第十三夜:アルマと名探偵
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ロココ調のこの建物はあのウォモ・ウニヴェレサーレ王が自ら設計したと言われる由緒正しき芸術建築だ。
「ほへぇー、この絵、滅茶苦茶笑えるな」
「「はいはい」」
自分が出した予告状で昼間から衛兵の往来が激しい中でアルマはのんきに芸術鑑賞を行っていた。魔女達は暇そうに装飾品を眺め、サンデーは魚の描かれた絵画から目を離せない様子。とても衛兵達に対して緊張感がない。
「さて、今度はこっちの方に行くか」
観光客をさり気なく装いながらアルマは今夜のターゲットである『鋼鉄の戦死者』を下調べに向かう。
この『鋼鉄の戦死者』という宝はネッカーツィンメルンという、海外のある街で英雄と歌われた騎士、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲンが生涯使用し続けてきた義手といわれている。
「ねぇ、なんか人だかり出来てるわよ?」
「ありゃ? マジだ」
アルマ達の視線の先、複数人の衛兵が見物客を押さえつけている。当然、アルマが盗もうとしている『鋼鉄の戦死者』を警備してるのだろうと思ったが違った。見物客――特に女子供が集まっているのはその反対側の何もない壁に群がっていた。いや、正確にはそこに背を預けている二人に、か。
「すみません、ワタシ達は今警備中なのでサインは」
「いいじゃないかポワロ、サインぐらい。はいはい、それじゃ、お名前は?」
「げっ」
まさか、まさかまさか!
「どうしたの、アルマ?」
いきなり頭を抱えだしたアルマに驚いたようにマーニが問いかけてくる。あぁ、最悪だ。最悪すぎる。
「くそ、最悪だ。最悪すぎる」
「な、なにが最悪なのよ?」
首を傾げるマーニ。こいつ、もしかして知らないのか? いや、おれも本人を見るのは初めてだけど……
「今サインしてるのはジョヴァンニ王子。んで、インバネス姿のはポワロ。騎士だ」
「き、騎士!?」
その事実にマーニが叫んだ。突如の絶叫に大勢の視線が一気に集まる。
「おや。ワタシに何か用ですか、お嬢さん?」
ちらっとジョヴァンニ王子に目配せし、なんらかの了承を得たらしいポワロが歩み寄ってくる。キセルを指に挟み、マーニの前で鹿撃ち帽を脱ぎ優雅に一礼。そして小首を傾げるという子供っぽい動作をしながらマーニを見つめる。それだけでマーニはあたふたとしだす。
「すみませんこいつ、騎士を間近に見るの初めてなんで」
視線で「ソール、サンデーが余計なことを言わないようにしとけ」と合図してぺらぺら話す。マーニが不服そうに頬を膨らませていたが無視だ無視。
「それで、なんで騎士なんかが美術館に?」
「それは……」
ちらり、とジョヴァンニ王子に話すべきか尋ねようとしたらしいがあいにく王子は女の子達にサインをするのに忙しいらしく気付いていなかった。ポワロはしばし黙考すると「ふむ」と頷いてから
「まぁ、隠しても意味はありませんか。実は、怪盗と名乗る者から予告状が来たんです」
スッと懐から予告状を取り出しひらひらさせるポワロ。
「怪盗? それでこんな厳重な警備なのか」
「えぇ。まぁ、ワタシは大袈裟だと思うんですけどね」
「だな。これは大袈裟だろって感じ」
「えぇ、ほんと。……おっと、それじゃワタシは仕事があるので。――ゆっくり見て行って下さいね」
意味深に微笑みながらポワロは踵を返してジョヴァンニ王子の元へと戻っていった。
幸い、気付かれてはいないようだし、この場から離れることにする。
「じゃあ、行くか」
「う、うん……」「オッケー♪」「にゃう?」
***
「(どうだったね、ポワロ?)」
ポワロが警護に着くや否やジョヴァンニ王子は腹話術のような喋り方でポワロにのみ言葉を投げかけた。それに対しポワロも独特の話術で答える。
「(はい、ジョヴァンニ様の言うように、黒でしょう)」
先程この場から離れて言った四人組についてポワロが報告を続ける間、ジョヴァンニ王子は女性達に笑顔を振り撒きながら耳を澄ましていた。
「(あの少年、恐らくアルマゲストでしょう。シンシア様やダニエル殿の証言とも一致しますし。――確保しますか?)」
「(いや、大丈夫だろう)」
そう答えながら浮かべた笑顔は女性への愛想か、それとも怪盗への余裕の表れか、ジョヴァンニ王子は自信有りげに断言した。
「(怪盗は予告時間に来るのだろう? じゃあ大丈夫だ。それに、万が一守るべき国民に被害が及ぶようでは指導者失格だしね)」
