Responsibility-06(075)
キリムとステアは物理攻撃も魔法も効く事が分かり、マーゴ達の戦いに参戦した。それぞれが両手を自身にひきつけ、ドラゴンへと刃を向けて駆けていく。
そしてドラゴンの目の前で体を回転させながら刃を押し出して切り裂いた。
「破ァァァ……
「
キリムが粘膜の層を断ち切り堅い鱗を砕いた直後、ステアは同じ型から風の刃を生み出し、斬撃と共にその部分から肉を深く断ち斬った。
キリムだけの力ではステアのおさがりの短剣を使っていたとしてもまだ敵わない。だが、ステアの斬撃のお膳立てくらいはできる。おかげでステアの攻撃は全く軽減されることなくドラゴンを刻んでいく。
「キリム! 渾身の力でそれぞれの鱗を砕いていけ! 他の奴らがそこを狙う!」
「分かった! デニースさん、体表の粘膜を焼き剥がしてくれませんか!」
「……なるほどね、分かった! だけどどんな攻撃を仕掛けてくるか分からない、懐に潜り込むなよ!」
柔らかく弾力がある粘膜は、斬撃や突きを弱めてしまう。魔物の防御力を下げ、一気に削るつもりだ。
「閃刃斬」
ステアは毒を気にせずに攻撃できる。それは効かないというよりは自己修復であり、多くの霊力を必要とするのだが、未だかつてキリムの霊力が尽きたことはない。
光の刃が軌跡と共にドラゴンへと襲い掛かり、その体が更に深く斬り裂かれた。
「グオォォ!」
「キリム!」
ドラゴンが首を低く下げ、尻尾を左右に振る。それを見たステアがとっさにキリムを抱えて飛び退く。
「回転するぞ!」
ステアは盾で耐えようとしていたマーゴも片手で下がらせ、高速で回転するドラゴンの攻撃から回避させた。耐えられるとはいえ、攻撃を受け続けたなら、鉄壁の防御と言えど、その効果はダメージの分短くなる。
咄嗟の判断で、マーゴの気力の温存を図ったのだ。
「クラムステア! あんたすげえな! よし……若者の前でカッコつけさせてもらうぜ! モータルスラッシュ!」
リャーナが大剣を目にも止まらぬ速さで逆袈裟に振り切る。一瞬どのようなダメージを与えたのか全く分からなかったが、次の瞬間、ドラゴンの飛べない小さな翼が見事な切り口でずるりと付け根から滑り落ちた。
「余所見してる暇があるのか? ゲイルスレイザー!」
ニジアスタが槍を突き刺す動作をする。その矛先はドラゴンに掠ってもいない……が、その矛先からはまるで気力を稲妻に変えたかのような波動が一直線に放たれ、ドラゴンの胸元を貫いた。
「グルル……」
「炎を吐くぞ! プロテクトウォール!」
「また回転する! 下がれ!」
「待て、腕を噛まれて……うおぉ!?」
ドラゴンは5体。それぞれが律儀に一対一の構図に持ち込んでくれるわけではない。炎を吐く個体を見て、別のドラゴンは回転攻撃を仕掛け、他の個体は今にも突進しようと足で地面を掻く。
「はやく数を減らす! 攻撃を1体に集中させるぞ!」
「マーゴの目の前の個体を狙ってくれ! 出でよ業火……フレイムバースト!」
灼熱の炎がドラゴンを包み込み、足元からなおも炎が次々と生み出されていく。火だるまになったドラゴンが暴れだしたところで、デニースは氷魔法を放った。
「氷結……フリーズアウト!」
炎諸共氷に閉じ込められ、ドラゴンは渾身の力でその殻を破ろうとする。だが1体の動きが一時的に止まったとしても、戦況は大きく変わらない。
デニースや他の者が止めを刺す前に、氷は内部から溶かされてしまった。
「クッソ! これで駄目なのか!」
「ステア! デニースさんとダーヤさんを守らないと!」
マーゴ達をもってしても、勝てるかどうか分からない状況。そんな中、キリムは全力で動いている。
どんなに無謀でも必ず戦うのが戦闘型のクラムだ。どんなに形勢が不利であろうと弱音を吐くことも助けてくれという事も絶対にない。
彼はクラムであり、そして人を守るために存在している。ならば、この場において何をするべきか。それをよく分かっていた。
「お前達は5人で倒せる実力があると言ったな! 俺とキリムで他のドラゴンの注意を惹き付ける、1体ずつ減らしてくれ!」
