2.大っ嫌い

 驚いて、何も、言えなかったんです。先輩から悩みを打ち明けられた時。

 「別に救って欲しいわけじゃないんだ。」

 じっと目を見ました。そうしたら心までもしかしたら、見えるんじゃないかと、本気で思ったんです。

 私はよく人から相談をされました。ですが相談というのは大半答えを必要としておらず、己の気持ちの整理と客観視の為に言語化する作業で、その相手なんて案山子でも樽でも木でもいいんです。

 だから私はそういう時、うんうんと頷いてそれ以外はほとんど喋らないようにしています。そうすると一通り話した友人たちは言います。

 『どう思う?』

 わお!まさに無駄な質問です。気持ちなんて大方決まっていて、あとは肯定されたいか、意見を聞いてもそのあとやっぱりこうしようって自分で解決しちゃいます。

 人間てそんなもんです。ええ。

 彼の話をまとめるとこうです、この仕事に情熱が持てない、頑張っている人間や同い年で活躍している人間を見ると嫉妬する反面、頑張る気にはなれない。なぜ頑張らなくてはならないのだろう。

 ああ、もう私、思い出しただけで疲れてしまいます。

 私は一応答えを用意します。

 ”頑張るとはなりたいもの、得たいものの為に動くことだと思います。健康のために走るのも、有名になるために勉強するのも。それが見た人の価値観に合うかどうかで頑張っていると判断されているだけで。

 ヒモになる為に相手を見つけようとするのもある種の努力だと思います。

 それは一般的な価値観に合わないから、努力と評価されない場合が多いんじゃないでしょうか。

 評価されたい人がいるのなら、その人に価値ある努力をするしかないです。

 つまりなぜ頑張らないといけないのか、は自分の価値観と違う目的の為の努力に思う事で、やりたい事に対しては頑張りと気づかずに頑張っているのではないでしょうか。

 なので、先輩のなぜ頑張らなくては?という疑問は怠惰と見栄との間で揺れているわけですね、諦めるか努力するかの二者一択です。”

 うーん、オブラートのオの字もありません。

 先輩は言います。

 「俺はクズなんだ。」

 大変面倒です。先輩が欲しがっているものは、私には渡せません。勝手に解決していただく他に策はないのです。

 彼女の私も100年の恋心も冷める勢い。クズな自分も愛してくれと言いたいのか、背中を押して欲しいのか、クズじゃないよと慰めて欲しいのか。

 「人間色々ありますね。」

 毒にも薬にもならない言葉を吐く。帰りたいです。

 あなたきっと、傷つきたくないだけですよ。だからもし私が別れようって言ってもきっと引き留めたりしないんでしょうね。まるで何もなかったみたいな澄ました顔がとてもリアルに浮かびます。

 私たち、ここ一ヶ月忙しくて会えなくて、久しぶりに会えたかと思えばこれですよ。あんた、そりゃないぜ。乙女のハートはボロボロです。もうそんなだったら病んじゃいますよ。

 それでもどうしたら元気を出してくれるか、前を向いてくれるか頭は勝手に考え出す。ああ言ってもダメ。こう言ったらもっと落ち込んじゃうかも。どうしたらいい?どうしたらいい。

 何もいい案は浮かばない、のでとりあえずハグします。

 (どうか、あなたが納得のいって幸せになれる答えを見つけられますように)なんて!無益な。

 ああ、もう大っ嫌い。

 

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