「(そうですか)」
ジョヴァンニ王子が言うのであれば騎士たる自分は従うだけだ。ポワロは「ふぅ」とため息を吐くと壁により掛かるのだった。
***
そして予告時間。アルマは《ジェミニ》で、サンデー達は魔女の《メタモルシャボン》で衛兵達に変装していた。すれ違う衛兵達は誰も気付かない。
「この調子で行けば簡単に盗めそうだな」
「でも、騎士が守ってるんじゃない?」「戦力集中とかね」「あぅ、さっきのさかにゃ」
すたすたと進んで行くアルマ達。見取り図の通りにいけば次の角を曲がればもう展示場だ。アルマ達は警戒態勢を整えながらも角を曲がった。そして、一同騒然。
「は?」
「「ふぇ?」」
「にゃ?」
目の前には壁が広がっていた。騎士の手品による幻という線も考えてアルマはぺたぺたと触っていたが、次の瞬間、がくん、という衝撃と共に床が上昇を始めた。
「御機嫌よう、アルマゲスト様」
「……ポワロ」
たどり着いたのは二階。そこにはジョヴァンニ王子とポワロが待ち構えていた。
「あぁ、心配ご無用。衛兵は外の警備に当たらせています。――ワタシの手品では邪魔でしたので」
「やっぱ手品なのか」
てっきりいつぞやのカラクリかと思っていたけどな。そう付け足せば「ああ、『メデューサの瞳』のことですか」とほくそ笑みながらポワロは続けた。
「ワタシの手品は《灰色の脳細胞》。手品道具、なんだと思います?」
「さぁな」
「建造物だよ、怪盗君。そしてようこそ、可憐なお嬢様方」
くいっと一礼しながら答えたのはジョヴァンニ王子。熱っぽい視線を女性陣に注ぎながらポワロの手品について語り出す。
「彼の
「まぁ、ウォモ・ウニヴェレサーレ王が作り上げたこの美術館を可変させるのは気が進まないのですが」
ついっと手近の柱をいとおしげに撫でるポワロ。その瞬間、浮遊感。
「え」「きゃっ」「いっ」「にゃっ」
「「「「「ひいにゃああああ~~~~~~~~~~~~~~~~」」」」
落下していく寸前、アルマが見たものはポワロの屈託ない笑顔。
「それでは、牢獄でまた会いましょう。……お手並み、拝見です」
***
「ソール! マーニ! サンデー!」
気付けばアルマは魚を描いた絵画の前にいた。しかし、他の三人の姿はない。見事に分断されてしまったらしい。
「建物が自在に化けるんじゃ、見取り図も役に立たねーな」
恐らく、ポワロは自分の意思で自在に変化させられる物体で自分達の位置を把握しているのだろう。この建物全体が手品の影響を受けているのだから。
「まぁ、別に問題はないけどな。――
銀色の弓矢を生み出すやいなや撃ち放つ。壁は呆気なく消えるが、予想外のことが起きた。
「ちっ。再生してるな」
アルマの言うとおり、穴は徐々に再生して言った。これも恐らく手品の影響なのか。
「はぁ、こりゃ思ったよりめんどいな」
ため息を吐きながらアルマは再生しつつある穴を潜っていった。
***
「はっ!」「ここはっ!?」
「にゃうっ」
一体どれくらいの間寝ていたのかな、私達は長い廊下に放置されていた。
「なんっていうか、戦力外、みたいな感じね」
ソールも起き上がると「よっと」と腰掛ける気配。それを端で確かめながら私はもう一人、こんな時にも猫耳帽を決して脱ごうとしないホンモノの猫娘に呆れてしまった。
「サンデー、なにやってるのよ?」
「にゃう?」
「これは魚の骨じゃないわよ」
「? それ、ボクじゃないよ?」
「へ? じゃあ、誰? ソール?」
「んなわけないでしょー? 私、犬じゃないし……ってもうっ! あの騎士、またなんかやってる!?」
うがーっと突然起き出すソール。だが、そちらに視線を向けたサンデーが「わぁ!」となにやら目を輝かせて――すっっごく嫌な予感。
「っ! そ、ソール」
「なによ? どーせ戦力外なんだし、まったりしてても大丈夫でしょ」
「そ、そうじゃなくて、後ろ」
「すっごい! ねぇねぇ、そのおっきいの、どうやって動いてるのかな!?」
「はい?」
サンデーの興味はいつもおかしいものに向けられているのは周知の事実だ。そして、そのサンデーが興味を持つ大きいのというのはつまり、さっきの骨からもうすうす分かってたけどさー。
「ティラノ!?」「に、逃げるわよ!」
「えー?」
「えー?じゃない!」
ぴこぴこと動いていた尻尾を掴んでサンデーを引き摺っていく。なんだか「うにゃっ!? ま、マーニ、そこ、だめぇ、おかしくなるよぉ!」とか聞こえてきた気がするけど今は無視! じゃないと食われる!
