第2話

「さて、レージよ。この女神アスティアのちょっとした願いを聞いてくれれば、お主に異世界での楽しい人生を約束しよう」

「ほ、本当か……」

 もしかしてこのネコは本物の天使なのか?

「女神じゃい」


 あ、そうだった。

 けど、ちょっとって大変なお願いなんでしょ?

「なに、ワレが作りし異世界に行き、そこで魔王を探してもらいたいだけじゃ」

「な、魔王!」

 いや、魔王とか無理だろ。

 魔王討伐とか一般人の俺には無理だぞ?

「探してくれと言っておろう。ちなみにこれがその魔王じゃ」

 そういって空中に映し出された映像には黒猫がでてきた。

 カワイイ。

 品種としてボンベイに近い気がする。


「この魔王は人類へとの試練としてワレが生み出したのじゃが、まあ娘みたいなものじゃな」

「はぁ」

「どうもあの娘は魔王としての仕事を放り出して消えてしまったのじゃ」

 それはネコだからじゃないか?

「しかも人間の勇者も討伐に向かわぬのじゃ」

 なんか異世界あるある設定みたいだが、それがうまくいってないようだ。

 というかなんで異世界は常に勇者と魔王がお約束のように戦うんだ?

 そういう運命なのか?

「そりゃあ、お主らが好きなゲームを元に――ワレが作り上げた世界じゃからの」

「ネコ神様が作った異世界……」

「女神じゃい。まあ、ちょっとだけ覗いてみるのじゃ」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「はぁはぁ……く、あなたたち魔王軍にこれ以上好きにさせない!」

「グルルルル……」

「勇者ちゃん!」

「勇者さま!!」

「いくぞ! うおおおおおおお……おおおお…………お………………」


 ――カラン、カラン。


「勇者様!? なぜ武器を捨てるのです!?」

「すまない聖女マリア。あたしにはやっぱ無理でした……」

「グルルルル…………うにゃ~~ん!」


「はわ、肉球! にくきゅう!! こんなカワイイ存在と戦うなんて無理――! ああ~~~ああ~~~~」

「くっ、マリアは早く王都に逃げてください! 私が勇者を何とか連れ戻し――「にゃお」――ふおおおおお! ねこちゃん! ねこちゃん!」

「ああ……歴代最強の勇者様に、世界最高峰の魔導士さまが……二人ともやられてしまった……」

「ゴロゴロ……ゴロゴロ……ふにゃっ!」

「わたくしも……聖女であるわたくしも……魔物たちに……」


「すりすり……すりすり……」

「ペロペロペロペロ……」


「ペロペロされて……し、しあわせ…………かくっ…………」





 女神が空中に移した映像には女勇者、女魔導士、そして聖女と誰が見ても、わかる三人が映し出された。

 たぶん背景に映る城は王都だろう。

 そのすぐ近く――つまり最初の魔物との戦いに完全敗北した三人が、とても幸せそうな顔を晒していた。

 ……天国かな?



「このあと勇者一行は戦いを拒否して3人とも引きこもってしまったのじゃ」

「……そりゃまともに戦えないだろ。攻略不可能だぞ!」

「なぜじゃ!?」

「いや、むしろなんで魔物をネコにした!?」

「ワレの姿を見よ。なぜお主ら人間どもに合わせてグロテスクな魔物を用意せねばならんのじゃ? そこがおかしいじゃろ」

「おおぅ、この価値観の違い……」



 つまりこういうことだ。

 神は自らに似せて人を作ったという。

 その人は自らに似せて醜悪なモンスターのでるゲームを作った。

 仮に女神がネコならば、もちろんその女神に似せた魔物を誕生させることになる。

 考えてみれば、なんでゲームクリエイターたちはこぞってグロテスクな、あるいは醜悪なゴブリンのような魔物を作り出すんだ?


 いや考えればわかる。

 彼らはプレイヤーに罪悪感を生ませないために魔物を作るんだ。

 だがこの自称女神のネコはそんな事お構いなしに自らに似せた魔王と魔物を生み出した。

 そう愛らしいネコの魔物を生み出した。

 魔物が全部ネコってもう戦えないじゃないか。



「そのせいで困ったことに両者の争いが全く起きなくなってしまったのじゃ」

「むしろ起きないほうが平和なのでは?」

「それではいかんのじゃ。この世界はあくまで【神々の創造世界】。他の神々と競っているのじゃ」


 え、なにその箱庭の世界みたいな設定。


「ふむ、語弊があったの。この異世界はお主の世界と何ら遜色のない実世界じゃ。しかし他の神が生み出した異世界と干渉するため――魂の力が強い世界が残り、それ以外は衰退し、何も生まない永遠の闇に覆われるのじゃ」


 わかるようなわからないような。

 いや、競い合うと言っているから、あえて干渉させてるのか。


「そういうことじゃな。最後まで残った世界は死後の転生先、つまり天国と地獄の選択肢になるのじゃ」

「まった、天国と地獄って異世界なのか?」

「そうじゃ。数万年前から続く【神々の創造世界】で勝ち残った異世界が大枠で天国と地獄に分類されてるだけなのじゃ」

 わお、衝撃の事実だな。

 分類ってことは信仰の数だけ死後の世界観があるのは、それだけ多くの異世界が実際にあるということか?

「物分かりがいいのう。ワレら神の作りし世界の影響でお主らの死後の世界は作られておる。じゃが生まれたての異世界は魂の力が弱くての、そのままではすぐに永遠の闇に呑まれてしまうのじゃ」

「それで戦ってれば世界は強くなると」

「そんなところじゃ。ワレはせっかく作った世界に最後まで残って天国側の選択肢として残ってもらいたいのじゃ。そのためにも人々に試練を与え、その中で力強く魂が輝いてもらわないと困るのじゃ」



 そう言っても、今の感じだと無理だと思うな~。

 むしろ天国ってどうやって強くなったんだよ。



「とにかく魔王(クロネコ)を見つけ出して、魔王と勇者を引き合わせればそれでよい」

「それでいいのか?」

「うむ、最も力の強い両者が出会えば、それだけで世界にプラスの影響が起きるはずじゃ」

「そういうもんかね」

「そういうもんじゃい。ある程度世界が強くなれば闇にのまれる心配をせずに済むのじゃ」


 まあ、帰りたい場所があるわけじゃないし、悲しむ親族もいないし、いいか。


「とにかく頑張って勇者と魔王を引き合わせるのじゃ。さもなければこの世界は滅亡じゃ」

「あーもう。しょうがねぇなぁ」

 まあ、ネコの世界に行くのは悪くない。

 むしろ魅力的にすら感じる。

 あと懸念があるとすれば――。


「言葉の壁や右も左も分からないのに、魔王を探すのは難しいが、何とかなるか」

「そうじゃの。言葉などは向こうに飛ばす際に何とかしよう。あとワレの分体をお主につけるのじゃ。さすがに魔王の説得をお主に任せるわけにはいかぬからの」

「にゃ~、ヨロシクじゃ」



 白猫が二匹に分裂して、片方が俺の肩に乗った。

 カワイイ。

「分体のワレは神力が少ないゆえ、お主が何を考えてるのかわからんからな」

「あ、そうなんだ」

「うむ、よろしく頼むのじゃ」

「さて後1000人ほど適当な魂を放り投げたかったのじゃが、ワレは昼寝がしたいので100年ほど寝るかの。あとは頑張るのじゃぞ~」


「おいちょっと待て――」



 アスティアに言いたいことがあったが、言い切る前に見知らぬ土地へと飛ばされた。


 こうして俺はシロネコと一緒に異世界へと渡った。

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