第18話 友達になった日
俺は
「なっ!うまいだろ?妹がうまいって教えてくれたんだ!」
正確には夕飯の時、
佳純としては俺に教える気なんてさらさら無かっただろうが些細なことだ。
もう少しお兄ちゃんとも会話しようよ…
鈴香はムスッと不満げな表情を浮かべ、無言でチビチビとクレープを頬張っている。
『奢ってやったんだからもっと嬉しそうに食えよ』と文句を言いそうになるが、強引に連れて来た手前あまり強気にはなれない。
ただ、その近くで嬉しそうにクレープを頬張る
この野郎、俺が鈴香に奢るのに便乗して俺に気づかれずに自分の分も注文しやがった…
そんなことを考えていると、これまで無言だった鈴香が口を開いた。
「秋元くん、あなた何のつもり?」
その視線には心底、俺の行動の意味が分からないという戸惑いが感じられる。
「俺は俺がやりたいことをやっただけだ」
俺の抽象的な答えに鈴香は表情を変える。
「だからそのやりたいことって何よ!」
鈴香は怒りを前面に出して俺を問い詰める。
いきなりあんな目立つように引っ張り出されれば流石に怒りもするか。
特に今の鈴香の現状を考えるとなおさらだ。
「だからさっき言っただろ?お前と仲良くなりたいって。それとお前の生き方ってやつを変えて欲しくないからだ」
「はっ?」
鈴香は俺の言葉を理解出来ていないようだ。
なら俺は紳士的に丁寧かつ分かりやすく教えてやるとしよう。
俺は鈴香に出来る限りの優しい口調で諭すように言葉を続ける。
「だいたいお前こそなんだ!この前はキメ顔で『私は変わらない。これが私の生き方よ』とか言っちゃってただろ!そこまでかっこつけといてなに簡単に
しまった!つい熱くなってしまった!
これまでの周りや鈴香への不満が爆発してしまった。
いきなり喧嘩腰で文句を言われた鈴香は一瞬怯んだように動きを止めたが、言われたことを理解して呼気を強めて反論する。
「別にキメ顔でなんてしてなかったじゃない!それに仕方ないでしょ!あんな噂を流されて私だって傷ついたのよ!そんな辛い思いするのなら生き方を変えるのは普通でしょ!」
「自分の言ったことに責任持ちやがれ!俺にあんなカッコつけといて恥ずかしくないのか!あの日の動画、ツイッターで拡散するぞ!#高校デビューで!」
「誰が高校デビューよ!何勝手に動画撮ってんのよ!消しなさい、今すぐに!」
「まあまあ、二人とも落ち着けよ」
亮介が言い争う俺たちを宥める。
何はともあれ亮介を連れてきたのは正解だったな。
俺と鈴香だけだったら収集がつかないところだった。
やっぱ亮介はいざというときに頼りになるな。
「なんだ、ヒロと三田村さんもう仲良いじゃん。相性も良さそうだし」
「どこがだ!!」
「どこがよ!!」
「ほらな」と亮介はカラカラと笑っている。
やっぱりこいつを連れてくるべきではなかった。
無駄な茶々を入れられるだけだ。
あとできっちりクレープ代を請求してやる。
俺と鈴香は一気に言い合ったからハァハァと息を切らしている。
そのおかげか俺は少し冷静さを取り戻し、話しを続ける。
「俺は他人のせいで何かを諦めたり変えたりするのが嫌いなんだ。自分がそうするのも嫌だし、誰かがそうするのも見ていて勘に触る」
「けれど今回のことは私の意思で決めたことよ…」
「それはお前の意思とは言えない。確かに生き方を変えるという決断はお前の意思だが、その原因は他人にある。しかもそれが悪意によってだったらなおさらお前の"本当の"意思とは言えないだろ。この前の放課後に俺に言ったことがお前の本当の意思だろ」
俺がそう言うと鈴香は俯いた。
多分俺の言ったこと図星だったようだ。
けれど鈴香の反応からして俺の言葉はちゃんと伝わったようだ。
すると鈴香は