「爆弾シャボンは効きそう?」「やっても再生するんじゃない?」
ドスドスと迫り来る化石から必死に逃げながら言葉を交わす。とにかく、アルマならばなんとかしてくれるかもしれない。けど、果たして会えるのだろうか?
「って、行き止まり!?」
「じゃあ壁をぶっ壊すわよ!?」
「ぶっこわしーっ!」
にゃはは!と恨めしいほどに楽しそうなサンデーの言葉を合図に私達は壁に向かって吐ける限りの爆弾シャボンを吹き付けていった。
***
「へぇ……」
「どうしたね、ポワロ。まさかお嬢さん方は初めてか確かめていたのではないだろうね? 確かにあの猫耳帽の娘は僕の好みだがね、そういうのは自分で確かめるよ」
「いや、そうじゃないですけど……そのお嬢さん方、案外出来るみたいですよ」
「出来る? まさか、そんな……彼女達、あの日なのかい?」
「……」
「いや、冗談だよ、冗談。くれぐれも他言しないようにね、ポワロ。僕の人間性が疑われる。だろ?」
真面目な顔で冗談と言われても。そう思いながらもポワロはその言葉を無視して自分の手品の欠点を偶然にか見破ったらしい。
「まぁ、外には警備員がいますし、問題はないでしょうが……そろそろ片を付けないといけませんかね」
***
アルマは突如目の前に姿を現したティラノに正直眩暈がしてしまった。なんというか、サンデーが喜びそうな光景だ。
「《サジタリウス》は効かないし、もう、逃げ場はないしな」
詰まれた。目の前にはティラノの化石、左右の通路はすでに塞がれ、背後には笑みを浮かべた女性の肖像画。今はその微笑が嘲笑に見えるから不思議だ。
『さぁ、大人しく降伏したまえ、アルマゲスト』
「いぎゃああああ!?」
すると女性の肖像画が突然青年の声で喋りだしたもんだから叫ばない人間はいない。
ああそうだ。びびったのは手品のせいであって決しておれがチキンな訳じゃない。
『君に逃げ場はない。それに、君にティラノを打破する手段はないのだろう?』
「ちっ。どこまでもいけ好かない騎士だな」
『騎士、という言葉よりもワタシは探偵、という言葉の方が好きなのですがね』
「服装から言ってホームズか」
『えぇ。子供の頃から好きだったんです。それに、ホームズは――』
突如化石が動き出す。すっかり絵画の声に引き寄せられていたアルマは手品の発動に間に合わない――っ!
