第二十一夜:騎士と〝帽子の男〟
「ジャック殿、貴殿には本当に感謝する」
『イーヒッヒッヒッヒ。礼なんざァアアいらねェよォ。それよりィイイ、その邪魔な奴らをォオオ、排除しろよォオオ』
「貴殿に言われずとも、某はそのつもりだ」
「これは、困りましたね、お姫様」
「困ったじゃないわよ、まったく」
シンシア姫を抱きしめ、ニコルは眼下を見下ろした。その頬を一滴の汗が伝う。
しかしその汗はろくに床へ滴り落ちることもなく、蒸発した。
「怪盗が言っていたのは本当のことのようね」
「えぇ。しかし、これは……」
眼下には無尽蔵に引き伸ばされたピアノ線が複雑な軌跡を描きながら蜘蛛の巣を築き上げていた。そのさらに下には、目が焼かれそうなほどに滾る炎。恐らく鉄を溶かし、加工するための溶鉱炉をこちらへ持ってきたのだろう。
「さて。ではお待たせいたしました。某は〝帽子の男〟と呼ばれております」
そして、蜘蛛の巣の中央、溶鉱炉から発せられる熱波に汗一つ掻くこともなく、目深に帽子を被った男は一礼した。その手にはピアノ線が絡まっている。
「キュルテンは、本名じゃないんだよね?」
「いかにも」
無駄のない問いに無駄のない答えを返しながら〝帽子の男〟は腕を振り上げた。
それは、まるで楽団を率いる指揮者のように。
残忍非道な人形劇を始める、マリオネットの操者のように。
「では、尋常に勝負といきましょうか」
しかし、彼は指揮者でもなければ操者でもない。
彼は[教団]の手品師。それ以外の何者でもない。
「――《ネットサーフィン》」
突如、爆発的なまでにピアノ線が膨れ上がる。それは〝帽子の男〟を護る繭として紡がれていき、そこからさらに爆発的な成長を遂げ八本の足を生み出し、精密な動きで彼の最大武装の姿を生み出す。
「う、蜘蛛……」
「あぁ、お姫様は蜘蛛、嫌いでしたね」
腕の中で震えるシンシア姫に目を細めながらニコルは器用に手品道具である剣を構えなおした。剣を媒介にする《
「怯えているお姫様は無垢な子供みたいで好きですが、怖がってるお姫様を放っておくのは騎士失格ですね。悪いですが、一気に崩させてもらいます」
「けっこう。ただし、出来ればの話ではないかな?」
「だね」
巨大蜘蛛から聞こえる声にニコルは微笑を返し、疾走。一陣の風と化し、剣の切っ先にありったけの風を纏わせる。
「――はっ!」
一撃。しかしそれでも蜘蛛の体をわずかに引き裂く程度しか効果がなかった。
すかさず蜘蛛の体からニコルを捕らえようとピアノ線が踊りかかる。
「おっと!」
「きゃっ!」
風を逆噴射してピアノ線を弾き飛ばす。さらにそのまま退く。
「……意外と手こずりそうですね、お姫様」
「そうね。まぁ、それぐらいじゃないとあの怪盗を捕まえられないでしょうけど」
「そうですね。じゃあ単純にボクらより強いってことですね♪」
「……ニコル、あなた緊張感なさすぎじゃなくて?」
「緊張は体に悪いんですよ、お姫様♪」
「……もぅ」
微笑を向けてくる騎士から恥ずかしそうに目を逸らしながらシンシア姫は「けど」と続けた。
「手はあるんでしょ?」
「えぇ」
そう言ってニコルは横薙ぎに振った。その視界の隅で風が渦を巻く。
「それ」
そしてニコルの一声の元、風は一陣の刃と化して蜘蛛の巣を切断していく。
「む?」
