7.自己投影

 クサイけど、ふと思い出す夕日とか。ショーウィンドウのワンピースとか。私はそういう人間だった。

 心はいつも昔にある。時間が絶え間なく進むから気づいたら置いてけぼりにされてしまった。言葉がまだ意味を持っていた時、頭を撫でてもらうのが好きだった。

 心が溶け出してちくりちくりと刺さる。夏の日差しのように皮膚を焼く。私とは何だろうか。うろうろと歩く。迷子になった子供の頃、母を探して歩いた。心細くて、でも泣きだすにはあまりにも単純に思えて、早足で歩く。見つかれ。見つかれ。そう願って歩く。張り詰めた水風船みたいに、ほんの衝撃で割れそうだったあの頃。

 汗が頬を伝って顎の先に溜まり、限界に達し粒が落ちる。そこで改めて暑いことに気づく。日が高くに上がっていて。脳さえも溶け始めてるんじゃないかと思うくらい視界の先が熱でゆらゆらと揺れている。

 地球温暖化。日本は年々気温が上がり、春と秋が短くなって、夏と冬だけになっていく。そんなの死んじまう。実際そうなったら意外と普通になるだろうけど。今は死んじまうって思う。

 なんで意外と普通になるって考えてしまうんだ。今なら今だけでいいのに。情報過多。危機回避のため不安があるのか。予想があるのか。全部夏のせいにしよう。夏のせいってなんかCMみたいだな。暑さでクラクラとしてくる。

 影が黒く真っ直ぐ伸びて、脳みそに色んな音楽、クラシックからロックまで流れてくる。街には人が溢れ、皆急ぎ足で目的の場所へ歩いていく。意味もなくベンチに腰掛けているのは私くらいだ。

 動物は生きるために生きている。そうはなれない。考える人は考えちゃいない。夕日を見て切なくなるのは時間の流れを惜しむからか。

 なぜ同情する。なぜ選ぶ。なぜ悲しむ。なぜ自分がわからなくて不安を感じる。答えが出れば納得するのか。まるで意味のない言葉ばかりが頭をよぎる。心臓が血液をドクドクと送り出す。

 またポタリと汗が落ちた。汗は地面に染みを作る。なんだか泣けてくるのに涙はでてこない。

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