第十八夜:協力要請


「君達の協力を仰ぎたい。これは[王室]の――強いては国の平和を願う僕とお姫様のお願いだ」


「きょう、りょくだ?」

「そう。協力」

 うん。と頷くニコラウス。その傍らで抱き寄せられているシンシア姫がじろじろとこちらを見定めるように眺めているのが妙に気になる。

「協力って、見逃すってことか?」

 警戒しつつ問うアルマにニコルは「そっ」と即答した。こちらはダニエルと違って話が通じるようだが……

「誰が黒幕で誰が被害者か、分かってるのか?」

「こんなことになったらね。それに、見たんだよ[教団]がリーダー連れて逃げるとこ」

「教祖。もう最悪よ。あんな手品師が解放されるなんて」

「あー、えっと、そんなに最悪なのか、教祖」

 ぶつぶつと呟くシンシア姫におもわずそう尋ねたらものすんごい目で見られた。

「最悪なのかって? 知らないわよ、そんなの」

「は? 知らないって、おい」

「知らないのに最悪とは随分な偏見じゃないかな、真珠姫様」

 シンシア姫のあまりの言い様にメアが呆れたようにそう問い詰めると今度はシンシア姫を庇うようにニコルが答えた。

「分かってるのは、彼は過去にたった一晩で街を壊滅状態にしたってこと」

「ひっ」

「一晩で、だと!?」

 アルマとメアが驚愕の悲鳴を上げる。一体どんな手品でそんなことをやってのけるのか? とにかく、ダニエルの《Der Freischutz》よりも膨大な物だろう。

「だから協力してほしいのさ。犯罪者に協力してもらうなんてダニーが知ったらやばいからね、急ぐよ」

 びゅおっ!と風がアルマ達の体を覆っていく。これって、もしかして……

「ニコル、お前の手品なのか?」

「そうだけど?」

 簡単に答えるニコラウス。それに反してアルマの方が動揺する。

「いや、でもお前の手品って、風の刃」

「あぁ、手加減したらね」

「て、手加減って……」

 じゃあ、この風が本来の手品? でも、それだと腑に落ちないことがある。

「なんでおれが絵画を盗む時に出し惜しみしたんだよ」

 答えようによっては、ニコラウスは[王室]に完全に思い入れがあるわけじゃないことになる。真っ直ぐ尋ねるアルマにニコルは「ん?」としばし逡巡しながら

「だって本気出したら死んじゃうからね。ダニーはそういうとこ、容赦ないから」

「……そういうことかよ」

「そういうことだよ。今はそんなこと言ってる場合じゃないからね」

 得意げに笑うニコルはそういうと傍らに立ち尽くすシンシア姫をお姫様抱っこするとアルマ達に最後の確認を取った。

「それじゃ、飛ぶけどいいかな?」

「ちょっと待った!」

「アルマ、私とか軽いから飛びすぎちゃうかも! 抱っこ!」

「はぁ? なに言ってんだ、お前ら」

 ニコルに影響を受けたか、お姫様抱っこをされているシンシア姫を羨ましげに見ながらマーニとソールはアルマに訴えた。

「シャボン玉にでもしがみついてろよ」

「そんな!」

「殺生な!」

 ががん!とショックを受ける魔女達。と、くいくいと後ろから髪を引っ張られる。驚いて振り返れば尻尾をふりふり、サンデーがシンシア姫とアルマとを見比べて――って、まさかサンデーさん?