「そ、それは無茶だ! マーゴに任せ……おおう!?」
ステアとニジアスタの会話中も、ドラゴンの攻撃が止むことはない。鎧に別の個体の爪が突き刺さり、たまらずニジアスタは距離を取る。
「スタンアタック! 大丈夫か!」
「ああ、その大剣でお返しにソイツの頬でもビンタしてくれ!」
「ヒール! 悩んでる暇はない! マーゴは身動きが取れない、クラムステアに従うんだ! 前方から2時の方向、突進来るぞ!」
マーゴは注意のひきつけと防御だけで精いっぱいだ。本来ならば剣も使って威嚇攻撃を行うが、流石に相手の数に圧され、ガード以外に成す術がない。
「キリム! 俺に霊力を流し込め!」
「ええっ!? ど、どうやるの!」
「知らん! やれ!」
咄嗟に血を飲ませる事を考えたが、この状況で呑気に腕を噛ませる暇などない。旅人等級8のパーティーが互角に戦う相手が5体もいるのだ。弱っている個体もいるが、それでも脅威に変わりはない。
広い空間とはいえ、ドラゴンに囲まれた状況は危機でしかなく、もし他の個体が現れたならマーゴ1人では防ぎきれない。
ライトボールが照らす岩肌にドラゴンや自分達の影が映る。閉鎖的な洞窟内に金属音が響き、時折岩が砕ける音がするも、誰かが駆け付けてくれる気配はない。
「キリム!」
「分かってる! 今考えてるとこ!」
キリムはステアの固有術を何度も繰り返し唱えながら、両手の短剣でドラゴンの体表の粘液を削り取り、鱗を砕いていく。その場所を狙ってステアの斬撃がドラゴンの肉を絶つと、とうとう1体がマーゴではなくステアを追うようになる。
「熾焔斬!」
ステアが双剣を赤く光らせ、次の瞬間には振り切られたその残像が炎となってドラゴンの肉を焦がす。キリムが跳び上がってドラゴンの頬に蹴りを入れると、ドラゴンはキリムへと牙を剥き出しにし、噛みつこうとする。
それを小手で防いでいた時、キリムは自分の腕に填められているものに気が付いた。
アビーに貰った赤いブレスレットと、ステアから貰った主の証だ。
「……ステア! 10秒ちょうだい!」
「分かった、下がっていろ!」
キリムはステアの傍を離れ、マーゴの後ろに下がる。
「どうした! 負傷か!」
ダーヤがキリムをチラリと見て、また前方へと視線を戻す。マーゴやリャーナ達に防御魔法を張りながら、更にはデニースの術強化をしているのだ。ここで治癒術もとなれば流石に手が回らないと思ったのだろう。
「違います!」
キリムは小手を外すと短剣で自身の腕をほんの少しだけ斬った。
「うえっ!? 何をしてんのさ!」
「血を、腕輪に血を塗り込んだら……俺の霊力がそのままステアに流れ込むんじゃないかって!」
キリムは薄ら滲んだ血を指の腹で掬い取り、腕輪に埋め込まれている赤い石にそっと塗った。同時にステアの固有術を詠唱し、そして溢れた血をまた押し付けるように塗る。
「これでステアに霊力が届けば……!」
マーゴ達は総攻撃で1体の首を切り落とし、2体目を相手していた。落ち着いて1体ずつを相手できるのなら、マーゴ達だってなんとか倒しきる事は出来るのだ。
キリムはひとまず安心し、残る3体を翻弄するステアに霊力を送ると、急いで小手をはめて振り向く。
と、その次の瞬間、風とも光とも判断がつかない大きな気力の刃が、ステアの両手の剣から放たれた。
「破ッ!」
「うわっ!?」
天井まで届くような大きな刃が具現化され、それはステアの目の前にいたドラゴンへと襲い掛かかる。斬撃では肉を斬りつけるだけで精一杯だったはずだ。
けれど、ドラゴンは動きを止めたかと思うと、切り口が分からない程鋭く薄い刃によって、数秒後には複数の肉塊に分かれてゆっくりとずれ落ちていく。
「……ステア?」
キリムが思わず声を掛けるが、ステア自身もその威力に驚いてるようだった。だが、すぐに自信を持ったのか、今まで見た事がない程不敵な笑みを浮かべ、次の標的へと狙いを変えた。
「しっかり目に焼き付けていろ。お前が使役するクラムの戦いを」
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