アルセーヌ編 第二章 王家の陰謀 ~血塗られた華~

第一節 パーティー編成と能力考察

 聖教会連合軍、竜王軍の侵攻を食い止める!

 『神の子』ジークフリート・フォン・バイエルン、華麗なる初陣!

 圧巻、竜王軍四天王暗黒竜オクスプキュリテを一騎打ちで討つ!

 暗黒大陸にて、新たなる英雄の誕生!

 何と、弱冠15歳!


 全体指揮を取った聖騎士団団長の言:

 今回の竜王軍の侵攻は、この400年間でかつてない規模だった。

 人族存亡の危機と言っても良いほどだ。

 だが、この侵攻を最前線基地で防ぐことが出来たのは、不幸中の幸いだった。

 今回、殉職した聖騎士たち並びに……

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


☆☆☆


 うひゃー!

 とんでもねえことがあったんだな。


 俺は読んでいた新聞をギルドのテーブルの上に置いた。


 竜王軍か。

 ドラゴンや魔王がいるって、この世界に来る前に駄女神から聞いていたけど、隣の大陸とは。

 もし今回負けてたら、マジでシャレにならんことになってたな。

 想像するだけで身震いがする。


 それにしても、聖騎士はこういうとこでちゃんと仕事してたんだな。

 あのジル・ド・クランのインパクトが強すぎて、頭のイカれたヤバイ奴らの集まりなのかと思ってたけど、そういうことでもなさそうだ。


 ん?

 そういえば、この体の兄貴も聖騎士だっけ?

 もしかして、この戦いに参加したんかな?

 死んでなきゃいいけど。


 俺は、テーブルに置いてある新聞に写されている白黒写真を見た。

 写りが悪くてはっきりとはわからないが、爽やかそうな少年が映っている。


 こいつが『神の子』か。

 タイマンで暗黒竜とかいうヤバそうなのを倒すなんて、この世界には凄え人間がいるもんだ。

 多分、四天王(最弱)だとは思うけど、凄いことは凄いと思う。


 しかも、15歳とか今の俺とタメ年かよ。

 ジークフリートって名前からして、北欧神話の『竜殺し』そのまんまだな。 

 きっと会うことはないだろうけど、一応覚えておくか。


 俺は今日、ギルド内で久しぶりにのんびりと過ごし、これまでの出来事を日誌にまとめている。

 ここ最近は、仕事に明け暮れて疲れていたので、少し休むことにした。


 ロザリーはとっくに大学に戻ったので、ここにはいない。

 レアは小さい体で無理してくれていたので、かなりお疲れだったのだろう。

 今は、部屋の隅で灰色のモフモフした大狼ダイアウルフのユーリと一緒に、すやすや寝ている。


 夏も終わったとはいえ、外に出ればまだ日差しが暑いが、この地域は湿気が少ないので日陰に入れば涼しい。

 ニャンとも良い寝顔だ。


 ユーリは子馬ぐらいの大きさなので、獣人の子供のレアよりも大きい。

 もふもふ感が半端じゃなく気持ちよさそうだ。


 そのユーリは、俺が近づくとすぐに唸ってくる。

 俺は嫌われているというより、格下に見られているかもしれない。

 俺はフッと笑い、レアをちらりと見るだけで、そのままそっとしておく。 


 オーガとの戦いの後、俺は2日ほど意識を失って倒れていた。

 目が覚めた時に、その後の話を聞いたりして、その日はのんびりと過ごした。


 そして、俺は次の日から仕事に出掛けた。

 相変わらず、ギルド受付のマリーの胸と笑顔には癒やされた。


 俺は病み上がりだったけど、マリーのおかげで一気に元気になったが、新人のフィリップもいるので簡単にできるグミン取りにした。

 俺の初仕事だったこともあり、ちょっとした思い入れもある。

 仕切り直しにはちょうどよかった。


 この時にもまた、あのおじいさんに会った。

 俺のこともまだ覚えていてくれていて、少し話をした。


 近くの村の村長らしく、俺達冒険者ギルドのマスター、エマニュエルの爺さんとも親しい仲で50年来の友人だった。

 俺に仲間が出来たことを喜んでいたし、俺のことも色々と聞いているみたいだった。

 何かあればよろしくという話をして俺達は別れた。


 フィリップは正直、外仕事は向いていない気がした。

 動きは鈍いし、体力はないに等しい。

 ドーン! って言うセールスマンに、微妙に似てるから仕方がないけどな。


 だが、何度も連れ回しているとできる部分も見えてくる。

 さすがは、大商人のロチルドの息子なだけあって、交渉事が得意だった。

 俺はそういうのは苦手、というより面倒くさくてやらないことの方が多いのだが、フィリップは必要なものを揃えたり、情報収集などを進んでやった。

 調子のいいヘラヘラしたやつだけど、意外と気が利くようだ。


 え?

