第一夜:アルマと双子魔女
アルマは町中を練り歩きながらターゲットを品定めしていた。
その際に、ちゃっかりと果物屋から盗んだ林檎を頬張ってもいる。
「さてと」
林檎を飲み込み、リンリンと鈴を鳴らしながら街を歩くアルマ。そんな彼が抱いた感想は
「人が少ないなー」
そう、とにかく人が少ないのだ。さっきの果物屋も「ご自由にお取りください」状態だったのだし、だからこそ簡単に林檎が調達できた。
「やっぱり、[太陽と月の魔女]とかのせいかな~」
この街で情報収集をしている時に聞いた話では、この街は[太陽と月の魔女]という手品師がやりたい放題をやっているという。そのため、外を出歩く人が極端に少ない。
「う~ん。こりゃ、地道に品定めするしかないな」
魔女のことなど気にもかけず、アルマは街を練り歩き始めた。
***
「な、なんじゃこりゃああ!」
大豪邸の主は自分宛てに届いたという手紙をくしゃくしゃにして放り投げた。
手紙の内容はこうだ。
この街の大金持ち様へ
今宵、貴方様の所有するお宝『村雨』を頂きに参上します。首はどうでもいいから『村雨』の刀身を磨いて待っとけ! ではまた、月が貴方の頭と同じぐらい輝く夜に。
怪盗アルマゲスト
邸主の驚愕は当然だろう。国内で怪盗アルマゲストを知らない者はいない。
彼は、無駄に財産を持つ者から盗み、貧しい者へ財産を与えるのだ。
そして、怪盗アルマゲストは、鈴の音と共に姿を現す、と言われている。
皆の憧れのような存在。それ故に、貧しい人々の間では、彼を捕まえるなという運動が起こっている。それとは反対に、金持ちは早く奴を捕まえろ!と怒りを顕にしている。
そして王室にとってアルマゲストとは目の上のたんこぶのような存在として疎まれているのだった。
「この宝だけは……盗まれてなるものか」
この剣にはとある伝説があり、これを所有していた武士は、この刀を以てして竜を切り捨てたという。そして、竜の血を浴びたこの剣に斬れない物はないらしく、先祖が試しに振るったところ、鉄壁を誇る鎧を紙きれのように引き裂いたというのだ。
「これだけは盗まれるわけにはいかん! いいかお前たち、警護を厳重にしろ!」
「はっ!」
そして多くの警備員が持ち場へと散らばり始めた。
***
そして夜、怪盗アルマゲストは月光でその緋色の瞳を幻想的に照らされながらはるか眼下の豪邸へと視線を向ける。彼は今、月を背に小高い丘に立っていた。
「さて。そろそろ時間かな」
時間は気にしない。それ故に時計なんか持ち歩いていないが月や星の角度を見れば時間ぐらい分かる。アルマは空に座する月に微笑みながら再度眼下に視線を下ろした。
「じゃ、行きますか」
東洋にはシルクハットにモノクル、逃走時はハンググライダーなんて怪盗がいるみたいだが、彼はそんな奇抜な服装ではなかった。なんというか、普通すぎた。
それが逆に、彼の起こす軌跡を引き立てるのだ。
アルマは首に吊り下げた鈴を持ち上げるとりりん、と打ち鳴らした。そして呟く。
「――
手品師が手品師たる所以。それは物がなければ発動できないということだ。アルマが何事かを呟いた途端、彼の体は銀色の靄に包まれた。
「ふぅ」
銀の靄が晴れたとき、そこに立っていたのは中年太りの男だった。
双子座の軌跡――《ジェミニ》という名のこの手品は、アルマが出会った事のある人物へと変身する能力である。もちろん、変装用の仮面でないので顔を引っ張られても剥がれることはない。まさしく怪盗に持って来いの手品だ。
「じゃ、行きますか」
亭主の顔で笑いながらアルマは邸宅へと正々堂々歩いて行った。
そんなアルマの頭上、不可解な球体がふよふよと浮かんでいるのに気付かなかった。
***
館は凄い騒動であった。警備員達があたふたとした様子で長官の指示を仰ぐ。
「長官、そろそろ予告時間でございます!」
「ふむ、そうか。皆の衆、気を張りなおせ!」
「「「はっ!」」」
長官の一括に力強く警備員達が答えた、その時だった。勢いよく扉を開け邸主が息も切れ切れに叫んだ。
「大変じゃ! 館の裏側で、警備員が一人倒れておった! 怪盗めはもうどこかに潜んでおるやもしれぬ!」
「……それは、大変ですね」
長官が厳かな声で頷く。そんな男を亭主は大声でどなりちらした。
「のんびりしとる場合か! 早く探すのじゃ!」
「と、言われましてもねぇ……」
長官の表情が厳かな表情からニンマリとした笑みに変わった。そして言う。
「貴方を逃がすわけにはいかんのですよ、怪盗殿」
「な、何を言っておるのじゃ?」
邸主は訳が分からないと言うように肩をすくめる。そんな主人に長官は右手を掲げながら答える。
「今日、決めたじゃありませんか。貴方は自室にこもっていると」
「いや、それはその……そう、トイレじゃ、トイレに行っておったのじゃ!」
それが決定打になったのか、長官ははっきりとした嘲笑を浮かべて止めを刺した。
「そうですか。トイレですか。おかしいですね。トイレは自室にもあるじゃないですか」
「いや、壊れたからの」
「と言うのは嘘だ。自室にトイレを作るもの好きがどこにいる。皆の衆、こやつをひっ捕らえろ!」
「「「はっ!」」」
すかさず警備員達が飛びかかろうとする。――その時だった。
「長官、大変です!」
空気を読まない外警備が飛び込んできた。警備員はそのまま息継ぐ暇もなく続ける。
「ま、魔女、魔女です! [太陽と月の魔女]が、上空に!」
と、その直後、どこからか妙に間の抜けた声が響き渡った。
「あっはっは!」「呼ばれて飛び出て!」
瞬間、爆砕音と共に天井が砕け、その穴から二人の少女が飛び込んで――いや、ふよふよと浮かぶ球状の物体に乗って現れた。
「太陽の魔女ソール!」「月の魔女マーニ!」
「「ただいま参上!」」
ビシッとポーズを決め、巨大な浮遊物体の上に立つ[太陽と月の魔女]ソールとマーニとかいう少女たち。
「なんじゃ、ありゃ?」
よく見ればそれはシャボン玉だ。なんでシャボン玉の上に? と言い掛けて彼女達が手品師だというのを思い出してその手のストローに気付く。
「ではまず、このソール様が!」
金色の髪によく似合うオレンジ色の服、同色のシルクハットを身に着け、紫のネクタイで決めた少女、ソールが右頬のオレンジ色の蝶のタトゥーをぷにぷにと突きながら手に持ったストローに息を吹きかける。すると、何もない空間にシャボン玉が作り出されていく。
「なんだ、シャボン玉か」
と呆れかけたアルマとは相反して、警備員達は恐れ戦きながら逃げ惑う。その中でただ一人、あの長官が警備員達を一括するがその声にも動揺が浮かんでいる。
「何が怖いんだよ。こりゃ、ただのシャボン玉―」
ドォオオンッ! すさまじい爆発が轟く。その爆音に騒ぎはより大きくなり、アルマは呆然と今起こった出来事に目を見張った。
(シャボン玉が――爆発した?)
そんなアルマに気付いたのか、ソールと名乗った少女が「ふふん♪」と鼻を鳴らしながら話しかけてきた。
「どぉ? 凄いでしょ~。これはね~~」
「私達の手品。なんでもアリのシャボン玉♪」
「「その名も! ――マジックアワーっ!」」
ズバーンッ!とポーズを決めて語る[太陽と月の魔女]。うん、いかにもお子ちゃまが考えそうなことだよな。ポーズ、恥ずかしくないのかよ。
「それじゃ、続き♪ み~~んなぶっ飛んじゃえ♪」
「『ぶっ飛んじゃえ♪』じゃねえよ!」
つっこまずにはいられない。そんなアルマにソールは機嫌を損ねたのか、ぶぅーと頬を膨らませながらアルマを見下ろす。
「なによ、うるさいわね~。お兄さん、何?」
「おれか? ふふ、聞いて驚け。怪盗アルマゲストとはおれ様のことだ!」
魔女に負けじとおれもポーズを決めるが魔女達は覚めた視線を向けるだけ。
「お兄さん……」「恥ずかしくないの?」
「うっせえ! お前らに言われたくねぇよ!」
うがぁーっ!と言い返せば魔女達は「うざっ」と呟き、ストローを咥える。
「もうめんどいから」「お終い♪」
ふぅー、と息を吹きかえると先程の比ではない数のシャボン玉が生み出された。
もしこれがすべて爆弾だとしたら――ヤバいぞ、これ!?
