第7話 「こんな午後の、もの思うひとときが」
炭酸水をふくみながら、草原にたどり着いた車のなかで、
空の果てを探るように、自分と向かい合えたら。
好きな音楽と、優しい風と、ちょっと凝ってる作家の本。
そこそこに刺激をくれるものたちを味方にして、
久しぶりに頭の中が、私だけの空気にみるみる変わっていくのを、感じたい。
誰かに会いたいとか、どこかへ行きたいとか、そんなことの前に、
ふつふつと吹き上げてくる、ソーダの泡が消えないうちにノートをとる。
瞬時に、これが私の仕事なのだと、思い知る。
誰の為でもなく、一番好きな、そして本当の自分を取り戻す。
胸の中でぐるぐるとうごめく感情は、苦しく、寂しく、甘く、哀しく。
走馬灯のように螺旋を描きながら、血流となって身体の末端までゆきわたり、
いつしか自己陶酔という煌めきに浸っていく。
『一瞬の輝きが見たいから。それだけでその人の過去も許せてしまうから』
いつか誰かに言ってみせた、綺麗ごとの過( よぎ)りを、空(くう)のなかで握りつぶす。
私はまだ暖かくない。
ぽかぽかと陽だまりのような心はもてない。
いつも何かに飢えている。
こうしてペンを走らせているときは、調子がいいのだと自負する可笑しさ。
セイカツの片切れが、ハタハタと風に吹かれて散っていくのを、フフンと笑う愚かさ。
つまるところ、散っていったものたちは、栄養を吸い取った後の屑物(くずもの)に等しい。
けれどやっぱりわからないのだ。
どんな栄養をとっているのかなどは。
セイカツに顔を背(そむ)け、空を仰いで手ごたえもなく、
ここにいるのは相変わらずの道化モノ。
むしろその片切れが、とても大切なもののように、
まるで、懐かしい写真を破いてしまったような、
もう手の届かない、二度と同じ形に戻れない、
子供のころの宝物のような気も、する。
失ったものの方が、まだ輝いているようで、
現実も、未来も、それ以上の光を私に放ってくれるだろうか。
考える程、生きることは無に近い。
言い訳があるから生きているようなもの。
真意(まこと)に戯言(たわごと)を上塗りしては、カタチを装い、
その不格好さに、自ら剥ぎとっては、困惑と葛藤をむき出しにしてしまう。
それでもまた、自分の奥に問いかける。
答えなどあてはないのに。
けれど、問いかけをやめることなどできはしない。
どんなに時間をかけても贅沢だとは思わない。
私にとって、水と同じように必要なことなのだ。
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