第十九夜:賛美とレクイエム


 アーケストラテスに突如出現した城砦は今もなお、けたたましい音を立てながら、彼ら――[教団]にふさわしい形へと変貌を続けていた。

 その内部、一切の光も差さないというのに、適度な明るさを保つそこは、鈍色と銀色が織り成す神聖な、そして邪悪な物への変容をすでに遂げていた。

 無数の、金属で出来た柱、それらに囲まれるようにして競り上がっている金属の祭壇。

誰がどう見ても宗教的な建造と思えるその場所に、未だ枷をはめたままの教祖と、彼を[王室]から救い出した教徒達がこの後の展開に胸を躍らせる。

「では教祖様、もうしばらくのご辛抱を。――ジャック」

『イーッヒッヒッヒッヒ。わァーかッてるぜェエ。それじャア、今こそォオ、その枷を。――《キリングマシン》』

 城砦を取り成す金属がまるで羽衣のような繊細さで教祖の枷に絡みつく。そして金属を操るジャックによって枷は緩やかに解けていく。

 枷から解放され、久方ぶりの自由を取り戻した教祖はゆっくりと、体全体に力を入れていく。

 指をそっと動かし。

 足に力を入れ、力強く床を踏みしめ。

 ゆっくりと双眸を開き、目の前にいる子供達を見据える。

「調子はいかがでしょうか、教祖様」

「――良い」

 その一人、自分のすぐ眼前に頭を垂れる少年へと教祖が一言呟く。どこか諦観にも似た声と瞳に射すくめられ、教祖の右腕たる少年、ラグエルは感激にうち震えた。ついに、ついにこの時が来た。とその心中で呟く。

