第2節ー② 大決戦・後

―フランボワーズ王国聖教会軍―


 エドガール軍が気勢を上げ、土煙とともに徐々に姿が大きくなってくる。


「ふん! 神の使者たる聖教会に歯向かう愚かな異端者どもめ」


 対するフランボワーズ王国聖教会軍総司令聖騎士長フランソワ・クーロンは、10倍の軍勢を前にしても、冷淡に鼻で笑った。

 その背後に従う聖騎士達、下位階級である教会騎士達もまた精強に陣形を維持したままだ。

 クーロンは、師である狂信者のように双剣を抜き放ち天高く掲げた。


「征くぞ、同志たちよ! 異端者共の首魁である第一王子の首を取る! この不浄の地に、神の名の下に救世をもたらせ!」


『ハ!』


 クーロンは聖闘気を纏い、騎馬とともに先陣を駆ける。

 配下の聖騎士達も続き、一糸乱れぬ陣形は一本の鉾のように目標を目指す。

 その疾さは風を切り裂き、音をも置き去りにする。

 光に迫ろうかというところで、同じように先陣をきる将エドガールの首に双剣を振りかざす。


「むん!」

「させねえよ!」


 両将がぶつかり合う寸前、もうひとりの英雄ギュスターヴが間に入る。

 爆炎剣は、光の双剣とぶつかり合う。


「のけい!」

「ぐっ!?」


 しかし、ギュスターヴは騎馬とともに弾き飛ばされる。

 その一瞬の攻撃の間に、エドガールの剣がクーロンに迫る。


「ぬるいわ!」

「があ!?」


 エドガールもまた脇へと弾き飛ばされた。

 

 タッソー軍との戦いでは両名とも圧倒的な能力で大活躍、英雄と称されるまでになった。

 しかし、相手は国内最強の武芸者、たったの一合のぶつかり合いで歴然とした力の差を見せつけられた。


 さらに、クーロンの勢いは止まらず、聖教会軍はエドガール軍の中央をえぐる。

 人族も獣人も魔族も平等に斬り刻まれる。

 中央を突破し、視界が開け、目標が見えた。

 エドガール軍の頭脳、軍師リュウキだ!


「破邪の双剣よ、穿て『聖十字剣グランドクロス』!」


 クーロンの必殺技、光の双剣による空に刻まれた十字架がリュウキに襲いかかる。

 が、リュウキも己が初めに狙われることを読んでいた。

 すでに龍化をし、光の波動砲を放つ闘気を溜めていた。


『龍の咆哮』!


 光と光のぶつかり合い、閃光と共に地を抉り互いに消え去った。

 か、に見えた。

 

「ぐうっ!?」


 リュウキは両脇腹をわずかに削られ、鮮血を撒き散らし、龍の姿のまま地に堕ちた。

 

「……如何に竜族上位種とは言え、所詮は幼体、貴様が成体であれば、今の状況は逆だったかもしれんな。貴様が戦場に立つには時期尚早、やはり神は我らの味方だ。さあて、その首もらう!」


 大技を放つために、クーロンは一時停止していた。

 聖教会軍は同じように一時停止していたが、総司令の号令とともに再び動き出そうとした。


「「させん(ねえ)!!」」

「むうう!?」


 クーロンの両脇からエドガール、ギュスターヴの両英雄が剣を振り下ろす。

 その重い斬撃をたやすく受け止めたクーロンだったが、騎馬は耐えきれずに潰れた。

 三者は地に足をつき、このまま大将戦となる。


「さすがギュスターヴ! 私が何の合図も出さずとも同時に行動しておったとはな!」

「へへ! 殿下こそ!」


 両英雄は、地に堕ちたままのリュウキを護るようにクーロンの前に立ちふさがる。

 クーロンはその二人を侮蔑するように顎を上げて見下ろす。


「……愚かな。神の敵を守ろうとは、異端者めが。滅してくれる!」

「何をいうか! 己が臣を護る者が王というものだ! 種族など問題にならん!」

「その考えこそが異端なのだ! 神の敵である邪悪なる種族、家畜としての存在価値しか無い!」

「そのような狂信的な独善主義が無用な争いを生むのだ! 我ら王家の始祖は、魔族や獣人、竜族を一方的に神の敵とは決めつけていなかった。そのような考えは大戦後の後付の主張だ!」

「……やはり異端者だな。貴様は最早救いがたい! 塵に還れ! 全軍……む!?」


 クーロンが進軍の指揮を取ろうとした時だった。

 エドガール軍の中央を抉ったと思い込んでいたが、事実それは誘い込みだった。

 

 リュウキの自らを囮にする策、自軍の内部に包み込んだ軍で包囲殲滅する作戦だったのだ。

 しかし、一歩間違えば自らも死する捨て身の戦術、神算の隠者ですら、この策でしか勝ち目がないほどの強大な相手が聖教会だ。


「……ち! 小賢しい真似を。だが、問題ない。貴様らを私が始末すれば、家畜共の士気も霧散するわ」

「へ! やってみろよ。子供にここまで体張られて黙ってられるかよ。ここで侠気を見せねえと俺の存在価値はねえ!」

「うむ、私も共に戦おうぞ、ギュスターヴ! 一人では勝ち目のない相手でも、私達二人ならば、勝てる!」


 ギュスターヴの爆炎剣、エドガールの連撃もクーロンはたった一人、片手ずつでしのぐ。

 さらに、二人の勢いを殺し、己の間合いに引き込み少しずつ手足に切り傷を追わせていく。

 やがて、ギュスターヴとエドガールは肩で息をし、血飛沫を舞わせる。

 クーロンは返り血を浴びるも、息切れ一つしていない。


「どうした? その程度か?」

「ク! やはり、あの狂信者の弟子、か」

「ああ、強え。だが、あのクソ野郎ほどじゃねえ」

「ほう? 我が師を侮辱するとは……そうか。どこかで見たことがあると思った。我が師ジル・ド・クラン様が若き日に優勝した剣聖祭で無様に破れた男、か。クックック、通りで弱いはずだ」

「があ!?」


 クーロンはギュスターヴの腹に前蹴りを食らわせた。

 そして、地に倒れたギュスターヴを嘲笑った。


「ギュスターヴ!?」

「……だ、大丈夫、だ」

「無駄だ。貴様らはもう終わりだ。小細工を弄しようとも、絶対的な力量差には敵わん」


 クーロンの言う通り、リュウキの策は瓦解しかけていた。

 包囲網は少しずつ綻び始めていた。

 徐々に、聖教会軍は持ち直し始め、包囲網を押し返し始めていた。


 作戦を立て直すはずの軍師リュウキは地に真紅の華を咲かし、軍の柱エドガールとギュスターヴも強敵の前に窮地に陥っている。

 リュウキは自身に回復魔法をかけているが、流血は止まらない。


「ふん! この双剣は代々フランボワーズ聖騎士長に受け継がれる聖剣だ。斬られた傷には回復魔法は効かん」

「く、う」


 リュウキはついに力尽きた。

 まだ息はある。

 しかし、いつ命の灯火が尽きるとも限らない。


「終幕だ。死ねい!」


 クーロンの聖闘気を帯びた双剣が振り上げられる。

 絶体絶命の中、決着の時がやってきた。

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