第3話 我が家の事情
朝のHRが終わり、
「皆さんには勉強や部活に一生懸命取り組んで、充実した高校生活を過ごしてもらいたい」
校長先生が最後にそう言って話は終わりを迎えた。
この学校のトップはなにも分かってない。
高校生活を充実させるには恋愛は必須だろうが!
だからもっと男女で交流する行事などを増やすべきだろ!
俺は校長に文句を垂れつつ、始業式は進んでいった。
その後は、教室に戻り二年生の学習内容や行事、連絡事項の説明があり、それが終わったら午前中で学校が終わる予定だ。
そして、今日の日程が全て終わりクラスメイトが次々と教室を出て行く。
その中には早くも男女で帰る不届き者もいた。
校長先生も言ってただろ、勉強や部活を頑張れって!なに早速、青春を満喫してんだ!
だが、この言葉がブーメランとなって自分に返ってくると分かっている。
圧倒的な敗北感を打ちひしがれながら、俺も帰り
「おーいヒロ。帰り遊びに行こうぜ!」
「悪い、親父に店の手伝いしろって言われてんだ」
「そっかー、じゃあまた今度だな。親父さんにもよろしく言っといてくれ」
「おう!じゃあ俺行くわ」
そう言って俺は教室を後にした。
帰り際に亮介が女子に話しかけられているのが見えた。
とりあえず明日、一発殴ろう…
「ただいまー」
そう言って俺はある店に入って行った。
『レストラン 秋元』
俺の家はレストランをやっている。
なんでも両親が小さいことから自分の店を持つことが夢だったらしく、5年前に開業した。
親父が料理系の学校を出ていて、味もよく、地元では結構評判が良かった。
そして、口コミが広がりテレビに紹介されたこともあり、それ以来はさらにお客さんが増えていた。
なので、俺も小遣い稼ぎに手伝いをしている。
「おう、宏人。早速、手伝ってくれ」
「分かったよ」
そう声をかけてきたのは親父の
短い髪にガッチリとした体格、料理人と言うより格闘家の方が似合う親父だ。
時刻は昼時なのでもう店にはそれなりに人がいる。
普段は基本、親父とお袋と数人のバイトで回しているが、たまに俺や妹の
と言っても、注文を取りに行ったり、テーブルの片付け、洗い物などの簡単な雑用がほとんどだ。
今日もいつも通り雑用をこなし、常連のお客さんと喋りながらバイトは進んでいった。
その日の夜、家族で夕飯を食べているときに親父が家族全員に話を切り出した。
「みんな聞いてくれ。父さんの店を拡大しようと思う。」
そう真面目な顔で話し始めた。
「ありがたいことに結構繁盛してるからな。第二の店舗を構えようと思ってる」
「まぁ、言っても向こうは父さんの信頼できる友人に任せるつもりだ。料理学校からの知り合いで腕も確かなやつだ」
「ふーん。まぁ、いいんじゃない」
佳純は適当な返事をし、スマホをピコピコいじっていた。
今年、中学3年生になった我が妹はあまり興味が無いようだ。
といえ、この態度はよろしくないだろう。
よし!ここは兄の威厳を示すとするか…
「おい
「喋りかけないで」
食い気味に拒絶された、ゴミを見るような目で。
これが反抗期か…
少し前は『お父さんと一緒に洗濯しないで』と言っていたが、最近では『お父さんは私より先にお風呂入らないで。あと兄貴も』と俺も加えられるようになっていた。
まさか高校生でこのセリフを言われるとは思ってなかったし、俺も親父と同様に扱われるようになったことに枕を濡らしたものだ。
年頃の妹にとっては男家族のことは、ゴミ以下の存在なんだろうな。
本来、注意しなければいけない親父も
「こっわぁ…」と恐れ
どうやらこの家では親父より妹の方が立場が上らしい。
予想外のダメージを喰らってしまったが、長男として話は聞かなければならない。
「それはいつぐらいの話なんだ?」
「とりあえず
「ふーん、まぁいいんじゃない」
正直、詳しい話は難しくて分からないから佳純と同じ返事になってしまった。
すると親父の目つきが鋭くなり、
「おい、宏人。なんだその返事は!もう少し真面目に聞けないのか!」
「そのセリフはさっき言え!」
「スマホを
「俺の方見て言うんじゃねぇ!まず、
この親父、ここぞとばかりに父親の
当の妹は俺たちは眼中にないのか、食事とスマホに夢中だ。
お袋の
薄情なものだ。
家族ってのはもっと助け合うべきじゃないのか!
