第十夜:アルマ、ひと夏の思い出

 ジャックとの激闘を制したアルマ一行はひとまず過疎化が進んでいるらしいボロ宿に宿泊する事に決めた。本当に人がこないのだろう、宿主は傷だらけのアルマを気にした様子もなく快く泊めてくれた。一応、部屋は二つ。アルマと女性陣の部屋だ。

「う、うぅ。あの野郎、マジで潰す気だったな」

 ジャックに握られた右手がまだ痛む。身体中切り傷だらけだし、ここまで三人に支えられるようにして歩いてたからまったく体が動かない。

「こーいう時、治療系の手品を使えたらよかったんだけどな」

 あいにくそんな都合のいい手品はない。魔女達ならどーにかしそうだが……身の危険をびしびし感じるから止めてもらった。

「とりあえず、ゆっくり休むかな」

 窓から差し込む月明かりに鈴を照らされながらアルマは双眸を閉ざすのだった。


***


「お泊り会定番!」

「『第一回、好きな人は誰!?』を開催いたします!」

「お~~~~~っ」

 ぱちぱちと拍手するサンデーに「ありがとう」と答えソール。

「まぁ、私達はアルマオンリーだから……サンデーね」

「さぁ、お姉さん達におとなしく教えちゃいなさい? サンデーは誰が好きなの?」

「好き? アルマかな?」

「「なっ」」

 ぴしり、と魔女達の動きが止まった。そしてブツブツと

「勝てる気がしない。……特に胸とか」「性格とか。天然というか無防備というか……」

「どうしたの?」

「アルマってあれでムッツリだもんね」「いや、サンデーの好きはライクであってラヴじゃないのかも。……よね?」

「? ラヴってなに?」

 こくり、と首を傾げるサンデー。いつもの帽子は外していた。愛らしい猫耳がぴこぴこと動くのを見てマーニが「そうだった」と額を押さえた。

「えっとね、ラヴは体メインの触れあいで」「ライクはそれをしないことなの」

「へぇ~~」

 突如ベッドの上で仁王立ちして講義を始めた双子にサンデーはふむふむと頷きながら

「でも、体の触れ合いって?」

「え、え?」「それは、その、えっと……あれよ、あれ。舌で舐めたりとか、頭摺り寄せたりとか、花火打ち上げられたりとか」

「花火?」

「そーいやもうそんな季節なのねー」

 じっと夜空を眺め感慨深げに呟くマーニ。心なしか頬が赤い。「浴衣、その手があったわ」とかいうのも聞こえたが花火と浴衣でその手がってなんだろ?

「とにかく、今日は寝ちゃうわよ」「疲れてるし、アルマだって寝てるだろーし」

「そういえば、アルマ、大丈夫かな?」

「大丈夫でしょ。だってアルマは私の将来のだん」「ご屋さんなのよね、マーニ。ちなみに私はアルマの将来の花よ」「り団子だもんね、ソールって」

「「うにゅにゅにゅにゅっ!」」と取っ組み合いを始めたソールとマーニにサンデーは「?」を浮かべたまま見守るのだった。

(アルマ、痛そうだったよね。ボクが、役に立てなかったから。それにアルマ、『しょーにゅーどー』でボクを庇って……よし)

 うんうん、と頷くサンデーにまだ「うにゅにゅにゅにゅ」をやっていた魔女達は気付かなかった。


***


 夜。アルマはもぞもぞという物音に気付いて目を覚ました。どうやら何かが馬乗りになっているらしい。――って、馬乗り?

「いったい、なに――がぁ!?」

 絶句。いや、だって、ほら、だって、だって!

「なんで、サンデーがここにいるんだよ!?」

「えっと、えっとね、アルマ……」

 甘ったるい声で答えるのは……月明かりを受けてどこか神秘的に見えるサンデーはあの帽子を外してアルマに上乗りになっていた。下から眺めるとちょっと、丘に阻まれて――違うだろ、今はそうじゃない。

「いつもボク、アルマに迷惑かけてるから、ね?」

「え?」

 かぷっ。アルマは自分の身に起こったことが理解できなかった。だって、誰が思うよ?