「皆の衆、撤退!」
さすがの事態に長官も身の危険を感じたのだろう。部下達に声高に命じるとこちらへと視線を向けてきた。
「悪いことは言わん。お前も逃げたらどうだ」
「やだね。お宝貰ってないし」
そう言ってシャボン玉の向こうに保管された『村雨』を見据える。逃げるならあれを頂いた後だ。
「それじゃ、頂くぜぇーっ!」
浮上し逃げる魔女を目にも止めずアルマは『村雨』目掛けて駆け抜けた。
「こんなの――楽勝だぁ!」
不規則に揺れるシャボン玉を見事な身のこなしで交わしながらアルマは確実に『村雨』へと近付いていく。背後に警備員達の喧騒を聞きながら、アルマは眼前の『村雨』へと手を伸ばし――
――その時、不意に風が吹いた。風は魔女達が空けた天井の穴から。そしてその風に流されたシャボン玉がアルマの指に触れ、弾け――爆発した。
「うっぎゃああああああああああああ!?」
周辺のシャボン玉をさらに爆発させながらアルマは宙に吹っ飛んだ。
***
瓦礫の山と化した大豪邸。その瓦礫の山が不意にからり、と動いた。
「ふ、ふふふ。怪盗の意地、舐めるなよ~~~~~~」
ゾンビのように這い上がったアルマはさながらゾンビのようだった。
アルマは怪盗の意地でナマクラと化した『村雨』に手を伸ばすとこちらを見下ろす[太陽と月の魔女]を見上げた。
「うっわー、生きてるよ」「まるで黒光りする夏場の怪物じゃない」
汚物を見るような目でこちらを見下ろしてくるガキ共にアルマはにっっこりと笑みを浮かべながら一言。
「とりあえず、説教してやるから降りてこようか、うん」
その言葉は届いたらしく、魔女達は互いの目を見つめ合って、しばし沈黙。不意にこちらに視線を向けたかと思うとにっこりと愛らしく笑って一言。
「「悔しかったらここまでおいで~」」
「っ! テメェら……」
――アルマは言うまでもなくその喧嘩を買った。
「上等だ。こうなったらせめてお前らだけでもけちょんけちょんにしてやる!」
そう言って首元の鈴をリリンと鳴らし、言葉を紡ぐ。
「
軽快な鈴の音には似合わない怒号と共に現れたのは銀色の弓矢。
そしてどこからともなく形成したその矢をアルマは魔女達が腰掛けるシャボン玉へと定める。
「「やばっ!?」」
マーニが慌ててシャボン玉を吹き散らす。その一つが間一髪、弓矢に当たり、消滅した。
「あれ? 爆発しない?」
きょとん、と首を傾げるマーニにアルマは何も言わない。
射手座――《サジタリウス》の弓矢は、あらゆる〈物〉の一切合財を無効化して消滅させる矢だ。しかし、この矢には欠点がある。それが今の状況だからこそアルマは何も言わない。そして、爆弾シャボンの不発の訳が分からない魔女達は互いの目を見つめあって話し合う。
「どうする、ソール?」
「逃げる」
「……やっぱり?」
そう言うや否やスゥー、と垂直に逃走するシャボン玉。それを逃がすまいと矢を放つがまたもやストローから生み出されたシャボン玉に命中して消滅する。
「ちっ。やっぱ相性が悪いか」
このサジタリウスの欠点とはまさしくそれだ。この矢は〈物〉を無力化して消滅させられるが、弓矢本来の貫通性能がない。そのため、目の前の魔女達の手品のように無制限に作られる〈一個の物〉との相性は悪い。ほんっとに悪い。
「――って! 逃げるなぁ!」
「へへ~~ん」「くやしかったらここまでおいで~~」
「っ! こんの、待ちやがれ!」
とことんバカにされて堪忍袋の尾が切れたアルマは銀色の弓矢とナマクラと化した『村雨』を手に瓦礫の山を駆け出して言った。
その一部始終を見ていた長官は周囲で負傷した警備員達に向かって難しい表情を浮かべた。
「分が悪いな」
「そうですね。怪盗に加え、魔女共が相手じゃあ―」
「そうじゃない。その怪盗の方だ」
「え?」
「魔女に人は勝てんよ。ただそれだけだ」
感慨深げに一人頷きながら長官はため息を吐く。
「さて。主人に報告しないとな。『村雨』は盗まれたと」
