第二十四夜:猫娘と女豹
「――ハッ!」
気合一閃、空を裂くように黒色の弾丸が飛ぶ。それは獲物を捕らえる鷹のように両手を前へ突き出すと意表を突かれ目を見開く純白の少女目掛けて唸った。
「にっ!」
そしてその双腕をかろうじてクロスさせた両腕で受け止めた少女はその勢いのまま落ちていく。ぎりぎりまで少女の腕を押さえていた黒い弾丸は少女を突き飛ばすようにして真横から伸びる鉄の枝に飛び移った。
「にゃっ!」
しかし突き飛ばされた少女もさるもの。地面を間近にしていたにもかかわらず軽やかな身のこなしで半回転すると足から綺麗に着地しそのまま膝を折り曲げ衝撃を和らげた。
「――ふぅっ!」
そして頭上の黒い弾丸へと一気に飛びかかる。
しかしそれは呆気なくかわされる。少女の視線のはるか先、針のように細い鉄の枝にその黒い弾丸は勇ましく着地してのけた。
「やるではないか、小娘」
「ボク、小娘じゃないよっ! サンデーだよっ!」
「小娘は小娘だ」
「にゅあ~~~~~~」
珍しく苛立ったような声をあげる純白の少女サンデーに対峙する黒肌の女、獣人レパードは余裕の笑みを浮かべていた。
「互いに獣人同士、通じ合うこともあるかと思ったが、何から何まで違うな」
「あたりまえだよ」
僧服を民族衣装のようにアレンジしたレパードに即答するサンデー。戦いの中で帽子が落ちたのか、いつも帽子に隠してあった猫耳はぴょこん、とその存在を主張していた。
「我ら獣人は。――いや、この星に在る生きとし生ける者はこの星の摂理に従うべきだろう。つまりは、弱肉強食」
悠然と立ち、見るものを圧する存在としてサンデーを見据えるレパード。
その視線は「何も言い返さないのか」と問いかけてきていた。
それにサンデーはこくり、と頷きながら返した。
「悪いことはしちゃだめなんだよ」
「悪い、か。その悪という概念すら誰が、どの立場で、どう見るかによって変わるものだろう? 少なくとも、[教団]という組織は自分達が正しいと思っているようだぞ?」
「う、うにゃ?」
「難しいことは分からんか。やはり小娘だな」
「だーかーらー! ボクはサンデーなのっ! 小娘違うのっ!」
「うにゃー!」と叫ぶサンデー。その動きにあわせひらひらと危うげにスカートが揺れるが、それを気にした様子もない。それを見てレパードはふっと笑いながら
「やはり小娘だな」
と。それにサンデーが「だからー」と言い返そうとした、その一瞬の隙に全神経をもってしてレパードが攻撃に転じた。
「にゃあ!?」
まずは跳躍。そして天井から伸びていた金属の枝を蹴りつけ瞬時に下方へ。しなやかな動きで半回転すると着地したのも見えないほどの速度で再度の跳躍。
今度は右へ。左へ。また右へ。黒い残像を背に残しながらレパードが迫る。
その、獣人の身体能力をも遥かに凌駕する速度でレパードが眼前に現れる。
「にゃっ」
「――はっ!」
気付いた時には顔面を穿つように拳が飛んできていた。
それを慌てて後方へ回避したサンデーだったが、直後に発生した烈風にバランスを崩す。
「――ふっ!」
「っに、あ……!」
その一瞬でレパードの振り向き様の回し蹴りが横腹にヒットした。
横方向へと蹴り飛ばされ、壁に背を叩きつけられ息が止まったサンデーにさらなる追撃を加えようとレパードが追随する。
「にゃ、う~~~」
それを紅い瞳に捉えサンデーは壁を蹴飛ばして跳躍。その一瞬後、サンデーが叩きつけられた壁をレパードの拳が叩き付けた。なんの破砕音もなく、壁が拳の形にひしゃげてしまっている。
「にゃ?」
それを目の端で捕らえながらサンデーは不思議なものを見るように首を傾げた。
しかし、疑問を頭に浮かべる隙も与えずレパードが追撃にかかる。一瞬にして距離を詰められたサンデーはそこから地面へと飛び降りた。さらに金属の枝へと着地し、再度跳躍。
しかしレパードはそんな変則的な行動に柔軟に対応してのけた。
その体からは到底想像もつかない速度でサンデーへとさらなる追い討ちをかけていく。
「う、早いにゃ」
次から次へと、変則的な軌道を描きながら逃げるサンデー。
徐々に息が上がっていく中、後ろから突いてくる彼女はまったく呼吸が乱れない。
サンデーがこの長くも短い戦いの中で思い知ったことは三つ。
一つは到底パワーじゃ勝てないこと。
一つは踏んできた戦いの場数が圧倒的に違うこと。
