第二夜:アルマと仮面道化


 自称美しい心の持ち主殿へ

 今宵、貴方様の持つ『硝子の仮面』を頂きに頂戴いたします。硝子のように純粋な心をもつ貴方様なら、きっとお許ししてくれるでしょう。

怪盗アルマゲスト


 今宵、パーティが催されるここ、トスティカーナで怪盗アルマゲストは宝を盗むという。

「余のお宝を……盗む? 不可能だな」

「ですが、ご主人様。相手は変装の名人。そして、今宵のパーティは……」

「仮面舞踏会。それがどうした?」

 上座に座る主の傍に控える執事は仮面舞踏会だからこそのリスクを述べる。

「それがって……これでは誰がその怪盗なのか……」

「ふむ。相手は変装の名人。まぁ、だからこその仮面舞踏会なのじゃ」

「と言われますと?」

「今宵のパーティの八割は、全員警備員じゃ」

「そうですか」

 執事は納得したように頷く。眼下では仮面を嵌めた人々が踊り明かしている。その八割が、すべて警備員か……

「で、お主」

「なんでしょうか、ご主人様」

 執事が尋ねれば、主はニンマリといやらしく笑う。

「お主、仮面はどうした? 余は言ったはずだが? 仮面を嵌めろと」

「……それは」

 言い淀む執事に主は鋭い視線を向けながら糾弾する。

「お前が怪盗だからじゃろ? 普通、主人に仕える身で仮面など嵌めんからな」

「……ちっ。その通りだよ」

 銀色の靄が晴れるように執事の容姿が崩れ、その下からアルマが正体を現す。

「とにかく、『硝子の仮面』はいただくぜ」

 しかしそれに答えたのは目の前の主でもなければ仮面を嵌めた警備員でもない。

 それは頭上から答えた。

「――悪いが、その美はワタシが頂くよ――」

「「え?」」

 突然の声に主も、アルマも驚いて上を見上げ、顔を顰める。

「……えっと、誰?」

「っ! 君、このワタシを知らないと言うのか?」

「ああ、しらねえ」

 そう言って主の傍に置いてあった林檎を咀嚼するアルマに男は額を抑えて名乗り始めた。

「ワタシはページェント。この世の美しい物を追い求める男さ」

「美しい物、ねぇ」

 アルマが呆れたように答え、ページェントはため息を吐く。

「ああ、醜い。君の声は不協和音にしか聞こえない」

 そう言って堂々と『硝子の仮面』へと歩み寄るページェントの前に仮面を着けた警備員達が立ちはだかる。それをうざったそうに見やりながらページェントはふぅーと息を吐く。

「君達、ワタシのことを知っているかい? いや、その反応からして知らないだろう。なら教えてあげよう。ワタシは美しいものをこよなく愛している。そんなワタシに神は美しい力を下さった」

