【Epilogue】
Epilogue
【Epilogue】
「さあ、これからどうしようか」
「町の者への説明は任せたのだろう。レッツォ達よりも先に各所に知らせて顔を潰す訳にもいくまい。ひとまず情報が漏れにくいミスティに戻り、皆に報告すべきだ」
「そうだね。デルを捕まえるっていう目的は……ちょっと変わってしまったけど、成し遂げた事をきちんと父さんと母さん、ダニヤやみんなに一番に伝えたい」
キリムが旅立ちを決意した日の目的は果たされた。けれど、もうキリムはステアに腕輪を返し、有難うございましたと告げるつもりはない。
貧しさに喘ぎ、夢を叶えるものだと認識すらしていなかった少年は、大勢の仲間と共に悲願を達成した。
多くの人との出会いや別れ、悲しみや喜びに触れ、そして、かけがえのない相棒を手に入れた。
これからは何処にだって行ける。休みたければ休み、戦いたければ戦うだろう。辺境の地に宿を立てるという、ささやかな夢を早速叶えてもいいし、クラムや召喚についての生き字引を目指してもいい。
だがきっと、キリムは結局お人好しであり続ける。困った者を放っておけず、あらゆる物事に首を突っ込み、頼り、頼られていくのだ。
「すまんが、瞬間移動をするほどの力は残っていない」
「いいよ、一刻を争う事態はもう終わったんだから。歩いて戻ろうよ、それで宿に泊まってゆっくりしよう。ひとまずお疲れ様」
「ああ」
キリムはステアと並んで森の中を歩き始める。針葉樹の葉の間から木漏れ日が差し、疲れているのに清々しさを感じる。
振り返ると、崩れた屋敷だけが残っている。先程までの激戦地は、このままゆっくり朽ち果てていくのだろう。
「デルは……エンシャントと世界を、どう描いていたのかな」
「どうだろうな」
「デルが研究を失敗していなかったら……もう少し早くエンシャントのみんなと会えたのかな」
「会う事は出来ただろう。だがデルが失敗していなかったとしたら、お前は船旅を選んでまでこの地を訪れたか」
「……もう少し遅かったかもね」
船が苦手なキリムは苦笑いする。船での数日はキリムにとって、ガーゴイル戦に匹敵する程の戦いだ。そして、未だかつて勝ったことはない。
エンシャントまでの船旅は、ちょっと行ってみようかという気分で耐えられる距離ではないらしい。
「時間はゆっくりある。急ぐことはないと言ったな」
「うん」
「ならば船で大陸に戻ってみるか」
「えっ……」
「頼られるのは嬉しいが、何度も足代わりにされるのはやはり気に入らん。便利な道具のように扱われる気はない」
「そ、そんな気ないってば!」
ステアは気まぐれに船旅を提案し、瞬間移動を控えようと言い出す。ここがラージ大陸だったなら、キリムはそれでもいいと言っただろう。
だがエンシャントは絶海の孤島。船に乗らなければ何処にも行けない。
「道具とか、そんな事全然思ってないよ! 頼りにしてるってば、強いし、かっこいいし、優しいし! ステアと旅が出来て、俺すっごく……」
「分かった分かった。だがお前が船に慣れなければ、何百年経とうがラージ大陸から出られんぞ。ブグスに何と言う。恥ずかしい奴だ」
「そ……そのうち慣れるってば」
「フン、それまで負け続けるのか。俺の理想の主が聞いて呆れる」
「あーっ! あーそんな事言うんだ! 仕方ないじゃん、勝ちたくても勝てないんだから!」
キリムの後ろ向きな発言に、ステアは大きくため息をつく。
針葉樹の森を抜ければズシの町の中心部に出る。魔物や亜種の脅威も去り、これからは人が多く訪れる活気ある町になるだろう。
「ねえ、本当に……瞬間移動で帰ってくれないの?」
「さあ、どうだろうな」
きっとこんな会話がいつまでも続く。キリムとステアは100年後、200年後もどこかのんびりとした旅をしているに違いない。
時々エンキに泣きつき、笑われ、少しずつ仲間を増やしながら各地を回るのだろう。
そして、時々英雄呼ばわりされては謙遜し、逃げるように次の町や村に移るのだろう。
召喚士の旅。
それは心優しく少し厳しい人型精霊と共に歩む、とある少年の物語。
おわり。
※この後もエピソードが続きます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます