HAGANE-07(055)
「村の状況は大体知ってる」
「キリムの性格なら旅に出ることを諦め、村の警備程度の戦いで生涯を終えただろう。召喚士の需要は高い。拾われることもあるだろうが、その時のあいつにその気があるのか疑問だ」
「ま、今はどうにかして錠剤を口に放り込んで、アスラ婆さんの回復を受けるしかねえな」
心配するディンと同時に、ステアもため息をつく。
「さて、俺は帰って少し眠る。アスラ、礼を言う。明日もまた来る」
ステアは珍しく感謝を口にすると、ディンに続いてアスラの家を後にした。
* * * * * * * * *
雲一つない荒野の中、6人の少年少女が戦っている。東西に長く連なるボナスゴ山脈の麓の村、メーンを出発したキリム達だ。
彼らはどんなに弱い魔物であろうと、出会う魔物は全て倒すと決めている。強くなりたいと願うなら、戦闘を重ねるしかないのだ。
「複数相手ならこの呪文の方がいいかも……トルネード!」
リビィの詠唱と共に大きな竜巻が発生し、魔物を空まで吸い上げようと襲い掛かる。
「うおっ!? 待った! これじゃ俺が攻撃出来ない……一度離れて飛び道具使うから! 止める時は教えてくれ!」
「味方へのダメージはなくても、視界や風が行動を阻んじゃうね。それなら私のプロテクトでいけるはず! マルス、見えたら報告して!」
「見えた!まだ魔物たちは風の渦の中にいる!」
「俺がブリンクに合わせる!」
突如消えた竜巻の中から、1頭の牛のような魔物が落下してくると、それぞれが斬りかかって仕留める。全員が連携を取りながらの戦闘を行う練習だ。
キリムが体をひねりながら、舞うように両手の短剣を振ると、2本の残像が線を描きながら魔物の体を深く切り裂いた。
慣れたパーティーや、逆に新米すぎる旅人から見れば、なぜ弱い魔物にこんなにも全力を出すのかと思われる事だろう。
連携の練習をしたいと申し出たのはサンだ。その目はいつになく真剣で、その意味を力説された全員がやる気になった……ことで今に至る。
いざという時に普段やっていないことが出来るはずがない、というブリンクの一言も効いたようだ。
「お前ら、強くなれると思うぜ。俺はどっちかというと鍛冶屋目線で、装備さえ良けりゃなんとかなると思ってた所はあるんだ」
エンキが感心しながら、マルスとブリンクの武器の状態を確認する。
「まあ、実際に装備に助けられる部分は大きいよな」
「キリムの短剣なんてまさにそうだ。勿論、その剣を使いこなせるというのが既に強さと素質の表れなんだけど、いつか俺だって上に立ちたいよ。召喚士のキリムに負けてられないんだ」
「いや、ブリンクの隙が無い動きこそ本来の姿だよね。俺はステアの真似をしているに過ぎない。剣を振り回しながら、飛び道具の代わりに魔法詠唱してるだけ。ステアの短剣が無かったら、今頃他の召喚士と変わらない存在だよ」
「武器も防具も使い手に活かされると思うんだ。強い奴が使ってこそ、真の力を発揮する。必死なお前らを見てると俺も早く鍛冶やりてーって気持ちになるんだよ。あー早く鉱石砕いて溶かして、ハンマーでぶっ叩きてえ」
「私達はもう一段階上級の装備を作ってもらうためにも、強くなってなきゃね。さあ! 次の魔物に遭遇するまで前進あるのみ!」
「リビィ、こっち」
「あ、ごめん」
会話は弾みながらも周囲の警戒は怠らない。
今まではマルスが先頭を歩く、としか決めていなかった。この旅では先頭をマルス、左右をキリムとブリンク、後方にリビィ、そして生命線であるサンを真ん中にという陣形で進むようになっていた。
武器攻撃職もこれならばすぐに戦闘に入ることができ、遠距離魔法は発動を邪魔されることが無い。
万が一不意打ちを食らっても、状況さえ的確に指示できれば後はサンが援護に回れる。ようやくただの集団ではなくパーティーとして機能しだしたようだ。
