第3話
「なに? 鍛冶ギルドに紹介してほしいだ?」
「うす、実は俺の故郷の国で使ってた道具を作ってもらいたいっす」
「ほーん。それはお前が考えたってわけじゃないんだな?」
「違うっす」
「ならいいぜ。これがお前の思い付きなら、聞く価値がないが遠くの知識なら試す価値はある」
俺のここでのバックストーリーは遠く顔の平たい黒髪族のモンスターテイマーということになっている。
「それにここに来てから仕事は真面目だし、なにより飲み仲間だからな。これでこっちも嗜めばもっと信じるんだがよ」
そういって、棒状の物を口にくわえるジェスチャーをする。
「自分まだ未成年っす」
「何が未成年だ。働く服を着て、働いたらその時から大人だよ」
「うす。勉強になります」
「鍛冶ギルドのボルドーってドワーフを探しな。俺がガキの頃からのじいさんドワーフだが、酒を渡せば大抵の話を聞いてくれる。俺の名前を出してこいつを渡しな」
そう言って大工の親方が酒瓶を渡してくれた。
「えっと名前は――」
「あん、俺の名前はゴンザレスだ。次から上の人の名前ぐらい覚えておけ」
「うっす。失礼しましたゴンザレスの親方!」
「おし、今日はもう上がっていいぞ」
「あざっしたー」
ふぅ、この一週間で体得したスキル【コミュニケーション】を駆使して何とか鍛冶ギルドを紹介してもらった。
ふはははは、どうだニャァァァス子オオオオ、これが俺の人脈力だ。
ということでお次は鍛冶ギルドに向かう。
「失礼します」
鍛冶ギルドにはドワーフが何人もいた。
全員がこっちを見たが、すぐに興味を失くして仕事に戻った。
「ボルドーさんにお話があるんですが」
そのうちの一番大柄で白髪のドワーフがこっちに来る。
「おう、小僧が何のようだ?」
「ゴンザレスの親方の紹介できました。ボルドーさんはいますか?」
「俺がそのボルドーだ。下手な敬語とかはいらんぞ」
「了解。こちらはゴンザレスさんからお酒です」
「くくく、あの鼻たれ小僧が一端に酒なんぞよこして……それで何の用なんだ?」
「こういう道具を作ってもらいたいっす」
「ふん、ほうほう……大きさは?」
「こんなもんっす」
「何に使うんだ? それによって強度が変わる」
「えっと、土木作業現場とかで重い物を運んだり、そういう用途で――」
「それじゃあ、強度的にこの形状は良くないだろ」
「いやいや、俺の故郷ではむしろこの形が正解になっていて――」
俺は工事現場から拝借した粘土板に道具の大まかな形を書いて説明した。
ボルドーはそれを見ながら試作品を作ってくれた。
この世界の住人は特殊な能力――スキルを有している。
この神の恩恵…………ニャス子の恩恵?…………によって通常ではありえないことができる。
例えば大岩すら砕く【剛腕】とか、大木を一刀両断できる【斬撃】なんかになる。
これらは
鍛冶職人のボルドーは【鍛冶】スキルを使い、鉄と木をどんどん加工していく。
すっげー、ほんの1時間でほとんど完成してる。
「ほれ、こんなもんか?」
「おお、すごい見慣れたものになってる!」
「お、親方それはなんだ?」
「こんな一輪車で何しようってんだ?」
他のドワーフたちも集まってきた。
「俺の国ではこうやって、ほほほいほいのほいほいほーい」
「な、なにっ!?」
「ごちゃごちゃした工房内をスイスイ動き回ってやがる!」
「ま、まるでネコのようだ。ネコのようだ!」
そう、俺が頼み込んで作ってもらったのは一輪の手押し車。
猫車(ねこぐるま)になる。
語源は建築現場の狭い道を、ネコが通る道「猫足場」といい、そこをスイスイ通ることができる荷車なので「猫車」と呼ばれるようになった。
注:諸説ございます。
時は魏・蜀・呉の三大勢力が覇権争いをしていた「三国時代」。
諸葛亮という謎の軍師にして蜀の丞相にまで上り詰める人物が、劣勢の蜀の生産力を上げるために開発したと言われている。
ドワーフたちの反応から、こういう道具は知られていないようだ。
この猫車はドイツ語ではKipp-Japaner(ふらふらする日本人)と呼ばれている。
もしかすると鎖国終わったあとにヨーロッパに伝わったのかもしれない。しらんけど。
まあ、それはいいとして中世ヨーロッパ風の異世界に諸葛亮はいなかったみたいだ。
よしよし、ここなら儲けられそうだ。
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「な、なんだこの荷車はっ!? まるでネコみたいに動き回れるぞ!」
「おい! この運搬時の音を聞いてみろ!」
――ゴロゴロゴロゴロ。
「ま、間違いない。これはネコのゴロゴロ音と同じだ!」
「おお!」
