8.さよならカムパネルラ

 銀河鉄道は音もなく走った。ゆらゆらと、地上から見ると影みたいに見えた。ゆっくりと消えてく線路と小さくなっていく汽車はまるで夢みたい。あの汽車にジョバンニとカムパネラは乗っているのだろうか。暗い闇の中にまばゆいほどの光を讃えて。

 言葉が役に立たない時、ピアノを弾いた。音は光の粒。言葉にできない感情を吐き出せる気がしている。あの銀河鉄道に届けばいいと願って弾く。銀河鉄道には乗れない。川に溺れる友人を助けることはできない。

 空気を吸う、循環し肺が酸素で満たされる。指はそれぞれ意思を持ったかのように動き奏でる。

 あの時、汽車が前に止まった時。未知への恐れと緊張で足が動かなかった。周りの人間が一歩を踏み出す中で、私は佇んでいた。あまりにも単純な孤独感。壁さえも作れない強がることもできないそのままの心を持って生きていくことがそのとき決定的になった。

 恐ろしい。世界も人も自分さえも。そんな根暗な僕に星の輝きをおくれ。どうかただ地上から星に憧れることを許してくれ。願いは流れ星には託さない。素足のままあの夏のビーチを歩くみたいに私は飛び跳ねる。それをクマが鮭を獲るみたいに引っ掻く。そんなことされると私は泣いてしまう。涙は海になる。海は銀河。

 何も決められない幼子のように母の温もりに眠る。

銀河鉄道はゆらゆらと影みたいに走る。素足のまま見上げる汽車は煙を吐き出して星をゆく。ピアノを弾く、あの銀河に届けと願って弾く。ジョバンニ。カムパネルラ。さよなら。さよなら。

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