第24話 帰ってきた日常?
翌日、俺はめでたく退院することとなった。
とはいえ、まだ傷口が完全には塞がっていないから激しい動きをするなと念を押されけど、学校に行くのも制限付きではあるが許可された。
とりあえずは週明けからの登校になるだろう。
そんな俺は二日ぶりの我が家に帰って来て、自室のベッドに寝転がっていた。
ここ数日、ホントにいろんなことがあった。
ストーカー事件は解決できたが、例の契約については多少の変化があった。
とりあえず、今の状況を整理してみよう。
まずは俺と
それについては俺が自分の意思で納得して決めたことだから文句はない。
しかし変わった点は、俺たちの契約に条件が一つ追加されたことだ。
その内容は、この契約中に俺に杏以外の人を好きになったら契約を解消しても良いというもの。
この内容は俺にとって都合の良いものだ。
なぜなら普通の青春を目指すのに、もう杏との男女交際契約はほぼ俺の障害とはならなくなったからだ。
俺は杏の彼氏だけど、他の女の子を好きになってもいい。
すなわち、この契約の行く末は俺の感情で決まるということになる。
本当なら喜ばしいことなんだが、そこで懸念が出てくる。
今まで普通の青春を追い求めて来たけど、俺はまだ実際に異性を本気で好きになったことがないと思う。
思うと言ったのはそうかもしれないことが昔あったからだ。
だけど、それは物心つく前の幼い頃のことだから、本気の恋愛感情ではないと思う。
それに杏からは偽りのない好意を伝えられた。
俺自身、今のところ杏への恋愛感情はないと思うし、この先、杏や他の異性を本気で好きになるかも分からない。
こればっかりは今、結論が出ることではない。
というか、一応契約は続いていて周りには俺と杏は恋人に思われ続ける状況だから、他の異性と接する機会も少なくなることだろう。
俺はとりあえずは今の状況に身を任せるしかない。
俺の気持ちがどうなるかは今の段階では俺自身も分からないのだから。
あっという間に土日が過ぎ去って月曜日がやってきた。
今日から俺は学校に復帰する。
俺はいつも通りの通学路をいつも通りに歩いて学校を目指していた。
ただ、いつもと違うのは杏がいないことだ。
あんな事件があった手前、杏の両親も一人で登校させるのは不安に思って、しばらくは車で登校することになったと杏から連絡がきたからだ。
杏は少々ごねたらしいが…
俺も一緒に乗って行かないかと誘われたが、さすがに悪いと思い断りを入れた。
だから俺はしばらくは一人の登校することになった。
そして、学校が近づいてくると同じ制服を着た生徒もチラホラと見えるようになってきて、いつものように俺に視線を向けている。
今日は一人での登校だから、視線も減るかと思ったけど、あの事件の噂がもう広まっているのか好奇の視線を感じる。
だが、杏といたときに多くの視線に晒され慣れた俺はもう動じない。
おそらく、今後どんなことがあっても鋼の心で動じずに対処できるだろう。
またひとつ成長してしまった。
どうやら俺の成長は留まることを知らないようだな…
自分の成長に感服していると、俺のことをチラチラ見てくる男子生徒からヒソヒソと話が聞こえてくる。
「おい、見てみろよ。あれが例の
「俺は女子のスカートをめくって刺されたって聞いたぞ」
「待て待て待て!!」
なんていう噂が流れているんだ!?
事実がねじ曲がりすぎだろ!?
あまりの言い草についツッコみを入れてしまうと、
「やばい!気付かれたぞ、逃げろ!」
そう言って彼らは走り去っていった。
俺と関わりのない生徒があんなことを言っているのだからおそらく、学校では事実無根の噂が広まっていることだろう。
しかも微妙に事実が混じっている分、全て間違いというわけでもとこが厄介だな…
おそらく多重人格というのは百面相時代のことで、スカートめくりは
「学校、行きたくねぇな…」
俺は心から呟いた。
だが、杏たちには週明けからの学校に行くと連絡してある。
ここで俺が行かなかったらまた余計な心配をかけてしまう恐れがあるから行くしかない。
俺はトボトボと足取り重く、学校を目指した。
俺は精神的に疲弊しつつ、なんとか学校までたどり着き、H組の教室までたどり着いた。
あれから、様々な生徒から変な目で見られて俺の精神はボロボロになっていた。
『これはいじめなのではないか?』
『出るとこ出たら俺が勝つんじゃないか?』
そんなことを思いつつ、悪いとこをしたわけじゃないから堂々としてればいいと結論を出し、俺は我が教室の扉を開けると、
「おい!秋元!俺たちはお前を見直したぞ!」
「お前にそんな度胸があるとは思わなかった!謝らせてくれ」
「お前こそ漢の中の漢だ!」
俺を見るなり、近づいてきた男子どもが口々に称賛の言葉を口にする。
いきなり称賛され、驚きつつ少し照れ臭くなる。
普段ロクなことしかしない奴らでもなんだかんだいって、やっぱり俺の味方なんだなと感動していると、
「「お前は俺たちの想像を超える変態だ!!」」
分かっていましたよ、どうせそんなことだと思ってましたよ…
仮にこいつらが本当のことを知っていたとしても、素直に俺を称賛すると思えない。
少しでも期待した俺が馬鹿だった…
「もうそれでいいよ…」
朝からいろいろ疲弊してもうツッコむ気力もない。
