5.孤独のホモ・サピエンス

 手と足の感覚を失ったようだ。意識だけが生きていて、そこには思考だけがある。世界は朝と夜の2個ある。朝に学び、夜に思考する。でもここには思考のみだ。夜の世界だ。私は考える。物事の意味や意義や必要性やSEXや男女のことや人生や手の感覚や明日のことや人間性や小説や知識やホモ・サピエンスやアウストラロピテクスについて。

 きっと人間が孤独なのは同じヒト科の他人類が皆滅んでしまったから。ホモ・サピエンスは一人で泣くのだ。

 他の干渉を受けないのは心地がいい。朝が来なければいいのに。しかし、朝が来なければ私は一層思考を巡らせ続けるだけになる。日の目を浴びず。

 彼はグロテクスだ。内臓も出しっ放しにして危険。歩くたびに血が滴って周囲を汚していく。これは流行らない。と思う。太宰治みたいに死んでから活躍するのはやだな。だって死人には喜びもない。

 彼には激情がない。ずっと冷静だ。恋をした時もそれはまやかしだと知っている。病的な苦しさも内心楽しんでいることを理解している。だから垂れ流しの内臓が尚痛む。

 最後の一人になったホモ・エレクトスは何を考えたのだろう。

 最後の一人になるホモ・サピエンスは何を考えるのだろう。

孤独のホモ・サピエンスのために私たちは今色々な物を残しているのかもしれない。どうかあなたにとっての幸福が愛であればと思う。

 ある日夢を見た。私は一人で、世界中の人間は突然、何の前触れもなく消えてしまった。まるでドラえもんの道具を使ったみたいに。私はのび太くんじゃないからドラえもんは助けに来ないけど。

 テーブルにあるコーヒーは今注いだかのように湯気がたっている。暖かいコーヒーを手に取り一口飲んで見ると、バナナの味がしてこれは夢だってわかる。

 そうすると私は南国にいる。海にはバナナフィッシュが泳ぎ、陸ではバナナモンキーが遊びまわっている。バナナフィッシュは太ると穴から出られなくなる。だけどバナナモンキーが邪魔をして助けに行けない。

 嫌だ、と思う。奴らは変わっちまったから閉じ込められているんだ。知っていて、理解している。でも満足そうに穴に閉じこもっているから。私は紙飛行機を作るのがヘタで、先生は叱る。飛行機はふいと投げた力分だけ進み、すぐに水面へ落ちる。紙はもう広大な海に溶け出している。

 溶けて海になれ、何処へでもいけ。


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