第10話 休日デート②


 その後はきょうと昼食を食べるべく近くにあったファミレスに入った。

俺は料理を食べつつ、気になっていたことを杏に聞いた。


「ところで今日はどこいくんだ?」


「あら、何のデートプランも立ててきてないの?あなた、私を楽しませるつもりはあるの?」


「デート自体、今日の朝にいきなり言われたんだよなぁ…」


 朝いきなり叩き起こされてきてやっただけでも感謝しろよ。

俺の休日を奪いやがって。


「まぁ、あなたはデートなんかした事ないと思うから今回は私がデートプランを考えてきてあげたわよ。あなたはデートなんかした事ないと思うから」


「なぜ二回言った!?」


 こいつはいちいち俺を傷つけなければいけないルールでもあるのか。


「万が一のことを考慮して聞くけど、今までデートしたことなんてないわよね」


「……"今は"ないかな…」


「…"今は"の使い方間違ってるわよ…この質問に"今は"をつけても、なんの誤魔化しにもならないわよ」


 は、はめられた…

なんて高度な誘導尋問なんだ…

まぁ、杏にはめる気は一切なかったと思うが。


「それは置いといて、今までデートしなことないのね」


 杏は嬉しそうに笑みを浮かべてそう言った、

いや、あの表情は嘲笑ちょうしょうと言った方がいいのか…

俺がデートしたことないのがそんなに嬉しいか!

今はたまたま機会がないだけだ!


「で、そのプランとやらを聞かせてくれ」


「とりあえず今日はモールに行こうかしら」


 モールとは、この地域に最近出来た複合ショッピングモールのことだ。

服屋、雑貨、ゲーセン、カラオケなど様々な施設が入っており地元では有名で人気が高く、休日には多くの人が訪れる場所だ。


「まぁ、無難なことだよな」


「なに?文句があるなら聞いてあげる。聞くだけだけど」


「なら文句ないよ」


「あらそう。私、モールってまだ行ったことないから楽しみだわ」


 モールなら俺は何度か行ったことがあり、大体どうゆう感じか分かっている。

分かっているからあまり乗り気ではないんだが、もういくしかないんだろうな。

杏は俺の意見を聞くだけだし…

そして昼食を終え、俺たちはモールに向かった。




「正直、舐めていたわ…」


 モールに到着して、中に入った杏はそうつぶやいた。

モールには多くの人がごった返していた。

これがプールなら芋洗い状態なのだろう。


「ほんとに行くのか?」


 もし行くならこの人混みをかき分けて進むしかない。

それが、お嬢様の杏に出来るのか?


「ふ、ふん。ここまで来て帰るなんてありえないわ。敵前逃亡は切腹に処す。これが倉科家のおきてなの」


 バカだろ倉科家…

一体なにと戦っているつもりなんだ…

頭のおかしい家訓であったり掟であったり大丈夫なのか?

けど俺がなにを言っても変わらないだろうなぁ。

俺の意見は聞くだけだし。


「まずはいろいろな店を見て回るわよ。私のセンスであなたを少しはマシにしてあげる」


 この人混みを歩くとなると気が参るがもうしょうがない。

すると、少し歩くだけでも人が多すぎてはぐれそうになる。

杏は人混みに慣れていないのか時折、肩をぶつけながら歩いていた。

なんとも危なっかしい光景だ。

それに見かねた俺は杏の手を取った。


「ほら、ちゃんとついてこいよ」


「あっ…、ふ、ふん。これで勝ったと思わないことね」


 だからなにと戦っているんだ。

だが、言葉とは裏腹に杏は俺の手を恥ずかしがりながら握りしめてくる。

ここまでくる時も手を繋いでいた訳だし今更恥ずかしがることもないだろうに。


「じゃあ、はぐれないように気を付けろよ」


 杏も俺となんて繋ぎたくないだろうが、ここは我慢して欲しい。

少し歩くだけでも一苦労なのに、はぐれてしまったらめんどくさいことになる。

それにそうなった時、杏が俺を嬉しそうに罵倒してくるのは目に見えている。

だからこれは仕方ないことだ。

俺は誰に対してか分からない言い訳をして、杏の手を取りながら歩いて行った。




 それからは杏が俺の服を選ぶなどと言って、服屋を何店も回ることになった。


「俺、正直そんな高い服買う余裕ないんだけど…」


「安心しなさい。とりあえずお店を回って気に入ったものと似ているものを安いお店で買うのよ。ユニクロなんかでも今は結構種類が豊富だから。日本の技術力に感謝しなさい」


 そうゆうことなら財布へのダメージも軽いだろう。

と言っても高校生の身には結構な痛手だが、そろそろ新しい服も欲しいと思っていたからよしとしよう。


「ヒロくんはどんな格好が好みなの?」


「いつも着ているのはシンプルなものばかりだな。

あまり派手やつとかゴテゴテしたのは好きじゃないな」


 「そうゆうことなら…」と呟いたあと、杏は服を探し始めた。

するとものの数分で、俺の服を見繕みつくろってきたみたいだ。


「これなんかどうかしら?」


 杏が持ってきたのは落ち着いた淡い色合いのシャツに黒いベストとジーンズというシンプルなものだった。

だが、ところどころに差し色が加えられていて服にに興味がない俺でもオシャレと分かるもので、なんとも俺好みの服だ。


「おお!なかなかかっこいいな!」


「ふふん、そうでしょう。私に任せておけば何も問題ないわ。とりあえず試着してみたら?」


 杏は自慢げにそう言うと、店員さんに一声かけて俺を試着したまで連れていった。

そして杏にうながされるままに服を着た。


『おお、なかなかいい感じだな』


 試着室の鏡で自分の姿を確認してそう思った。

杏のやつ、なかなかセンスあるじゃないか。

しかもこんな感じのやつなら安い店にもあるだろう。


「着替え終わったぞ」


 そう言って試着室の扉を開け、杏に感想を聞くべく姿を見せると、


「………」


 圧倒的な無言だった。

それに杏は呆気に取られてポカンとした表情をしている。

そんなに似合ってないのか!?