「久しいな、我が子らよ」

 そして、ラグエルの後ろに立ち並ぶ面々を順繰りに見つめていく教祖。そんな彼に面々の反応はまったく異なっていた。

「本当に、長い別れでございました」

 未だ教祖の前に頭を垂れながら恭しく、朗々と歌い上げるように答えるラグエル。

「まぁ、長い時間だったからこそ、このあっという間の再会は感動できるんだけどなぁ」

 ケラケラと笑いながら〝ミイラ男〟。

「……おかえり、なさいませ」

 そしてその声に若干のはにかみを織り交ぜながら呟くルージュ。

「再びこうして貴殿に再会できることが出来て何よりでございます」

 目深に被った帽子を脱帽し、深々と一礼する〝帽子の男〟。

「お初にお目にかかりまして光栄でございます、教祖様」

 泰然と、真っ向からその目を見返す肌黒い女。

『イッヒッヒッヒッヒ。そォーれでェエエ、この後のォオオ、目的はァア?』

 下卑た笑いに忠誠を垣間見せるジャック。

 そんな彼らに、教祖は超然とした様子で紡ぐ。

「これより、我らは新世界創造のため、その土台を築こう。そのために、今は」

 その、途中で途切れた教祖の声にその意図を察したらしいラグエルが虚空へと声を投げる。

「ジャック、僕らを追ってきた客人の方はどうだい?」

『アァ。もうご到着だぜェエエエ。どォーする?』

 その問いに教祖は頷き、声を張り上げる。

「では、我らが家族たるに相応しいか試させてもらおう。ジャックよ、我が子よ、手加減は無用だ。子の愛を以って子を試し給え」

『りョーかいィイイ! イッヒッヒッヒッヒッ』

「では」

 そして教祖は振り返る。その背後に、彼の子たる五人の手品師が屹立する。

「我らは客人が無事、この試練を乗り越えることを祈ろう」

「「「「「はっ!」」」」」


***


 アルマ達は各個、自身の手品を利用して迫り来る銃弾をやりすごしていた。

「ニコル!」

「はい♪」

 まず、風を操るニコルが風の流れを操り、半分以上の弾道を逸らしていく。そして、

「「《マジック・アワー》!」」

「《メリー・クリスマス》!」

 逸らせなかった弾道をソールとマーニが爆弾シャボンで、リッカが突発的に引き起こす吹雪で蹴散らしていく。

「よしっ!」「私達大活躍っ!」

「ふふん♪ オチビちゃん達にしてはやるじゃない♪」

「あったり前でしょ」「つーか子ども扱いしないで」

「はいはい」

 楽しそうに笑うリッカと頬を膨らませ抗議するソールとマーニ。

 そして、そんな彼女達を現時点では何の戦力にもならないアルマ、サンデー、メアが周囲への警戒を怠る事無く神経を集中させる。

「なぁ」

「なんだ?」

「気付いたか? あれが何に変化してるか」

「……大体は」

 アルマとメアは互いに目の前で今尚変容し続ける城砦を見つめ、その完成形にあらかた検討をつけていた。

「「神殿、だな」」

 無数の尖塔に左右対称的なアーチ。ただ一つの入り口では十字架が掘り込まれてあるのだから、これは完璧にそうだろう。

「っ! ニコル!」

「二時方向! 今度はヤバいぞ! よけろ!」

 メアが指す先、なんらかの獣を象っていく金属が一際眩しい光を宿し始めた。

 それはもう何度目になるか分からないほどの強力な攻撃だった。

「またですか? では皆さん、舌を噛まないように、ね!」

 びゅおんっ!と急速な平行移動なんてもう慣れっこだ。アルマ達はスライドしていく光景に目を凝らしてその光の束を潜り抜けていく。かつてジャックが自らの腕から放ったこともある、レーザー砲だ。

「くっ……これじゃ、近付けない!」

 さすがのニコルも限界ギリギリの人数を浮遊させている上に、矢継ぎ早に放たれる弾道を潜り抜けているのだ、体力の消耗も著しいらしい。それでも顔に出さないのは騎士としてのプライドか。