一つは自分の速さをも超えているということ。
「うにゃ!?」
と、至る所で生えている金属枝の一つに引っ掛かったのか、服が大きく引き裂けた。
すぐに気付いたのが功を奏したか、破れた箇所はへその部分だけ。リッカのように白い腹部を手で隠しながらサンデーは恥ずかしそうに俯いた。
そうしながら器用にレパードの追撃をかわす。
「でも、コレ、邪魔にゃあ」
コレ、とはこの空間を支配している金属枝である。
金属を自在に変化させる手品師ジャックによってサンデーがいる空間は密林のジャングルの様相を呈していた。
恐らく、相手が最も得意とする環境なのだろう。おかげでただでさえ戦力差があるというのに、不利すぎる状況だった。
(アルマにゃら……)
きっと、アルマならこんな状況でもなにか閃くに違いない。そして「お前の敗因は三つ」とか言ってかっこつけるんだ。
いつだってアルマは、そうやって勝ってきたんだから。
「いつだって自分が有利な状況で狩りを続ける。それは当然のことだろう?」
「っ!?」
声は下から。いつの間にか下のほうに回りこんでいたレパードが枝から枝へ飛び移りながらサンデーが今まさに着地しようとした地点で立ち塞がる。
「にゃあ!?」
サンデーの絶叫。そしてそれを黙らせようとするかのようにレパードの足がぶれた。
「う、あ」
「弱いな」
つま先はサンデーの鳩尾を正確に蹴り上げた。窒息し力なく地面へと落下するサンデーを見てレパードは次の行動を見極めようとしていた。
「これで終わるようなら、[教団]は止められない。なにせそれが自然の摂理なのだからな」
そしてレパードが見下ろす先でサンデーの体が地面に激突し、動かなくなった。
***
昔……と言っても、まだ自分がアルマと出会ってからそんなに経ってないのだけど、大きな家にあったお宝をゲットしようとした時に、困ったことがあった。
『――あのなぁ、無理しなくていいんだぞ?』
アルマから「できるだけ、衛兵を引きつけて欲しい」といわれて、頑張った時に、たくさんの人達に囲まれてピンチになったことがあった。
その時は運良く、お宝を盗み終わって撤退しようとしていたアルマが助けだしてくれたからよかった。でも、そのあと、アルマに怒られた。
いや、気遣うような感じだったから、怒る、ではなかったかもしれない。
『確かに助かるけどさ、それでサンデーがピンチになったら意味はないだろ? だから、無理はしない。絶対に』
無理、と言われたサンデーはその時たまらず
『でも、アルマはいつもそうしてるよ?』
と聞き返してみたのだ。そしたら、アルマは困ったように笑いながら
『まぁ、おれは……怪盗だからな!』
『ボクも、怪盗だよ?』
『違うね』
あっさりと断言されたものだから、耳までしょんぼり、と垂れたのを今も覚えてる。
でも、その後アルマはこう付け足したのだ。
『怪盗にはな、秘密があるんだ』
『ひみつ?』
『そっ、秘密』
アルマが実に楽しそうにそういうものだから、ベッドの上でぴょんぴょんと跳ねて遊んでいたソールとマーニまでが近寄ってきたのもハッキリ覚えてる。
『どーしたのよ? 秘密ってなに?』
『分かった。アルマのせーへきだ』
『『ふけつーっ!』』
『違うっつーの! 怪盗の秘密! か・い・と・う!』
うがーっ!と唸るアルマはひとしきりソールとマーニに「そもそも女の子がそんな言葉を気軽に口にするなよ」とか言って、二人が「お? 一応女の子って意識してんだー」とにやついたのをアルマは誤魔化すように咳払いしながらこちらへ向き直ったのだ。
『で、怪盗の秘密ってのはな』
『うん』
『逃げるが勝ち』
アルマが胸を反らしてそう言った瞬間、わずかな沈黙が降りて、ソールとマーニが冷めた眼差しで
『『かっこわる』』
と呟いた時はアルマもへこんでいた。でも、それでもボク達に〈怪盗の秘密〉について語ってくれたのだ。
『サンデーの場合はただ逃げるだけ。でもそれを逃げるが勝ち、なんて言わないんだ。どういう時が逃げるが勝ちなのかっていうとな、逃げながら覚えることなんだ』
『覚える?』
『そっ。覚えること。例えば、今日の屋敷だと、サンデーが走った方向、曲がり角に絵が飾ってあったのは覚えてるか?』
『にゃ、にゃあ?』
『あー、覚えてないか。やっぱり。じゃあ、そこを左に曲がったら外から見た感じ行き止まりになるってのは?』
『……にゃー』