「あなたもですか?」

「うんっ! だってあれ面白かったもん!」

 あぁ、そう言えばジャック戦の時仕方なくお姫様抱っこして逃げたんだっけな。その後おれが逆お姫様抱っこされるなんて黒歴史が――げふん。

「あのな、そんなのだめに決まっ――なんだよしつこいな」

 とんとんと肩を突かれるのでたまらずそちらへ振り向けばそこにはメア。

 いや、まさかそれはないだろうメア。野郎同士とかは気持ち悪いぞ。

 おもわず生温い目でメアを見てしまったおれ達にメアは「違うぞ!?」とキレた。

「アルマ、お前のような性犯罪者はさっさと彼女らに抱きついて飛べ」

「なんでお前までこいつらの味方なんだよ」

「あー、それは、その、な。そのー」

 そして視線はチラチラとサンデーのスカートへ。見えるか見えないかギリギリの丈は風が吹いたら中身を盛大にお披露目するだろうな……ってそういうことか。

「お前、ほんっと苦手なのな」

「違う! 女のスカートがめくれるなど、あってはいけんことだろう! そこにいる双子はアルマ、君に抱きつけば十分だろうが、そこの娘は抑えないとダメだろう。なぁ?」

「なぁって言われてもなぁ」

 まぁ、確かにメアの言い分は正しいかもしれないが……そのために女の子を抱き上げるのもどうかと思うけど。

「急いでくれないかな、みんな。ダニーが出てきた」

「「「「はい?」」」」

 アルマ、マーニ&ソール、サンデーが釣られて振り向く先、そこには確かにメラメラと怒りに狂ったダニエルの姿。つーかそんなことを思ってる今も爆発と凝縮を繰り返してるが……おいおい、あれで《Der Freischutz》をぶっ放すとか言うんじゃないよな?

「じゃあ、出るよ」

「にゃん!」

「うー」「むー」

 ぴょんっと飛び込んできたサンデーをつい反射的に抱き上げてしまったところに今度は両側から魔女達に抱きつかれてしまった。

「じゃあ、アタシもよろしく、おにーさん」

「や、やめろ! 女がそう容易く男に抱きつくのは――ぐはぁ!?」

 背後からはメアがリッカに抱きつかれている気配が。

 うらやまし――じゃなくて哀れな奴だ。女性への免疫力がゼロなのにあんな女に抱きつかれて。そんなことを思っているとメンバーを取り巻く風が一際強く吹いたかと思うや――

「は?」

「ひ?」「ふ?」

「にゃ?」

 ――あっという間に上空へと飛ばされてしまった。その眼下を、ダニエルの《Der Freischutz》が唸るのが見える。

「本当は、この後ゆっくり下降していきたいんだけど――逃げるのが優先だから、みんな舌をかまないようにね」

 シンシア姫を抱きしめたままニコルがへらへらと笑う。眼下では足元を爆発させこちらへと上昇してくるダニエルの姿。確かに、捕まったらヤバい。

「ってか、逃げるのか!? なんかあいつ、はえーぞ!」

 ぐんぐんと近付いてくるダニエルに戦々恐々とするアルマ達にニコルは問題なし。とでも言いたげに笑った。

「パワーじゃダニーに勝てないけど、速度ならボクの方が上だからね♪」

 本日初めの絶叫。気が付いたら視界が物凄い勢いで通り過ぎていた。

 まるでジェットコースター。いや、それ以上の速度なんだから……なんだろうな?

「き、気持ち悪っ!」

 たまらず下を向いたらサンデーに叩かれた。

「み、見にゃいで!」

「でっ!?」

 サンデーはアルマに抱きしめられた格好で自分の体を抱きしめていた。左手で帽子を、右手で必死にスカートを押さえようとしている。本人もスカートがめくれていたのにさっき気付いたらしい。今は普通に下を向いていても叩かれない。

「あー、大丈夫か?」

「す、スカート……」

 もじもじと体を動かすサンデー。いや、確かにスカートすごいですけどね。

「アルマ、もっとぎゅっとして」

「はい?」

「じゃないと、スカート」

「あー、はいはい」

 ぎゅーね、ぎゅー。と強く抱きしめれば今度は両側から横腹をど突かれた。

「げふっ!?」

「アルマのセクハラー」

「なにデレデレしてんのよー」

「で、デレてねーよ」

 確かに傍目から見たらすごい絵面だろうけどな、と内心でぼやきながらアルマは弁解する。しかし、それがよけい魔女の機嫌を損ねたのか、マーニ達はふてくされた様子で腕をまさぐり始めた。