ワイワイ騒ぐ男子どもをかき分け、俺は自分の席へと向かう。
俺の席の周りには、
「おはよう、ヒロくん。体は大丈夫?」
「おう、安静にしてる分には平気だ」
真っ先に声をかけてきた杏にそう返事をする。
「ごめんなさい…。何か変な噂が広まってるみたいで…」
杏はそう言って申し訳なさげに表情を曇らせた。
「別に気にしてないぞ。ほっとけばそのうち消えるだろ」
本当は精神的にダメージを受けていたが、変に杏を落ち込ませる必要はない。
それに杏が襲われたという噂が広まるよりはこっちの方がいい。
杏もあんなことを大勢に知られたくないだろうし。
「それと一応報告なのだけど、あの男は退学になるそうよ…」
流石に刃物を持ち出して、強姦紛いのことをすれば当然そうなるし、同情の余地はない。
実際、俺は怪我したわけだし。
「そうか、ならひとまず一件落着だな」
これで今回の件は終わりだろう。
色々あったけど、とりあえず自体が収束して良かったと思う。
「鈴香と亮介もありがとな。助かったよ」
二人は今回の件に巻き込んでしまったし、いろいろ動いてくれたから礼を言うのが筋だろう。
杏も俺に続いて二人に頭を下げた。
「困った時はお互い様だろ。気にするなよ」
「そうよ。宏人にもいろいろと助けてもらってるからね」
「そう言ってもらえると助かる」
すると亮介がニヤリと悪い笑みを浮かべて、
「ヒロが珍しくカッコよく見えたな。普段は全然なのに。鈴香も惚れ直しただろ?」
「は、はぁ〜〜!?な、何言ってるの!?い、いつ私が宏人に惚れたって言うのよ!?」
「俺はヒロみたいに鈍感じゃないんだぞ」
亮介の言葉に鈴香があたふたと弁解する。
亮介からしたらいつもの軽口のつもりなんだろうが、杏からの視線が怖いからやめてほしい。
「まだ時間がかかりそうだな…」
亮介がため息混じりにそう呟くと鈴香がキッと亮介を睨みつける。
何のことを言っているから知らないけど、こうゆうやり取りを聞いていると、ようやくいつもの日常が戻ってきたことを実感する。
「おい、亮介。あんま鈴香をいじめてやるな。鈴香が惚れるのも無理はない。俺が男前すぎるのがいけないんだ」
「ははは!面白い冗談だな。病院で頭は直してもらえなかったか」
「やかましい!お前だけ見舞いに来なかったこと根に持ってるからな!この薄情ものが!」
「それを言うならヒロが俺を肉壁にしようとしたこと忘れてないからな。この薄情ものが!」
俺と亮介がギャアギャアと言い合う光景に周りのクラスメイトも「またこいつらか…」という視線を感じる。
それの視線にいつもの日常が戻ってきたとしみじみしてしまう。
俺が感慨にふけっていると、杏がいきなり暴挙に出た。
「私はヒロくんに惚れ直したわ。本当にカッコよかったわ。さすが私の彼氏ね」
そう言って、俺の腕にしがみついてきた。
近い、近い!!そして当たってる、当たってる!?
いきなり何なんだこいつは!?
朝っぱらから刺激が強すぎるだろ!?
チラリと周りを見渡すと案の定、男子どもが殺気に満ちた表情で俺のことを見ている。
あいつら、あのストーカー以上の殺気を放っている気がするのは気のせいだろうか…
「お、おい杏。あいつらを見てみろ。せっかく退院したのにまた病院送りにする気か!?」
俺が離れるように言うと、杏がさらに顔を近づけ耳元でささやいた。
「言ったでしょ。これからは覚悟しておいてって」
杏は早くもあの宣言を実行しているらしい。
どうやら杏は本気で俺を堕としにきている。
おいおい、こんなこと教室でしてたら俺は今度こそ奴らに殺られるぞ…
「いい加減離れなさい!朝から何やってるの!?」
鈴香が慌てて俺と杏を引き離す。
ナイスだ、鈴香!
ここ最近お前は本当にいい働きをしてくれるな!
「宏人…、前に言ったわよね。風紀を乱したら粛正するって…」
そう言って、おもむろにコンパスを出す鈴香。
おそらく以前のように俺を刺すつもりだろう。
だが、カッターで刺された俺にはコンパスごときではもう怯まない。
「俺は悪くないだろ!杏に言え、杏に!」
すると鈴香は杏の方を向き、
「
「あら?恋人同士のスキンシップよ。
「な、何で私が宏人にそんなことしなきゃいけないのよ!?」
杏は鈴香を挑発するような口調で言い、鈴香はアワアワして反論する。
お前らホント仲悪いな…
鈴香も何でそんなに焦ることがあるんだ。
ただの冗談だろ…
「お前ら、少しは仲良くしろよ…」
「「誰のせいだと思ってるの!!」」
二人の叱責がハモッた。
何で俺を責めるときだけ息ピッタリなんだ…
お前ら、実は仲良いのか?
少なくとも俺のせいではないと思うんだけど…
何でもかんでも俺のせいにするんじゃない。
だけどこの様子じゃあ、俺が何言っても逆効果だろう。
「亮介、何とかしてくれ…」
「俺に振らないでほしいし、俺もヒロが悪いと思うぞ」
なんでだよ!お前さっき困った時はお互い様って言ったじゃねぇか!俺に味方はいないのか!?
亮介に見放され、どう収集をつけるか考えていると、
「席つけよ〜」
いいタイミングで入ってきた担任の教師が着席を促した。
言い争っていた杏と鈴香も渋々ながら自分の席に座った。
今ほど担任に感謝したことはないだろう。
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