「おれらの力も役に立つのはねーかな」

「せめて、この城を作っている奴が身を乗り出していればなんとかなったのだがな」

 皮肉交じりに笑うメア。そこでアルマは一つ、あることを思い出した。

「なぁ、メア。お前ってエリザベートの屋敷で会った時、変な剣を使ってなかったか? あれってなんだったんだ?」

「あれは存在しない剣さ」

「存在しない?」

「あぁ。《幻世界ワンダーランド》の応用でね、とても繊細な作業がいる。まず、自分と相手がそこに何かがある。と思い込まないと創れない、幻覚の剣さ」

「は? ちょっと待て。お前の手品ってまず相手の目を見ないと始まらないんだろう?」

「そうだ。そのために色々小細工はいるけどね。まぁ、今役に立たないのは変わらないけどね」

 それがどうした?と問うメアにアルマはしばし考え、

「いや、使えるかもしれないな」

「なに?」

「なぁ、それって用は、相手がそう思えばいいんだよな?」

「そうだ。ただ、人数が増えれば増えるほど困難になるぞ。まぁ、その分強度は強くなるんだがな」

「よし。――ニコル、リッカ! ちょっと話があるんだけど」

「なにかな?」

「ちゃっちゃとやってね、ちゃっちゃと」

「あぁ。手間は取らせねーよ。ただ、おれが言うとおりにして欲しいんだ」

 アルマの微笑にニコルとリッカはその作戦に耳を傾けるのだった。


***


『イーヒッヒッヒッ。こォオオれはァアア、愉快だァアァぜェエエ。連中はァア、ぐるぐるゥウ、踊ッてるゥウウ! イーヒッヒッヒッヒ』

 城砦中に響き渡るジャックの笑声に一同は外で起こっているであろう出来事を察した。

 察して、誰一人として口を開こうとはしない。

『さァ、踊れ踊れェエエ! もッとォオオ、もッと楽しませろォオオオ!』

 轟く銃声、ジジジジ、という何かを溜め込んでいる音、ガシャガシャガチャガチャと変容を続ける旋律に耳を済ませること数秒、突如としてその笑声が止まった。

「?」

 そのことに一同は疑問に表情を険しくした。そして沈黙を破った彼の声は。

『アアアアアアアアルゥウウウマァアアアアアアアア!』

 怒号、だった。そして、続く振動。

 何かが、起こっていた。


***


 彼は目の前に聳える城砦へと、見えるかどうかも分からずに指を三本立てて見せた。

 一応、迫り来る弾道からはニコル、リッカ、ソール&マーニのフォローによって届く事はなかった。

「お前らの敗因は三つ」

 そして、その弾雨にあってなお凛然と響く声で告げる。

「まず一つ。おれらからとっとと逃げなかったこと」

 そう言いながら指を一本、折りたたむ。銀色の髪を、ニコルの操る風がよぎっていく。

「二つ。反撃する割にはお前の攻撃はこっちに全然当たらないこと」

 実際、危ない状況には何度も出くわしたが、それはあえて言わないことにした。だってかっこ悪いじゃんか。

「そして三つ。おれらが力を合わせたらお前らなんて敵じゃねえ! リッカ!」

「はいは~~い♪ ――《メリー・クリスマス》!」

 呼ばれたリッカが袋を目一杯広げて手品を発動する。吹き荒れる怒涛の吹雪が城砦目掛けて吹き付ける。だが、まだだ。これだけじゃ相手の攻撃網は無力化出来ない。

「ニコル!」

「分かってるよ。――《英雄譚ベーオウルフ》」

 にこにこと笑いながらニコルが風を操る。風は吹雪を包み込み、凹凸をつけ、それに形を与えていく。

「はれ?」「おりょ」

「にゃ?」

「へ?」

 事情を聞かされていないソール、マーニ、サンデー、シンシア姫が目を点にし、

「うん、上出来じゃん♪」

「ふぅ。後は上手く行けばいいですね」

 作戦を決行に移したリッカ、ニコラウスが満足げに頷き、

「なっ!?」

 その光景を見つめていたジャックが、おもわず息を呑んだ。

「うーん、かっけぇ……」

「見惚れてる場合か?」

 嬉しげに笑うアルマと呆れ顔のメア。彼らの絶叫が天をつんざく。

「「アルマ!?」

「アルマだ~っ!」

「なんで、怪盗?」

「にしても、弱そう」

「うん、成功かな」

「怪盗、だと!?」

「おれってデカくてもかっこいい!」

「ほんと、君のマヌケ面がよく再現されている」

 そう。風に包まれた吹雪、それは得意げに笑みを浮かべる少年と同じ、吹雪で出来たアルマそのものだった。

「よしっ! 行けるだろ、メア!」

「当然。ボクを誰だと思ってる。――《幻世界》!」

 メアは言っていた。何かがある、と思わせることができないと彼の幻覚症状をきたす手品の応用はできない、と。

 そして、誰もが『アルマ』と目を見張った吹雪が実体を――目に見え、空気を貫く音が聞こえ、圧倒的な、確かな質量を伴っている幻覚――を生み出したのだ。

「よっしゃあ! 行ったれえええええええ!」