「なぁ、何やってるんだ、お前ら」

「ほんとにデレてないかチェック」

「やましいことがないなら大丈夫でしょ?」

 そんなことを言いながら魔女達の手は迷いなくズボンに――って。

「やめろ! ほんとやめろ! お前ら一応女だろ!?」

「「一応!?」」

「ちょっ、ほんと、止めろ――――――――――――――っ!」


***


 ダニエルを無事に巻く事が出来たらしいアルマ達は速度を緩め、[教団]の後を追っていた。

「にしても、便利だよな、その仮面」

「この『聖女の微笑』は[王室]の宝よ。盗むようなら今すぐニコルに落としてもらうから」

「いや、別に盗まないし」

 シンシア姫が胸元から取り出していた(もちろん目を塞ぎましたとも。なのになんでおれはその上で目潰しされたんだ)仮面は悪意ある存在を察知するのだという。本来は暗殺を未然に塞ぐ為の道具で、祭事でしか使用される事はないらしい。

「とりあえず、相手はアーケストラテスに逃げているわ」

「アーケストラテス?」

 アーケストラテスと言えば、アルマが〝ミイラ男〟と戦った街だったはずだ。あの、鉄塔が多くて……そういや、あの破壊された鉄塔の残骸とかどうなったんだろうな。

「待った。アーケストラテス?」

「えぇ。重工業の街よ。ついこの間老朽が原因で鉄塔群が崩壊したっていうのに……あんなところに逃げてどうするつもりかしら」

「いや、十分すぎると思うぜ」

 アーケストラテス。重工業の街。鉄塔。鉄。[教団]。ジャック。これらが示すのはただ一つ。

「あいつら、本格的に行動する気だぞ」

「どういうことかしら? 私達にも分かるように話なさい。命令よ」

 ニコルに甘く他に厳しく。そんな感じのシンシア姫にアルマは自分の考えたことを説明しだした。

「―――っと、こんな感じかな。あの街、具体的にどんな機能があるんだ?」

「待って。仮にそれが本当だとしたら大変よ。いや、大変なんてものじゃないわ」

「ですね、お姫様。ボクの記憶が正しければ、あの街は核兵器とかを扱ってますよね、お姫様。なにより、あそこは殲滅兵器を作り上げた街ですからね」

「殲滅兵器……まさか、異端狩り?」

「そうですよ」

 話に加わってきたメアが深刻な表情を浮かべる。しかもメアだけでなく、話を聞いていた面々も。

 異端狩り。正式名称は『異端狩りの王』。

 昔、第一級犯罪者を処刑するために使役し、二つの都を地図上から葬った殲滅兵器。

「あれを創った街、かー。もしかして同じようなものを創る気か?」

「でもなんで?」

 マーニがしがみついたまま聞いてくるが、そんなの答えられない。そんな問いに答えたのはシンシア姫だった。

「[教団]はカルト集団よ? 目的なんて決まってる。国家への反駁。教祖を長年捕らえていたのだから当然と言えば当然よ」

「じゃあ、急いだ方がいいんじゃない?」

 リッカがのほほんと当面の目的を口にする。それにアルマは頷きかけ――いきなり鈴を打ち鳴らした。

蟹座の軌跡キャンサー=エトワール!」

 銀色の騎士剣を打ち振るう。瞬間、ガギィイイン!と鈍い音。それは物凄い速度で落ちて――いや、上がっていく!?