 サンデーがおれの耳たぶを甘く噛みつけてくるなんて。

「は? え、ちょっ!?」

 しばらくして今度はなめらかな何かがおれの耳たぶを丹念に舐めていった。これって、もしかして、あれ、だよな? 舌……

「さ、サンデー?」

 どきどきと胸なりがひどい。だって、いきなりこれは、飛ばしすぎじゃないか?

「ごめんね、アルマ」

「い、いや」

 なにが『いや』なのか分からないけど、サンデーの潤んだ目を見ると言葉が出ない。

 そのままサンデーはおれの首筋や額、鼻先をぺろっとすると今度は恥ずかしそうにもぞもぞと動く。いやちょっと、あんまりもぞもぞされると、その、下の方とかヤバいですから!

 そんなアルマの胸中を知らないサンデーは熱い吐息を吹きかけながら言った。

「私には、こんなことしか出来ないから」


***


「っ!? さ、サンデー」

「にゃにかな?」

「そ、その、恥ずかしくないのか?」

 沈黙。しばらくして「うぅ」と困惑気味の声が聞こえてきた。

「こんなの……恥ずかしいに決まってるよ」

「じ、じゃあ、別に無理しなくても」

「だめ!」という強気な一言がアルマの言葉を遮った。

「アルマのためだもん。最後まで、やるもん」


 さ・せ・る・かぁ!


 それが扉の外で耳を澄ましていた彼女達の限界だった。

「このハレンチアルマ!」「ついにはサンデーを辱めるとはいい度胸だ!」

 ストローを手に突撃。幸いカギはかかってなかった。素直に助かった。

 だって、もしカギが掛かっていたらきっと最後までいってアルマは真っ白な花火を打ち上げてたに違いない。

「お、お前ら!?」

「うにゃ!?」

 そこには当然のように、馬乗りになってアルマの右手を舐めていたサンデーの姿。

「くっ、いきなりそんな体勢とは――」「死にたいみたいね、いや死ねアルマぁあああ!」

「いや、ちょっ、これはごか――」

 ズッダーンッ!と魔女達の情け容赦ない蹴りがアルマの顔面を捕らえ、アルマはぱたり、と朽ち果てるのだった。


***


「な~んだ。それならそうと」「言えばよかったのに」

「だから誤解だって言ったんだ」

 アルマが寝ている間に聞きだした内容はこうだ。

 アルマの役に立てず、またアルマが自分を庇った鍾乳洞の一件で恩返しがしたくなったサンデーは部屋で決心。でも魔女達に役に立てなかったのを知られるのは恥ずかしくて二人が寝静まったのを見計らってアルマの部屋へ。

 アルマが逃げると困るから上に乗っかった。そして怪我をしたら舐めるのが良い治療法だから耳とか首筋とか鼻先とかを舐め、そして見るからに痛そうな右手を舐めてるとこに魔女が乱入した、と。

「私はてっきり、その、ごにょごにょしてると思って」

 マーニが目を反らしながら声を細める。いや、実際おれも夜這いされてるのかと思ったほどだから仕方ない、か?