 アルマが楽しげに叫び、実体を得たアルマ像が大きいが故に不気味な笑みと化した表情で城砦へと突っ込んだ。そして、城砦は一際大きく揺れ、その防衛機構に損傷をきたした。


***


「ジャック!? どうした、何が起きている!?」

「おれ達の作戦勝ちってことさ」

「お前は――っ!?」

 しゅたん、と天井に《サジタリウス》で開けた穴を通って着地したアルマ達が[教団]メンバーへと対峙する。

『ぐ、ググググググ。怪盗ゥウウウウ!』

「ははは! こりゃ傑作だ!」

 怒り狂うジャックにさわがしく笑う〝ミイラ男〟。

「試練は、超えたか」

 それらを背に、彼らの父たる教祖が眼前の敵を見つめる。

「試練? またそれっぽいことを」

 はぁー、と呆れ顔のアルマにしかし教祖は何も言わない。代わりに、その後ろに構えるラグエルが怒鳴り声を上げた。

「貴様……っ! 教祖様の崇高なる考えを冒涜するな!」

「落ち着け、ラグエル、我が子よ」

「……はい」

 それでもアルマを睨みつける目は変わらず殺意を向け続けている。

「では、紹介しよう、我が子を」

 そう言って堂々と――本当に堂々と、教祖はアルマ達に背を向けた。

「教祖!」

 これを機と読んだニコルが自身の操る風で教祖目掛けて飛びかかる。――が。

「おおっと。背を向けた敵に剣を向けるのはお前ら[王室]の騎士道精神には背かないのかな?」

「くっ」

 同じく、自身の手品ちからで教祖を庇うべく前へ飛び出した〝ミイラ男〟が口の端を歪ませながら笑う。その直後、彼を飲み込まんと吹雪が吹き荒れる。

「おいおい嬢ちゃん。元気が溢れるのはいいことだが、あまり騒いでるとお仕置きするはめになっちゃうぜ?」

「〝ミイラ男〟!」

 リッカが鬼のような形相で〝ミイラ男〟を睨みつける。それを引き金に、双方の戦力の間に険悪な空気が流れる。

 一触即発。この後の行動がすべてを決める。

「〝ミイラ男〟、我が子よ、客人に失礼だぞ」

「おーおー。すみませんねぇ、教祖様」

 ふっと姿をかき消すや元の位置へと戻った〝ミイラ男〟に頷きかけながら教祖は続けた。

「さて、では紹介を続けさせて頂こう」

「……ふん」

 リッカが苛立たしさを隠そうともせず踵を返した。ニコルも軽率な真似だったかな、とシンシア姫の下へと戻った。

「では。さきほど客人らに失礼をした子は〝ミイラ男〟」

「さきほどは失礼しました、お客様」

 ケラケラと笑いながら〝ミイラ男〟が非礼を詫びる。そのふざけた調子にリッカが唇を噛むのを横目にしながらアルマは彼らの一挙手一投足に集中した。

「そしてこちらが、ルージュ」

「……どうも」

 ぺこり、と頭を下げたらしい教徒ルージュ。彼女には見事出し抜かれ、〝ミイラ男〟を逃してしまったアルマは苦笑を浮かべる。

「そして〝帽子の男〟」

「貴殿達は面識がある故、最低限の礼儀だけで済ませる非礼、お許しいただきたい」

 深々と一礼する〝帽子の男〟は相変わらずその帽子を脱ごうとはしない。

「こちらは―─」

「教祖様を煩わせる必要もなく。わたしはレパード。以後、お見知りおきを」

 泰然とした口調で答えた肌黒の女とは面識が無い。アルマはこの中では注意した方が良さそうだと気を引き締める。

「今はここにおってここにおらぬが、ジャック」

『イッヒッヒッヒッヒ』

 こちらは笑声だけがどこからともなく響いてくる。金属を操る彼なのだから、今はこの城砦そのものを彼と考えた方が妥当だろう。

「そして、こちらはラグエル」

「由来は天使の名だ。貴様達のような下賎な者達には軽々しく呼ばれたくはないから覚えておけ」

 フードが覗く整然とした美しい顔とは裏腹に毒舌を吐き散らすラグエル。そう言えばあの黒い手品はなんだったのかとアルマは今更ながらに危機感を感じた。

「そして我は教祖。他は何とも。好きに呼んでくれて構わない」

「じゃあおっさん」

「貴様!」

 アルマの物言いにすかさずラグエルが怒鳴り返す。そんな血気のある子を諌めながら教祖は訥々と、聖書を読むかのような口調で続けた。

「そして、客人達には提案がある」

「提案?」

 敵から告げられた「提案」という言葉に眉をしかめるアルマ達に教祖は素っ気無く言い放った。

「我らの家族にならないか? 共に、新世界を紡ぐために」

「はぁ? 家族? 新世界? なんじゃ、そりゃ」

 おもわず呆れてしまったアルマに教祖は笑みすらも浮かべて語った。その口調はまるで子供に御伽噺を聞かせる親のようだった。

「新世界。それは我ら家族――選ばれた者だけが生きることを許された、新しい世界。神が与えたもうた、我らだけの世界のことだ。そこではつまらん人間は存在せず、我ら選ばれた者だけが世界を語り継ぐ。素晴らしいとは思わないかね?」

