第8話 波乱の席替え
俺はなんとかベルト固めを回避して、その後も男子どもの視線に
そして今日の授業最後のHRが始まった。
「じゃあ、席替え始めるぞ」
担任の教師がそう口にする。
そう。今日のHRは席替えが実施されるのだ。
新学期が始まって約3週間たってクラスの関係性もある程度固まってきた今、この席替えは重要だ。
「ついにこの時がやってきたぜ…」
俺はかねてからこの日を待ち望んでいた。
出席番号順では男どもとしか隣になることはない。
だから女子と隣になる可能性のある席替えは重要といえる。
「じゃあ出席番号順にくじを引きにこい」
俺の出席番号は二番。
ということは、くじはほとんど残っている。
ちなみに席は縦6列、横5列で教室の左前から縦に番号がふってある。
俺の狙いは窓際以外だったらどこでもいい。
左右に席があれば女子と隣になる確率も上がるだろう。
最近、悪いことしかなかったからな。
ここらで運も上向いてくるだろう。
俺は聞き手の右腕をくじ箱の中に入れる。
気分はドラフト会議の抽選だ。
『輝け、我が右手よ!!』
さすがに声は出していないが、一世一代の大勝負のつもりでくじを引いた。
そして、俺は二つに折り畳まれているくじをゆっくり開くと、
「……4番か…」
なんともいえない数字を引いてしまった。
後ろの方なのは個人的には嬉しいがまた窓際だ。
おい神よ、どうせならいいか悪いかにしろ!
こんな中途半端じゃリアクションに困るわ!
俺が神に文句を言っているうちにどんどん他の席が埋まっていく。
「またヒロと近いのか…これはもう運命感じるな…」
「うるせぇ!一回死んで女子になってから出直してこい!」
だが、こいつが彼女とイチャイチャしていたとき、すぐに報復を加えれると考えればまぁいいか。
そしてくじ引きが女子に移る。
幸い、まだ俺の横は埋まっていない。
ということはもう女子と隣になることが確定していた。
『神よ、やればできるじゃないか!』
神に祝福をして俺は天運を待つ。
すると杏がくじを引く番が回ってきた。
正直、杏とだけは隣になりたくない。
ただでさえ恋人とクラスに周知されていて男子どもは気が立っている。
そんな中、隣の席になろうものならまた報復ベルト固めの刑だろう。
杏がくじを引き、番号を確認すると俺へと近づいてくる。
その表情は無表情で感情が読めない。
「な、何番だったんだ?」
「…9番よ…」
死刑宣告だった。
最後の最後に神が俺を裏切っりやがった!
「はぁ、なんでこんな人と隣なのかしら…」
「おい、彼氏に向かってなんて言い草だ!」
杏は心底、嫌そうな顔をしている。
俺だって嫌だわ!
彼女が隣の席というのは普通喜ぶものなのだろうが、俺たちの関係は普通ではないからな。
そのことはとりあえず置いといて、今の問題は別にある。
男子どもは爆発寸前だ。
「秋元のやつ…、倉科さんと隣にになるなんて…
生きて帰れると思うなよ…」
「先生!くじに不正がありました!くじのやり直しと秋元の国外追放を要求します!」
案の定、男子どもは意味が分からないことを喚いている。
不正なんてしてねぇよ!
変われるもんなら変わってやりてぇわ!
あとなんだよ国外追放って!
なんで席替えで国替えしなきゃいけねぇんだ!
先生はそんな声に耳を貸さずにくじ引きが進んでいき、気づくと全ての席が確定していた。
「…
そう声をかけてきたのは
「なんだ?まさかお前も俺を追放しにきたのか!?」
「違うわよ!私、5番だったからあんたの後ろなの」
なんだって!?
俺の周り、知ってる奴しかいないじゃねぇか!
ここまできたら神が俺を青春を壊しにきているとしか思えない。
すると鈴香が俺と杏を見て、
「あんたが倉科さんと風紀を乱すことをしたら即、
「お前はいつから風紀委員になったんだ!」
「そう考えるとこの席も案外悪くないかもね。すぐ刺せるし」
「なにで刺すつもりだ!」
刃物でじゃないよね?
せめてシャープペンだよね?
それでも嫌だけど。
いつもの軽口を言いながら俺たちはワイワイ話をする。
気を遣わなくていい奴らと近くの席になれたことは案外良かったのかもしれないな。
席替えが終わり、各々が新しい席に移動して先生の簡単な話があり、今日の授業は終わった。
「はぁ〜、疲れた…」
今日はいろいろなことがあり、体力的にも精神的にも参っていた。
恋人契約初日からこんな疲れることになるなんて。
来週くらいには国外追放どころかこの世から追放されているじゃないか?
