第9話 休日デート①
俺はそろそろ死ぬんじゃないか…
そのせいで、クラスだけではなく全校にまで噂が広まった。
『あの男嫌いの
それはさぞビックニュースだったことだろう。
杏といる時はもちろん、俺一人の時も視線を感じる。
そしてヒソヒソと話が聞こえてくる。
『おい見ろよ、あれが例の倉科さんの彼氏だぞ』
『なんか普通じゃない?』
『なんであんな奴が倉科さんと付き合ってるんだ?催眠術か?』
『いや、何か弱みを握っていて無理矢理付き合っているらしいぞ』
やかましいわ!
俺と杏が釣り合ってないことぐらい分かっとるわ!
そんな周りの視線に耐えつつ教室に入ると、
『おい、また秋元のやつ倉科さんと来たぞ』
『もう俺我慢の限界だ!沈めてやる!』
『待て!ここじゃ目撃者が多くいる。狙いは奴が一人の時だ。そこで確実に
クラスの男子からは、多くの殺意を向けられる。
俺に安らぎの場はないのか…
それに、杏のやつは休み時間になると毎回俺の席にやってきた。
その度に男子どもからの殺意に精神がやられる。
そして杏と話すたびに、後ろから
ちなみに刺すものはコンパスから三角定規に変わっていた。
刃物じゃないだけマシなんだが、それでも地味に痛いからやめて欲しい。
というか最近、鈴香の機嫌が悪い。
杏ともあまり仲良くないみたいだし。
誰にでも気さくに接する鈴香からしたら珍しいな。
鈴香はやけに杏に突っかかるし、杏は杏で売り言葉に買い言葉状態だ。
俺の精神のためにも二人には仲良くしてもらいたいところなんだが…
そんな1週間を終えて待ちに待った休日がやってきた。
ここ最近はいろんなことがありすぎて疲労が半端なかったからこの休日は目一杯ダラけよう。
そして今の状況の整理と今後の対策を考えよう。
こんな契約に
だが最近の俺はことごとく上手くいかない。
「デートをするわよ。11時に駅前に来なさい」
待ちに待った土曜日の朝9時、俺は杏からの着信で起こされた。
ちなみにあの契約を結んだとき、俺と杏は連絡先を交換したからそこに疑問はない。
「休日の朝に叩き起こしといて、よくそんな命令口調で言えるな」
「あら、私からのモーニングコールありがたく思いなさい」
「それが休みの日じゃなかったらな…」
こっちは昼まで寝ようと思ってたのになんで迷惑なやつだ。
「それでわかったかしら?11時に駅前に集合ね。
あと、とびっきりお洒落してきなさい。記念すべき初デートがみっともない服装だったら末代まで呪うわよ」
俺の子孫も先祖がダサかったから呪われるなんて想像もつかないだろう。
「まて!なんで俺が行く前提で話が進んでるんだ!?普通に嫌なんだけど」
「私とデートなんてお金を払ってまでお願いしてくる人もいると思うんだけど何が不満なの?」
すごい自信だな…
確かクラスの男子どもにはそういう奴もいそうだけど。
だけど俺は違う。
貴重な休日を邪魔されてたまるか!
「今日は家から出ないと決めている。だから諦めてくれ」
「契約書には"恋人らしく振る舞う"って書いてあるけど、これは契約違反じゃないかしら?」
……確かにそう書いてあったな。
「これは…ペナルティー実行ね♪」
「なぜ嬉しそうなんだ!なぜお前は仮にも彼氏をデットボールすることにノリノリなんだ!?」
「家にいるのよね?今から行くから汚れてもいい服に着替えといて」
「デートがいいです、杏さんとデートがしたいです!!」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」
俺はデートと息子を
どうやら俺に休みはないらしいな。
俺は仕方なく出かける準備に取りかかった。
俺は杏に言われた通りの時間前に待ち合わせ場所についた。
「そういえば詳しく場所を聞かなかったなぁ」
と言ってもこの駅はそう広くもなく見つけるのも難しくはないだろう。
最悪、杏に連絡しればいいだけだし。
そんな俺の心配は
俺が駅の改札から出ると、
「おい、あの子めっちゃ可愛くね?」
「声掛けてみようぜ」
「あれだけ可愛かったらもう彼氏ぐらいいるだろ」
そう道ゆく男性達の話し声が聞こえた。
その人たちの視線を追ってみるとそこには仮の彼女、倉科杏がいた。
白いワンピースがよく似合っていて、髪も毛先を少しウェーブされている。
お嬢様感がこれでもかという程に溢れ出ていて、
誰がどう見ても美少女がそこにはいた。
すると杏が俺に気づき近づいてきた。
「遅い!彼女を待たせるなんてどうゆうことよ!
