第1話 冒険を始める前に
どうもレージです。
謎のテンションで異世界行きを即断してしまったことにちょっと反省中です。
けど今まで対話できなかったネコにお願いされたら、しょうがないよね。
ここは王都のすぐ近くのようだ。
とりあえず道なりに歩いて街を目指す。
「王都はすぐそこじゃぞ」
白猫が頭の上に乗ってそう言った。
「なあ、ところでお前はなんて呼べばいい?」
「別にアスティアのままで構わんぞ」
「そうもいかないだろ。しゃべる猫とか絶対珍しいし」
「面倒じゃの~。ワレの代わりにおぬしが考えるがいい」
「そうだな。アスティア、ニャスティア……ニャス子でいいか」
「なんじゃその気の抜けた名前は!?」
名前を決めていいと言ったのにダメ出しされた。
「まあよい。ワレのことはティアと呼ぶがいい」
「ぜんぜん納得してないなニャス子」
「おい、レージよ。なぜ名前を間違える。ワレの抜群のネーミングセンスをなぜ採用せぬのじゃ」
「それより早く街に行こうぜニャス子」
「おい!」
ニャス子は何か言いたそうだったが、人が賑わうにつれて、静かになっていく。
王都と呼ばれるだけあって城下町は賑わっている。
「うお、あれはドワーフか!? あっちは髪が緑色だ!」
「レージよ。完全に都会に始めてきた田舎者になっておるぞ」
「う、とにかくまずは冒険者ギルドを探そう」
「ギルド……」
「ゲームに似た世界ならこういう時はギルドに行って、そこで冒険者になるとなぜか身分証にもなって、いい感じに金稼ぎができるはずだ」
「それは……そうじゃろうが……ただ……」
「ただ?」
「まあ実際に行ってみるんじゃな」
「?」
なーんか嫌な予感がする。
とにかく人にギルドの場所を聞こう。
いまの転生時の謎のテンションなら知らない人に話しかけることもできるはずだ。
「あ、あ……あの、す、すみま……せん……」
「はい、なんでしょうか?」
「ぼぼぼーぼぼ、冒険者ギルドってどこにありますか?」
「え、冒険者? うーん、あっちの建物がそうだけど……冒険者ねぇ」
「? あ、ありがとうございます……」
「もし金に困ってるのなら向こうにある鍛冶ギルドか大工ギルドにいきな」
「? あ、どど……どうも……」
ふぅ、平均以下のコミュ力でもなんとかなったな。
「お主、コミュ力ひっく!」
「うるさいわい。SNS世代に高いコミュ力を求めるなっての」
「まったく、ワレとしゃべるときの感覚でなんとかせい」
「ぐぬぬ、ちがわい。たんに義務教育にコミュ力を高める授業がないだけだい。そんなのすぐに上がるから見てろよ」
「うむ、早く高めるのじゃぞ。お主が魔王を見つけなければ世界が……そのうち滅ぶのじゃ」
「さいですか」
それにしても冒険者ギルドを聞いたら鍛冶と大工を紹介された。
これはますます雲行きが怪しいぞ。
教えられた建物の中に入る。
冒険者ギルドは酒場にもなっていて、荒くれ者がたむろし、活気にあふれるところ――。
じゃなかった。
むしろ一人もいない。
受付嬢すらいない。
人が使った形跡がないようで、うっすらと埃をかぶっている。
うっすらということはちょっと前までは開店していたんだろうか?
「無人じゃな」
「そうだな」
とりあえず受付に置いてあるベルを鳴らしてみた。
――チャリーン。
とくに何も起こらない。
ただのベルのようだ。
「仕方ないな、出直すか」
「待つのじゃ、奥から足音が聞こえるぞ」
「あら、お客さん?」
受付嬢は美人だった。
美人なんだが……なんだろう……。
やつれていて、化粧していなくて、目にクマがある。
ギルドの顔である受付嬢がこんな見た目というだけで――儲かってない感がすごい。
「あのー、ここで依頼を受けるとお金をもらえると思ってきたんですが……」
「はい、本来ならそうですが、いま紹介できる依頼はございません」
「え、なんで?」
「残念ながら現在は王都の周りの壁を増強する一大事業を王国が取り仕切っていますので、鍛冶ギルドか大工ギルド以外での仕事の斡旋は止まっている状態です」
「そんな!?」
「はい、それに突然現れたネコという魔物も積極的に襲ってくるわけではないので、依頼数が激減してました。すみませんがまたの機会にきてください」
やってないというのなら仕方ない。
俺は仕方なく冒険者ギルドを後にした。
けど、ちょっと前までは普通だったかのような印象がある。
そこが引っかかるんだよな。
「なあニャス子、一体どうなってんだ?」
これじゃあまるである日突然すべての魔物がネコになったみたいじゃないか!
「そういえば何も言ってなかったの。もともと他の神の世界を改変したからの。そのせいでいろいろ問題があるのじゃ」
「え?」
「もともとは知り合いの神が作った世界なのじゃが、まったくうまくいかず、世界の管理もすべて投げ出したのじゃ」
「それでニャス子が代わりになったのか」
「押し付けられたのじゃ。まあ、なんにせよ管理することになったこの世界は――グロい、キモい、可愛くない!」
「うわぁ、それはイヤだ」
「そうじゃろ。じゃからお主を呼び込む少し前にすべての魔物を一気にワレ好みに変えたのじゃ」
ダメだ。
どこからツッコめばいいのか分からない。
とりあえず改造ツールで魔物を全部ネコにしたんだな。
そう言うことだな。たぶん。
「ってそのせいでギルドやってないってどういうことだ!!」
「それはワレのせいじゃない。人族の問題じゃ」
「そうなるとアレか。もしかしてネコについて知ってるのって――」
「この世界ならお主ぐらいじゃの」
「まじかよ!?
「まあ些細な問題じゃよ」
「問題大ありだよ。異世界を作るなら最初から懇切丁寧にちゃんと作れよ。なんで雑な仕事すんだよ!」
「お主、ネコに労働のすばらしさを問うことがどれほど滑稽かわからんのか」
「ああ、そうだったあああっ!。女神がそもそもネコだったああ!」
「にゃはは、諦めるのじゃな」
「ん? 待てよ。そうなると魔王もある日突然ネコになったのか?」
「そうじゃな」
おおう、魔王が失踪した理由が何となくわかった。
そりゃあ創造主の命を受けて人類に牙を剥いたはずが、気づいたらネコって……やる気失くすよな。
俺は仕方なく宿屋を探したが、いま無一文だということに気が付いた。
冒険者ギルドでの登録ができないということは身分証代わりのギルドカードが手に入らないということだ。
つまり俺の現在の身分は外国人浮浪者であり、そんな怪しい人間を雇ってくれる職場なんて存在しない。
いや、あるにはある。
人手不足の建設現場の出自不明の外国人労働者枠だ。
だができるのか?
ガテン系の職場に若干コミュ障の俺が行って大丈夫なのか?
そう考えると外国人労働者ってスゲーな。
尊敬するよ。
「ワレは飲まず食わずでもある程度大丈夫じゃが、お主はそうもいくまい」
「はぁ、そんじゃちょっと怖いけど行きますか」
俺は開店休業状態の冒険者ギルドを離れた。
そして王都を囲む壁の土木工事現場へと足を踏み入れた。
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