無言になるほどやばいのか!?

自分ではまあまあ似合っていると思うのに…


「お、おい、杏。どうなんだ?そんなにやばいのか?」


 すると杏はハッと我に返って、


「ふ、ふん。なかなかいいじゃない。馬子にも衣装、馬の耳に念仏とはこのことね」


 よかった…。

一応、褒めてくれているようだ。

後者のことわざはよく分からないが。

謎の馬縛りが気になるところだが。


「じゃあ、何の無言だよ。無駄に不安にさせやがって」


「うるさい!け、決して見惚れてた訳じゃないから!私好みのイケメンが私好みの格好して現れたから驚いた訳じゃないんだから!」


 何の話だ!

近くに好みの男子でもいたのか?

再度、問い詰めようとするが、


「それ以上聞いたら怒るから!デットボールくらいじゃ済まさないから!切り落とすから!」


 杏がわたわたと焦りながら、殺人予告をしてくる。

その表情には鬼気迫るものを感じる。

これ以上、聞くとほんとに殺されるだろう。

俺の大事な息子が…


「分かった、分かった。もう聞かない。じゃあ俺、着替えるから!」


 俺は逃げるように試着室の中に戻った。

外からはフーフーと杏の息づかいが聞こえる。

相当、気が立っているようだ。

俺、何も悪いことしてないよな…




 その後は別の店で試着した服に似ているものを安く買うことができた。

杏は先程の慌てっぷりが嘘のように落ち着きを取り戻していた。

あれは一体何だったんだ…?

殺人予告をされているからもう知る余地もないが。


「じゃあ次は私の買い物に付き合ってもらうわ。服とか雑貨を見たいのよね」


 今まで見た店は男ものばかりだったし、杏は俺の服を選んでいたから自分の服を見る時間はなかったのだろう。

さすがに今まで俺に付き合わせて、杏には付き合わないのは気が引ける。

まぁ、杏が言い出して俺の服を選んでたんだけど…

そして女子向けの店を回ることになった。


 そこからは杏のファッションショーだった。


「どうかしら?この服」


「似合ってるんじゃないか」


「素がいいから何でも似合うのは当然よ。けどありがとう。ヒロくんから褒められても嬉しくないけどありがとう。何か裏がありそうと疑うけどありがとう」


「感謝が全然伝わってこねぇよ!」


 俺が感想を言うと杏が罵倒しながらお礼?を言う流れが数回続いた。

そして次は雑貨屋に入った。

女性用の店の時も思ったがこうゆう店は苦手だ。

なんか男子がいてはいけない感じがするから。

なるべく杏から離れないように近くで見ていると、


「これ可愛いわね」


 杏が手にしていたのは水色のイヤリングだった。

こいつにも可愛いと思う心があったことに感心していると俺の中で考えが浮かぶ。

今日、杏は俺の服を選んでくれたが、俺は対して何もしていない。

そう思うとなんだか後ろめたい気持ちが出てくる。

チラッとイヤリングの値段を確認すると案外手頃な値段だった。


「それ、気に入ったのか?」


「ええ、まあ…」


「じゃあ買ってやるよ。俺の服選んでくれたお礼だ」


「いいわよ、別に…」


 そう渋る杏からイヤリングを奪い取り、レジに行き会計を済ます。


「ほら、プレゼントだ」


「……他のものが良かった…」


「おい、てめぇ!」


「ふふ、冗談よ。ありがとう。本当に嬉しいわ」


 そうゆうと小包こづつみからさっきのイヤリングを取り出して自分の耳につけた。


「どうかしら…?」


「おう、似合ってるぞ」


「ありがとう。大切にするわ」


 そう言うと杏は今まで見たことのない笑顔で礼を言った。

先程のように俺を茶化すような言葉は出てこなかった。

その姿を見て不覚にもドキッとしてしまったがすぐに頭から消す。


 だって俺たちは契約で恋人関係なだけだから。

そこに恋愛感情はないはずだから。


「じゃあそろそろ帰るか」


 杏の家には門限があると聞かされている。

そろそろ帰り始めないと間に合わないだろう。


「ええ、そうね…勝負下着を見せるのはまた今度ね」


「冗談だよな!?冗談と言ってくれ!」


 そんな会話をしながら俺たちは帰路に着く。

最終的に考えると今日のデートは案外悪くなかったなと思った。



     ※※※※※※※※※※※※※



『ヒロくん、かっこよかったなぁ。かっこよすぎてつい意識が飛んでしまったわ。なんとか誤魔化したけど大丈夫だったかしら…』


『まさかプレゼントまでもらえるなんて…一生の宝物だわ』


『これからもたくさんデートできればいいなぁ』

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