「まぁいいわ。それよりアルマ、喉渇かない? 今日暑いし」

 こちらも同じく顔を赤くしたソールがぱたぱたと服をはためかせながら問う。

「水が飲みたいな。喉からっから」

「ついでになんか食べる? 宿についてから何も食べてないし」

「まぁ、軽いのがいいな」

「じゃ、決まり。近くに果物屋さんがあったから買ってくる」

「あ、じゃあ私も。サンデーは水お願い。アルマなら蛇口の水でオッケーでしょ」

「大丈夫だけど……酷い扱いだな。まぁ、頼むな」

「「任せて♪」」

 ギィー、とドアを開けて出て行った二人を見送ってアルマは傍らのサンデーにウィンクする。」

「ごめんな。水、頼めるか?」

「っ! うんっ!」

 ぱたぱたーっと去っていくサンデー。いそいそと上半身だけを起こして月を見上げる。

「はぁ、正直、助かった」

 魔女達は気付かなかったみたいだが、意外とピンチだったのだ、さっきは。よく考えて欲しい。怪我をしたら舐めるのが一番と、『あの』サンデーが言ったのだ。

 ならば、魔女達の突入があと少し遅ければおれは貞操の危険があったのだ。なぜなら、怪我をしたのは上半身だけじゃなく……

「お待たせっ。お水持ってきたよ」

「あ、あぁ! ありがと」

 ちょっとヤバいことを想像してたから声が裏返ってしまった。そんなおれに気付いた様子もなくサンデーはことり、と水の入ったコップをすぐ傍の机に置いた。

「はい♪」

 にこーっと笑って言うけど、手が動かないんですけど。痛くて。

「あの、さ。サンデー」

「なに?」

「手、痛くてさ。水が飲めない。出来たら飲ませてくれ」

「うん。分かったよっ! ボクが飲ませてあげる!」

 役に立てるからだろう、サンデーは喜び勇みながらコップを両手に取るとそれをこくこくと飲み始めて――え?

「んっ!」

「『んっ!』ってまさか、サンデー?」

 まさか、そのまさかじゃ、ない、よな? 冷や汗がダラダラと流れるアルマの両頬をサンデーが押さえつけてくる。そして、唇を近付けて――やっぱりそうきますか!?

「ちょ、ちょっとサンデー、ストップ!」

 しかしサンデーが聞くはずもなく。彼女は水を含んだまま「んぅ」とか言って唇を近づけてきた。とっさに口を閉ざすアルマ。飲めるか。口移しなんてされてたまるか!

(うっ、柔らかい)

 ふにふにとした唇の感触が唇を中心に全身へと迸る。一体今日はなんなんだ?

「んんっ!」

 しばらくしてサンデーは焦れたのか、いや息が続かなくなったのかな。唇を痛いぐらいに押し付けてくるとつい先程嫌と言うほど味わった感触が唇を割ろうと――や、やめてぇえ!

「っ!?」

「ふぅ、んぅ……」

 侵入、侵食。サンデーの唇から冷たい水が入り込んでくる。サンデーの口に押し返すわけにもいかず、アルマはそのままそれを飲み下す。と。

「あ~~っ! アルマが、アルマがキスしてるぅう!」

「なに!? ちょっと目を離した隙に、アルマ~~っ!」

 タイミング悪く魔女達が戻ってきた。林檎の入った袋をぶんぶんと振り回しながら入室。

 そのままぶんぶんと袋を振り回し、投擲。それは狙い違わずアルマの顔面を再び捕らえるのだった。


***


 今度は目覚めても誤解は解けなかった。

「水を飲ませて、ねぇ?」

「ほっほ~う。アルマは物の怪ですか。物の怪のプリンセスですか? つーかケダモノだろぉーが!」

「うぇ! 苦しい!」

 がくがくと首を揺すられる。ちょっ、マジ息ができな……

「まぁ、いいわよ。代わりに!」

「か、代わりに?」

 一体どうなるのだろうか? おれの貞操、守れるだろうか? 何を言ってくるか分かりたくないマーニの言葉をアルマはじっと待ち続けた。

 そして、それを見たマーニはぐぐっと目を反らしながら

「あ~ん、させるからね」

「は?」

 あ~んって、あのあ~ん、か? なんだ、それなら楽勝じゃねーか。

「それぐらいなら別にいいけど」

「そ、そう? じ、じゃあ、はい、あ~んっ!」

 にこにこと林檎をこちらへ突きつけてくるマーニ。いや待て。少し待とうかお前。

「せめて林檎切れよ!?」

「はい、あ~ん」

「……」

 むしゃむしゃ。《キャンサー》で切らせた林檎を咀嚼しながらおれは丸々一つ分、林檎を完食した。

「ごちそうさま」

「いえいえ」

 満足げに笑うマーニ。よくよく考えれば、こんなガキんちょにあ~んって、実際やってみると恥ずかしかった。が、悪夢はこれで終わりではなかった。

「それじゃアルマ、次は私~~」

「げっ。まだ?」

 正直、今ので十分なんだけど。ソールの方に目を向けたおれはそこであからさまに「うげっ」と眉をしかめた。だってソールの口が何かを咀嚼しているかのようにむぐむぐと動いているのだから。

