「暇なら物理攻撃しろ」と、双剣を渡されて旅立つ召喚士の少年の物語~【召喚士の旅】Summoner's Journey
【chit-chat】encore-02 召喚士の旅~ULTIMATE LIFE~01
【chit-chat】encore-02 召喚士の旅~ULTIMATE LIFE~01
人や自然を守る精霊、クラム。それらはかつて人の前から姿を消し、語り継がれるだけの存在になった。
数百年ののち、彼らは対話を許された者達の前だけに姿を現すようになり、対話する能力を持つ者は召喚士と呼ばれるようになった。
そんなクラム達は、今ではタイミングが合えば地上で見かける事も出来る。
勿論、ほんの少し会うための努力が必要だが……。
【chit-chat】encore-02 召喚士の旅~ULTIMATE LIFE~
どこか遠い世界。
その世界にいる召喚士の少年キリム・ジジと、その従者である人型の
運命の出逢いから幾多の戦闘と苦悩を乗り越え、共に生きることになった1人と1体は、デルを倒してから150年経った今も、のんびりと幸せそうに暮らしている。
キリムとステアはデルを倒した後、十数年間を旅に費やした。
そして強大な魔物が出て助けが必要だと聞けば助けに行き、鍛冶の神クラムワーフから材料調達を頼まれると、ワーフとカーズになった鍛冶師のエンキ・ヴォロスと共に、材料探しの旅にも出た。
「ちょっと櫓に上がって来る」
「もう上がってきた」
「え、あーじゃあ水汲んでくるよ」
「もう汲んだ」
「……その先回り、なんか怖いんだけど」
キリムとステアは相変わらずだ。一緒にいる事に飽きるでもなく、一番の友人、一番の相棒であり続けている。その結びつきは決してビジネスライクなものではない。恋人よりも、家族よりもうんと強い関係と言えよう。
ところで、先程ステアが櫓に上がるために建物から出たのはなぜか。
それは、2人が旅の難所に小屋を建て、宿屋を始めたからだ。
「ある程度やっておけば、俺に血をくれる余裕も出来るだろう」
「ほらね、だと思った。いいよ、ちゃっちゃと飲んじゃって」
ラージ大陸の南東にあるダイナ大陸が、140年前頃から閉鎖的な方針を転換して積極的に貿易を行いだした。
約150年前、デル戦を共に戦った猫耳と尻尾を持つクーン族のニジアスタが40歳で引退した。彼は幼馴染であるダーヤと共に故郷のベージバルデに戻ったのだ。
2人は地元に歓迎され、それぞれギルドで働く事になった。クーン族の旅人が増えたのもその頃だ。
彼が槍術士のギルド支部長になった時、あまりにもダイナ大陸には情報が少ない事に気が付いた。
他の大陸との差に驚いた彼が、各ギルドや商人と会合を行った結果、閉鎖的だった文化を解放し、商船の往来も大幅に制限を緩和するに至った。
特色のある文化、更には独特な祭りや余所では手に入らない農作物、豊富に採れるミスリルなどの資源の魅力は世界中に広まり、今では余所の大陸に負けない活気ある大陸になっている。
しかし、問題も多かった。なにより一番困ったのが、街道に当たり前のように強い魔物が出現するということだ。
大陸の西部にあるベージバルデの周辺こそ駆け出しの旅人でも通用するが、商人が自由に行き来するためにはそれなりの強さが求められる。
東西に細長いダイナ大陸の中央は、町が全て潰れたと言われるほどの危険地帯だ。しかしミスリルが取れる鉱山を抱えるムディンスクの位置は東部。
切り立った高い崖と山に囲まれたダイナ大陸には、海抜が数メートルの港町ベージバルデ以外、港を建設できる地形は無い。
「ページバルデの方、雲出てきたね」
「ああ。だがこの辺りではどうせ降らない」
「年に何日も降らないもんね」
他の町もページバルデの100キルテ東に1つ、ムディンスクの北西に1つのみ。ムディンスクへはどうやっても途中にある危険な荒野を1000キルテ以上横断しなければならない。
そこで、キリムとステアはちょうど中間となる危険な丘陵地に宿泊小屋を建て、せめて途中の1晩だけでもゆっくりして貰おうと考えたのだ。
「そういえば、とても残念な話がある」
「ん?」