『――どんな犯罪者をも逃がしませんからね!』
そしてガチンッ!とティラノの牙が閉じられる。そしてアルマの血が壁を――濡らさなかった。
「へ?」
「ふっふーん」「いいとこ取りの魔女様登場!」
「プラスにゃんこー。にゃぁー」
しゃたたっとティラノの顔面に飛び降り、その口を閉じさせた三人がアルマの眼前に姿を現した。また変なポーズと台詞を言わされてるサンデーだが今はもう何も言わない事にする。
「お前ら、無事だったのか!?」
「可愛い女の子は死なないのよ?」「でもあっち系の約束してたら絶対死んじゃうけどね」
「あっち系?」
こくん、と首を傾げるサンデー。きっとそれは知らなくていいことだと思う。
「でも、どうやってここまで? って、上、からだよな」
天井を見上げるとそこには再生しつつある天窓の姿。なるほど、外から飛び降りてきたのか。
「アルマっ!」
「おぉ!? な、なんだ?」
突然大声を出すマーニ。興奮気味のその肩を押さえて距離を取る。マーニは珍しいものを見つけた子供みたいなテンションで上を指差す。
「これ、外に通じてる壁が動いてない!」
「なんかね、建物の形状そのものは変えられないみたい」
魔女達は次々に自分達が確かめたことを喋りだした。それを全部聞き、理解したアルマは肖像画から会話を聞いていたであろうポワロに勝ち誇る。
「どうやら、お前の《灰色の脳細胞》は内部構造を操るだけみたいだな。それならおれも勝ち目がある。――それじゃ、また後で!」
背後の壁に《サジタリウス》で穴を空けてアルマは外へ飛び出した。もう方法は決めてある。あとは材料を見つけるだけだ。
***
「どうやら、バレたみたいだね、ポワロ」
「えぇ。やはり、甘かった、ということでしょうか」
紅茶を傾けるジャヴァンニ王子に深々と頭を下げるポワロ。
「構わないよ。それより今は守り抜くことが重要だ。任せてもいいかい?」
「えぇ。あと、外の警備員にも連絡を取ります」
懐から通信機を取り出しながらポワロは美術館中の甲冑や化石の展示物で防衛ラインを築き上げる。念のためにドアの先に壁を作りダミーも整えていく。
「? おかしいですね。外に連絡がつきません」
「何故だろうね?」
不思議そうに窓の外を覗き込もうとしたジョヴァンニ王子。そして、ある物体に気付いたポワロがそれを制する。
「伏せてください!」
すかさず部屋に飾られてる甲冑を向かわせジョヴァンニ王子を突き飛ばす。
「がはっごほっ。ど、どうしたんだい、ポワロ? 君らしくな」
「――まさか気付かれるとは。どうやら、騎士というのは伊達でないらしい」
窓を引き裂いて飛びこんできたのは無数のピアノ線。そして、帽子を目深に被った男。
「いったい何者です!?」
ジョヴァンニ王子を背に庇いながらポワロは変質させた床や天井から男を閉じ込める檻を作り上げる。――が。
「――それが貴様の落ち度だ。某は手品師だ」
絶対に届くはずのない声が、ポワロの耳に囁いてきた。だが、そのトリックをポワロは的確に理解する。手首の返しで生み出した刃で自分の耳元に伸びていたピアノ線を断ち切る。
「これが、貴方の道具ですか」
「勿論。某は〝帽子の男〟と呼ばれている。殺し屋だ。まぁ、今では[教団]の教徒、と答えた方が正しいのかもしれんがな」
「[教団]!?」
その言葉にジョヴァンニ王子が反応した。その声にわずかに見える口元が歪んだと思った、次の瞬間。
「《ネットサーフィン》」
「っ! ジョヴァンニさ」
異変に気付いたポワロが王子を守ろうと壁を形成するが、〝帽子の男〟の方がわずかに早かった。ドバァッ!と膨れ上がったピアノ線が数本、防衛ラインを超えて滑り込んできた。それはまるで蜘蛛の巣のようにポワロやジョヴァンニ王子の体に巻きつく。
「それじゃ、眠りにつくがいい、子らよ」
***
窓ガラスが破砕する音が聞こえてきたが、サンデーは上手くいっただろうか?
