようやく一式が揃ったところだ。
小屋から出ないでくださいと言われて、出ないのは商人だけ。旅人が「あのキリム」の戦いを見ないはずがない。
未だに双剣を使いながら魔法を繰り出すと言った戦法は、広まっていない。挑戦しようとした者達はどちらも中途半端になってしまう事に気付き、やめてしまった。
そんな型破りな戦い方を見ないで大人しく引きこもっているようなら、旅人になどなっていないだろう。
「うわあ、珍しい! 赤竜だ、これは長引くな」
「お前は左を、俺は右を、注意を分散させていくぞ」
「了解! ……アイススピア!」
「悪いが俺はワーフのリクエストがあるから逆鱗を狙う、攻撃が激しくなるから気を付けろ」
「逆鱗引っぺがすの? いいけど……弱らせてからがいいかな、双竜斬!」
大きな赤いドラゴン「
ドラゴン系の魔物は体の表面がとても固く、あまり武器での攻撃は通用しない。しかし、キリムとステアのような強い者が、アダマンタインという最強の素材の武器で斬り付けるとなれば話は別だ。
「キリム、伏せろ! ……剣閃!」
「1、2……熾焔斬!」
ステアが剣を地面と水平に勢いよく振り、その衝撃波が光の半円となって赤竜に襲い掛かる。そこへ、しっかりと溜めを行ったキリムの1撃が畳み掛けるように放たれる。
「グォォォ!」
「この叫び声、いつも思うけど耳つんざくよね、早めに倒したい!」
キリムとステアの連携が取れた攻撃に、宿から出てその様子を見守る一同は完全に見惚れている。まるで武術の大会でもみているかのように、「そこ、そう! 決まった!」と言っては「よし!」とガッツポーズをしている。
普段は優しく遠慮がちなキリムが、戦闘になるとこんなにも勇ましくなるのかと感心もしていた。
キリムの目は鋭く、赤竜をしっかりと見据えている。爪でのひっかき攻撃や、尾を使った薙ぎ払いをしっかりと避け、その攻撃に対してすかさず反撃を仕掛けていく。決して怯まない。
ステアもそんなキリムを信頼しているからこそ過度に庇わずに役割を任せている。そんな戦い方は旅人にとってまさに理想、憧れだった。
「続け!」
「足元注意して! アイスバーン!」
「ブレスが来るぞ!」
「アイスバーン敷いてる! エアブラスト! ……回転斬!」
キリムが炎のブレスを軽減したうえで風の魔法で打ち消すと、体に引き付けた両手の剣を一気に押し出して斬り付ける。怯んだ赤竜は、再びブレスを吐こうと口を開き、キリムへと狙いを定める。
「ステア!」
狙いが完全にキリムだけに向けられた隙を狙い、キリムがステアに合図をする。ステアは攻撃する手を止め、そして地面に降り立つと、静かに両手の剣を構えた。
「死月」
ステアは宙に円を描きながら技名を唱える。熾焔斬以上に溜めと安定した状況が必要なこの技の為に、キリムは今までステアが技を繰り出せる隙を狙っていたのだ。
「お……おい、クラムステアは何をやってんだ、あれじゃあキリムちゃんがブレスを喰らっちまう」
「お前は見た事ねえか、まあよく見とけ。あれが絶対に一度は見ておけって言われてるクラムステアの奥義だ」
「奥義……? おい、あれ何だ? 何もないところに急に鏡みたいなもんが」
「あれが、クラムステアの奥義、死月だ」
ステアが描く円は、月明かりの中で一層黒く、そして光っている。その円が赤竜の姿を捉えた時、赤竜は吸い込まれるようにその円にめり込んでいく。その状態でステアが一気に鏡面となったその円を切り刻むと、その場で赤竜は粉々に散り、辺りには静寂が戻った。
ステアが繰り出した技の、残酷で美しい様子を目の当たりにした客たちは、暫く何も言えずに口をぽかんと開けたままだ。
「すげえ……こんな技があるなんて」
