第31話 勉強会3日目
勉強会三日目。
今日も今日とて俺たちは朝から課題に勤しんでいた。
流石に三日目ともなるとみんな疲労が溜まっていて集中力も落ちてくるが、『これさえ終われば後は楽しいことが待っている』その一心で課題を進めていく。
俺は昨日、一昨日と同様に
『ヒロくん!今日こそは私がちゃんと丁寧に教えてあげるからね』
杏は昨日、俺の覚えが悪すぎて教え役をリタイヤしたこともあり気合満々だった。
その結果、中学校の復習から教えられそうになったけど…
おいおい、それは丁寧すぎるだろ。
そんなことやってたら課題を終わらせるのに何日かかるか分からないし、流石にそこまで俺の学力は残念ではない。そうだよね…?
なんとか杏を説得して高校生の範囲で教えてもらう。
杏は昨日以上に丁寧に分かりやすく教えてくれたから何とか俺でも理解することが出来た。
そして鈴香も杏と同じように丁寧に教えてくれ、俺は順調に課題を進めていくことが出来た。
普通なら俺の勉強を見てもらっている分二人の課題を進めるペースは遅いはずなのだが、二人とも時間を見つけては恐るべきスピードで自分の課題を進めている。
ここまでのペースを考えると、何もなければおそらく今日で課題を終わらせることが出来るだろう。
そして課題さえ終わらされば後は楽しい楽しい夏休みを満喫できる。
ーーそして念願のその時を迎えた。
「終わったぞーーー!!」
その日の夕方、ついに俺は全ての課題を終わらせることに成功した。
他の奴らは少し前に終わっていて案の定、俺が一番終わるのが遅かったけど杏と鈴香は最後まで俺に教えてくれた。
課題を終えた瞬間、俺はこれまでの疲労を打ち消すかのような達成感で満ち溢れていた。
長く苦しい戦いだった。
何度も折れそうになった、挫けそうになった。
だけど俺たちは勝ったんだ!
俺たちの夏を邪魔する課題という名の敵に!
周りを見ると、やはりみんな疲労困憊の様子だ。
この三日間ほとんど勉強していたし、杏と鈴香に関しては俺に教えていたわけだから俺より何倍も体力を使っただろう。
「杏、鈴香ありがとう!お前らいなかったら目標は達成されなかった。感謝してる」
「ひろくんもお疲れ様。良く頑張ったわね」
「宏人にしては良くやったほうだわ」
「この後は親父が飯作ってくれてるから、少し休んだら食いに行こう。何でも張り切って作ったらしいから期待していいぞ!」
俺からのささやかなお礼だ。
こいつらには散々迷惑をかけたから今日は目一杯食べてもらおう。
まぁ俺が料理を作るわけじゃないけど…
しばらく休憩したのち、俺たちは夕飯を食べるために親父が営み店の方に来ていたのだが、
「…な、なんだこれ?」
そこには俺の想像以上の光景が広がっていた。
いくつものテーブルに所狭しと沢山の料理が並べられていたて、厨房の方からはまだ何かを作っている音が聞こえる。
あれ?いつから親父の店はバイキング形式になったんだ?
「すごいわね…」
「これ全部、私たちのかしら?」
「おお、どれもうまそうだな!!」
杏と鈴香は目の前の料理の量に驚きを隠せずいたが、
この光景にも動じない亮介は実は大物なのかもしれないな…
パッと見た感じでは四人で食う量よりも遥かに多いと思うし、
亮介以外のやつがこの光景に若干引き気味になっていると、厨房から親父が出てきた。
「みんな勉強お疲れさん!あと2、3品作るからちょっと待っててくれ」
「待つのはお前だバカ親父!」
俺は新たに料理を作りに行こうとする親父に待ったをかける。
「なんだこの量は!?誰がどう見てもおかしいだろ!?」
「悪い、確かにちょっと肉料理が多いかもしれないな。サラダを追加したほうがいいか…」
「バランスのこと言ってんじゃねぇよ!根本的な量のこと言ってんだよ!」
確かに、肉料理が多いがこの光景の前ではそんなのは些細なことだ。
ホント何考えてるんだ…
「こんなに作ってどうすんだよ!絶対俺たちだけじゃ食いきれないぞ!」
「今日で最後って聞いたから父さん張り切っちゃってな。育ち盛りなんだから平気だろ」
「高校生の胃袋を過信しすぎだ!!」
「まぁまぁ落ち着けよヒロ。親父さんも良かれと思って作ってくれたんだから」
「そうよヒロくん。あまり文句を言うと可愛そうよ」
そう言って亮介が親父に文句を言う俺を宥めてくる。
確かに親父に悪意は無いと思うが限度があるだろ。
残ったら全部親父に食わせよう。
「ったく…。お前ら無理せずに食えるだけ食えばいいからな」
こいつらも出された手前残すのは悪いと思うかもしれないが、いかんせん量が量だ。
無理して食べて腹でも壊したら申し訳なさすぎる。
俺がそう言って席に着くと、みんなもそれに続き席に座った。
バカ親父の作った料理はとても一つのテーブルには乗りきらないから、俺が言った通りバイキング形式で各々が好きな料理を盛り付け食べていた。