ステアは高さ15メルテ程の塔のような櫓から遠くを見渡した報告をする。その顔は心底残念そうで、キリムは余程強い魔物でも現れたのか、もしくは東西それぞれから数パーティーずつ来ていて、部屋数が全く足りないのかとドキドキしていた。
場合によってはこの小屋の隣に用意した工房に引きこもっているエンキの部屋を1晩借りるか、暇なクラム達に手伝いを頼まなければならない。
「……東から1組の機械車が近づいている。距離は15キルテくらいか。今血を飲むと、お前がきつい」
「そういう残念ってことね。了解、じゃあ食材をもう少し揃えないと。ステア、これが今日のメニューの材料。それと機械車の燃料を。ポーションとかはまだ大丈夫」
「分かった、買って来よう。最初に食材からでいいな?」
「うん。はい、お金。十分だと思うけど」
「行ってくる、何かあったらすぐ呼べ」
ステアはキリムから買い出しの資金を受け取ると、牽制するような顔でカウンターを睨む。木造の小屋は大きく、旅人に安心感を与えるために頑丈に作られている。
床板は光沢が出る程磨かれ、食堂のカウンターもテーブルも一枚板で作られている。
ロビーなどというものはなく、玄関の扉を開けると、すぐに食堂だ。その左脇にはキリムとステアの「管理人室」があり、その右奥から2階の4つある客室へと上がっていく。
天井まで吹き抜けの食堂からは、各客室の赤く塗られた扉が見える。
食堂の右奥の階段の右の扉を開ければ、トイレ、その横に男女に分けられた浴室があり、風呂という文化がないこの大陸において、特にこれが好評だという。
一般的な宿屋として、十分な機能が揃っている。これを主にキリムとステアで経営しているのだ。すぐ横にはエンキ用の工房兼住居もあり、忙しい時にはエンキも手伝ってくれる。
「行ってらっしゃーい」
「珍しいものがあれば買って来てくれ」
「私には実験用のガラスのカップを1つ。割れてしまったのでな」
「自分で買え。いいか、キリムは俺の主だ、貴様らキリムからの施しを受けるなよ」
「はいはーい」
ステアへと返す声が多い。それはここが「クラムのたまり場」と呼ばれ、地上で「野良のクラム」に会える宿屋だからだ。ディン、サラマンダー、アスラ……まあ、暇を持て余したクラム達がしょっちゅう遊びに来るだけなのだが。
予約という手段が難しい為、いつも櫓から遠くに見える冒険者や商人の隊列を確認し、その日の買い出しをしている。キリムが氷魔法を使えば数日は食材の貯蔵も可能だが、どうせなら新鮮なものの方がいい。
この拘りはとても評判が良く、旅人の間で親しまれている『旅人フリークマスター』(150年前には旅人フリークという名前だった雑誌)では数年に1度のペースで、この辺境の地にあるキリムの店が紹介されている。
もちろん、到着があまりに遅い時間になっていたり、不意打ちだったりすれば冷蔵や冷凍した材料で作って出すこともある。
ステアはまずは瞬間移動でイーストウェイに、そして次にミスティへと立ち寄った。イーストウェイでは魚と肉と調味料を、そしてミスティでは酒と卵。その後、1度小屋に戻ると、今度は油田村から精製された鉱物油を1斗缶に入れて6缶分買い、木箱に入れて肩に担いで戻ってきた。
「お、帰って来たか!」
「カップはあったか」
「何か珍しいものあったか!」
ステアの帰還に対し、キリムよりもクラム達の方がソワソワしている。ステアは返事をすることもなくビーカーのようなものを1つテーブルに置き、燃料を倉庫に置く。
「これで全部だな」
「おかえり。ありがと、いつも早いね。この宿は流石にステアがいないと成り立たないよ」
「本当は戦いで力を発揮したいところだが、致し方ない。もう今から料理に取り掛かるのか」
「ん~、もうあと10分もすれば到着だろうし」
「10分か……」
「どうした?」
ステアがため息をつく。キリムは何か困った事でもあるのかと尋ね、そして横に座れと椅子の座面をポンポンと叩いた。ただ、ある程度の事は予測で来ていた。ステアは決して接客が得意でもなければ興味もない。キリムがするからしているだけの事。
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