 ヤバい、とアルマは思い鈴へと手を伸ばす。

射手座の軌跡サジタリウス=エトワール!」「仮面劇、ショータイム!」

 二人の声は見事重なった。直後、仮面を嵌めた警備員達に異変が起きる。だらん、と手を伸ばしたかと思うと懐から短剣を取り出す。

「ふふふ、美しい。これこそがワタシの力、《仮面劇》」

「仮面が手品道具、か」

「ご名答。ふふ、頭脳だけは美しい。君の醜い顔にはもったいない」

「うるせぇ」

「おお、醜い。君は気に入らないな。さぁ、美しき者達よ、醜い男を大地に返してあげよ!」

 その指示と同時、手品によって操り人形と化した警備員達がアルマへと殺到する。

「仮面、か……それなら!」

 瞬時に形成した矢を放つ。それは狙い違わず警備員の仮面を破壊する。

「うっ……」

 仮面が破壊された警備員は手品の反動か、その場に崩れ落ちてしまう。まぁ命に別状はなさそうだから良しとしておくか。

「美しい……その銀色の弓矢、あまりにも美しい!」

「じゃあくれてやるよ!」

 そう言って銀色の弓矢を放つ。自分自身よく分かっていることだが、《サジタリウス》は〈物〉は消滅出来ても〈者〉は殺せない。

「おっと……」

 しかしそんなことを知らない敵――つまりページェントなどはその形状からおもわず身をかわしてしまう。

「よし! 双子座の軌跡!」

 その一瞬の隙を突いてアルマは首元の鈴を打ち鳴らす。発動するのは《ジェミニ》。

「……? どこに消えた?」

 ページェントが眉を顰める。先程まで怪盗が立っていたところには自分の下僕と化した者しかいないからだ。

「……そうか、アルマゲストは変装の名人、だったか」

 じ~と消えうせた殺害対象を求めて蠢く下僕達をしばし見つめながら命令を下す。

「ワタシの美しい下僕達よ、歩みを止めよ」

 直後、ぴたりと《仮面劇》被害者達の歩みが止まる。その間を静かに闊歩するページェントへと傍にいる下僕達が順に頭を垂れる。

「ふむ。なるほど」

 ページェントは一人頷くと――いきなり目の前の下僕を蹴飛ばした。

「まったく。醜い。なんと醜い怪盗なんだ」

 床に倒れたままの下僕を見下すページェント。その眼前で下僕の姿が銀色の靄と化して失せる。そして現れたのは頬を抑えるアルマ。

「痛てて……なんでバレた?」

「君が醜いからだ。そう、何もかも。一人醜いステップを刻む者、お前の醜い生き様を象徴する醜いステップだったよ、怪盗」

「醜い醜いってうっせーな」

 歯噛みするアルマをページェントは嘲笑うと下僕達の影へと隠れて指示を下す。

「さぁ、れ!」

 バッと飛びかかってくる下僕達にアルマがとった手段は簡単だった。

「――逃げるっきゃねえな」

 そう言って背を向け走り出すアルマを見てページェントが嘲笑う。

「ははは! 醜い奴だね! 尻尾を巻いて逃げるなんて」

「うっせー!」

 力強く言い返しながら逃走するアルマの後を下僕達が追う。それを見送りながらページェントの視線は背後――この館の主へと向けられる。

「さて、醜い男は放っておいて、主人」

「……なんじゃ」

 自分の部下が糸も容易く利用されたことを不甲斐なく思っているのか、苦虫を噛み潰したような表情で見返してくる。

「あなたの頭は醜くないでしょう? あの美、貰いますよ」

「誰が貴様のようなコソ泥に渡すものか――っ!?」

 その言葉は頬を掠めたナイフによって途切れてしまった。主人の視線の先でページェントは残忍な笑み――それこそ醜い笑み――を浮かべながら問う。

「今、なんて言いました?」

「……」

「気のせいかもしれませんが、コソ泥って言いましたか? ワタシはね――」

 そう言って懐に手を伸ばすページェント。その手には数枚のナイフが。

「――コソ泥ってのが一番気に食わないんだ」

 そう言って再びナイフを投げようと身構えた――その時だった。

「――ストップだ、ページェント」

「……もう戻ってきたのか?」

 ページェントが振り返る。その視線の先には再び銀色の弓矢を構えるアルマの姿。

「あのさ、そこにある仮面」

「?」

 アルマがガラスケース内のお宝『硝子の仮面』を指差す。おもわずそちらへ視線を巡らすページェントだったが、アルマの次の言葉に硬直する。

「それ、偽物じゃねえの?」

「っ! 何を言っているんだ貴様は! そんなしょうもない嘘を……醜い! 醜くすぎる!」

「じゃあ、これはな~~んだ」

 そう言ってアルマが懐から取り出したのは――『硝子の仮面』だった。

「なっ?」

 ページェントの表情が一瞬強張り――すぐに主人へと視線が向けられる。

「まぁ、本物のお宝をこう堂々と出すわけねえよな。つー訳で、おれは帰る」

「ま、待て! 美しき仮面を貴様に与えるわけにはいかない!」

 そう言ってページェントは周囲へと視線を向ける。ようやっと戻って来た下僕達がアルマをしっかと見据えている。

「さぁ、あの怪盗風情を捕まえろ!」

「いっ!? やっべ!」

 唯一の出口を塞がれたアルマはこの館の主人と共に入室してきたもう一つの扉へと向かうが、主人の傍まで走ったところで追いついた下僕達に襲われる。

「うわあああああああああああああ!」

 そして声は収まり――下僕達がうろつく。

「ちっ。同じ手を二度も……醜い。醜いぞぉ!」

 そこまで叫んでページェントは「だが」と付け加える。

「今はどうでもいい。ワタシの下僕達よ、散れ!」

 その号令と共に下僕達が部屋の隅へと散る。その中にはまたあの変装術で化けた怪盗もいるはずだ。だが今はそんなことどうでもいい。

「醜い男よ、少しでも動いてみろ」

 ページェントがナイフを突きつける相手は怪盗ではなくこの館の主人だ。

 彼はすぐ側のガラスケースを豪快に壊して偽物の『硝子の仮面』を握りしめる。

「醜い男の分際でよくもワタシをだましたな」

「お前が勝手に騙されたのだろう」

「うるさい!」

 シュカッと卓上の果物にナイフが突き刺さる。もし果物がなければそれは胸に――とそこまで想像して主人が口を噤む。

「こんな偽物、醜いお前と共に壊してやる」

 そう言って主人の眼前までやってきたページェントはその偽物の仮面を主人の体に叩きつける。それでも壊れないのはやはり偽物だからか。と憤り赤くなる顔でページェントは思う。そしてナイフを取り出そうとした瞬間――主が殴りかかって来た。