遅刻はするなとあれほど言ったわよね!」
お嬢様感が一瞬で崩れ去った。
言われてねぇよ!それに、まだ集合時間より前だろ。
だが実際、俺が遅かったわけで待たせてしまったようだから文句は言わないでおこう…
「まったく…待ってる間、男達の視線に犯されている私の気持ちを考えてみなさい。
「そりゃ、お前がそんな可愛い格好してたら視線も集まるだろ」
ただでさえ綺麗な容姿の杏がこんな格好していれば視線が集まるのも無理はない。
すると杏はなにか戸惑った様子で、
「そ、そう…ま、まぁその通りね。無意識に周りを魅了する自分が恐ろしいわ。
……ヒロくんも可愛いって思ってくれたんだ…」
最後の方は小声でよく聞こえなかったが、杏の様子からすると怒ってるわけじゃなさそうなのでまぁいいだろう。
特に悪いことも言ってないしな。
「そ、それより、ヒロくん。その格好はなに?初デートはお洒落してきなさいって言ったはずだけど」
確かにそれは本当に言われた覚えがある。
そして俺は今、白シャツにジーパンという格好をしている。
俺は特にお洒落に興味はなく、おかしくなければいいという考えだから、シンプルなものしか持っていない。
けど、この服そんなにダメなのか…
結構気に入ってるんだけどなぁ…
「まぁ服はこれから買いにでも行けばいいからいいか…そんなことより勝負下着はしっかり履いてきたのよね?」
「履いてねぇよ!お前は今日、なにをするつもりなんだ!?」
勝負下着なんて持ってねぇよ。
いつも通りのパンツだよ!
それにしてもこいつはなにを考えてるんだ。
もしかして今日、大人の階段を登るつもりじゃないだろうな。
「お嬢様ジョークよ」
「お嬢様はそんなジョーク言わねぇよ!」
「ちなみに私の下着は上下白よ」
「聞きたくねぇよ!頼むからジョークって言ってくれ!」
なんで公衆の面前で下着の話ししなきゃ行けないんだ!
俺は話を変えるべく、
「とりあえずもう昼だしメシでも食べに行こうぜ」
「ええ、そうね」
そう言って歩き出そうとしたとき、杏が俺に向かって手を差し出してくる。
なんだ昼飯代の前払いか?
いや、分かったぞ!レンタル彼女という奴か!
テレビで見たことがあるけど、お金を払って1日デートするサービスがあるらしい。
そうかそうか、杏はレンタル彼女だったのか。
「あの…、いくらですか?」
「…はい?」
「だって料金の前払いだろ?」
ちゃんと値段を言ってもらわないと困る。
バイトもしてない俺が払える額などそう多くはない。
それとも言い値でいいのか?
「何のことか分からないけど、早く彼女をエスコートしなさい」
「は?」
エスコートってあれだろ、男性が女性にするかっこいいやつだろ。
普通の男子高校生はエスコートなんてしたことないと思うんだが。
エスコートってことはもしかして…
「その手は、手を繋げという意味ですか…?」
「それ以外に何があるの?」
いやいや、ハードル高すぎだろ。
今まで鈴香以外の女子と手を繋ぐどころか、遊びに行ったこともないのに。
「早くして。あまり女の子に恥をかかせるのじゃないわ」
そういう杏の頬は赤く染まっていた。
そうか、今日も契約だから恥ずかしいのを我慢して手を繋ごうとしてくれているのか。
だったら、俺がいつまで渋っているのもかっこ悪い。
「分かりましたよ、お嬢様」
「あっ…」
俺は覚悟を決めて杏の手を取った。
や、柔らかい…
女子の手ってこんなに柔らかいものなのか。
大丈夫かな、俺手汗とか大丈夫かな?
ベタベタで引かれたりしてないかな?
すると杏は満足げに数回うなずき、
「じゃあ行きましょうか」
そう言って俺たちは歩き出した。
まだ初デートは始まってもいない。
なのになんでこんなに体力を使っているのか…
今日も結局、疲れ果てて帰ることになるんだろうな…
※※※※※※※※※※※
「ひ、ひ、ヒロくんが私のこと可愛いって言ってくれた!!ああ、嬉しすぎて倒れそう!!」
『それに手も繋いでくれた!私、手汗とか大丈夫かしら…。けど勇気を出して踏み出した甲斐があったわ!!」
『けどまだデートは始まったばかり。これからもっと恋人らしいことしてやるんだから!』
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