『そっちもか。つまりな、サンデーがピンチになったのはそれを忘れてたから。建物の外観と、中の構造を覚えてると便利だぞ。で、あとは目印になるものを決めながら逃げる。そうして逃げ回りながら大体のことを把握して、どこだと逃げやすい、逃げにくいかを把握するんだ。仕方なく戦うときも同じ。逃げながらいつ、どこで、どうやって反撃するか。そういうのを考えるんだ』
『にゃるほどー』
『っということで、次からは気をつけろよ』
『うん、分かった』
こくこくと頷くボクにアルマは「よし」と頭を撫でながら最後にこう付け加えたのだ。
『大丈夫。サンデーならすぐに出来るようになるって。怪盗のおれが保障する』
だから。
『がんばれよ』
と。
***
「にゃ」
一体、どれくらい意識を失っていたのか、目を開くとはるか上方であの僧服に身を包んだ獣人がこちらを見下ろしていた。その目が「まだ息はあったか」と考えていたのが分かった。そして、レパードが動き出す。
『――逃げるが勝ち』
アルマの言葉を思い出してサンデーは一人頷いた。そして、レパードに背を向けると跳躍。その、再度の逃走にレパードが吐き捨てるように言葉を紡いだ。
「またか。小娘、お前も獣人ならば無駄と分かっていても戦ってはどうだ? 逃げても無駄なだけだということは分かっているだろう?」
しかしそれに「小娘じゃないもんっ!」といった反論が返ってこなかった。
それに、レパードから見てもサンデーの動きに変化が起こっていた。
「無駄がなくなった?」
そう。一体何が彼女を変えたのかは分からないが、ただ逃げているだけだったサンデーがまるで何か作戦があって逃げているかのように、その逃げ方に変化が起こっていた。
今までのように逃げるのに必死で追い詰められることもなく。
こちらへ引き返すしか選択肢がなくなるわけでもなく。
こちらが追いつけないルートを選んでいる。
「くっ、小娘も選び始めたということか」
無駄のない動きは徐々に見慣れたルートを辿り始めていた。
つまり、レパードが常に優位な戦闘を行い続けてきた、最速・最短の移動ルートの獲得。
「しかし」
追いつくか追いつかないかという微妙な距離感を持って逃げ続けるサンデーにレパードがふっとほくそ笑む。そして急にルートを逸れるように真横へと跳躍。そのまま視界にサンデーの姿を捉えながら別ルートからの奇襲を目論む。
「そのルートはわたしの物。それじゃわたしには―─」
そしてサンデーが別の金属枝に飛び移ろうとしたタイミングを狙ってレパードが飛び出す。その拳にありったけの体重を乗せて真っ直ぐに撃ち振るう。
「―─勝てんぞ! ――なっ!?」
しかし、驚愕に目を見開いたのは完璧な奇襲を仕掛けたレパードの方だった。
「やったっ!」
サンデーはその攻撃を予想していたのか、空中で綺麗に反転するとレパードの拳へと着地したのだった。そして、驚愕に目を見開くレパードに対して、にっこりと笑みを浮かべながら
「お返し♪」
と言って拳を踏み台にして跳躍した。そして、結果として蹴られる形になったレパードは勢いを殺されバランスを崩す。
「なっ――はっ!?」
しかし間一髪のところで身を翻し、地面への激突を避けるとキッと頭上のサンデーを見据える。そして口の端にニンマリと獰猛な笑みを浮かべながら笑った。
「はっはっはっはっは! やるな、小娘! ……いや、今の戦い方に小娘は失礼か。もう一度名を聞こうか?」
「サンデーだよ」
「そうか。サンデーか。ではサンデー、わたしと戦士として、正々堂々勝負をしようか!」
「ボク、戦士じゃない」
「ならばわたしが勝手にそう思うことにしておこう。――行くぞ!」
咆哮と共にレパードが飛び上がった。しかも先程の動きにさらに勢いが増していた。
本気、サンデーはそう感じ取ると再び背を向けて逃げ始めようとした。――が。
「遅い」
「にゃ!?」
先程まで下から迫っていたはずのレパードが頭上に現れ、かかと落としを叩き込もうとしているところだった。それを慌てて後ろへ飛び込むようにして回避したサンデーの目の前で金属枝が砕け散った。
「にゃ、にゃー」
あまりにも桁違いなパワーに言葉を失うサンデーにレパードが「何を驚いている?」と囁く。そして吹き付ける黒い残像。
「えっ」
サンデーは目の前で起こった出来事が信じられずにおもわず自分の目をぐしぐしと拭った。今、何もない場所で跳躍したようにゃ?