時々、サンとブリンクが入れ替わって周囲の警戒を行う事もあったりと、陣形に固執しているのではない。この調子なら実力を十分に発揮でき、等級が1つ上がったような戦いが出来るだろう。
暫く進むと、今度は別の魔物に遭遇した。発見した事をマルスが報告し、やや大型の狼型の魔物3体めがけて向かっていく。
マルスが魔物の注意をひきつける為、視界を遮りながら盾と剣で打ち付け挑発する。その間にサンがパーティー全員に防御力を上げるプロテクトをかけ、リビィの魔法が視界や動きを邪魔しないように備える。
「ファイア!」
「この間にもう一撃いける? ブリンク、攻撃速度上げるから右の2体お願いね! マルスは今の魔物を!」
リビィの魔法は3体に当たり、3体がもがき苦しんでいるところを更にキリムが魔法で攻撃する。
サンがブリンクに攻撃速度を上げる補助魔法をかけ、そうして今度はマルスが1体を、残りの2体をブリンクが斬り倒した。
「連携、いけるようになってきたね」
「そうだな。それにしてもキリムは状況に応じて色々とパターンを変えるのが上手いな。ステアとの旅の様子をこの目で見て教わりたいくらいだ」
「ステアの教え方は確かに上手だから。召喚士として登録したから他は分かんないけど、召喚って特殊能力だし、双剣士に向いてたのかも。2人しかいなかったから必死だったし、上達するしかなかった」
「それでも双剣士としてキリム程能力を伸ばせない奴なんかゴマンといるよ。俺も現状負けちゃってる。こう言っちゃ悪いけど高給で雇われていてもおかしくない」
ブリンクは羨みながらもキリムの実力を冷静に判断する。その口調には、嫉妬や劣等感といった感情は見てとれない。悔しさを口にしていた彼の中で、キリムは一番身近な目標になっていた。
「あー! 俺はそんな優秀な奴らの装備が作れるんだよな! あーもう今すぐ何かしてえよ! 新しい作品作りたいって思ったらこう……胸がキューってすんだよ! お前らだけずるいぜ、俺だって出来る事やりてえなあ!」
「エンキさん、ほんとうに……」
「エンキ、だ。次にさんつけたらお前の血を抜いて装備に塗り込んでやる」
「ご、ごめん。エンキは鍛冶が本当に好きなんだね。見てるとクラムワーフにそっくりだよ」
「お、俺があのワーフ様とそっくりなんて、そんな……ことあるかよ。あのお方のようにはいかねえって」
「なんで顔赤くなるんだよ、照れ屋か」
ブリンクが思わず指摘する程、エンキは顔を真っ赤にして照れている。実在すると分かった上に弟子のように面倒を見てくれるワーフに憧れ、慕うのは当然だ。
「と、とにかくだ! 早く強くなりながらノウイに辿り着いてくれ。一刻も早く全員の装備を作りたい。旅の間に皆それぞれのクセと、それに合わせた装備を考えていくからよ」
「へえ、完全にオーダーメイドってことか」
「ああ、俺だってワーフ様に認められる装備作って……褒められて、あーもう! 早くお前ら材料集めて装備作らせろ!」
「なーんか、エンキ可愛い」
「鍛冶の事語ってる時って可愛いよね。少年みたいな、乙女みたいな」
「う、うるせー! 何が可愛いだ。あ、あんま茶化すとお前らの装備後回しにするからな!」
リビィとサンが慌ててごめんと謝るも、別にいいけどと言うエンキの耳は真っ赤なままだ。
「ねえねえ、キリム。ステアと離れてもう1週間以上だし、そろそろ寂しいとか思わないの?」
「そりゃあ寂しいけど、今は我慢だよ」
辺りが暗くなる頃、6人は山脈を縦断する街道に差し掛かっていた。
皆は岩の多い斜面で休みやすい場所を見つけ、慣れた手つきで準備を始める。旅人5人に対し、エンキはその手際の良さに感心していた。
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