***
「待てこらぁ!」
「ああ、もう」「しつこい」
ふぅーと息を吹きかけてシャボン玉を作り出すソール&マーニ。
爆弾シャボンの可能性大のそれをアルマは《サジタリウス》で消滅させ、持ち前の身体能力でかわしていく。
今のところ魔女達はアルマの眼前を逃走しているが、徐々にその高度を上げつつある。
そして、何よりもじれったいのは爆弾シャボンの尋常じゃない量のせいでわずかな距離を中々縮められないということである。
「鬼さんこちら♪」「手の鳴る方へ♪」
「こ、こいつら……」
対する魔女達は随分余裕で、後方のアルマを好き放題挑発する。
「なら――これでどうだ!」
今度は無理をして矢を三本番えての射撃。しかし結果は先程と同じで無駄に終わる。
再び矢を番える間にそれ以上のシャボン玉が生み出されていく。
「くそ!」
悪態を突くアルマに魔女達はニンマリと笑う。
「じゃあ、せっかくだから」「面白いことを教えてあ・げ・る♪」
そう言うとソールとマーニはストローへと息を吹きかける。
その言いように警戒心を高くするアルマにマーニは告げる。
「私とソールはそれぞれ、爆弾シャボンと、普通のシャボンを作りました~」
「爆弾は怖い♪ でもなんでもないシャボンかも♪」
どちらにしてもこちらにメリットはない。普通のシャボン玉ってのがまず嘘臭いし。
「普通のシャボン玉なんて怖くないよね♪」
「でももしそれが爆弾だったら? きゃあ~~」
怖~~いと二人して笑う魔女にアルマは「むかつく」と内心で毒づく。
「確かに、面倒だな」
しかし、これで勝機が見えてきた。とアルマは思った。
そして、気付かれないようにマントに隠したそれに手を伸ばす。
(もう、時間はねえな)
もう彼女達の腰かけるシャボン玉もかなりの高さに上昇しつつある。まだ弓矢なら届く距離だが、自分の最後の手段を使うなら今しかないだろう。
「――お前達の敗因は三つ」
「なによ」「いきなり?」
突然の勝利宣言に訝しむソールとマーニにアルマは指を三本立てて突きつけてきた。
「まず一つ。おれのお宝を台無しにしてくれたこと」
そう言って指を一本折りたたむ。
「二つ。無害なシャボン玉を作った事」
そう言ってさらに一本。月光を受けて妖しげに光る緋色の瞳に二人はゾッとしてシャボン玉を作り上げようとするが、体が動かない。
「そして三つ。――台無しになったお宝なんざいらねえ!」
今までの雰囲気はどこへやら。アルマはマントの内に潜めていたそれを取り出した。
その手には赤黒く輝く刀身を持つ『村雨』があった。
そしてアルマはなんのためらいもなく『村雨』を――投げた。
「え?」「嘘!?」
まさかの行動に驚きの表情を浮かべる[太陽と月の魔女]。
咄嗟に爆弾シャボンを作ろうとストローを咥えるが遅かった。
アルマが投げた『村雨』は普通のシャボン玉を貫き、減速する様子もなく二人の腰掛けるシャボン玉を貫いた。
「へっ。ざまあみろ」
そう言って立ち止まるアルマ。立ち止まりつつも魔女の隙を突いて身動きを封じれるようにタイミングを見計らう。が。
「きゃー!」「た、助けて!」
「おいおい。何やってんだよ!」
アルマの予想に反して、パ二クッた二人の手品師は地上へとまっさかさま。
このままでは命はない。なんでシャボン玉を作らないんだよ。せっかくその隙を狙っていたのに。
「ったく!」
悪態を吐きつつもアルマは二人の少女を助けるべく駆け出した。
怪盗アルマゲストのモットーは『誰も殺さずにお目当ての物を手に入れる』だ。
間違っても人を殺す、見殺すなんて事はあってはいけない。
「間に合うか?」
いや、どう考えても間に合わない。アルマは無意識の内に首元の鈴へと手を伸ばし、打ち鳴らしながら言葉を紡いでいた。
***
地上への落下という、シャボン玉で浮かんでいたからこそ味わったことのない恐怖に[太陽と月の魔女]たる少女達は、迫りくる大地におもわず双眸を閉ざしていた。後は、死を待つのみだ。