後方の糸が断ち切れ、ぐらり、と蜘蛛の巨体が揺らぐ。
「さらに――それ♪」
剣を一振り。その軌道に合わせ風の刃を生み出しながらニコルは足の一つを切断した。
「あとは……よしっ」
蜘蛛の巨体が溶鉱炉へと落ちていく。しかし、相手がそのまま終わるとは思えない。
巨大蜘蛛はたちまちピアノ線と化してニコルに切断された箇所を補っていった。
しかしそれはニコルの予想通りだった。彼は目を走らせ、どこかにいるはずの敵の姿を求めた。
「いたわ! あそこ!」
「ありがとうございます」
シンシア姫の指差す先、そこに〝帽子の男〟が右手にピアノ線を絡ませ、蔦のように変化させてぶら下がっていた。
「――はぁっ!」
「ぬっ!?」
ニコルの刺突を〝帽子の男〟は片手で束ねたピアノ線で防いだ。
しかし完全には防ぎきれなかったのか、その声には苦悶が浮かんでいた。
「中々やりますな」
「ニコル!?」
「く、う」
だが一撃を受けたのは〝帽子の男〟だけではなかった。
ニコルの剣を握る腕を一束の糸が貫いていた。さらにそれはニコルの腕を両断しようと広がりつつある。
「くっ!」
それを《英雄譚》で断ち切りながらニコルは上空へと飛んだ。
「大丈夫、ニコル?」
「えぇ、まぁ」
風を器用に操りながら体内の糸を引き抜く。そこにべったりとついた血が滴り、蒸発する。
「せっかくのチャンスを不意にしてしまいましたね、お姫様」
「強がらないで」
怒られてしまった。ニコルは苦笑交じりに最後の糸を放り投げながら、いつ力が抜けてしまうかも分からない腕でシンシア姫に剣を握らせた。その上からシンシア姫を抱き上げる手で剣に触れる。
「《英雄譚》」
風を生み出す。その風を怪我をした方の腕に纏わせ出血を防ぐ。だが、長くは持たない。
「こういう時、ダニーがいてくれると助かるんですけどね」
「無理ね」
ダニーは完全に巻いたから、後を追ってきて、という望みは薄い。
「こういう時、ダニーの言葉が恋しいですねぇ」
「聞きたいなら、勝たなくちゃね」
「ですね」
微笑むシンシア姫にニコルも微笑み返す。そのままシンシア姫の腕を誘導するように剣を構えながらニコルは出来うる限りの風を周囲に生み出した。
「あぁ、でもあれは厄介ですね」
ニコルが視線を〝帽子の男〟へ戻すと彼も巨大蜘蛛を作り直し、体勢を立て直したところだった。さらに先程の巣の破壊を警戒してか、いたるところで巨大な蔦のように絡められたピアノ線が蠢いていた。
「ここまで来ると、自信をなくしますね」
「そう謙遜されては萎縮しますな」
「謙遜じゃないんだけどなぁ」
〝帽子の男〟にそう言い返しながらニコルは周囲に目を配った。
どこから蔦状のピアノ線がくるか分からない。
「お姫様、できたら後ろの方を見ていていただけますか?」
「分かったわ」
もぞもぞと動いて後ろを振り向くシンシア姫。そうなると抱きしめあうような形になってしまうが、ニコル的にはそれでも十分。いや、嬉しい限りだった。
剣を使う事はできないから、風を使うことになりそうだ。
「ふむ。それだと某も手を出しづらい。ならば、一斉に、というのはどうであろうかな?」
「ニコル、きたわ!」
「っ!」
シンシア姫が叫ぶ。しかしニコルも眼前からも無数のピアノ線が来るのを目撃していた。
その全方位からの攻撃にニコルは
(下!)