「なっ?」

 突然の奇襲に対処しきれず、尻もちを突くページェントを主人が笑い飛ばす。

「やっとぶん殴れたぜ」

「その醜い言葉遣いは――怪盗か」

「あったり~♪」

「貴様、化けてたのか。じゃあ、本物はどこだ?」

「余はこっちだ」

 そう言ってテーブルの下から這い出てきたのは本物の主人だ。

「でも、あんたもノリがいいね、ご主人」

「なに。これでも幼少の頃は西洋大陸で見たオペラに魅せられた者、演技には自身があるわい」

 そう言って笑う二人にページェントは戸惑いを隠せずに零す。

「演技、だと?」

「ああ。お前が投げ渡してくれた『硝子の仮面』。偽物ってのは嘘だ」

「なに? それじゃ、貴様が持っていた仮面は!?」

「あー、あれ? あれはおれがあらかじめ作ったもの。まぁ、適当に盗んだ硝子を見よう見まねで作ったんだけどね」

「なん、だと?」

「まぁ、これで形勢逆転だな。お前の下僕は部屋の隅にいる。これじゃお前が盾に出来る者はいない」

 アルマがにんまりと笑いながら断言する。しかし、それに反してページェントは。

「ふふ、ふふふふふふふ!」

 笑っていた。その真意を測りかねたアルマが首を傾げる。と。

「仕方ない。じゃあ交渉しよう」

「交渉?」

 馬鹿な。圧倒的に不利な状況で交渉?そう思ったアルマの視線の先で彼らは動いた。

 そう、下僕達は手に握りしめたナイフを自分の首元にあてがったのだ。

「なっ!? お、おい、何を考えてんだよ」

「何を? だから交渉だよ」

 スックと立ちあがったページェントは「ああ、醜い」とぼやきながら服に付いた埃を払い落す。

「その仮面をこっちに渡して警備員達を救うか、それとも仮面を持ち逃げして警備員を皆殺しにするか。さぁ、どうする?」

 どこまでも腐った手品師にアルマは歯噛みし――諦めたように肩を落とした。

「分かった。仮面はやる」

「そうか。じゃあこっちへ投げろ」

「……ああ」

 そう答えるが仮面を投げようとしないアルマにページェントが苛立つ。

「どうした?」

「いや、もう少し、見せてくれないか。お前の手に渡ったらもう見れないんだし」

「いいだろう。ワタシは美しいからね。十秒だけだ」

「……ありがとう」

 そう言って見つめる事わずか十秒、アルマは満足したように仮面を放り投げた。

 そして、仮面を受け取ったページェントはそんなアルマは嘲笑う。

「やはり、君は馬鹿だ。ワタシが何故お前と交渉をしなければいけないんだい?」

 そう言うとページェントは下僕達に「死ね」と命じようとした。その時だった。

「――お前の敗因は三つ」

 アルマはいきなり指を三本立てて語り始めた。

「まず一つ。お前は一人じゃ弱い」

「何を言っている? それは君の方だろう」

 そう言って鼻で笑い飛ばすページェント。そんなことお構いなしにアルマは続ける。

「二つ目。下僕達を目の見えないところに仕向けたこと。だから――こうなる」

「な?」

 直後、部屋の隅で命令を待っていた下僕達が倒れた。死んだのではない。それが証拠にその胸は上下しており、仮面の隙間からは安らかな吐息が零れている。

「きさま、何をした!?」

「クロロホルムさ」

「クロロホルム?」

 おもわず尋ね返してしまったことに顔をしかめるページェントにアルマは頷く。

「本来、麻酔として使用するんだが、貴族ってのは忙しい身だからな。意外と安眠用として効力を薄めたクロロホルムを持ってるんだ。それを逃げてるときに嗅がせた」

「じゃあ、今までのは……」

「そう、すべて時間稼ぎさ」

 笑って答えるアルマにページェントの表情がこわばる。これで人質はいなくなった。

「だ、だが! ワタシの手には『硝子の仮面』がある! あとは逃げるだけだ」