――が、不意に落下時の感覚が消え、代わりに何かを下敷きにしていることに気付き、恐る恐る瞼を開く。と、そこにいたのは。
「痛てて……おい、大丈夫か?」
「な!」「わ!」
二人の少女は自分達を抱きかかえる敵に気付くとストローを取り出そうとするが。見当たらない。落下途中に手放してしまったのだろうか。
「もしかして、これ?」
そう言ってアルマが見せるのは二人の手品道具であるストロー。
「あ、なーんだ。そこに――って!」「こるあ! なんで持ってんのさ!」
「なんでって、なぁ?」
笑みを浮かべるアルマに何を思ったか、ぽかぽかと殴っていた二人の少女は頬を赤く染めて目を伏せてしまった。それをどう取ったのか、アルマは心配したように尋ねる。
「お、おい、どうしたんだよ? もしかしてどっか痛いのか?」
「いや」「違うけど――って」
答えかけた二人の魔女の言葉が途中で止まった。その視線はアルマの頭部に向けられている。ぱちぱちと瞬きをし、瞼を擦る。
「な、なんだよ?」
その行動に思い当たることがあるのか、アルマは両手で頭を覆う。が、見えてしまった。
その掌にぷにぷにしてそうな肉球があるのを。そして、その頭部からは銀色の猫耳が生えているのを。
「「なんで猫!?」」
驚くソールとマーニ。それにアルマも恥ずかしいのか頬をぽりぽりと掻きながら答える。
「これは、さっき目覚めた身体強化の
そう答えている間も二人の魔女の視線はひょこひょこと動く銀色の耳と尻尾に注がれている。が、それも束の間、銀色の靄となって失せる。
「「あっ」」
おもわず声をあげてしまった二人にアルマは眉をしかめる。
「なんだよ?」
「あ、いや」「なんでも」
そういって視線を逸らすソールとマーニだったが、唐突にある疑問を抱いて尋ねる。
「そういえば」「なんで助けたの?」
その問いにアルマは一瞬だけきょとん、として、すぐに笑みを浮かべる。
「ああ、おれは怪盗だから」
「「怪盗だから?」」
首を傾げる魔女二人に、アルマは誇らしげに説明する。
「そ、おれは怪盗だからな。盗みはするけど殺しはしない」
「「盗む、ねぇ……」」
何か感慨深げに考え込む魔女達。と、不意に。
「じゃあ」「そういう事で❤」
「へ?」
何がそういう事で?と尋ねかけたその瞬間。何か柔らかいものがアルマの両頬に触れた。
その正体は、二人の魔女の瑞々しい唇。それが意味するのはストレートに言って、キス。
「な! なななな!?」
驚きどもるアルマの腕からそれこそ猫のようにスルリと抜け出した二人の魔女は懐へと手の差し入れ予備のストローを取り出す。
「あ! 予備のがあったのか!」
それに気付き立ち上がるアルマにマーニが爆弾シャボンでバリケードを作り、その隙にソールが浮遊シャボンを作り出す。
「さてと。じゃあね~」「バイバ~イ♪」
よっと。と呟きながらシャボン玉に乗っかる魔女達にアルマはすかさず近寄ろうとするが間を阻むシャボン玉に歯噛みする。
「あ、ちなみにさっきのキスは、助けてもらったお礼だから」「勘違いしないでね?」
ソールとマーニの言葉に先程の感覚を思い出したか、アルマは顔を真っ赤にするがその隙に魔女達は上昇を始めた。
「あ、おい!」
ハッと気付いて鈴を鳴らした時にはもう遅かった。魔女達はシャボン玉を無数にまき散らしながら逃げていく。
「に、逃げられた……」
もうどう考えても魔女を捕らえることはできない。
「お宝も台無しだし……まぁ、別にいいか」
そう言ってアルマは鈴に触れた。新しく増えたレパートリーを反芻する。
「獣人化のレオ、ねえ」
感謝するべきか、それとも憤るべきか、複雑な表情を浮かべてアルマは空を見上げるのだった。空はシャボン玉に覆われ、大地に虹色の光を注いでいた。
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