第32話 別荘とプライベートビーチ
夏といえば何を思い浮かべるだろう?
最もメジャーで誰しもが思い浮かべるのは間違いなく海だ。
海というのはなんだか特別なような気がする。
海水浴というのはこの時期にしか出来ないし、夏の暑さの中で海に入るあの気持ち良さは夏にしか味わえない。
だから俺は海が好きだ。
そして、それを仲の良い友達と一緒に楽しむというのは誰しもが思い描く青春の1ページのはずだ。
当初の目的の夏を満喫するというのにもピッタリだろう。
そして今、その青春が目の前にある。
しかも別荘にプライベートビーチというこれ以上ないような好条件だ。
それが楽しくないわけがないし、絶対いい思い出になるのは行く前から分かる。
辛い課題も終わらせたし後は思う存分遊ぶことができる。
さぁ!夏を満喫するぞ!
時刻は午前10時。
今日から俺、
正確には杏の家のメイドさんがお目付け役として付いてきてくれるから実際には6人なのだけど。
そして今、杏以外のメンバーは俺の家に集合して杏達を待っていた。
「倉科さん家の別荘ってどんなとこなんだろうな?」
「庶民の俺には想像できないな。プライベートビーチがあるくらいなんだからとんでもないとこなのは間違いないだろ」
「私もお邪魔してもよかったのかなぁ…?」
「倉科さんもいいって言ってたんだから大丈夫よ」
俺たちは思い思いに期待を膨らませていた。
だって別荘にプライベートビーチだよ?
こんなの期待しない方がおかしい。
その時、一台のワンボックスカーが俺たちの前にやって来た。
そして助手席のドアが開き、お目当の人物が登場した。
「みんなお待たせ。全員揃ってるみたいね」
杏は白いワンピースを着ていかにもお嬢様らしい格好をしていた。
もしかしてリムジンとかで来るんじゃないかと思っていたけどそこまでは期待のしすぎか。
すると杏に続いて、一人の女性が降りてきた。
「皆様、初めまして。倉科家のメイドをさせてもらってます久保田さゆりと申します。今日から皆様のお世話をさせて頂きますのでよろしくお願い致します」
久保田さんは折り目正しく一礼をしてそう挨拶をした。
どうやら久保田さんが今回俺たちに同行してくれるメイドさんらしい。
メイドと言ったらもっと年齢の高い人をイメージしていたがパッとみるに20才前後の綺麗な女性だ。
ちなみに格好はメイド服ではなくアウトドアにふさわしい動きやすそうな服装だった。
メイド服を期待していたからちょっと残念だが仕方がない。
「さゆりさんの家は代々私の家の家政婦をしてくれているの。私とは小さい時から一緒に過ごしているのよ」
「そうですね。幼い頃から杏様には振り回されてきました。よく無茶振りをされたものです」
「もう。余計なこと言わなくていいの!」
杏と久保田さんの会話する姿は本当に気心知れている感じだ。
主人とメイドというのだからもっとお堅い関係なんじゃないかと思ったから意外だ。
イメージ的には妹に振り回される姉のような感じに見える。
まぁ、小さい頃から一緒ならそうなるのだろう。
なんとも微笑ましい限りだ。
「それでは皆さま、早速行きましょうか。荷物は後ろに積んでください」
久保田さんに促され俺たちは荷物を積み込み、車に乗り込んでいく。
俺たちのために付いて来てくれて運転までしてくれる久保田さんには感謝しなきゃいけないな。
そう思いと彼女の方を見ると、
「………」
久保田さんが俺のことをチラリと見た気がした。
その視線はなんだか俺を警戒しているような感じがした。
あれ?俺なんかやりました?
まだ別に変なことやってないと思うんだけど…
「ほら、ヒロくんも早く乗って」
俺が考え込んでいると杏に声をかけられた。
分からないことを考えていても仕方がない。
そのせいでこれから始まるイベントを満喫できなかったら元も子もないし。
そう思い俺はその疑問にフタをして車に乗り込んだ。
車に揺られること約2時間。
途中でサービスエリアで昼食を済ませて、車内ではこれから何をするかなどのの話題に花を咲かせた。
みんなのテンションがいつもより高いのはやっぱり別荘やプライベートビーチに期待しているからだろう。
ワイワイとそんな話をしながら車は進んでいく。
そして俺たちは倉科家の別荘にたどり着いた。
「なんじゃこりゃあ!!」
車から降りた俺のそんな叫びが辺りに響き渡った。
その叫びを聞いてみんなが次々と車から降りてくる。
「おおっ!!想像以上だな!」
「凄いわね…」
「こんなところに泊まれるの…?」
各々が驚愕の声を漏らす。
そこにあったのは、おそらく例の倉科家の別荘。
その別荘から見えるくらいの近いところにある人っ子一人いない綺麗な砂浜。
そして、日差しが反射して青々ときらめく海だ。
別荘の方は二階建ての木造コテージで外から見るに立派の一言だ。
その様子じゃあおそらく中も手入れが行き届いているんだろうと想像がつく。
そしてその別荘から目と鼻の先にある綺麗な海とビーチ。
これが杏の言っていた倉科家のプライベートビーチなのだろう。
白い砂浜にキラキラと輝く海。
テレビの中でしか見たことのない光景がそこにはあった。
「杏!本当にこんなところ俺たちだけで貸し切りでいいのか!?」
「ええ、もちろん。私の家の別荘とビーチなんだから貸し切りじゃないとおかしいわ」
金持ちおそるべし…
普通にこんなところに泊まろうと思ったら結構な値段がするだろう。
というかここを一般開放すれば凄い儲かるんじゃないか?