「ヒロくん、帰りましょうか。送ってくれる?」
「お前の家知らねぇんだけど…」
今日の朝は杏が俺の家に押しかけてきたからな。
「心配いらないわ。ヒロくんと同じ方向だから」
ならついでだしいいかと思っていると、ブスリ。
「いってぇー!!」
背中を刺された。
振り返ると鈴香がコンパスを持っていた。
こいつホントに刺しやがった。
親父にも刺されたことないのに!
…普通は誰にも刺されたことはないか。
「鈴香!何しやがる!なぜコンパスで刺す?」
「ごめんなさい。刃物の持ち合わせがコンパスしかなくて…」
冗談だよね?
クラスメイトをホントに刃物で刺さないよね?
もっとエグい刃物を用意しないよね?
「言ったでしょ。風紀を乱すなって」
周りを見渡すと、俺と杏の話に聞き耳を立てていた男子たちが殺気立っていた。
なんでこの教室はこんな
すると鈴香の言葉に反応した杏が、
「あら?恋人同士が一緒に帰るのは普通のことじゃないかしら?」
「そ、そうだけど…。けど、宏人がデレデレしてる姿は目障りなのよ」
別にデレデレしてねぇだろうが!
俺はいつでもどこでも
それにしても鈴香、目障りはひどくないか。
友人に彼女が出来たんだから祝ってくれてもいいのに。
契約でだけど…
「三田村さん、もしかしてあなたヒロくんに好意を持っているのかしら?」
「は、はぁ⁉︎なんでそんな話になるのよ!」
「だって今日の朝もそうだったけれど、やけにヒロくんに突っかかってくるなと思って」
「そ、それは…」
確かに杏からしたらそう見えるのかもしれない。
「杏、それは違うぞ。鈴香とは一年の頃からこんな関係なんだ。だから好意とかそんなじゃないぞ」
俺と鈴香、それに亮介はずっとこんな関係だ。
お互い、気を遣わずにバカな話で盛り上がる。
この関係を案外俺は気に入っている。
そこに、恋愛感情は無い。
気心されている友人に対するジャレあいみたいなものだ。
「そ、そうよ!こんなバカに好意なんてあるわけないじゃない!」
慌てながら鈴香が杏に言う。
一応、その人俺の彼女なんだけどな。
それ、彼女本人に言うセリフじゃ無いだろ。
「そう…、ならいいわ。じゃあヒロくん帰りましょうか」
杏はそう言うと、先に教室を出て行った。
「亮介、鈴香。また明日な」
「おう!じゃあな」
「…また明日…」
そう言って俺は杏を追うべく教室を出た。
「恋人契約1日目、どうだった?」
「見てただろ。大変な1日だったわ」
帰り道で、杏がポツリとつぶやいた。
朝に杏と一緒に登校したことと、クラスでのあの盛大な宣言でもう俺と杏が恋人関係というのは広く知れ渡っていることだろう。
明日からはより一層周囲の視線に
「私は案外楽しかったわよ」
何を言ってるんだ?
楽しそうな姿を一回も見てないんだが。
俺を罵倒してる時は楽しそうだったか。
「席、隣になれてよかった。日頃の行いが良かったおかげね」
んっ?そのセリフだと杏が俺の隣を望んでいたように聞こえる。
別に俺と杏は契約の上で恋人関係なだけでお互いに好意があるわけでは無いのに。
「俺の隣が良かったのか?」
「バカは顔だけにしなさい。契約上、仕方なくよ」
そう言って杏は歩みを進めた。
「ここまででいいわ」
「おう。じゃあな」
「ええ、また明日」
別れの挨拶をして俺たちは別れた。
「…これからもよろしくね、ヒロくん…」
別れ際、杏が何かつぶやいた気がするがよく聞こえなかった。
まぁ、言い直さないところを見ると、大したことじゃないだろう。
とりあえず早く帰って休もう。
※※※※※※※※※※※※
『やった!ヒロくんと隣の席になれたわ!顔、にやけてなかったかしら』
『だけど三田村さん、絶対ヒロくんに気があると思う。要注意ね、警戒しとかないと』
『そして魔法が解ける前に、ヒロくんには思い出してもらわないと、あの約束を』
『宏人に彼女ができるなんて…それもあの倉科さんだなんて…』
『完全に油断していたわ。けどあの二人に接点なんてなかったはずなのになんで?』
『……もう諦めるしかないのかな…』
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