「っ! ふざけないで!」

 即座にシンシア姫が怒鳴った。その白磁のような顔を朱に染めて教祖へと指を突きつける。

「わたし達はね、教祖を初めとした[教団]メンバーの身柄を拘束するためにここまで来たのよ! それを……それを、バカにしないで!」

「ただの人間が口を挟むでない」

「へぇー、お姫様をただの、呼ばわりですか? ボクも貴方の提案は受け入れられませんね。ここにいないダニーの言葉を借りるなら、反吐が出る、ですね」

 溺愛するシンシア姫をただの人間扱いされて機嫌を損ねたらしいニコルが周囲に風を唸らせながら見るものを萎縮させる笑みを浮かべる。

「あたしも嫌ね。そこにいる男と家族なんてキモい」

 声に怒気を含ませながらリッカは答える。その目は先程から〝ミイラ男〟に向けられて外れない。

「私達も」「お断りですよーだ!」

「ボクもやだにゃー」

 ソールとマーニが教祖に「「あっかんべーっ!」」をしながら答え、サンデーが帽子に隠れた耳をぴくぴくさせながら言う。

「お前達はぼくが誰か分かっていってるのか? この、決して人を殺さないを信条に掲げる怪盗ナイトメアに問う言葉じゃないな。自分達の罪を振り返りたまえよ。君はどうなんだい、アルマ」

 メアが怪盗の信条の下にアルマへと問い詰める。それにアルマは無言で頷いて答える。

「すー、はー」

 そして息を吸って吐いて、吸って吐いて、深呼吸を繰り返して放つべき言葉に備える。


「――そんなガキみたいなことに興味あるか、バ~~~~~~~~カっ!」


 その一声に[教団]が言葉を失った。

 それでもアルマは心底アホらしいといった顔で続けた。

「新世界? お前ら子供か? 選ばれた者だのただの人間だの。お前らだって人間だろーが」

「神に選ばれもしないただの下衆と一緒にするな!」

 すかさずラグエルが食ってかかるのにアルマは負けじと言い返した。

「下衆? お前らだって手品師になる前はその下衆なんじゃねーのかよ?」

「だから、それは僕達が選ばれたからであり」

「ただの人間じゃない? はぁー、アホらし。まじアホらしーぜ」

「なんだと」

 ラグエルが歯を食いしばり、何かを言い返そうとした、次の瞬間。

「くく。くくく。くはははははははははは!」

 それらの騒ぎを押しのけるかのように教祖が哄笑を響かせた。どこまでも愉快げに、楽しげに、その目が糸のように細められ――止む。それはまるで嵐の前のように。

「これは、これは面白い。そうか、そうか。では、諸君らは我らを――新世界の創造を――止めると言うのかね?」

「もちろん」

 教祖は目の涙を拭いながらアルマの姿を直視した。そしてまた思い出したように噴き出す。アルマとしてはあまり気分のいいものじゃなかった。

「くふ。くはは! よかろう。やってみたまえ。これは我らへ神が与えたもうた試練の一つと思うことにしよう」

「勝手にしてろよ」

「あぁ、あぁ。ではジャック、我が子よ。――払い給え」

『イーッヒッヒッヒ。こォーーじャなくちャなァアアアア! こりャァアア、面白くなッてきたぜェエエエエエエ! ――《キリングマシン》。イーヒッヒッヒッヒッヒ』

 ジャックのけたたましい嘲笑が響いたかと思ったら、アルマの周りで各々戦いの準備を整えていたメンバーが鋼鉄の波に飲み込まれていった。

「なっ! メア! サンデー!」

「リッカ!?」「お姫様と騎士まで!?」

 残されたのはアルマ、ソール、マーニの三人だけ。そして。

「ラグエル、我が子よ。彼らを排除したまえ。あぁ、これは面白い」

「分かりました、教祖様」

 そして、彼らの側も人数が二人に減っていた。

 〝ミイラ男〟、ルージュ、〝帽子の男〟、レパードもジャックの波に飲まれたのか。

 それはつまり、みんな別の場所で戦いを始める、ということなのだろうか。

「ストローを構えろ、お前ら」

「う、うん」「みんな、大丈夫かな?」

「大丈夫だろ、きっと」

 アルマは何の保障もなく断言するや自分の手品道具である鈴へと手を伸ばした。

 そして敵の出方を窺う。

 対する、教祖は傍に控える少年へと言葉を投げかけた。

「ラグエル、我が子よ。準備はよいな?」

「僕はいつでも。貴方様のためでしたら、いかなる試練も超えてみせましょう」

「よろしい。それでこそ我が子だ」

「ありがたきお言葉であります」

 そして彼らの言葉はそれで終わる。教祖の目がこちらへと向けられ、開戦が告げられる。

「さぁ、それでは紡ごうか。我らの美しき賛美とレクイエムを」

 そして、アルマ達と[教団]の全面対決が幕を上げた。



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