第11話 嫌われ大作戦①


 このままではまずい……


 俺は今の現状に焦っていた。

あの契約を結んでから毎日、きょうと一緒に登校して、学校でもほぼ一緒に過ごしている。

この前は杏とデートに行って手までつなぐ事態になってしまった。

しかも俺もデートをそれなりに楽しんでいたのも事実だ。


 だがこれは俺の望んだ恋愛ではない。

契約で結ばれた契約は俺の望んだ普通の恋愛ではないはずだ。

早くこの例の契約をなんとかしないと…


 かく言う俺はまだ両親を説得できずにいた。

例の馬鹿げた契約を破棄するように何度も親父に言っているのだが、「もう話が進んじゃってるもん」と、ハムスターのようなつぶらな瞳で答えるばかりだ。

あのハゲ親父のつぶらな瞳とか吐き気がするのでやめてほしい。

あと、語尾に『もん』ってつけるんじゃねぇ。

いい年こいたおっさんが気持ち悪い。


 そんな無意味な話し合いが続いている時、俺は思い直した。

こんな親父をあてにすることが間違ってたんだ。

もう自分でこの契約を何とかするしかない。

でも問題はどうやって契約を破棄するかだ。

俺は考え抜いて一つの画期的な作戦を思いつく。

その作戦は…



 ずばり、杏から思いっきり嫌われることだ。

杏から徹底的に嫌われ、あっち側からこの契約を破棄してもらうしかない。



 だが嫌われると言ってもどうすればいいんだ?

契約を違反せずに嫌われる方法となるとなかなか難しい。

試しに亮介りょうすけに聞いてみたところ、

「俺、女子に好かれることはあっても嫌われたことないもん」と、全国の非モテ男子を敵にする発言が返ってきた。

その発言はクラスの男子どもにリークしておいたので、亮介はこれから夜道は歩けなくなるだろう。

当然の報いだ。


 仕方ないからネットで検索したら案外それっぽいのがヒットした。

ネットはこんなことまで教えてくれるのか。

ってか『女子からの嫌われ方』と検索した男子高校生は多分、全世界で俺だけだろう。

何が悲しくてこんなこと調べなければいけないんだ…

俺は悲しみに暮れながらある程度、ネットの意見を元に作戦を考えて実行に移すとした。




 その日もいつも通り杏と一緒に登校し、休み時間も杏が俺へと話しかけてくる。

 

「…ヒロくん、あなた変なものでも食べた?」


「そんなことないさ。いつも通りの好青年さ」


 俺は机の上に鏡を置いて髪の毛をいじりながら返事をした。

鏡に映る自分にうっとりとした表情を浮かべながらだ。


 そう、これが作戦その1、ナルシストだ。

ネットの先生が言うには、必要以上にカッコつけたり、鏡で自分の姿を確認するナルシスト男子は女子から嫌われると書いてあった。

それを今、実践しているのだ。

今日の朝だっていつもの倍以上の時間をかけて髪型を整えて、何度も鏡で確認もした。

佳純かすみに哀れみの目で見られながら…

その甲斐あってか、杏はポカンとしている。

よし、効いているぞ!


 近くでは亮介りょうすけ鈴香すずかがヒソヒソと陰口を叩いていた。


「ヒロのやつ、ここへきて高校デビューとはやるな」


宏人ひろと…前からおかしいとは思ったたけど、ここまでおかしいなんて…」


 おい、陰口は聞こえないとこで言え!

なに本人の前で堂々と悪口言ってるんだ!

だが、今かまっている暇はない。


「どうかな杏。こんな俺のことどう思う?」


「…まあ、あなたの頭が残念なことは分かっていたから今さら気にしても仕方ないわね…」


 なんか納得されてしまった。

おい、受け入れるんじゃねぇよ!

俺も頭おかしいことをやっている自覚はあるから。

頼むから俺のことを嫌ってくれ!