「お前、まさかとは思うけど」

「うん♪ ザ・口移し」

「『うん♪』じゃねえよ!」

「あっ、ソールったらズルい」

「なによ? それならマーニも後ですればいいでしょ? リンゴ、そのためにたくさん買ったんだし、アルマ、体動かないんだし」

「あ、そうよね。じゃあいいわよ。楽しんでね」

「ええ。楽しむわよ」

「ちょっ、待て。止めろ。さすがにそれはヤバい」

「ん? なにがヤバいの?」

「法律的にヤバいって! だってお前らまだガキん――んぅ!?」

 ピシッと青筋に浮いたソールが無理やりおれの口を塞ぐ。そしてなんかとろっとろになった固体なんだか液体なんだか分からなくなった林檎を流し込む。

「ぷはぁ!」

 ソールが唇を離した頃にはアルマはずたぼろだった。

「おれ、犯罪者? こんなガキに、口移しされて……もう婿にいけねぇ」

「犯罪者?ってすでに怪盗だから犯罪者じゃない♪」

「そ・れ・に♪ 私達がお婿さんに貰ってあげるってば!」

「じゃ、いくわよー」と口を近付けて来るマーニ。アルマの絶叫が宿中に響き渡ったのは言うまでもなかった。


***


 翌朝。アルマが目を覚ますと魔女達はどこにもいなかった。そして何故かアルマは露出狂と化していた。

「な、なんでおれ下穿いてないんだ?」

 実は悪ノリした魔女が脱がせにかかって何かに衝撃を受け、サンデーを引き摺って出て行ったからなのだが、その時すでに魔女の口移しで魂が抜けていたアルマが覚えているはずもなかった。

「昨日よりは……マシかな」

 だいぶ痛みは引いたようで、難なくパンツを穿くのに成功する。さらにズボンを穿いて服を整えれば……よし完璧。

「おっ、お前らも今起きたのか?」

 ドアを開けると丁度三人に出くわした。しかし三人の反応はおかしかった。

「お、おはおは、おはよっ!」

「き、きき、昨日はゴメンね!」

「……えっち」

 慌てふためいた様子でソールとマーニ。頬を赤らめながらもこちらをじっと見つめて最後にサンデー。

「えっち? いやいや、それはどう考えてもお前らのほう……」

「アルマって年中発情期なんだね」

「へ?」

 なんだ? 何故かサンデーの機嫌が悪いように見える? いや、機嫌が悪い。

「昨日のあれ、二人に聞いたもん。こーふんしないとあんなに大きくならないんだって」

「は、え、へ?」

 興奮? 大きく? いやいや、ちょい待て。パンツすら穿いてなかったことといい、この三人の反応といい、まさか、おれ、マジでとんでもないことをやったのか?