「だから、言ったろ? お前の敗因は三つって」

「なん、だと?」

 アルマの物言いにページェントの視線が鋭くなる。

「三つめ。お前の目は節穴だってこと」

「なんだと?」

 これにはページェントも訝しげに眉をしかめる。

「つまりだな、お前が持ってる仮面は偽物。さっきお前を殴り飛ばした時にすり替えた。本物はこっち」

 そう言って懐から『硝子の仮面』を取り出すアルマ。

「さぁ。どうする? 一人じゃ弱いお前じゃ、逃げるしかないよな?」

「っ! ほざくな! 貴様なんかすぐに倒せ」

「はい、ドーン」

「ぐ、は!?」

 一瞬で間合いを詰めたアルマの完璧な不意打ちを鳩尾に受けページェントが倒れる。

「手品ばかりに頼るからこーなるんだよ」

 そう言って倒れたページェントから『硝子の仮面』を取り返す。

「ま、偽物ってのは嘘だけど。いくらおれでもあの一瞬ですり替えるなんて無理」

 そう言ってアルマはすぐ隣にいる主人へと視線を向ける。

「えっと、あんたは取り返そうとしないの? 『硝子の仮面』」

 その質問に主人は肩をすくめる。

「構わんよ。どっちの仮面が本物か分からんからな」

「そう?」

 嬉しそうに口の端を曲げて笑う。が、主人は「ただし」と続ける。

「それはどうするんだね?」

「そんなことが気になるの?」

「ああ。ぜひ聞かせてくれんか」

 そう懇願する主人にアルマは仕方ない、といった風に肩をすくめて答える。

「孤児院に寄付するんだ。なんたっておれは手品師だからね。手品師は――笑顔を生むために居るのであって悲しませるために居るんじゃない」

「なるほど、な。よし、分かった」

「分かった?」

 それは一体どういうことだ?と首を傾げるアルマに館の主人は厳しそうな顔を破顔させて言う。

「ならば余も寄付しよう。怪盗風情が子供達に笑顔を与えるのに余のような者が出来ないというのは気に食わん」

「……へぇ。いいね」

「じゃろ?」

 そう言ってクロロホルムで眠っている警備員達の元へ向かう主人に背を向けてアルマは外へと出ていった。

 砕け散ったガラスケースに手紙と共に本物の『硝子の仮面』を置いて。


***


 警備員達を起こし終え、まだ伸びているページェントを縛り付けた主人はそこで初めてガラスケースに置かれている仮面と手紙に気付いた。手紙にはこうあった。


 美しい心を持つ者へ

 確かに『硝子の仮面』は頂きました。ただし、自分にもどっちが偽物か分かりません。

 もしかしたらそっちが本物かもしれないけど、そん時はまた盗りに来るから大事にしとくように。あと、一緒に子供達に笑顔を届けましょう。では、また逢う時まで。

怪盗アルマゲスト


***


 翌日、近くの孤児院にある貴族が訪れ、多くの財産を寄付している様子を町外れにある森の頂から見つめていたアルマは偽物の仮面を手に立ち去ろうとした――その時だった。

「お前ら……」

「へっへ~~ん」「やっと見つけたわよ、アルマ~~」

 そこにはかつて自分が倒した魔女、ソールとマーニがシャボン玉に腰かけていた。

「お前、また懲りずにやってきたのか?」

 まだ一カ月も経ってねえのに。と毒づくアルマに二人は不敵な笑みを浮かべて告げる。

「まだ負けてなんかないわ」「だから、今着けるのよ。そう、そのお宝を壊してね」

「いや、これ偽物だし」

「騙されないわよ」「嘘吐きアルマ~」

 べ~と舌を出してくるマーニにどうしたものかと頬を掻いていると突然シャボン玉が生み出された。なんか以前見た時よりもでかい。

「なんだよ、今度は? また爆弾か?」

 すかさず《サジタリウス》の弓矢を構えるアルマに魔女達は笑う。

「試してみたら?」「まっ、アルマじゃ無理ね」

