第25話 モテ期!?
朝のHRが終わり、通常授業に移る。
俺としては久しぶりの授業に感じたけど、数日休んでいただけだから、大して分からないところもなく進んでいった。
問題があるとしたら、体育の授業に参加できないことだろう。
俺は運動は好きな方だから、みんなが楽しそうにしてる中、見学するのは退屈だったがこればっかりは仕方ない。
そんなこんなで午前の授業が終わり、昼休みがやってきた。
「ヒロくん、お昼食べましょう」
「おう。そうだな」
4時間目を終えるチャイムが鳴り響き、授業が終わった瞬間に
そしていつも通り、屋上に向かうべく弁当を持って席を立ち上がる。
「ヒロ!俺たちも行っていいか?」
二人の手には弁当が握られており、ついてくる気満々の様子だ。
「まぁいいけど…」
俺が特に深く考えることなくそう返事をすると、
「……」
…杏から無言の圧力を感じる。
俺としては別に亮介達がいてもいいのだけど、杏としては思うところがあるらしい。
というか、おそらく杏は俺と二人で食べたいみたいだけど、亮介達にはあの騒動で世話になったから
「杏もそれでいいか?」
「……………ええ」
間が気になるが一応了承してくれたみたいだ。
俺としてはこうゆうことをきっかけに亮介や鈴香と少しでも仲良くなってほしいと思う。
特に、杏と鈴香はあまり仲が良くないみたいだからなおさらだ。
「じゃあ行くか」
「俺は
すると亮介は足早に教室を出ていった。
真帆さんも来るなんて聞いてないんだが、今更一人増えたところで変わらないからいいか。
「じゃあ俺たちも行くか」
そう言って俺が振り向くと、
「「……」」
杏と鈴香がまるで決闘をするかのように無言で向かい合っていた。
まるで一触即発な雰囲気を感じる。
おい、なんでものの数分のうちに、それも無言でそんな雰囲気になるんだ!?
お前ら、仲悪すぎだろ!?
「三田村さん。何を
「別に?私は友達とお昼を一緒に食べようと思ってるだけよ」
「そう…。なら何もしないということかしら?」
「そうとも限らないわよ。私も"覚悟"を決めたから…」
こわいよぉ…。二人ともこわいよぉ…。
二人は冷たい目で敵意丸出しな様子で話している。
早く止めないと、楽しい昼休みが血みどろの修羅場になってしまう。
「お、おいお前ら。少しは仲良く…」
「「誰のせいだと思ってるのよ!」」
だから俺のせいじゃねぇだろ!?
お前らの仲の悪さを人のせいにするな!
だが、二人の戦士に
ならばここは戦略的撤退なら移るとしよう。
俺は二人に気づかれないように、ソロリソロリと二人から距離をとる。
「待ちなさい!」
俺の撤退に目ざとく気づいた杏が声を上げる。
くそっ!失敗した!
「なんでしょうか…?」
「ヒロくんは私と三田村さん、どちらと屋上に行きたいのかしら?」
杏からとんでもない質問が飛んできた。
何の意味があるんだその質問は…
どうせ目的地は一緒なんだから別にみんなで行けばいいだろ…
「もちろん彼女である私よね?」
「ひ、宏人。私だよね?」
この二人はそんなことでなに張り合ってるんだ…
セリフだけ見たら二人の女子が俺のことを奪い合っているように見えるかもしれない。
なに?ついに俺にモテ期が来たの?
そう勘違いしたくもなるが、杏はともかく鈴香は意地を張ってるだけだと思う。
それに実際は圧迫面接顔負けのプレッシャーだ。
「……二人で行けよ」
俺はそう言い残し、腹の傷などお構いなしに一目散に逃げ出した。
どう答えてもめんどくさいことになるのは目に見えている。
ならばここは強行突破するしかない。
「あっ!ヒロくん!」
「こら!待ちなさい!」
二人の声が聞こえてくるが待てと言われて待つ俺ではない。
「ぐぎぎっ…、秋元のやろう…。見せびらかせやがって…」
「倉科さんに続いて三田村さんまでも奴の毒牙に!!う、羨ましい…」
「あいつ!生かしちゃおけねぇ!美女を
去り際に男子どもの
あいつらの目は節穴か!?俺がいつ侍らした!?
俺は今、生と死の瀬戸際だぞ!
まぁ、あのバカどもの言葉など真面目に捉えてなんていられないけど。
そう思いながら、俺は屋上を目指し走っていった。
俺は命からがら修羅場を脱出して、何とか無事に屋上へとたどり着いた。
まぁ、あの場を脱出しても結局は杏と鈴香は屋上に来るから問題の先送りでしかないけど。
だが逃げた手前、何か言い訳を考えておかないと俺の身が危ない。
必死に何か案を考えていたが、無情にも屋上の扉がギギッと音を立てて開いた。
俺は自分の死期を悟り、せめてもの慈悲をもらえるよう目を閉じて祈りのポーズで二人を迎えた。
「ヒロ…。お前、何やってるんだ…」
予想外の声に目を開くと、そこには亮介と真帆さんが立っていた。
俺のポーズに亮介は呆れて、真帆さんは心底困惑している様子だ。
「あれ?杏と鈴香は?」
「俺は見てないぞ。ヒロと一緒じゃないのか?」
亮介の様子を見る限り、あの二人はまだ来てないらしい。
教室から真っ直ぐ屋上に向かえば亮介より遅いってことはないはずだけど。
寄り道でもしてるのか?