「えっと、昨日何があった?」

「「「なにも」」」

 声を揃えて断言する女性陣にアルマはそれ以上怖くて聞けず、おずおずと三人の後を追うようにして宿を後にした。

 カギを返すとき、やけにニヤニヤしながら宿主が豪快に笑った。

「どうやら部屋は一室でも良かったみたいだな。いやはや、昨日はお盛んだったみたいで。いいねぇ、若いってのは」

「……」

 昨日マジ何が起きた。そう思いながらもアルマは「はぁ」と小さくため息を吐きながら宿主に尋ねる。

「あの、どっかに豪邸とかってありませんか?」

「豪邸? いやぁ、この街は見ての通り、過疎化がねぇ」

 髭をさすりながら笑顔を一転、困り果てた表情に変える宿主。

「いや、待てよ? それなら、エリザベート様の別荘はどうかね? 町外れにね、森があるんだが、そこに貴族が住んでるんだ。確か今別荘に滞在してるんじゃなかったか?」

「ありがと。それじゃ」

「いや、ちょい待ち」

「?」

 宿主に止められて振り向くアルマ。宿主の表情はこれでもかと真剣なものだった。

そして、口にするのは――

「この町に住まないかい? どうやらお兄さんは将来有望そうだからな。過疎化に終止符を打ってくれ!」

「さよなら」

「あぁ!? すまん! 冗談だ!」

 すたすたと立ち去ろうとするアルマを宿主はぐいっと引き寄せると本題を口にした。

「エリザベート様の別荘に行くなら、お嬢ちゃん達は置いていった方がいい」

「え? どうして?」

「それは……いや、なんでもない」

「あっそ。じゃあね」

「あぁ、じゃあな」

 宿主の言葉が気になったが、アルマはそのまま宿を後にした。

「どうしたの?」

「いや。次は町外れの別荘を調べるぞ」

「昨日の今日で怪盗稼業?」

「誤解受けそうだけど……そう。宝を盗む」

 心配げなマーニの頭にぽんっと手を置いておれは呟いた。

「それに、気になることがある」


***


 アルマ達が立ち去った後の宿内。朝といっても人はまばらでもいるにはいる。

 その客のほとんどと言っていい人数が立ち上がったかと思うと宿主の下に集った。

「おい、お前」

「はい、なんでしょう?」

 へらへらと営業スマイルを浮かべる宿主。それを店内の端で見つめる少年がいたが、それを気にすることなく一人がナイフを突きつけた。

「貴様、エリザベート様のことを申しておったな?」

「いえ、旦那。決して悪口では」

「黙れ」

「ひっ!」

 男に睨まれ宿主が怯えたような声を出した。それを周りの男がせせら笑う。

「エリザベート様を侮辱するのは万死に値する。貴様には今ここで死んでもらおう」

「お、お助けを!」

 ナイフが煌く。それを見てテーブルに腰掛けていた少年は「はぁ」とため息を吐いた。

「じゃあ、死ねぇええ!」

 ナイフを振り上げる。おもわず目を閉じる宿主。そして――砕け散るコップ。

「なっ。――貴様、何をしたか分かっているのか?」

 砕け散ったコップに一瞬目を瞬かせ、男はコップを投げつけた人物――テーブル端の少年をにらみ付けた。少年は何かをぶつぶつ言っていたと思うと、こちらを振り返ることもなく。

「手を離せ。じゃないと恐ろしいことが起こるぞ」

「はぁ? 恐ろしいこと? なんだよ、それ。えぇ? 大人からかってんじゃねえぞ、ガキが!」

 宿主を投げ飛ばし、男とその取り巻きが荒々しく近付いてくる。そして少年の襟首を締め上げる。

「おぉ? 中々綺麗な顔してんじゃねーか。まぁ、それも無駄になるんだがなぁ!」

「……る」

「あぁ?」

「こうなる。そういったんだ」

「は、あ?」

 少年が氷のような視線をぶつけてくる。瑠璃色の、飲み込まれそうな冷たい瞳。

 しかし男達の視線は別の物を見ていた。轟く絶叫。しばらく恐慌状態に陥っていた男達は倒れていった。

「し、死んだのか?」

「殺しはしない。まぁ、途中死ぬ奴もいるけどな」

「そ、そうか」

 ホッと胸を撫で下ろす宿主。カウンターに腰掛けながら少年は男達を見下ろして一言。

「それで、エリザベートとは誰だ?」

「町外れに住んでる貴族様です」

「そうじゃない。――何者か、と聞いている」

「それは――」

 宿主が声を潜める。それを聞いた少年は目を見開き、宿を出て行こうとした。

「ま、待ってくれ! あんた、名前は?」

「メア」

 立ち去り間際、少年はそう答えた。開いた扉から差し込む光が相まって、その影はもう一度。


「怪盗ナイトメアだ」


 と。自らを悪夢ナイトメアと名乗った。





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