「なんだと? じゃあやってやらぁ!」

 そう言ってシャボン玉を破壊したその瞬間、シャボン玉は何千もの小型シャボンへと変形して四方へと弾けた。

「引っかかった!」「これは衣服を溶かしちゃうシャボン――」

「「その名も《社会的に死ね、アルマシャボン》!」」

 そう長ったらしい名前を高いテンションで語る二人にアルマは呆れたように聞く。

「ところで、お前らはどうすんだよ。何か対策があるんだよな?」

「「……」」

 突然押し黙って互いの目を見つめあうソールとマーニ。ああ、そうか。

「何も考えてなかったんだな」

「「はあ!?んなわけないでしょ!ちゃんと考えてるわよ!」」

 そう言ってソールとマーニは頭をひねるが、時間が経つだけで何も起こらない。

「あーあー。驚いたよ。お前らの間抜けさに驚いたよ」

「まだ何もしてないじゃない!」「決めつけるのが早い!」

「って言っても――なぁぁああ!」

 自分の方に飛んでくるシャボン玉の雨をすっかり忘れていた。アルマはそのまま偽物の仮面ごとシャボン玉に蹂躙される。

「やった! アルマの妨害成功!」「で、どうする訳? 私達」

 浮かれるソールにマーニがつっこむ。そして訪れるしばしの沈黙。

「どうしよー!?」

「やっぱ駄目、みたいね」

「ダメってそんにゃぁぁああ!」

 直後[太陽と月の魔女]も自身が作り上げたシャボン玉に飲み込まれるのだった。


***


 かろうじてマントだけの消費で済んだアルマは他の二人へと声をかける。

「お前ら大丈夫か?」

 シャボン玉が一斉に破裂したからか、霧のようなものが立ち込めている。その霧の向こうから返事が返ってきた。

「ん? 私は大丈夫よ。マーニは?」「私も、大丈夫」

「そうなのか? あ~あ、おれのマントが」

 すっかりボロボロだ。まぁ、上着だけの犠牲なら――ってあれ?

「マントが、ないに等しいってことは……」

アルマはそこで霧の先を見やる。確か、あいつらは――上着なんか羽織ってない。

「お、おい」

 恐る恐る声をかけるアルマ。

「「何よ?」」

「あのさ、お前ら、大丈夫か? ほら、上着着てなかったし」

「「え?」」

 と、なんと間の悪いことか、強風が吹き荒れて霧を取っ払う。で、そこにいたのは

「きゃああああ!?」「ふ、服~~!?」

 ほぼ全裸状態に近い二人の魔女だった。やっぱり。とアルマはため息を吐く。

「ち、ちょっと!なんであんたは冷静なのよ!?」

 両手で胸やら腰やらを必死に隠しながら二人の魔女が慌てながら問う。

「なんでって、興味ねーもん」

「なっ!」

 グサッとソールの何かを砕いてしまったようだ。その瞳に涙が浮かんでいる。

「ううっ。酷い。マーニ、私って魅力ない?」

「そ、そんなことないわよ。ってかソールが魅力なかったら双子の私はどうなのよ」

「あ~もう!いいから何か着ろ!」

「って言われても……」「こんな状態で洋服屋なんて襲えないし~~」

 互いに目を合わせる魔女達にアルマははぁ~~~と長いため息を吐いて言う。

「わ~~ったよ! 盗ってきてやるよ! ここで待ってろ!」

「ほんと? それなら早くしてね~」「風邪引いちゃうから」

「うっせえ!」

 なんとも言えない表情を浮かべながらアルマはばっとなるべく彼女らの方を見ないようにしながら再び街へと向かったのだった。

「はぁ、めんどくせえ」

 そう愚痴を零すが、服を盗みに行ってやってる時点で矛盾してる気がするな。

 ――とまぁ、そんなこんなでアルマはこの後、主観的に見た『可愛い』服で二人にこっぴどく叱られるのであった。




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