「ハロー、エブリワン」


「「「「「なっ!?」」」」」

 アルマ達の上空に一人の男が浮かんでいた。僧服に黒塗りの十字架。両手足首には鎖付きの鉄球をぶら下げている。顔は見えないが、その服装で何者かはいやでも分かる。

「[教団]!? ニコル!」

「ボクじゃないですね。彼、自分の力で浮いていますよ」

「イエス。マイネームイズ、アイザック。マイ手品道具は――これ」

 ぽんぽん。と鉄球をはたくアイザック。そしておもむろに鉄球を下へと落とす。それが丁度アルマの目の前に落ちた所で、

「――《モーニングスター》」

「うわっ!?」

 直後、落下する鉄球がアルマへと迫ってきた。それを慌てて《キャンサー》で受け止める。しかし勢いを殺しきれず、吹き飛ばされる。

「う、おおおおおおおお!?」

 さらにニコルの手品範囲外に出たのか、体は真っ先に地面へと落ちていく。

「ニコル!」

「分かっていますよ、お姫様♪」

 直後、一陣の風が吹き荒び、アルマの体を浮き上がらせる。

「アハッ! これはしぶとそうですね。まるでコックローチ! 往生際悪いですよ」

「悪かったな往生際悪くて! つーか絶対ぶっ飛ばす!」

「それには賛成だ、性犯罪者。ぼくも加勢する」

「あたしも♪」

「私達じゃ」「邪魔になりそうだし」

「見学かにゃ~」

 みんなが眼前の敵を睨みつけ、今まさに飛びかかろうとした直後、へらへらとニコルが重大なことを告白した。

「あの、さ。こんなに大人数を浮かせたことないからさ、援護出来るのは一人までなんだよね。じゃないと全員落ちるかも」

「ま、マジか」

「はい♪」

 アイザックに挑めるのは一人だけ。戦うつもりでいたアルマ、メア、リッカは互いに互いの顔を見つめあう。最初に抜けたのはリッカだ。

「あたし、女の子だし一抜け」

「……メア」

「ふん。勝手にしろ。第一、《幻世界ワンダーランド》は離れていても使える」

「じゃあ、そういうことで。――ニコル!」

「分かりました。では、頑張って!」

「うわっ!」

 直後、莫大な風力でロケットのようにアイザック目掛けてぶっ放されるアルマ。しかし《キャンサー》の切れ味をナマクラにして殺害だけは逃れようとする。

 だが、アイザックは音速越えの一撃を軽々と上空へとかわす。

「ヒュー。これは驚きですね。ですが」

 鉄球をアルマ目掛けて投げつける。直後、それは横向きに信じられない速度で追ってきた。

「なっ」

「ミーも負けてはいられません」

 さらに片手の鉄球をアルマへと振り下ろしてきた。それはもろに腹に命中しアルマにダメージを与える。

「がっは!」

「ジ・エンド」

 そして今度は蹴り。足首に取り付けた枷に繋がった鉄球でアルマの頭を狙ってくる。それを今度は《キャンサー》で弾き返した。切れ味をマックスにした斬撃によって鉄球は両断され、地面へと落ちていった。

「へー。ユーのそのブレード、切れ味を自在にチェンジできると見ました。しかし、それじゃユーに不公平。なのでミーのマジックもお教えいたしましょう」

「へぇ。随分余裕だな」

「ですね。なにせ、ユーは誇り高き[教団]メンバーですので」

 会話を交わしながらもアルマは《キャンサー》を一閃。しかしアイザックは上空へ飛び退くことで鉄球の両断を逃れた。

「ミーのマジック《モーニングスター》はミーの手品道具、鉄球を束縛する重力の方向をチェンジするマジックなのです」

「重力の影響を、変える?」

「そーです。こんな感じに、ね」

 直後、アイザックの姿が消える。いや、違った。地面に向かって落ちたのだ。そしてそのまま横に落ち、再びこちらへと落ちてきた。

「イヤァアアアアアアッハァアアアアア!」

「っ!」

 鉄球を先頭にしたアイザック。その鉄球を迎え撃つべく一閃。しかしそれは何もない空間を切り裂いただけ。

「こちらですよ」

 アイザックは右足の鉄球を横に落として回避したらしい。そのまま左手の鉄球をこちらへと落としてくる。

「がふっ!」

 肩に当たった。嫌な音が響き渡る。しかしアイザックの攻撃はそこで終わらない。上下左右、前後、三百六十度全方向へとランダムに落ちて行ってはとんでもない速度で襲い掛かってくるのだ。

