第16節 バトル・バトル・バトル2

―天空の城、カタパルト―


「む!? 景色が変わった?」


 私は死せる賢者とぶつかり合い、距離を取った。

 その時、周りに誰もいないことに気付き、周囲を見渡して転移させられたことがわかった。

 

 まずいな。

 レアを守ると約束したが、まさか分断されるとは。

 不覚を取った。


「チッ! ピサロの奴め、同志を呼んだというのに我らを分断するとは、余計な真似をしてくれる」


 死せる賢者もまた、今の状況は想定外のようだ。

 舌もないはずなのに舌打ちをするほど苛立っている。


 危なかった。

 もしも私だけが転移させられていたら、残されたメンバーは死せる賢者に蹂躙されていたことだろう。

 だが、ピサロと死せる賢者の思惑は違うようだ。

 

「貴様ら、ピサロとつるんで何を企んでおる?」

「企む? 異なことを言うな? 我らは救世主、あの御方を再臨させようとしておるだけだ」

「再臨だと? あの御方、大魔王様はすでに……」

「いいや、まだだ。まだ完璧には程遠い。クフフフ」


 死せる賢者は不気味に笑った。

 

 どういうことだ?

 ジークフリート様はあの御方の生まれ変わりだと確信している。

 だが、完璧ではない?

 何のことだ?


「分からんか? あの御方と何が違うのかを考えてみるがよい」

「何が違うか、だと? バカバカしい。ジークフリート様があの御方の生まれ変わりでも、あの御方ではないのだ。違って当然であろう」

「分かっておらんな? あの御方とは違い、勇者ヤツ、光の特性が表に強く出すぎておるとは思わんか?」

「それは……」


 私もそのことには気づいていた。

 あの御方とは違って、勇者ヤツの特性も持っていることも。

 だが、私はジークフリート様の持つ強烈な光にも惹かれている。


「それがどうした? 今の私がお慕いしているのはジークフリート様、あの御方と違っていても関係のないことだ」


 私は堂々と一笑に付し反論した。

 しかし、死せる賢者は嘲るように笑った。


「クハハハ! そう云うと思っていたわ! 貴様は所詮、目の前の感情しか見えてはおらん。あの御方の真の再臨を待ち望む我らの崇高な使命が理解出来んのだ。貴様はやはり、魔王の器ではないわ!」

「ふん! 貴様らのやっていることが崇高だと? ふざけるな! 同胞たちを奴隷として鎖で繋ぐ連中とつるんでいながら、どの口がほざく!」


 私は怒りで腸が煮えくり返っていた。

 だが、死せる賢者はどこ吹く風と開き直った。


「その程度のこと、些末なことよ。目的のためならば手段は選んでおれん」

「聞いて呆れるわ! 魔帝国の黄金期を支えた偉大なる賢者がそこまで堕ちたか! 貴様が宰相として栄えさせた魔帝国は、あの御方ですら魅了され、最期まで守り抜こうとしたのに。その貴様があの御方の理想を踏みにじっておるのだぞ!」

「……理想を求めた結果が何だ? 薄汚い人族共に滅ぼされたではないか! 再び魔帝国を復活させるために、我はアンデッドとして黄泉帰ったのだ! 二度と人族に負けぬ帝国を築き上げるためにな! そのためには、絶対的な指導者、あの御方、大魔王様が必要なのだ!」


 死せる賢者は、腹の中をさらけ出すほど熱く語っている。

 私と同じ目的、ジークフリートを全てを統べる覇王として擁立し、魔帝国を復活させる。

 しかし、やり方も求めている理想も違う。


「……だが、貴様は同胞を、民のことを考えてはおらん。貴様のやり方では民からの支持は得られん。そんなもの、砂の上に築かれた城と同じだ。いずれにせよ、貴様は魔族の裏切り者だ。死せる賢者よ、魔王として、貴様を断罪する!」

「やれるものならば、やってみよ、小娘が!」


 魔王と死せる賢者との戦いが始まった。


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