27.わたしの魔法
呪文を口にした途端、金色の光の膜のようなものがスッと広がっていって魔物を飲み込んでしまいました。
すると魔物は瞬く間に光に焼かれて灰になっていきます。
「えっ?! どうなっているんですか?」
この光が私の魔法、でしょうか?
魔力を使ったせいか、いきなり疲労感に襲われてしまって身体が重いですし。
魔法を使う代償が大きすぎやしませんか。
みなさんはいつも魔法を使ってもちっともしんどそうにしていませんでしたけど……。
「嘘でしょう……? ユーリィは魔法が使えないんじゃなかったの?」
先輩の声が近づいてきて、手を伸ばしてきたかと思うと頬をペチペチと叩かれました。
「しかもさっきの魔法って聖属性よ。あんた、今までちゃんと属性魔法を調べてもらったことはあるの?」
「え、ええ……属性はわからないっていわれましたけど……」
先輩が指差す先を見れば、さっきまでいた魔物の姿はもう無くて、代わりに灰が積もっているんです。ちょうど執事がデボラさんを助け起こしているところで、デボラさんは服に着いた灰を払っています。
あの大きな魔物を灰にできるとは……。
「どうしましょう……もしや私はチートなんでしょうか」
「へ? よくわかんないけど、旦那さまが帰ってきたら話しておいた方が良いわよ。聖属性を使えるならきっと国に仕えるよう王令を下されることになると思うわ」
「えっ……?!」
王令ってことは拒否権が無いってことなんですよね。
なんだか大変なことになってきました。
私はポネラでずっとこのスローライフを送っていきたいですのに……。
「みなさん、このことは他言無用に。全ての判断は旦那さまに任せましょう」
デボラさんがパンパンと手を叩くとみんなの視線が一気にデボラさんに集まりました。
「じっとしていないで準備を進めていきますよ。まずはここの修理を始めましょう」
促されるようにしてみんな仕事に戻りますが、ちらちらと視線を感じます。
これまで魔法が使えなかった人が王さまに呼ばれるような魔法が使えるようになっただなんて信じられませんものね。
私も自分の事ですが信じられません。
それに、どうして女神さまを名乗る人は私に話しかけてきたんでしょうか。
彼女は「心は呪文を覚えているはず」と言っていましたが、ということは、記憶を失う前の私はこの魔法が使えていたということになるんですよね……?
頭がこんがらがりそうになっていると、デボラさんが「手を動かしなさいっ!」と喝を入れてきました。
◇
私たちはお屋敷の準備を終えると街へのお手伝いに行って、すべてが終わったのが真夜中でした。
街にも大きな蜘蛛の魔物が出てきて、対処しようとした傭兵団の方が怪我をしてしまいましたが、街の人たちは無事でした。
人は無事で良かったんですけど、お祭りの準備は被害が大きくて、出店の屋台や飾りをなぎ倒されてしまったんです。
スーレイロル家使用人たちと街の人たちが一丸となって、なんとか元通りにしました。
みんなクタクタになってしまいましたが、無事に妖精祭ができるのでほっとしています。
「ユーリィ、執務室に行きなさい」
「かしこまりました」
夕食を食べ終わると私は執務室に呼ばれました。
今日の魔法のことについてウィルに話すよう、デボラさんが話をつけてくれていたんです。
「よしよし、1人で倒すなんて大したもんだな。よくやった!」
ウィルは私が魔法を使って魔物を倒したと聞くなり破顔して、自分の事のように喜んでくれました。
わしゃわしゃと頭を撫でられるとなんだかこそばゆいです。
「女神さまを名乗る女の人の声が聞こえてきたら呪文を思い浮かんだんです。周りにはそれらしき人が見当たらなくて、本当に女神さまだったのかもしれません」
「そうだな、きっと心に話しかけてきたんだろう。そんなことができるのはあのお方くらいだ」
「ウィルは女神さまに会ったことはありますか?」
「まあな、なんやかんやで長いつきあいだ。王になった当初は随分と世話になったもんだ」
そう話すウィルはまるで知り合いのことを思い出しているかのような表情をしていて。そんな顔を見ると、ウィルって本当に妖精の王さまなんだなって実感します。
あと、ここって本当にファンタジーの世界なんだって実感します。妖精も女神さまも、前世の世界ではこんなに身近な存在ではありませんでしたもの。
「私、やっと魔法が使えるようになったんですね」
魔法が使えるようになってようやく、この世界の一員になれたような気がして嬉しいです。
「無茶はするなよ?」
「しませんよ! 無理をしないって女神さまに誓いましたんですから!」
胸を張って言うと、ウィルに苦笑されてしまいました。
そういえば、どうして女神さまは私にその約束をさせたんでしょう?
記憶を失う前の私は、女神さまが心配するほどの無理をしていたんですかね。
もしかして社畜のような生活をしていたとか……。まさか、ですよねぇ。もしそうだったなら私は社畜として生きる運命から逃げられないのかもしれません。
恐ろしい……。
「魔法を使えるのは嬉しいですけど、この力があると王都で働くことになるみたいです。私はずっとここにいたいですのに」
「まったく、人間の世界は厄介だな」
「そうなると私、ウィルに会いに行けないので嫌です」
「……お前、そういうことは軽々しく口にするな」
「いたっ?!」
ウィルがいきなりデコピンしてきました。パワハラです。
抗議しようと思ったんですけど、なぜかウィルは顔を真っ赤にしてしまってて、しかも眉尻を下げていて困っているように見えて、言えませんでした。
一体どうしちゃったんでしょう。
「ま、魔法が使えるようになったということは、記憶も戻ったんじゃないか?」
「いえ、記憶はさっぱりなんです」
「……ふむ。なかなか強力だな」
ウィルはじいっと見つめてきます。
旦那さまの空色の瞳でそんなことをされるとドキドキとしてしまいます。いや、ウィルの本来の姿でされてもきっと落ち着かないんですけど。
「まあ、俺の魔法に敵うものではない」
「何がですか?」
「こっちの話だ」
気のせいでしょうか。
ウィルが企み顔になっている気がするんですけど。
そんな顔をされると何かやらかすんじゃないかと思って不安になります。
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