9.先生、聞いて
瞼を開けると白い正方形のマスが規則正しく黒い細い線によって分けられた一面が見えた。
手足の感覚は戻り、砂漠のように後にはなにもない。砂が際限なく続くだけ。空気を吸い酸素を体内に循環させる。
『おはよ。センセ。』
目だけで挨拶をする。力がうまく入らなく、歪な表情。
「長い旅だったようだ。君はどこかの世界を気に入ってしまって。もう帰っては来ないのかと思ったよ。」
大好きな目尻のシワが先生の顔にうかぶ。
『心配してくれたの?』
「もちろんだよ。」
どんなに素敵な世界を見つけても、やっぱり先生の隣には敵わないのよ。なんて。私は無限の想像の世界から抜け出した。コントロールを失った車は色々な世界を回って私の手の中に気まぐれに戻って来た。
言葉は意味を持っただろうか。何か見つけられただろうか。それともただ彷徨っていたのか。意味は必要なのか。地球は本当に青いのか。
子供の頃から疑問が尽きなかった。目の前にある世界と事象と感情と。すべてはリアルなはずなのにどこか他人事。知りたい。足りない、足りない。足が脳の命令に従い動く。とても走り出したい気分になる。
ただ今はとても眠い。ゆっくりと頭を撫でる先生の手から感情が伝わる。それがとても心地が良くて、言葉が必要ない気がしてくる。でもやっぱり起きた後に話すことを次々と考えてしまう。何から話そうか。
先生、聞いて。
箱 鮭B @syakeB
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