「じ、じゃあどうしたらいいのよ!このままあんたの言う私の生き方を続けてももっと酷いことを言われるだけよ。そんなことを私は耐えられない…」
「私は何も悪いことをしてないのに…」と鈴香は悲痛な表情を浮かべる。
確かに、鈴香の生き方を変えなければもっと酷い嫌がらせに発展するかもしれない。
現状、誰が噂を流しているのか分からない状態だし、仮に犯人を見つけたとしても噂はもう充分に広まってしまっている。
一度ついてしまった鈴香の噂を消すことは大変なことだ。
第一、俺に犯人を見つけることも噂を消すことも出来ない。
俺にそんな力はないし、影響力もない。
だから…
「だから最初から言ってるだろ?お前と友達になりたいって」
「まぁお前と俺が仲良くなることでまたしょうもないことを言ってくる奴もいるかもしれない。けどそうなったらお前と一緒に怒ってやる、悲しんでやる、そして俺に出来ることなら何だってやってやる。友達ってそうゆうもんだろ?」
「正直、俺はそんな大層なことは出来ないけど一人で思い悩むよりは友達と悩んだ方が少しはマシじゃないか」
「だから俺と友達になってくれ!」
「……」
鈴香は俺の言葉にどう返答をしたらいいか迷っているようだ。
今言ったことは全て俺の勝手な言い分だ。
当然、鈴香は俺のような考えでは無いかもしれないから拒絶されても文句は言えない。
俺の提案を受け入れるか否かは全ては鈴香の意思で決まる。
「宏人は優しいなぁ〜。まぁその考えには俺も賛成かな。三田村さん、最近は俺たちから見てもしんどそうだったし。少しでも頼れる奴が多い方が気が楽になるんでじゃない?そういうことなら、もちろん俺も三田村さんと友達になりたいよ」
どうやら亮介も俺の意見に賛成のようだ。
亮介がそう言ってくれるのは俺的には嬉しいが、鈴香には他人の意見に流されて欲しくない。
「どうだ、お前の答えは?お前の意思で決めた答えを聞かせてくれ」
鈴香は薄ら目に涙を浮かべ、口を開いた。
「そんなこと言ってくれた人はあんたが初めてよ…」
鈴香はそう言うと、潤んだ瞳を俺の方に向けて、
「…なんであんたはそうゆう考えが出来るの?」
鈴香は疑問を投げかける。
俺がなんでこのような考えをしているのか鈴香としては疑問だろう。
俺のような考えが珍しいかどうかは俺には分からないけど。
「俺と友達になってくれたらいつか教えてやらんこともないな」
俺は嘘をついた。
俺がこうゆう考えをするきっかけとなった出来事は確かにある。
だが、それについては今のところ誰にも話すつもりはない。
それは大層なことでもないし、人に話すようなことでもない。
それにこれは俺と"あの子"の大切な思い出だ…
「もう…」
鈴香は少し呆れたように苦笑する。
そして涙が浮かんでいたサッと拭うと、
「分かったわよ。なってあげるわよあんたの言う"友達"に…」
上から目線が少し気になるけどまぁいいだろう。
若干、やけくそ気味に見えるけど照れ隠しだと信じよう…
「よろしくな、三田村!」
「…鈴香でいいわよ」
鈴香は少し頬を赤らめながらそう言った。
こうして俺たちは"友達"となった。
「じゃあ鈴香、少し待っててくれ。おい亮介!てめぇ、クレープ代返しやがれ!」
「おいおい、仲間外れは寂しいぞ。鈴香に奢るんだったら俺にも奢ってくれるよな。何たって俺たちは友達なんだからな」
「調子いいこと言ってんじゃねぇ!!」
鈴香は俺と亮介がギャアギャアと言い争っているのを見て、
「友達になる相手を間違えたかしら…」
鈴香は大きくため息をついた。
だけどその表情には以前のような笑みが少し戻ったような気がした。
それを見ることが出来ただけでも、俺が鈴香と友達になった価値はあるのだろうと思った。
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