猫車の名前の由来は、移動時に発するゴロゴロ音が、ネコの発するゴロゴロと似ていたからだと言われている。
注:諸説ございます。その2。
「おいおい、この猫車を伏せた状態にしたら、まるで丸まっているネコみたいじゃねぇか!」
「な、なんでだろう。この猫車に愛着が湧いちまったぜ」
猫車の名前の由来は、伏せた状態の形状がまるで丸まったネコに見えるからだと言われている。
注:諸説ございます。その3。
「な、なんかお前らの猫談義を聞いてたら、この取っ手の部分が猫の手に見えてきたぞ!」
「おいおい、それじゃあ力強く握れないじゃないか」
猫車の名前の由来は、木製荷車の頃に取っ手部分の形状が猫の手に見えたから、と言われている。
注:諸説ございます。その4。
また、猫車の名前の由来に、壁材である漆喰――これを練り子と呼び、それを入れて運んだ際に「
注:諸説ございますが語源はハッキリしていません。
「おう、坊主。なかなか面白いもんを知ってたな」
「親方に紹介してもらったおかげっす」
「ガハハハッ、なら紹介料(酒瓶代)として今日はお前の奢りだ」
「うす、けど俺に入るゴールドは少ないっすよ」
「そうなのか?」
残念ながら職人の手作業ということもあって、人件費というのが結構バカにならない。
そして材料の購入は商業ギルドを通すことになるので、その仲介料的なのと販売権的なのでやっぱりお金がかかる。
最後に国に対して税金的な何かが取られた後の僅かな利益が俺の手元に入る。
僅かといっても少しだけいい暮らしができるくらいの収入だ。
「まあ、それはそれこれはこれ、今日はしこたま飲むぞ。がははははは」
「ういーっす!」
その日は他の作業グループも混ざって盛大などんちゃん騒ぎになった。
財布はすっからかんになったが、翌日からの猫車の売り上げが好調で、思ってたよりゴールドが手に入った。
――数日後。
「いらっしゃいませ!」
「今日から宿泊したいんだが、ネコ(魔物)同居で部屋を借りられるか?」
「にゃ~~ん」
「ええ、モンスターテイマーなど使い魔を使役する職業の方も使いますので、問題ありません」
ふぅ、よかった。
あれから猫車の収入を貯めながら、ペット可の宿屋を探した。
そしてついに、ついに程よい価格の宿屋を見つけた。
これで馬小屋とはおさらばだ。
「にゃ~~ん。にゃ~~…………おい、ワレは女神ぞ。ペット扱いするでない」
いきなりしゃべるなよ。
けっこうびっくりするんだぞ。
「世を忍ぶ仮の姿なんだからしょうがないだろ」
「まあよい、それより久しぶりにワレも風呂に入りたいのじゃ」
「そうだな。そうするか」
風呂といってもお湯の張った桶で体を洗うだけだ。
ネコは風呂に入りたがらないが、ニャス子はむしろお湯風呂が好きな、お利口なネコだ。
「女神じゃい」
おっと失礼。
「ふぅ、居心地が段違いだ」
「うにゃ~~」
ニャス子は魔法で濡れた毛を乾かしている。
俺も魔法使えないかな。
レベルを上げればできるか?
いやそもそもどうやってレベル上げるんだ?
「なんじゃさっきからワレをずっと見て?」
「いや、魔法って便利だな~って」
「魔法ならお主も学べば仕えるじゃろう」
「それって魔法学校だか学園に通えってこと、さすがにありえないだろ」
「お主が猫車を流行らせたおかげで明日にも冒険者ギルドが再開するというではないか。ギルドならば、魔法使いから教わる機会もあるじゃろう」
そう、なんと猫車のおかげで人員の削減となり、余った人がギルドの再開を望んだ。
そしてめでたく明日から冒険者ギルドが始まるらしい。
しかも、対処に困ってたネコに関するクエストも始まるらしい。
「さて、レージよ。ワレはこっちに来てからずっと馬小屋にいてヒマじゃった」
「ああ、冒険一緒に行くか?」
「それもいいが、そうじゃない。その……ほれ……たまにはのう」
しっぽを立てながら、何かを訴えてる。
お、これはもしかしてもしかしなくても――あれかな。
「あの~ニャス子さん。良ければモフモフしていいでしょうか?」
「な、なんじゃい、しょうがなのう。べ、べつにワレはそこまで興味はないのじゃが、そんなにモフモフしたいのなら――別に構わんぞ」
うーん、この見事なまでのツンデレ。
いや、そもそもツン要素ほとんどないな。
ネコデレだ。
ごくり……それじゃあお言葉に甘えて、朝までモフモフさせてもらおう。
「もふもふもふもふ」
「ふにゃあああああああっ!!」
やましいことはしてません。
モフモフしているだけです。
ああ、癒される~。
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