恐らく〝帽子の男〟が何かを仕掛けようとしているだろう真下へと飛び込んで回避した。
「ニコル!? これじゃ格好の的よ!?」
「分かってますっ!」
ぎゅっとシンシア姫の体を抱きしめながらニコルは周囲に展開させた風の一つを解放。
前方へダイブするようにしてそこからの脱出を試みる。
しかし。
「さて。ではお手合わせ、願いましょうか」
「なっ!?」
いつの間にか目の前に待ち構えていた〝帽子の男〟。その足元で糸が杭のような形状を形作っていた。
「ニコル、多分それは分身よっ!」
「お姫様!?」
「信じなさい、ニコル!」
「お姫様のお言葉を疑ったことなんて、一度もありません――よっ!」
さらに風を解放し音速を超える。迷い無き一撃をシンシア姫の言う分身へと叩き込む。
「ほんとに、分身だ……」
「あったりまえよ。それよりニコル、このまま前進!」
「はいっ!」
シンシア姫の指示通りさらに風を解放して前進。すると体を引っ張る感覚が。
驚いて後ろを振り向けばシンシア姫が剣に絡みついたピアノ線を睨んでいた。
「お姫様!? 糸ならボクが切ります!」
「そうじゃないわ。これでいいのよ」
「?」
得意げに微笑むシンシア姫。そんな彼女をよく知るニコルは不思議そうに首を傾げた。
それだけでシンシア姫は彼が何を問いたいのか察し、楽しげに言い放った。
「ニコル、そのまま下に突っ込んで!」
下、とはつまり溶鉱炉だ。ニコルはさらに風を解放し、蜘蛛の巣を潜り抜けて溶鉱炉へと下降した。――と。
――ズズゥン、と。
何か、重たい物が倒れるような音が響き、蜘蛛の巣が歪んだ。
「へ?」
そして後ろを振り返ったニコルは我が目を疑った。
「一体、何事なのだ?」
「作戦成功♪」
戸惑う〝帽子の男〟と茶目っ気たっぷりにはにかむシンシア姫。
それを見てニコルはすべてを悟った。
「……お姫様」
「ん。なに?」
「グッジョブです」
「ふふ。当然よ」
ニコルが推測するに、先程シンシア姫が分身に特攻させたのはこのための布石だったのだろう。
手品師というのは手品道具に触れている必要がある。つまり、〝帽子の男〟は絶対にピアノ線に触れているのだ。
なら、剣に絡みついた糸を引き寄せたらどうなるだろうか?
その結果が今、ニコルの後ろで起こった巨大蜘蛛の大転倒なのだ。
(これなら、いけるかもしれない)
ニコルは心の内で呟きながら、目の前の溶鉱炉の距離と、背後の蜘蛛の巣の距離を測った。そして「うん」と頷く。
「お姫様」
「どうしたの?」
「多少、危険が伴いますので、捕まっていてください」
「うん」
きゅっと――ぎゅっ、じゃない――ニコルに抱きつきながらシンシア姫が答える。
ニコルはそのまま前だけを見据えると残った風、その半分を解放した。
「はああああああああああああああああああああああ!」
「ぬ。ぐう!?」
その速度に巨大蜘蛛の体が傾ぎ、巣がその重圧に危うげにたわんでいく。
「く。これは、予想外。さすがは、騎士様ですな」
「――お姫様のおかげですっ!」
ニコルはそう叫び返し、止めとばかりに風を解放した。
さらなる一押しを経て、蜘蛛の巣に致命的な瓦解が巻き起こる。
「これは――」
蜘蛛の巣が弾け、巨大蜘蛛の体が溶鉱炉へと落ちていく。
ニコルは風を作り出し溶鉱炉へのダイブを免れた。しかしその背後で、すさまじい轟音と共に巨大蜘蛛は溶鉱炉へと落ちていった。
「あまり目覚めがよくないですね」
「……そうね」
触れるや解けていく糸を見つめながらニコル達はそう言葉をかわした。
見つめる先、巨大蜘蛛は断末魔の叫びをあげることもないまま跡形も無く解けて消え、
「――某とて教徒。これしきのことで殉ずるようではない。だが、貴殿達のその計略、賞賛に値するものでありました」
「「っ!」」
溶鉱炉を見下ろすニコル達の、そのはるか上、死んだと思っていた〝帽子の男〟の声が振り降りてきた。