「「アルマ!」」

 それを動く事の出来ない魔女達が不安げに見守るが、アルマは口から血を流したまま笑った。

「? ユーは何がおかしいのでしょう?」

「はっ。おかしいね。おかしすぎるぜ」

 そう言ってアルマは体勢を立て直すと指を三本立てた。沈みかけの太陽が彼の銀髪を照らし、緋色の瞳を妖しげに輝かせる。

「お前の敗因は三つ」

「ホワット?」

 突然の勝利宣言にアイザックが不思議そうに首を傾げる。その彼の目の前でアルマは指を一本折りたたんだ。

「まず一つ。お前の手品道具はなんとか壊せること」

「まぁ、ミーの手品道具は確かに簡単にブレイクできますが? ユーはミーの速度に追いつけていないじゃないですか」

「まぁ、な」

 アイザックの指摘に頷きながらもアルマの笑みは崩れない。

「二つ。お前はおれの本当の強さを知らないこと」

「っ!」

 さらに指を畳んだ直後、アルマは銀色の騎士剣を消した。騎士剣の残骸が銀色の霧となってアルマの体を包み込む。そして霧の中から響く鈴の音。

「させるものか!」

 「《モーニングスター》!」と叫びながらアイザックがアルマ目掛けて落ちてくる。

 そしてそれはあっという間に霧を突き抜け、中にいるアルマを貫くために飛来するが。

「――そして三つ。おれの強さって言うのは、おれの手品のことじゃない」

「なっ!? た、て?」

 アイザックの鉄球が衝突したのは真円を描く円盾だった。その手品の正体はあらゆる概念を逆転させる天秤座の軌跡――《リブラ》。

「ぶっとべええええええええ!」

「っ!?」

 アルマが逆転させた概念、それは。

「がっ!?」

 こちらに向かって落ちてきた鉄球の、重力。逆向きの重力を与えられた鉄球は後方へと凄まじい速度で落ちていく。そして、落ちていくその先に待ち構えているのは。

「鉄球なら、ギリ凍らせちゃえば壊せるわねん♪ ――《メリー・クリスマス》!」

 リッカ達。リッカはアルマの目的を察知したらしく、すでに自身の手品を解き放っていた。すさまじい寒風と雪がアイザックを包み込む。

「なっ。ブリザード?」

 マイナス越えの吹雪がアイザックを包み、彼の手品道具である鉄球を破壊した。

「おっと。危ない」

 そして地上へと落下していくアイザックをニコルが風で受け止める。

「さて、どうしましょうか、お姫様」

「放っておいて大丈夫でしょうね。彼を地面に降ろしたら早く行くわよ。手遅れになる前に」

「はい」

 シンシア姫の指示通りにアイザックを地面に降ろすと、一向は先へと急いだ。


***


「それが、ユーの本当の強さ、ですか」

 そして地上に置き去りにされてしまったアイザックは力なく呟いた。ほんの一瞬とはいえ鉄を破壊するほどのマイナスの世界に包まれたのだ。体が動かない。

「ミー達には、無かった強さですね」

 呟きながらアイザックは考える。果たして、自分達[教団]には彼らのような強さはあっただろうか、と。

 司教達は強い。最強の防御力を誇るジャック司教然り、最強の攻撃力を誇る〝ミイラ男〟然り。そして、最強の異質足る教祖様然り。

「でも」

 アイザックは思う。彼らにはさすがの教祖様も勝てないのでは、と。そう思えるほどに、彼らには魅せられた。

「もし、また会うことがあれば」

 恐らく、二度と会うことはないだろうが。――彼らが後を追っている[教団]の猛者達は自分よりもはるかに強いのだ――しかし、それでも会うことがあれば。

「今度は、彼らに教わりたいものですね」

 本当の強さ、というやつを。


***


 そしてアルマ達はアーケストラテスへとたどり着く。しかし、そこで目の当たりにしたのは。

「間に合わなかった、か」

「うわ、すご」「これが、あの街?」

「わー、ガチャガチャ。へ~~んしんっ!」

 目をキラキラと輝かせるサンデー。彼らの視線の先、重工業の街アーケストラテスはサンデーの言うとおり、変形していた。

 ある部位には大砲を。

 ある部位は要塞のように強固に。

 そのくせ出入り口は一つだけ。

「相当舐めてんだろ、おい」

 アルマが舌を打つ。たった一つの出入り口。それは無数の砲身が無骨なまでに突き出ていた。

「とにかく、覚悟しなさいよ」

 シンシア姫がメンバーを一喝する。そして視線の先、こちらの存在に気付いたらしい城砦から無数の光が生まれた。

「それじゃ、行きますよ!」

 ニコルが告げ、今まで以上の速度で城砦へと近付いた。目指すはただ一つの出入り口。


 そして彼らの前面対決は始まった。



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