「随分と余裕なのだな」
「っ!」
頭上を見上げるとこちらへと頭を向けたレパードが脚を曲げ、力を溜めているところだった。そして、一気に踏み砕く。バンッ!とすさまじい音を立ててレパードが飛び込んできた。空気を踏み台にして。
「にゃ、にゃんで!?」
その、信じがたい光景を前に対応がワンテンポ遅れた。
レパードの鍛え抜かれた双腕がむき出しになったサンデーの腹部にめり込む。
「う、にゃああああ!」
たまらず叫び声をあげるサンデーにレパードはさらに空気を蹴ってサンデーを地面にたたきつけた。
「か、ふっ!」
息が詰まる。しかしここで身動きを止めると確実に死ぬ。
それを本能で感じたサンデーは腹部に走る激痛に顔を歪ませながらもレパードを蹴り飛ばしバク転。そしてそのまま頭上の金属枝に飛び乗って退避。
「さぁ、狩りの始まりだ」
背後でレパードがせせら笑うのが聞こえて背筋がゾッとした。
まるで人が変わったようだ。そして、変わったのは戦闘力も。
「にゃう」
もしかして、さっきの拳着地がだめだったのだろうか?
「はっ!」
「っ!」
背後でレパードが短く息を吐き出す。それに本能的な恐怖を感じて横に飛び退けばすぐ背後を黒い弾丸――いや、稲妻が駆け抜けた。そして続く破砕音、降りかかる金属片。
「や、やばいにゃ。足場が壊されてる!」
一体どういう手段を使っているのか知らないが、レパードは何もない場所でも跳躍できる。
それに対して足場がないと飛べない自分は圧倒的に不利。一刻も早く決着をつけないと。
「で、でも、あれ怖い」
ちらり、と振り向いた先では金属枝に仁王立ちしたレパードがこちらに狙いを定めているところだった。その目にゾッとする。
「行くぞ!」
そしてゆらり、とレパードの体が揺らいだかと思った瞬間、破砕音と共に黒い稲妻と化したレパードが飛び込んできた。
それでもサンデーはアルマの〈逃げるが勝ち〉を実行しながら反撃のチャンスを窺った。
とっても怖いけど、倒さないわけにもいかない。
「アルマにゃら、どうするのかな?」
今までアルマが戦ってきたときを思い浮かべる。もしかしたら、レパードに似た敵がいるかもしれない。
えっと、記憶に新しいのは金属のボールを持ってた手品師。でもちょっと違う。
あの怖い顔をした炎の手品師? も怖いのは怖いけど種類が違う。
じゃあ、この金属ジャングルを作り出した男? でも、あんなに早くない。
あ、じゃああの包帯の人、かな? あの人、すっごい早かった。でも、怖くはなかった。
「に、にゃ~~~~~」
覚えているのはそこまで。あとは怪我をしたアルマを看病していたことや、そのちょっと前にお姫様抱っこをしてあげたこととか。そういうことばかりだ。
「にゃっ」
そこでサンデーはあるアイディアを閃いた。
今、思い返した敵はどれもちょっと違った。でも、似てるとこもあった。
じゃあ、似ているところを考えたら?
金属ボールのふよふよ、炎の人の怖さ、金属男の戦い方、包帯の人の早さ。
「にゃ?」
逃げながら考えていたら、どれもある共通点があるのに気付いた。
それをサンデーはぽつりと呟く。
「みんな、自意識かじょー?」
という言葉で合ってるのかは分からないけど、みんなやけに自分の力に自身を持っていたような気がする。そして、それが一番の隙であったことも。
「じゃあ」
彼女も同じ、なのだろうか? ……同じ、気がする。
じゃあ、じゃあ!