見上げた先に居たのは。
「〝帽子の男〟が」
「三、人?」
見上げる先、一つだけ突出した金属製のアーチにまったく同じ姿の男が立っていた。
その男達は同じように笑い、声を重ねることもなく答えた。
「それは誤解だとお答えしよう」
「先程、貴殿達が利用した分身であり」
「これが某の
そして、その声は徐々に重なり合い、どこか聞く者に言いようのない恐怖を与えながら
「「「それ故に、貴殿達にも殺し、殺されの覚悟をして頂きたい」」」
直後、二人の〝帽子の男〟を構成するピアノ線が解け、複雑な模様を描くように波うちながら、空間を埋め尽くしていく。
「では、死闘を始めましょうか」
そして完成したのは巨大な巣。それは蜂の巣のような形状をしており、ニコル達はその内部に取り込まれた形になってしまった。
「司教ジャック殿。そろそろ某の道具をお返し願いたいのであるが」
『イーッヒッヒッヒ。あァ、りョーかいだァアア。受け取りなァアアア』
「感謝いたす」
〝帽子の男〟の目の前から生えるようにして出てきたのは仮面。どこか歪で、生々しい印象がある。シンシア姫が被っている『聖女の微笑』が神聖な雰囲気を醸し出しているものならば、彼の目の前に現れたのは邪悪。それ以外の言葉が見つからない。
「この仮面の名は『
恭しく答えながら〝帽子の男〟はその仮面を顔にはめた。直後、何とも言えない異変が起こった。
「何かしら、気分が悪いわ」
「気のせいじゃないでしょうね。ボクも気持ち悪くなってきました」
「この仮面はあらゆる感覚を所有者から剥奪する仮面故、某は感覚を失っております。だが、ただ一つだけ、その分鋭利と化した感覚があります」
噛み合っているのか、噛み合っていないのか分からない口調で喋りながら〝帽子の男〟は仮面をはめた顔をニコル達に向けた。そうしながら手首に糸を絡め、片手に五本ずつ、計十本の糸を束ねていく。先端を刃物のように尖らせる。
「その感覚と言うのが触覚。視覚、嗅覚、味覚、聴覚、それらを失うことのリスクは確かに高いのであるが、これが某の在り方ゆえ、先程と同じと思われては困る」
そう言って〝帽子の男〟は飛び降りた。一本のピアノ線――今は鞭、というべきか――を張り巡らしたピアノ線に絡め、ニコル達へと滑り降りてきた。
「っ! お姫様、今はかわします!」
「ええ!」
シンシア姫を抱きしめ、ニコルは上空へ飛んだ。しかし、その直後。
「むっ。上、か」
「えっ」
「うそでしょ!?」
ニコル達目掛け飛び降りた〝帽子の男〟がさらに一本、ピアノ鞭を振るい、大車輪を披露しながらその勢いを利用してニコル達の追撃にかかった。
それを突風で吹き飛ばす。だが落下する中、彼は鞭を振るい、移動、さらに絡ませ移動、移動、移動。そして瞬時にしてニコルの頭上へと躍り出ると。
「油断なされたか? 某は言ったはずだ。――これが、某の在り方だと」
「くぅっ!」
反転。その勢いを利用した踵落としをニコルは刺された腕で受け止めた。
彼の踵落としは予想よりはるかに重く、ニコルは眼下の溶鉱炉へ一直線に叩き込まれた。
「――先程は立て続けに恥を晒すことになってしまったが、その応酬、として受け取っていただけるであろうか」
「――――っ!」
いつの間に巻きつけたのか、〝帽子の男〟はニコルの手首に巻きつけた鞭を辿って懐に潜り込むと突き刺すようなドロップキックをかました。
「がふっ!」
口から鉄の味が迸り、鮮血が溢れる。遠のく意識の中、「ニコル!」とシンシア姫が叫ぶ声がする。そう、シンシア姫の声が。
(こんなとこで、彼女もろとも死ぬ気は、ないかな)
一緒に、というのであれば、生きていたい、という希望だけ。
「――《英雄譚》」
「ぬっ!」
ニコルを包み込み、外へ向けた突風を感じたのか、〝帽子の男〟は咄嗟にニコルから飛び離れると次から次へと糸を駆け上がっていく。
「すみません、お姫様」