 俺が言うなって?

 何のことだ?


 とりあえず、俺達はチームだから、それぞれ得意な部分を伸ばせばいいと思うので、好きにやらせて様子を見ている。


 ちなみに、フィリップも体力をつけるため、俺達と一緒にギュスターヴのトレーニングを受けている。

 そのフィリップは今、力尽きて外に転がっている。


 こんな感じで、新しいパーティーになって仕事をしたわけだが、ロザリーの存在がどれだけ大きかったのか思い知らされた。


 簡単な仕事だと思っていたのに、なかなかうまくいかなかったりしたのだ。

 これまでロザリーはうまく仕事を回すために、俺達が効率よく動けるように考えてくれていたようだった。


 何より、回復の出来る魔術師の存在は、遠出をした時にどれだけ大事かわかった。

 治療の為の薬代もより多くかかるし、荷物もかさんだ。


 ブタ顔のモンスター、オークと遭遇した時に、囲まれてしまって切り抜けるのに手こずった。

 俺もレアも1対1の戦いなら、ギュスターヴのトレーニングでかなりレベルは上がったと思うが、それでも俺達はまだまだ未熟なのだ。

 そんな時に、後方から全体を見れる魔術師がいれば、魔法の援護があって囲まれはしなかっただろう。


 この教訓により、俺達は遠出の時は魔術師を助っ人に呼んだ。


 最初に、ギルドの先輩で脳みそピンクの女エルフ、ロクサーヌに頼んでみた。

 この女は悪い人間ではないのだが、発情期以外は性欲のないエルフのくせに、口を開けば下ネタばかりなので、まだ子供のレアの教育によろしくはないのが難点だ。

 そのせいか最近、レアが少しマセたことを言うようになってきた気がする。


 そして、ロクサーヌの魔法は魔法の使えない俺から見ても、かなりなレベルだと思う。

 魔法自体は、ロザリーよりも上なのだとはっきりとわかるが、あまりにも強すぎた。


 俺達パーティーには突出しすぎていて、チームというよりロクサーヌの個人技であり、残りの俺達はただの背景と化してしまうのだ。

 なので、俺達の成長につながらないので、非常時だけの助っ人にした。


 他にも、流れの冒険者の魔術師や魔術ギルドの紹介も頼んだことがあるが、どれもしっくりこなかった。

 俺にとっては、ロザリーがぴったりとハマりすぎたので、誰ともうまく組めない気がした。


 俺の相棒は、間違いなくロザリーだ。

 だが、そんなことはロザリーには言えない。


 ロザリーはツンツンしてすぐ怒るけど、中身はかなり優しい女の子で面倒見もいい。

 頼めば学校を休んでまで来てくれることは間違いない。


 だけど、俺はロザリーの足を引っ張りたくないし、自分のことに専念してほしいと思っている。

 ロザリーとは、今は一緒に仕事をしていないが、家では毎日顔を合わせるので今でも親密な関係だと言える。

 俺は、ロザリーとは対等なパートナーでいたい、と思っているのだ。


 なので、パーティー編成は試行錯誤の段階だ。


 オーガとの戦いで突然出現した謎の俺の能力だが、これは厄介な代物だった。

 これは、オーラみたいなもので俺の体や武器などの付属物を強化できるのだが、燃費が悪すぎる。

 ほんの少し使っただけで、すぐにぶっ倒れてしまうのだ。


 一度、ロチルドの馬車の護衛の仕事で山に入った時に、クマ型モンスターのテッドクマーが出た時だ。


 このテッドクマーはつぶらな瞳で可愛らしい顔をしているが、縄張りの中に入ったものに対してはかなり凶暴だ。

 ある日~森の中~クマさんに~出会った、なんて、のんきに歌ってられるもんじゃなかった。


 この時、馬車の馬兼御者のケンタウロスのケニーにいきなり襲いかかってきたが、俺はとっさに剣を抜いてこの能力を使ってしまった。

 この能力はかなり強力で、闘気で強化された剣はテッドクマーの首を豆腐を切るぐらい簡単に切り落としてしまった。

 しかし、俺はその反動で、この日は一日中倒れたままだった。


 この世界では、魔法やこういったスキルといった能力は、魂の力を使って発動するらしい。

 俺は、これをスピリット・パワー=SPと勝手に呼んでいる。


 このSPは、体力と同じように鍛えればそれなりに上がっていくらしい。