「とりあえずそうゆうことだ。まぁ、お前たちには新店舗が出来たら手伝いに行ってもらうくらいだけだからあまり変わんないがな」
「あともし、父さんが死んだら借金は宏人にいくだけだから何の問題もない」
「前者はいいとして後者は問題大アリだわ!なんで高校生で借金しなきゃいけないんだよ!」
「お前が家族を守ってくれ!」
「いい話っぽく終わらせるんじゃねぇ!死ぬなら借金返してからにしろ!」
この後も親父は事あるごとにしょうもないことを言ってきた。
何で家でもツッコまなければいけないんだ。
しかも親父相手に。
新店舗の話も終わり、各々が雑談混じりに食事を続けていると、
「ところで宏人。お前ももう二年生になったんだから彼女の二人や三人出来たか?」
このクソ親父、俺のデリケートな部分にいきなりぶっ込んできやがった。
というか、彼女は一人だろ。なに浮気前提で話進めてるんだ。
だが、ここでいないとハッキリ言うのは長男のプライドに関わる。
「ははは…"今は"いないかなー」
嘘は言っていない。
だが限りなく前はいました感を
なんて便利な言葉なんだろう。
そして自分の策士っぷりが恐ろしい。
「息子よ、それは今まで彼女はいなかったと言ってるようなもんだぞ…」
「なに!?」
「宏人モテそうにないもんねー」
「ぐふっ!!」
「兄貴、気持ち悪い。死んで」
「ぐはっ!!」
一瞬のうちに俺の
あと妹よ、俺が死んだら親父が死んだ時、お前に借金いくんだからな。
まだ俺の有用性はあるはずだ!だから見限らないでくれ…
あと家族ってものは励まし合うものじゃないのか!
決してオーバーキルするものではない。
ともあれ家族に彼女いない歴=年齢なことがバレてしまった。
その時、親父が穏やかで
ああ、親父だけは分かってくれるんだな。
俺が男同士の絆に感動していると、
「父さんは高校生の時はモテモテだったからな。その遺伝子がお前にも入ってるんだからきっと大丈夫だ。俺とは全く似てないけど、モテる要素ゼロだけど、本当の息子か疑うレベルだけど」
カッチーン、はいキレました。俺は怒りました。
そこまでコケにされたら俺も黙ってはいられない。
「そうだな。親父の遺伝子が入ってるんなら将来ハゲないように気をつけないとな」
「ぐはっ!!」
親父が
「ナ、ナ、ナニヲイッテイルンダ?コ、コ、ココニハハゲナンテヒトリモイナイヨ?」
「ここにいるじゃねぇか、このハゲ親父!」
俺は知ってるんだぞ。
親父が髪を短くしたのは、ハゲを目立たなくするためだということを。
洗面所の棚の奥には育毛剤が箱買いされていくことを。
風呂上りに祈りながら育毛剤をかける情けない親父の姿を。
その姿を見て、俺は将来絶対にハゲないことを誓ったものだ。
「誰がベッカムヘアーだ!」
「いいように解釈してんじゃねぇ!ベッカムに謝れ!あと、古いよ!」
「ベッカムが古いだと…この
「キレるポイントそこかよ!でもやってやるよ、このベッカムかぶれ!俺は野球派だ!」
俺と親父が
「「うるさいっ!!」」
「「はい、すいません」」
お袋と妹の一声で
「二人とも、気持ち悪いから喋らないで」
「二人とも、それ以上、
「何を言ってるですかお母様、こんな仲良し親子は滅多にいないですよ。なぁ、宏人」
「そうですよ母上、父上と喧嘩したことなんて生まれてから一回もないですよ」
俺と親父は小遣いを守るために肩を組みながら必死で言い訳をした。
自分のことながら、こんなに情けない大黒柱と長男はいないと思う。
だが、この家では女性が圧倒的に強く、男に人権はないことはとっくに分かっている。
なので、秋元家序列1位と2位にそう言われたら従うしかない。
ちなみに3位は絶対俺だ!
こんなハゲ親父より下なんてありえない。
「……」
お袋と妹が哀れみと
やめろ!家族が変な趣味に目覚めたらどうするんだ!
俺と親父はその視線から逃げるように静かに食事を再開した。
今思えば、俺は新店舗の話を絶対に否定するべきだったんだろう。
このハゲ親父のせいで俺はあんな状況になってしまったんだ。
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