「なによ、なにを謝ってるのよ、ニコル」
シンシア姫がうれし涙――だといいな――を流しながら胸を叩いてくる。ドロップキックを食らった直後にそれは痛かったが、改めて負けていられない、と思わせられる。
「どうしても負けられないので、お姫様には辛いかもしれませんが、少しガマンをしてくださいますか?」
「今更何よ。私のことを気遣ってかっこつけないで。褒めて欲しいなら私なんて気にせず、ニコルのやりたいようにやって」
「はい♪」
シンシア姫の言葉を受け、ニコルはもう一つの魔道具を取り出した。
「姫様、これを薬指に」
「っ! ニコル、これ、どうしたの?」
「秘密です♪」
ニコルが取り出したのは[王室]の魔道具。『聖女の微笑』同様、国王の血縁者にのみ与えられる――名を『運命の赤い糸』。
この魔道具はケンタウロス伝説の事実性を証明した道具であり、所有者はあらゆる概念において『繋がる』。例えどんなことがあろうとも、決して断ち切れず、失せない。
ニコルはそれを自分の左手の薬指に結びつけながら、シンシア姫を放り投げた。
しかしそれは言葉の乱暴さとは裏腹に、優しいものだった。それが証拠に、彼はシンシア姫を放り投げる直前、いつものような笑顔で、
「――じゃあ、無事に勝てたらご褒美として――いつしか彼と戦った後のように、猫耳、お願いしますね」
と囁いたからだった。
そして。
「さっき、あなたはボクらを賞賛に値する、っていいましたよね」
「……離れた? 一体、何が?」
本当に聞こえていないのか、〝帽子の男〟はニコルの言葉に反応した様子はなく、突然離れ離れになった二人に困惑していた。
「ボクも、そんなあなたを賞賛します」
「《英雄譚》」と呟きながらニコルは言った。徐々に、徐々にだが強まっていく風の圧力に〝帽子の男〟の、仮面に隠れた顔がこちらを向いた。
「――ボクも、本気で行きます!」
***
〝帽子の男〟は突如渦巻く風を感じ、そちらへと顔を向けた。
『汝、死を想え』の影響で四つの感覚がなくなっているが、その分発達した触覚によって相手の正確な位置は探れる。
「これは、危険と判断した。ゆえ、そろそろ貴殿を殺そう」
人を殺す事は気が進まないが、目の前にいる敵を排除しなければ、自分はかつて犯した罪を償うことができなくなってしまう。
償う事ができなくなるのは、自分と――己が無知であったが故に死んでしまった、無垢な
「貴殿にも大切な者がいるのであろう?」
かつて、似たような質問をかの怪盗にもした気がする。それをかの怪盗が覚えているかは分からないが。
しかし、だからこそ。
「某にも、譲れぬモノがある。故、これは想いと想いの死闘」
〝帽子の男〟はそう呟き、好敵手を仕留めるべく唯一つの感覚に意識を向け、飛びかかろうとして――
(ぬっ!? 速い!)
消えたのかと思うほどの速度でニコルの風が失せた。
しかしその残滓を手がかりに位置を探り、迎撃体勢を取る。
(上か!)
しかし見上げた頃にはその気配がなく。
(下、だと!?)
ありえない速度で真逆への移動を繰り広げていく騎士。
(右――いや、左!?)
しかもその速度は留まる事を知らず、ついに。
***
「――はぁ!」
「っ!」
気合一閃。ニコルは死力を尽くした突撃を行った。音の速度を超えた一撃をしかし〝帽子の男〟は直前に受け止める。――が。
「む、ねん」
それだけ呟き、〝帽子の男〟は崩れ落ちた。あとは彼が溶鉱炉に落ちないよう、風で回収する、だ、け……
「ニコル!」
どこか遠くで、お姫様の声が聞こえる。それに答えて、あげたい、けど……
(声が、出ない……?)
どころか、なぜだろう、急激に、眠、く―――――
「ニコルーーーーーーーーーーー!」
遠のく意識の中、お姫様の悲鳴が空しく響き渡った。
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