あれか!女子の「一緒にトイレ行こ」って謎の連れションイベントか!
あれは仲の良いもの同士で行うイベントと聞いたことがある。
二人は俺の言葉を聞いて歩み寄ってくれたんだな!
「今頃、仲良くお花摘んでるんだろ」
俺がウキウキでそう答えると、
「ヒロ、デリカシーって知ってるか…?」
亮介が哀れみの視線を向け、横の真帆さんはあはは…と愛想笑いをしている。
「お前には分からないんだろうけど、これは喜ばしいことなんだぞ!」
「お前、お花摘みが喜ばしいって…。お前、やっぱりおかしいな…」
亮介が再度哀れみの視線を向け、真帆さんは愛想笑いも出来ないほどドン引いている。
どうやら別の意味で捉えているらしい…
今思ったら、真帆さんには引かれたばかりだな…
何とか名誉挽回しなければいけないと思っていると、
「ヒロくん。お待たせ」
その声に振り返ると、杏と鈴香がやってきた。
二人からはさっきの殺伐とした雰囲気はなくなっていた。
ほら見ろ!やっぱりお花摘みで仲良くなってるじゃねぇか!
「遅かったな。どこ行ってたんだ?」
「ええ、ちょっとね…」
杏はどこかはぐらかすように答えた。
やっぱ亮介の言う通りお花摘みを聞くことはデリカシーのないことなのか?
まぁ、言いたくないことを無理に聞くつもりもない。
「じゃあ早く食おうぜ」
俺の言葉を皮切りに各々が弁当を取り出し、楽しい昼飯の時間が始まった。
だけどその時の俺は気付いていなかった。
修羅場はまだ終わっていないということを…
ーーーーーーーーーーー
時は少し
とある階段の踊り場には二人の女子生徒がいた。
二人の間には誰も近づけないようなピリピリとした雰囲気があった。
「三田村さん、覚悟を決めたってどうゆう意味?
これから何をするつもりなの?」
杏は鈴香に問いかける。
先程の鈴香の発言に思うこともがあったからこそ、彼女を呼び止め話す場を設けたのだ。
とはいえ杏もその言葉の意味を分かっていて確認している。
「そのままの意味よ。これからは自分に素直になるわ」
「それはヒロくんにアプローチするってことかしら?」
杏は確信に触れた。
鈴香からは返事はなかったが、彼女の表情を見るに肯定の意味なのだろう。
「一つ確認なのだけど、三田村さんはヒロくんのことが好きなの?」
日頃の鈴香の振る舞いを見たらなんとなく分かるが、まだ鈴香の口からははっきり聞いてはいない。
それは今、はっきりさせたいと杏は思った。
その質問に鈴香は狼狽えたり、恥じらうことは一切せずに、
「ええ、好きよ。誰にも負けないくらいに私は宏人が好き。宏人と恋人同士になりたいと心から思っているわ」
薄々分かってはいたことだが、改めてはっきり言われると危機感が
杏はそれを鈴香に悟られないように、努めて冷静な口調で話を続ける。
「彼女がいる相手を堕とそうとするなんて褒められたことじゃないわね」
「あら?例の追加の契約内容忘れたのかしら?問題ないと思うのだけど」
「…確かにそうね」
杏も自分の発言の矛盾には気付いている。
これはただの牽制だ。
杏はつくづくあの時、鈴香に契約についての話を聞かれてしまったことが悔やむ。
だが、終わったことをいつまでもグチグチと言ってはいれない。
「私はもう決めたわ。私もずっと好きだったんだから…。このチャンスを逃したくない」
鈴香が語る口調や表情からは想いの強さが感じ取れる。
言葉の通り、鈴香からしたら降って湧いたチャンスだ。
たまたま契約について知ったことによって、諦めかけていた恋が叶うかもしれない。
だから、鈴香はこれからはなりふり構わず自分の願いを叶えるために行動するつもりだ。
鈴香の宏人への想いはそれほど大きいということなんだろう。
だが、それは杏も同じことだ。
宏人と接してきた時間は鈴香に劣るかもしれない。
けど宏人への想いの強さなら誰にも負けないと断言できる。
そして想いの強さが過ごした時間と比例しないことは杏は"身をもって"分かっている。
「あなたに言いたいことは、あなたが何をしようと文句は言わない。正々堂々と奪い合いましょう」
これは宣戦布告だ。
あるいはこれから争い合う相手に対してのせめてもの礼儀なのだろう。
「そうしてもられるとありがたいわ。倉科さんには悪いけど私、負けないから」
「私だって負けない。というか負けるなんてこれっぽっちも思っていないわ。必ずヒロくんと本当の恋人になってみせるわ」
お互いの意思を確認し合った二人はどこかスッキリしたように見える。
そして二人は想い人の待つ屋上に向かった。
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