腐っても料理人の親父の料理の味はなかなかの物だと思うがいかんせん料理の腕以外が残念すぎる。
特に頭が…
しばらくは今日の残りが秋元家の食卓に並ぶんだろうなと考えていると、鈴香が口を開いた。
「ところで宏人。課題も終わったことだし今後の予定を決めたほうがいいんじゃない?」
「あーそうだな」
課題は終わらせたからこれでなんの憂いもなく夏休みを満喫できる。
予定を決めずに思いつきで行動するのもまた面白いと思うけど、しっかり予定を決めて計画するほうが効率的だろう。
それぞれ他の予定もあると思うし。
「じゃあ何かやりたいことあるか?」
俺の問いに真っ先に答えたのは亮介だった。
「海でも川でもいいけど俺は泳ぎたいな。最近やたらと暑いし、ついでにバーベキューでも出来たら楽しいんじゃないか」
「ほう、悪くないな」
やっぱり夏といえば海や川だろう。
さらにバーベキューをやるとなると想像するだけで楽しいのが分かる。
けど、問題もあるんだよなぁ…
「バーベキューをやるとなると海はちょっと厳しいじゃないか?道具とか持ってくの大変だろ」
残念なことに俺たちの住んでいる県は海がない。
となると距離的に海に行くとすると車か電車で行くしかない。
当然、高校生の俺たちに車など運転できるわけないから行くなら電車だろう。
そうなると、どうしても荷物が多くなり電車で移動するのも一苦労だ。
移動だけで疲れ切ってしまうのが目に見えている。
「宏人にしてはまともな意見ね…。けど川でも同じじゃない?距離は近くなるけどバーベキューやるならどのみち道具は増えるわよ」
「そうだよなぁ…」
鈴香の意見はもっともだ。
バーベキューをやるなら荷物の問題は避けては通れない。
車を出してくれる人がいればいいんだけど、俺の両親は店があるし、他の奴らの親にも迷惑をかけるのは気が引ける。
「バーベキューは別の日に回すか…」
「まぁ、そうだな。それしかないな」
現実的に考えてそうするしかないだろう。
そう結論に達すると、俺たちに救いの神が現れた。
「じゃあ私の家の別荘に来る?」
「…!?」
べ、別荘だと…。
確かに杏の家だったら別荘くらい持ってそうだけど。
「杏、いいのか?」
「ええ。そこならプライベートビーチもあるから泳ぐこともできるし、バーベキューの道具も現地にあると思うから荷物も最低限で大丈夫よ」
「プ、プライベートビーチ…」
マジかよ…
プライベートビーチなんてテレビの中の話だと思っていたけど持ってる人がこんな身近にいるとは…
庶民の俺たちには馴染みのないワード達に唖然としてしまう。
「けど高校生だけで外泊なんてみんなの親は許してくれるかな?」
外泊といえば今回の勉強会でもそうだけど、それは俺の家でやっていたし、親父達がいたから杏達の親も許可したのだろう。
「私の家のメイドさんに付いてきてもらえば問題ないわ。行き帰りもメイドさんにお願いすれば車を出してもらえると思うわ」
メイドさん…
杏はどこまでも俺たちとは違う世界に住んでいるようだ…
そこまで至れり尽くせりの条件なら俺たちとしては断る理由ない。
というか杏の靴を舐めてでも懇願するべきだ。
「杏様!どうか哀れな俺たちを別荘に連れてってください!」
「だから最初からそのつもりなのだけど…。三田村さん達もそれでいいかしら?」
「倉科さんがいいなら俺も行きたいな。プライベートビーチなんて滅多に行けないだろうし楽しみだ。ちなみに
「ええ、大丈夫よ。一人増えるくらいなら問題ないわ」
亮介は参加の意思を示した。
別荘ってそんな広いのか。
俺の中の期待がどんどんと膨らんでいく。
「それで…、三田村さんはどうかしら?私としてもあなたにはきて欲しいのだけれど」
「倉科さんは私が行くと都合が悪いんじゃない?」
「仲間外れみたいな真似はしないわ。あなたとは正々堂々勝負するつもりよ」
おいおい、勝負って…
こいつら決闘でもするつもりなのか!?
誰にも見られないようにするためにプライベートビーチに行くんじゃないよね…?
「そう。じゃあ私もお邪魔しようかしら」
不穏な会話が気になるが鈴香も参加するようだ。
今の会話から今回の勉強会では二人の仲は縮まらなかったようだ。
なんとかこのイベントで仲が縮まればいいんだけど。
見た感じなかなか難しそうだけど…
「杏。行く日にちだけど、来週あたりはどうだ?流石に今週はみんな疲れてるだろうし」
「お父さんに確認しなくちゃいけないけど、多分使う予定は無いと思うからいつでもいいわ」
「じゃあ確認取れたらまた教えてくれ」
これでひとまずの予定は決まった。
それにしても別荘にプライベートビーチか。
それだけでも楽しみなのに、それをこいつらと一緒に行けるなんて間違いなくいい思い出になるだろう。
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