第1章(第4回)

 守はいくつか落ち着きを取り戻していた。負傷した右腕はすでに完治していた。守は武器を手に入れた。「火」だ。何度か試すと、文字に指をのせるだけで火がつくようになった。だが、火は指から他の場所へ移すと自動的に消えてしまう。つまり、1回1回同じ動作をしないといけないのだ。そのことを含めて対策を考える。青年は義足だ。すると、走れない可能性がある。対峙したときに青年は走ってこなかった。あれは、余裕ではなく走れないのではないか。それでも油断は禁物だ。

 守は天井を仰ぐ。火を灯す燭台しょくだいがある。手を伸ばせば守の背でも届きそうだ。これを使う。最後は……。

 守は移動する際、階に一台だけ燭台に火を灯しておいた。こうしておけば、青年は気づくだろう。

 意外に早く、守と青年は対峙した。廊下の端と端に2人はいる。お互いは見据えたまま、相手を窺っている。

 先に行動したのは青年だ。青年はゆっくりと歩きながら口を開く。

「左足が動かないと知って、俺と両親は義足にする決断をしたんだ。医者にも言われた。『君の左足はもう一生動くことはないでしょう』、そう宣告されたよ」

 青年は嘲笑あざわらううように苦笑する。

「それから、周りの目を気にするようになった。好奇の目、可哀想だという口、気遣う態度。俺に向けられるそんな、善意、悪意に苦しんだよ。俺は何か悪いことをしたわけじゃないのに。ある日、揶揄からかってくる奴がいたよ。『左足がなくなったのはお前のせいだ』ってな。そいつを殴ったら人生が転落したよ。両親とも仲が悪くなって、周りとの付き合い方も分からなくなった。そんな時だ、招待状が届いたのは。これで『人生をやり直す』って思ったんだ」

 守に顔を向ける。

「お前もそうだろ?突然、自分のものが失われて誰にもいう事ができず1人で抱え込んでいた。人生が制限されて、選択を余儀なくされて、だろ?」

 青年は手のひらを差し出した。

「あいつを倒さないか?俺と一緒に、お前の奪われたものを取り戻そうぜ」

 確かにあの道化師に奪われた。ただ、返して欲しいだけなのだ。青年のような復讐心は持ち合わせていなかった。守は素早く本を開き文字に触れた。人差し指に火が灯る。

 青年の顔は引きった。

「ああ、そうかい。協力する気はないか。そうか」

 いきなり拳が飛ぶ。守の耳元で空気を切る音がする。青年の脇をする抜けると、燭台に次々に火を付ける。回りが明るくなる。

「目眩しのつもりか?それじゃあ、俺に勝てないぞ」

 青年は走って追いかけてきた。速い。あっという間に追いつかれた。

「時間の無駄だったな。その火、遠距離攻撃できないだろ。できてたらすでにしているもんな」

 青年は拳を構えた。

「これで終わりだ」

 青年は拳を振り下ろした。それは途中でぴたりと止まった。

「何しているんだ?お前?」

 すでに火の付いた人差し指を床に下ろしていた。床に触れさせようとした時、「それは困るなあ」と頭上から聞き覚えのない声が降った。明かりが暗転した。

 

 

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