第29話 勉強会1日目
メンバーが全員揃い早速勉強会が始まると思ったが、その前に
案の定、杏が鈴香も泊まると知ったときに若干空気がピリついたけど…
佳純は行く必要ないのだが、佳純としても鈴香に泊まって欲しいらしく親父が渋ったときの援護役として駆り出されていた。
そして今、リビングには俺と亮介の二人で待機しているわけだが、
「今年の勉強会は面白くなりそうだな。みんなで泊まるなんて合宿みたいで」
亮介が能天気なことを言い出した。
こいつは女子と一緒に泊まるってことに何も疑問がないのか?
これがモテる男との差なのか?女子に慣れている男の余裕なのか?
「まだあいつらが泊まると決まった訳じゃないけどな。親父が許したらの話だ」
いくら佳純の援護があるとはいえ、分別のある大人からしたら高校生の男女が一緒に泊まるということには難色を示すのが普通であろう。
「許可しそうだけどな。ヒロの親父さん、鈴香や佳純ちゃんに甘いし。頼まれたら断れないんじゃないか?」
ぐっ…、確かに…
親父は佳純には絶対服従だし、鈴香達のことを相当気に入ってる。
それは去年で分かっていることだし、何より今年も勉強会をやると報告したときの気持ち悪い反応からして明らかだ。
そう考えたときに親父が許可を出すのが容易に想像できてしまう。
「まったく…、なんであいつらいきなりこんな事言い出したんだろうな。」
鈴香の言った通り、俺に教えるためにそう言い出したかもしれないし、単純にみんなで泊まりたかったのかもしれない。
「ヒロ…。お前が鈍感なのは知ってるけどここまで重症だと思わなかった…。鈴香たちが可哀想になってくるわ…」
亮介が小さくため息を吐き、やれやれといった様子でそういった。
俺も自分の鈍感さは結構自覚している。
実際に杏の好意にはまったく気付いていなかったわけだし。
けど、いざ人から言われるとイラっとするな。
「なんだよ。お前は杏や鈴香の考えが分かってんのか?」
「全部ではないけど、ヒロよりは分かってると思うよ」
亮介の表情からして嘘を言っているような感じはしない。
言葉通り、亮介には俺が分からないことが多少なりとも分かっているのだろう。
「じゃあお前の考えを教えてみろよ」
俺がそのことについて質問すると、
「少なくともそれは俺が言うべきことじゃないと思う。ヒロが自分で気づくのが一番いいしな」
亮介は俺の疑問に答える気はないらしい。
だが、そう亮介が言うということはそれなりに意味のある事なんだろうと予想がつく。
杏と鈴香が泊まりたいと言い出した理由。
杏については鈍感な俺でもなんとなく分かる。
以前から言っているアプローチの一つと考えることが自然だろう。
だが鈴香の方はどうだ?
杏と同じ考えをするなら、鈴香も俺にアプローチしているということだけど、そんな単純なことでもないのだろう。
第一、その結論に至るには鈴香が俺に好意を持っていることが前提となる。
だからこの結論はあり得ない。
ただ泊まりたかったなどの単純な理由ならいくらでも考えることができるけど、どれも正解とは思えない。
「またヒロは頭悪いくせに小難しいこと考えてんのか…」
「一言余計だ!!」
こいつは俺を罵倒しなければ会話ができないのか?
その後、亮介といつもみたいにギャアギャアと言い合っていると杏たちが戻ってきた。
「お待たせ。佳純さんの口添えのおかげでお父様は許してくれたわ」
「……」
予想通りに親父は杏達に説き伏せられたらしい…
どこまでも情けない親父だ。
「とは言っても条件はあるけどね」
親父が出した条件とやらを聞いてみると、どうやら泊まるにあたり、いろいろと約束事が決められたみたいだ。
その条件も高校生として節度を守るとか、羽目を外しすぎないだとか当たり前のことだけど。
まぁ、それさえ守れば親父達に迷惑はかからないだろうし、変なことにもならないだろう。
「じゃあ大体決まったとこで早速課題を始めようぜ」
とりあえずこの勉強会の目的は夏休みの課題を終わらせることだ。
早く始めればその分早く終わるし、当然遊べる時間も長くなる。
俺がそう声をかけると、各々テーブルに移動する。
俺の家のテーブルは充分四人で勉強出来る大きさはあるが、一辺の長さからして二人ずつ分かれて対面に座ることとなる。
俺は何も考えずにいつも自分の席に座ると、鈴香が隣にやってきた。
「私は宏人に教えないといけないから隣の方に座った方がいいわね」
鈴香はそう言って俺の隣に座ろうとした。
別に対面に座っていてもそんな距離がある訳でもないから問題なのだけど、鈴香がそう言うんだったら教えられる側の俺からしたら文句はない。
「ちょっと待ちなさい!」
杏から待ったの声がかかった。
杏の表情や語気の強さからどうやら不満があるらしい。
まだなんか問題あるのかよ…
「何勝手に決めているのかしら?ヒロくんの隣は彼女である私の指定席よ」
杏が席順について異を唱えた。
すると杏と鈴香がどうでもいいことで争い始めた。
その姿はまるで普段の俺と亮介の言い合いのようだ。
…周りからはこんな風に見えてるのか、これからは少し自重しよう…。
教えてもらう立場の俺からは強くは言えないけど、何でもいいから早く始めたい…
「もうジャンケンでいいんじゃないか…」
二人は俺の案になんとか乗ってくれて四人でグーパーのペア決めをすることになった。
ーーーその結果、俺の隣は亮介となった。