 ロザリーに聞いたのだが、このSP、訓練をすれば力の使い方によって使用量を調整できるようだ。

 どうやら俺は、この能力を0か100ぐらい極端な使い方をしていたらしい。


 ロザリーにテッドクマーの時の話をしたら怒られたのだが、SPを限界突破して使い続けると、魂が焼き切れて死ぬこともあるそうだ。

 体力の限界を突破して働き過ぎて過労死になるのと同じことだろう、多分。


 この世界は、こういった魔法やスキルのような不思議能力があるわけだが、一応は現実世界なので、ゲームみたいにレベルだとかステータスの数字化だとかそういうのはなかった。


 最大SPだとか残量も、自分の感覚になってくるので扱いは難しい。

 自分で地道に鍛えて試して、練習を繰り返して、自分なりに考えて調整していかなければいけないようだ。


 楽して生きることは、この世界では無理なようだった。

 だが、楽な人生なんてつまんねえし、俺はそれで良かったと思う。


 こう考えると、俺の言語能力は自分でも自分を褒めたいと思う。

 こうまで現実世界に近い感じだと、異世界でもなぜか言葉が通じる、人生ナメている謎の不思議現象はこの世界にはおそらくない気がした。

 あの頭の弱い駄女神のことだから、そんなこと思いつきもしなかっただろう。


 あの時、俺が適当な能力を選んでいたらと思うと、今でもゾッとする。

 どれだけ強くたって、他人とうまくコミュニケーションを取れなかったら、ろくな事にならない。


 そんなことを考えながら、俺は自分の能力をさらに検証してみる。

 この能力、何度も繰り返していると、ようやく調整ができるようになってきた。


 出力を弱めれば使える時間は長くなっていくが、その分力自体も弱くなる。

 体の一部に集中することもできるようだ。

 武器などの道具にも付加できるのだが、そのまま投げてみたらすぐに効果が無くなり闘気は消えてしまった。

 しかし、手を離したとしても闘気が繋がっていれば効果が消えることはなかった。


 これは状況に応じての使い分けになるだろう。

 他にも面白い使い方が色々とありそうだ。


 物へこの力を使うと、その物の材質によって、力の入り方が違うことにも気がついた。

 鉄よりも銀、金よりも銀、鉄よりも木、といったように材質の強度よりも性質に何かありそうだった。

 身近にある物の中では銀が一番良かったが、まだ見たこともないものもいずれ試したいと思う。


 ただ、この能力、どう考えても戦闘特化のようだった。

 なぜ血の気の決して多くない俺が、こんな『ガンガンいこうぜ』みたいな単純一途な強化系能力になったのかは疑問だった。

 あの駄女神が決めたのか、たまたまこうなったのかはわからないのだが、もうちょっとおとなしめでもいいんじゃなかろうかと思う。


 ちなみにレアだが、オーガ戦の時に見せた雷が、少しずつ使えるようになってきた。

 まだまだ静電気程度だが、成長すれば使い勝手の良さそうな能力だ。

 うらやましい。

 ドラクエなら勇者職になれる能力なのに、ご主人様の俺はFF5のバーサーカーかってぐらいの脳筋だ。


 レアは獣人なので差別されているため、聖教会には入れないので、魂の鑑定を受けることは出来なかったが、瞳の色で似たような能力がわかるんじゃないかと思った。

 しかし、そんなことはないらしく、瞳や髪に魂の色が現れる人はほんのごく一部のようで、ロザリーみたいに両方に現れるケースはほとんどないらしい。


 そんなこんなで、単純だが扱いの難しいこの能力を使いこなす為に、毎日の訓練メニューに加えられた。


 ギュスターヴは聖騎士っぽいなとは言っていたが、やっぱり違うらしい。


 聖騎士の聖闘気は光属性なので、もっと幅広い能力が付加されているそうだ。

 俺ほどの戦闘特化の能力は普通じゃないようだ。


 普通じゃないと言われると、何かいわくがありそうな気がしてくるが、無能と言われた俺にも能力が現れたのだ、こんな能力でも極めていきたいと思う。


 こんな事を考えながら今日1日を過ごした。

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