…こうゆう発想がもう庶民なんだろうけど。
「皆さま、まずはお荷物を運びましょう」
久保田さんにそう言われて俺たちはコテージの中に足を踏み入れた。
コテージの中は予想通り、とても手入れがされていた。
1階のリビングからは目の前の海が一望できるようになっており、これが噂に聞くオーシャンビューというやつらしい。
そして窓の外のテラスには階段があり、そこから直接ビーチに降りられるようになっている。
天井も吹き抜けとなっていてどこまでもお洒落な造りとなっていた。
「寝室は二階にあります。各部屋にベットが2つずつあるのでお荷物はそちらにどうぞ。ところで部屋割りの方はどういたします…」
「私とヒロくんは同じ部屋でいいわよね。じゃあヒロくん、荷物を置きにいきましょうか」
杏の食いぎみのとんでも発言によりこの場にいる全ての人間が絶句した。
そして、いち早く鈴香が声を上げる。
「何言ってるの倉科さん!?普通に考えて男女別でしょ!」
「あら?私たちは恋人なんだから別に同じ部屋でも不思議じゃないわ」
「けどあなた達は本当の…」
何かを言いかけた鈴香はハッとした様子で言い留まる。
おそらく本当の恋人ではないと言いたかったのだろう。
鈴香は家族以外で俺たちの契約を唯一知る人物だからそうゆう発言が出てもおかしくはない。
だが、諸々の事情により外部には漏らさないように言っておいたからそれを守ってくれたのだろう。
「
「どうと言われましても…」
契約上俺たちは恋人で周りにもそう見えるように振る舞わないといけない。
だが、まともな男女交際なんてしたことない俺にはこの質問にどう答えていいか分からない。
杏の恋人同士だったら同じ部屋に泊まるもの不思議ではないという意見も分かる。
けど鈴香の俺たちはまだ高校生で倫理的によろしくないという意見も分かる。
こうゆう場合、普通の恋人ってどうするんだろう?
亮介達に聞けば早いんだろうけど、この状況で聞くのも不自然な気がする。
「ヒロくんは…嫌?」
杏が上目遣いで縋るように聞いてくる。
そんな風に言われたら拒否するのも気が引ける。
別に俺は杏と一緒が嫌というわけではない。
そして健全な男子高校生としてそうゆうことに興味がないわけじゃないけど、同じ部屋に泊まろうと恋愛感情のない相手に何かふしだらなことをする気もない。
だったら同じ部屋でも問題ないのではないかと思っていると、
「杏さま、それは私も賛同しかねます。もし杏さまに何かありましたらお目付け役である私がお父様に合わせる顔がありません」
久保田さんが杏の提案に意を唱えた。
お目付け役として至極もっともな意見だ。
「私は何かあってもいいのだけど…」
「そうゆう問題ではありません。まだ杏様は高校生でしょう?不純異性交遊はメイドである私が許しません」
久保田さんの言葉には何を言われようと折れない強い意志がこもっていた。
杏もそれが分かったのかハァとため息を吐き、
「分かったわよ。昔からさゆりさんは言い出したら引かないものね」
「私が間違っているのであればいくらでも引きます。ですが今回のことは引くわけにはいきません。寝室は男女別でお願いします」
久保田さんに言われて杏は引き下がる。
今考えると普通はそうなるだろう。
男女が同じ部屋に泊まるなんてお目付け役の久保田さんが許すはずがない。
こうゆうことがないように久保田さんがいるんだから。
そしてみんなで話し合い部屋割りは俺と亮介、鈴香と真帆さん、杏と久保田さんという形となった。
まぁ妥当な割り振りだろう。
「じゃあ荷物置きに行って、海行く準備するか!」
さっき車内で話し合っていた結果、今日は海で遊び、夜はバーベキューという予定に決まった。
幸い今日は雲ひとつない快晴でまさに海水浴日和だ。
着替えために歩いて各々の部屋に向かおうとすると杏が俺のもとにやってきて、
「ヒロくん…水着、期待しててね!」
少し顔を赤らめながらそう言って去っていった。
男として女子の水着姿を見たくないと言ったら嘘になるけど、こう面と向かって言われると俺まで恥ずかしくなってくる。
これも杏のアプローチか。
というか、さっきの部屋割りの件も杏なりのアプローチなんだろうな。
精神がガリガリに削られるやめてほしい…
まぁ、杏の気持ちに対して答えを出さない俺が全て悪いのだけど…
そして俺も着替えるために部屋に向かおうとした時、またしても久保田さんが俺のことを見ていた。
その視線は出発した時に感じた視線と同じようなものに感じた。
けどその視線にも今は納得だ。
だって引率者として俺たちの行動には目を光らせておくのは当然だし、現にさっき杏が変なこと言い出したから警戒しているのも無理はない。
『すいません久保田さん。早速迷惑かけちゃって』
心の中でそう謝りつつ、俺も部屋に向かった。
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