「まぁ、おれ達もちゃっちゃと終わらせて逃げようぜ」
サンデーは囮役をやってもらうことにした。窓を割って侵入させ、ポワロの注意を引く。
そして、同じように窓を割っての侵入を警戒させて、実は――
「いっくぜぇええええええええええええ!」
浮遊シャボンから飛び降りる。建物は二階建てだから問題はないはずだ。
「《サジタリウス》!」
頃合いを見計らって弓矢を放つ。そしてその穴から侵入。すかさず矢を二本つがえ、一本はすぐ目の前の床に、残りは背後で再生するであろう天井を食い止めるために放つ。
そして、落ちていく先には――
「『鋼鉄の戦死者』、いっただき!」
――展示されていた『鋼鉄の戦死者』。アルマはそれをしっかりと握り締めると来たるべき衝撃を待ち構える。
「き・い・たぁぁあああああ!」
ぐんっと逆向きに力が加わる。その理由はアルマの銅に巻きつけられたもの。
弾力性のある布を巻きつけていたのだ。そのままアルマはバンジージャンプの要領で魔女達の待つ浮遊シャボンへと帰還する。
「よっし。お宝ゲット」
「あ、アルマ!」
「んだよ? 言いたいことがあるなら後。サンデーを助けに行くぞ」
サンデーにはあの魚の絵の前にいるようにと言ってあるが、またあの化石を使うとも限らない。助けるならなるべく早い方が──
「そうなんだけど、おかしいわよ!?」
「おかしいって、なにが?」
「再生してないの!」
「はぁ?」
言われてアルマも初めて異変に気が付いた。アルマがあけた穴は再生する兆しがない。
それどころか、徐々に崩壊しつつある。
「なにがあったんだ?」
「そ、それよりサンデーが!」「これ、ヤバいんじゃないの!?」
「……」
「「アルマ!」」
今にも泣き出しそうな表情で呼びかけてくる二人だが……今のアルマに打つ手はなかった。徐々に崩壊しつつある美術館の異変に警備員も気付いたか、慌ててアルマ達と美術館を交互に指差す。
「とにかく、サンデーに指示した場所に《サジタリウス》で穴を空ける。警備員もおれ達を相手にしてる暇はないはずだ」
「「分かった!」」
《レオ》を発動し、一足先に飛び降りるアルマに魔女達が続く。
***
「まだか、まだか……っ!」
目の前の壁には穴が空いているが、やはり再生する兆しはない。やはり、ポワロに何かあったのか。
「サンデー! まだか!?」
「サンデー!」「早く来なさいよー!」
居ても立ってもいられなくなったアルマ達は崩れかかっている壁に手を着きながらサンデーの名を呼び続ける。彼女が来る気配はまだ、ない。
「くそっ。内部構造がめちゃくちゃだから迷ってるのか? おれ、ちょっと探してくる!」
「だ、だめ!」
中に飛び出そうとしたアルマをマーニが慌てて抱きとめる。彼女の小さな体躯ではこうするしかアルマを押さえつけられないからだ。潤んだその瞳にドキッとする自分がいるのは何故だ?
「ま、マーニ?」
「アルマーっ!」
と、崩壊しつつある柱を飛び越え、サンデーが勢いよく飛び込んできた。
「うおっ!?」「きゃうっ!?」
サンデーに飛び掛られ体重を押さえられなくなったアルマはたまらず後ろへ倒れ込んだ。
その時、ふにゅって柔らかい感触が背中に合わさったような気がするが……なんだ?
そんなアルマの疑問に答えたのはこめかみをひくつかせていたソールだ。
「ねぇ、アルマ? サンドイッチってふつー、双子とやった方が面白いと思うの。なのに、なのに……アルマは抱いた女の子が御所望なわけ!? 死ねハレンチアルマ!」
「痛っ! ちょっ、痛い! 止めろって! その前にサンドイッチってなんだよ!?」
「今のアルマの状況のことよ!」
ゲシゲシと繰り返される蹴りに文句を言いながらおれは自分の状況をやっと理解した。
「あ、アルマ、重い~~」
「あっ、アルマ、ボクとお揃い~~」
背中からはマーニの呻き声、おれの体に跨ってるサンデーは両手を伸ばしておれの《レオ》による猫耳をさわさわしている。なるほど、これがサンドイッチなのか。
「って違う! サンデー、とにかく離れろ! じゃないと―」
「じゃないと?」
「……ヤバい! マジ逃げろ!」
サンデー越しに見える美術館はもうヤバい。おれは自分達の危機的状況を思い出すとサンデーを押しのけ、マーニを引き起こしながら美術館から出来る限り逃げ出す。
「だぁ!?」
美術館から数メートル離れた直後、地鳴りと共に美術館が崩壊していった。
そして、アルマは見た。
僧服に身を包み、帽子を被った男が瓦礫の中から何事もないかのように姿を現した。
その服装は間違い無い。[教団]の服装だ。そして、向こうもアルマに気付いたのか、帽子の下で引き結ばれた口をゆっくりと開いた。
『そう遠くない日に
――と。それが、[教団]からの明らかな敵意だった。
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