「勝てるかもっ」
「誰が、勝てるかも、だと?」
「っ!」
慌てて頭上へ跳躍。その足元を黒い稲妻が掠め、金属枝を砕いた。そうやって砕けていく金属枝を見つめながらサンデーは「これだ」と呟いた。
「ボク、負けないよ」
「ほぅ」
レパードがこちらを見上げてくる。そうしながら脚に力を溜めているのを確認してサンデーは一気に駆け上がった。
「じゃあ、見せてもらおうか!」
思ったとおり、レパードが怒号と共に迫ってきた。
それを背で感じ取りながらサンデーは上へ上へと逃げた。そして、今度は横へ。出来る限り逃げ続けてレパードへと振り返る。
「じゃあ、見せてあげるよ!」
そしてギリギリまでレパードを引き寄せて、飛び降りた。枝から枝へと器用に飛び移りながら一気に地面へと着地する。そして頭上では避けきれずに壁に激突したらしいレパードの怒号と砕け散った壁の破片が降ってくる。
「……」
降ってくる破片を真っ直ぐに見据えながら相手の行く末を見守っていたサンデー。
その衣服が降ってきた金属片に引き裂かれ真っ白な肌の露出の方がほとんどになった時、頭上で息を荒げたレパードの声が降ってきた。
「――これが、お前の勝ち、か?」
壁に激突した際に負ったのか、頭部から血を流しながらこちらを見下ろすレパードは奥歯が噛み砕けそうなほどに歯軋りをするとこちらへと飛び降りてきた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
その中途で生える金属枝を邪魔だとばかりに砕きながら真っ直ぐにこちらへと飛び込んでくる。
「にゃあ」
それを真っ直ぐに見据えながらサンデーは敵との距離を考えた。逃げる、という選択肢はなかった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
砕け散った金属片すらも後方に置き去りにしてレパードがぐんぐんと近付いてきた。
そして、最後の金属枝を砕いてレパードがすぐ眼前に迫る。
「おお!」
「にゃっ!」
そしてこちらへと拳を突きつけるレパードへとサンデーはその背に隠し持っていた物――レパードが壁に激突した際に落ちてきた金属枝を突きつけた。
「がっ!?」
飛び込んできた勢いのまま、腹におもいっきり巨大な金属棒を叩きつけられ息を飲むレパード。幸い、というのか、サンデーがそうしたのか、体を貫くことはなかった金属棒だったが、攻撃はまだ終わらない。
「が、ああ!?」
レパードの分厚い僧服に突き刺さる金属片。豪雨のように降りかかってくる金属片をその身に受け、レパードが苦痛に叫び声をあげる。
そして、金属片の雨が止んだとき、決着は着いていた。
サンデーは盾にしていたレパードの体から這い出ると大急ぎでレパードに刺さった金属片を引き抜き始めた。幸い、深く刺さっていないため出血は目立たなかった。
「……な、ぜ」
「にゃに?」
「なぜ、止めを刺さない?」
「だって、アルマが言ってたもん」
「あの、怪盗か?」
「うん」
こくり、と頷きながらサンデーはせっせと金属片を引き抜く。
「ならば、お前らは弱い」
「ううん」
その言葉にふりふりと首を振りながらサンデーは答えた。
「アルマがね、言ってたの。人を殺したりする奴は怪盗失格だって。ボク、怪盗だもん。怪盗サンデー」
「はっ。くだらない。弱いことには変わりないだろう。それじゃ[教団]には」
「アルマね、とっても強いんだよ。だってね」
「?」
やけに真摯な瞳に見据えられレパードはサンデーの顔を見上げた。
その視線の先では、女のレパードですらハッと目を見張るほど、眩しい少女の笑顔があった。
「人を幸せにしたいからって言ってたもん。だからアルマは負けないよ」
「はっ。小娘ののろけか」
「のろけ?」
首を傾げるサンデーの前でレパードはよろよろと立ち上がった。
すぐさま押し留めようとするサンデーを手で制しながらレパードは言い放った。
「では、そんな小娘に教えてやろう。[教団]の――いや、奴の恐ろしさを」
そしてレパードは語りだす。〝奴〟についてを。
そして、それを聞いたサンデーはレパードが止めるのも聞かずに走り出した。
何か、決定的な真実から逃げるように。
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