まぁ俺としてはこれが一番平和的な席順なんじゃないかと思う。
決まったときの杏と鈴香のなんとも言えない表情が印象的だったが。
そしてやっと勉強会が始まることになった。
まだ勉強会が始まってもいないのにどっと疲れた気がするのは気のせいじゃないだろう。
その後の勉強会は比較的スムーズに進んだ。
杏が対面に座っているということもあり、例のアプローチもそこまでなかった。
杏の今までの行動からして勉強を教えることにかこつけていろいろアプローチしてくると思ったからこの席配置はありがたい。
アプローチされながら教えてもらうなんて、勉強に身が入るはずもないからな。
午前中から始めたこともあって課題の三分の一ほど進めることができた。
このペースだと3日間くらいあれば終わらせることができるだろう。
「みんなありがとう!この出来の悪い息子のために勉強を教えてくれて!さぁ、好きなだけ食べてくれ」
そして今、夕食の時間になり店を終えた親父たちもやって来て夕飯を食べているところだ。
さすがにこの大人数で家のリビングで食べるには少し狭いから店の方で食べることになった。
別に自分たちで勝手に済ますと言ったのだけど、「俺だってみんなと話したい」と親父が駄々をこね散らかしたので仕方なく俺の家族も一緒に食べることになった。
「すいません。今年も夕飯までご馳走になってしまって…」
「気にするなよ。鈴香ちゃんはもう娘みたいなもんなんだから。なんならパパって呼んでくれてもいいんだよ?」
「やっぱ、ヒロの親父さんのメシはうまいなぁ〜」
「おっ?嬉しいこと言ってくれるじゃないか!ほら、これも食え!」
「杏ちゃんも遠慮しないでどんどん食えよ!」
「はい、ありがとうございますお父様」
「こんな美男美女がいると食卓が華やかになるな!みんなもういっそうちの子になるか?」
「いい年こいてハシャぐんじゃねぇ!!恥ずかしいだろ!」
親父はよほど杏たちと話したかったのかいつもの三割増でテンションが高い。
うざったいことこの上なしだな。
すると親父の視線が俺に移った。
「それにしても宏人、大丈夫か?こんな美男美女の中にお前がいたら浮くだろ?劣等感半端ないだろ?」
「やかましい!それが息子に言うセリフか!?」
「もしかして新手のいじめかもしれないな?悩んでるんだったらお父さんに言ってみろ」
「余計なお世話だ、このハゲ親父!!」
「みんなの前でハゲって言うな。誤解されるだろ!」
「誤解もクソもあるか!紛れもない事実だ!!」
「今日という今日は許さん!宏人、表に出ろ!」
「上等だ!」
そう言って、俺たちが立ち上がると、
「「うるさい!!」」
「「はい、すいません」」
いつも通りのお袋と佳純の叱責で俺と親父の言い合いは終了した。
我が家の男は友人の前でもこの二人には逆らえない。
出来れば、俺のイメージの為にも人前で叱るのはやめてほしいのだが…
俺と親父が沈黙したのを確信してお袋と佳純は話し始めた。
「騒がしくてごめんね。この人たちすぐに調子に乗るから」
「ヒロが調子に乗るのはいつものことですから」
おい、少しはフォローをしろ。
お前も同じようなもんだろ!
「鈴香さん、明日は私に教えて!」
「うん。もちろんいいよ」
俺も佳純に勉強教えたいのに。
教えられる自信はないけど…
その後は各々が思い思いの話題に花を咲かせ夕飯は進んでいった。
食事と風呂を終えてまた少し勉強を進めていると、時刻は午前0時を回ろうとしていた。
ちなみに風呂はみんなで近くの銭湯に行った。
佳純もついて来たところを見ると本当に鈴香たちを気に入ってるんだなぁと思う。
羨ましい…
「ふぅ。今日のことはこれくらいにしとくか」
流石にみんな朝からずっと勉強していてみんな疲れているのか、異論は上がらない。
明日も朝から課題を進める予定だから睡眠はしっかり取る方がいいだろう。
「じゃあ、杏と鈴香は客間に布団出してあるからそこを使ってくれ」
杏と鈴香には客間で寝てもらう予定で、男である亮介を杏たちと一緒の場所で寝かせるわけにもいかないから亮介は俺の部屋で寝させるつもり
そりの合わない杏と鈴香を二人きりにするのは少し心配だがこればかりは仕方がない。
ガールズトークでもして仲良くなってもらいたいものだ。
「じゃあ明日もよろしくな。部屋のものは好きに使っていいから」
「おやすみなさい」
そう言って俺は客間を後にして、自室に向かった。
俺の部屋ではすでに亮介が布団を敷いており、もう寝る準備が出来ている様子だった。
「よし、俺たちも寝るか」
そう言って俺は電気を消し、自分のベッドに横になる。
俺も疲れていたのか、ものの数分で睡魔が襲ってくる。
『そう言えば、結局杏たちの考えは分からないままだな』
今日一日、特に変わったことは無かった。
杏も鈴香も俺が質問すると
俺の考えすぎと思いたくもなるけど、亮介の言い方からして確実に何か意図があるのだろう。
『まだ初日だしこれから分かるかもしれないけど』
いつまでも考えていても仕方ない。
とりあえずは今は課題を終わらせることが最優先だ。
教えてもらう立場の俺が一番負担をかけている上に寝不足だったら目も当てられない。
全ては夏を満喫するために。
そう思っているうちに俺は夢の世界に旅立った。
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