「情報誌には絶対載らねえから知られてないけどな。この2人の戦闘を見た奴は絶対にこう言う。絶品の飯と巨匠の装備だけじゃない、もっと価値のあるのがキリムちゃんとクラムステアの戦闘姿だってな」
「いやあ、凄いモンを見せて貰ったな。あの赤竜をあっという間に倒しちまったんだからな」
客は口々にキリムとステアを賞賛する。しかし、賞賛しなかった者もいた。エンキだ。
「おいキリム、剣寄越せ。お前、柄の部分で攻撃弾いたよな、巻いた布が切れてんだろ。ステアも、牙避ける時に肩の防具に頭突き当たったよな、脱げ」
「エンキさん、そんな所まで見えてんのか」
「こいつらのクセなんてもう見慣れてるんだよ。俺が作った装備だ、見えてなかったとしても、今こうして2人の装備見ただけでどんな戦いしたのかなんてすぐ分かる」
「すげえ……本当にこの宿は別世界だ」
* * * * * * * * *
翌朝。
キリムは珍しく眠り込んでいるステアを起こさないように部屋を出ていた。1時間もすれば旅人の朝食の時間だ。キッチンに入ろうとすると、既にエンキが支度を始めていた。
「起きてたのか、おはよう」
「おはよう。昨日の晩は大変だった……」
「え? ははっ、まさか本当に子作りでも迫られたか」
「あー……作り方を訊かれたのはそうだけど。まず畑に種を蒔くんじゃないって説明から始めた」
「グラディウスの芽がまだ出ないってぼやいてたあれか。ワーフ様まで芽が出ると信じてたからな……」
キリムは未だに驚くようなクラムの考え方、習慣を思い出し、エンキと共感しあって笑う。会話を続けながらも手を止める事はない。
「今日の朝食は鮭とジェランドの味噌と、米と、あと1品何にする?」
「ん~、ベーコンと卵にしようか」
「ああ。んじゃベーコンと卵は任せるぜ。俺は外で鮭焼いて来るわ」
「分かった」
そうして1時間後、朝食の支度が出来た頃、客達がフロアに集まる。食べ終わればまた危険な荒野の道を機械車で走らなければならないからか、皆が名残惜しそうに食べ物を口へと運ぶ。
* * * * * * * * *
「じゃあ、お邪魔しました! キリムちゃん、また来るぜ!」
「ご利用有難うございました~! お気をつけて」
「エンキさん、槍大切にします!」
「おう、大事にしてくれよ」
「進行方向を確認してやる、ちょっと待っていろ」
ステアは軽快に櫓の上まで上っていき、辺りを見渡す。特に危ない魔物が居ないことを確認すると、下まで飛び降り、「さっさと行け」と告げる。
言動が一致しないステアの優しさも、この宿では名物だ。
皆を見送ると、キリムは宿の清掃、エンキは工房での仕事に戻る。もうじきワーフもやってくるだろう。
ステアは簡単に風呂に浸かった後で掃除をし、そしてキリムに用事があるからと告げて瞬間移動で消えて行った。
ステアが向かった先はゴーンにある本屋だ。
時差のせいで夜が近いゴーンの町で、たまたま目撃された情報によると、ステアは子作りに関する本を一通り確認していたという。
そして「クラムの子供はどこで手に入るのか」と店員に真顔で質問し、困らせていたとか。
やはり分かっていなかったらしい。
デルとの決戦から150年。その頃とは幾分変わった世界の中、いつまでも変わらないカーズの面々は、こうしてありふれて他愛もない日常を重ね、これからも面白可笑しく生きていくのだろう。
その日常にいつか何か変化があった時、その時はまたその様子を紹介しようと思う。
【chit-chat】encore-02 召喚士の旅~ULTIMATE LIFE end.
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