 だが杏は呆れながらも契約を破棄することなく作戦1は失敗に終わった。



 翌日の朝もいつも通り、杏は俺の家まで迎えにやって来た。

そんな杏に俺はさらなる作戦を引っげて立ち向かう。


「いえーい、杏ちゃん。おはよっす!今日もマジカワイイわーー」


「……」


 作戦その2、チャラ男。

チャラい男は嫌われる、これはもう世の中の摂理であろう。

服装も制服をこれまでかというほど着崩し、髪の毛は天に登るかのように逆立さかだてている。

今日も髪型を整えるのに凄まじく時間をかけたからな。

佳純に絶対零度の瞳で見つめられながら…


「杏ちゃ〜ん。どう?俺のこのマジヤバすぎな格好。マジイカしてるっしょ?イカしすぎてテヘペロって感じっしょ!」


 ちなみに言葉の意味は俺もよく分かっていない。

とりあえず昨日、動画サイトなどで調べたチャラい言葉を並べているだけだ。

このようにノリで話すのもチャラいだろう。


「…イカしてるというか、イカれてるわね。頭が…」


 よし!さすがに杏もイカれてることを分かってくれたようだ。

人から言われるのは傷つくが。

ここは杏にさらに嫌われるべくもっと押すべきだ。


「え〜、そんなことないっしょー!マジ流行はやりに乗りまくりだから。この格好、マジ映え散らかしてヤバイから!マジ卍って感じっしょ!」


 俺はここぞとばかりにチャラい言葉を連呼する。

もう一度言うが、俺も言葉の意味は分かっていない。

とりあえず、チャラそうで頭が悪そうな雰囲気で喋っているだけだ。

普段の俺は絶対にこんな頭が悪くない。


「あなたがいいと思うならいいけど…おすすめはしないわね。私は普通にヒロくんの方がいいと思うわ」


「まぁ、それはそれでヒロくんの新しい一面として考えておくわ」


 またもや、杏は納得してしまった。

待て!俺にこんな一面あるわけないだろ!

逆になぜお前はこんな彼氏を受け入れられるんだ!?


「ほら、行きましょう。遅刻してしまうわ」


「お前…マジヤバぽよだわ…」


 そうしてチャラ男作戦も失敗に終わった。

今日一日、クラスだけではなく学校中から白い目で見られたことは言わなくても分かるだろう。




 俺はそれから毎日のように杏から嫌われようと数々の作戦を実行した。

だが、杏は契約を破棄することはなかった。

なんだ、こいつは聖母なのか!?

何でもかんでも受け入れすぎだろ!

彼氏が毎日のようにキャラが変わっているのになぜ普通に付き合っていられるんだ!

最近の俺はクラスの連中から百面相ってあだ名で呼ばれてるんだぞ!

だが何をしても、杏の考えは変わることはなかった。


 そして俺は最終手段に踏み切ることを決意する。

この手だけは使いたくなかった。

だがもう手段を選んでいられない。

その禁断の作戦とは、



ーーースカートめくりだ!



 これをやられて嫌いにならないわけがない。

だって、高校生にもなってスカートめくりするやつと付き合いたいと思うか?

100人いたら100人がいなと答えるだろう。


 だがこの作戦はその後の俺の青春にも多大なダメージを受けることになる。

だって他の女子も高校生にもなってスカートめくりするやつと付き合いたいと思うか?

1000人いたら1000人が否と答えるだろう。


 しかし背に腹は変えられない。

今は杏から嫌われてこの契約を破棄してもらうことが最優先だ。

この後は後から全力でリカバリーすればいい。

俺は捨て身の作戦でこの意味が分からない契約を終わらせることを強く決意した。



 その日の午前中、俺は作戦をいつ実行するか考えていた。

まずは誰のスカートをめくるかだ。

普通に考えたら杏のスカートをめくるべきだとは思うが、杏の逆鱗げきりんに触れた時に俺の身が心配だ。

デットボールぐらいでは済まされないだろう。

最悪、秋元家全員が根絶やしにされるまである。

それはさすがに怖い。


 となれば、他の女子のスカートをめくるべきか…


 順当にいけば、候補は鈴香だろう。

鈴香とは普段から冗談などを言える関係でそれなりに親しいと思っている。

なんだかんだ言って許してくれると信じたい。

お詫びとして後から何か奢ってやればいい。

それでも足りなかったら土下座をして、絶対服従を誓えばいいだけの話だ。


 よし、ターゲットは鈴香に決めた。


 あとは作戦を実行するタイミングが大事だ。

さすがにクラスの奴がいる時に実行するのは罪悪感がある。

鈴香だってパンツなんて誰にも見られたくないだろう。

となると、最高なシチュエーションは俺と杏と鈴香の3人の時がベストだろう。

それについてはそんなに難しくない。

昼休みに杏と鈴香を飯に誘いでもしてどこかに連れ出せばいい。


 よし、これで作戦の大枠おおわくは決まったな。

…なんでスカートをめくることを真剣に考えねばならないんだ。

それもこれもあのハゲ親父のせいだ。

帰ったら、親父の育毛剤の中をドレッシングに変えてやる。

親父も料理人としてドレッシングを浴びてハゲるなら本望だろう。


 そう考えているとあっという間に午前の授業が全て終了した。

そして運命の昼休みがやって来た。

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