第13話 異世界での夕食
町の夕暮れは、美しかった。建物の壁に夕陽が当たって、何処か神秘的な雰囲気を感じさせた。人々が点ける建物の灯りも、その灯りが微かに揺れる事で、程良い異世界感を覚えさせる。丁度、古い洋画の背景を観ているような感覚だ。映画の美術部が、丁寧に造り上げた町。建物の外壁から、人々の衣装まで、あらゆる物を拘り抜いた、至高の作品。二人が見つけた町の飲食店も、少し暗めな店内の様子も相まって、そのテーブルに座った時はもちろん、店員の女性に注文を伝えた時も、妙な興奮を覚えてしまった。
異世界の料理って、美味しいのかな?
現代人(主に料理人)が異世界に転移し、そこで異世界人に現代の料理を振る舞う話はあるけれど。その逆を味わうのは、やはり少しだけ不安があった。ここに出て来るのは、異世界の食材を使った物。牛のような獣や、豚のような怪物を捌いて、それを調理した物(だと思う)である。食材の危険度を疑うわけではないが、それがテーブルの上に運ばれて来た時は、その匂いにうっとりとはしたもの、内心ではやはり怖がっていた。
栄介は正面のホヌスに目をやり、それからまた、テーブルの料理に視線を戻した。
ホヌスは、その光景に微笑んだ。
「食べないの?」
「え? い、いや」
食べるよ? と言ってから数秒後。
栄介は金属製のナイフとフォークを使い、テーブルの肉を切って、それを自分の口に運んだ。口の中に入れたのは、一瞬。それを数秒程噛んで、肉の味を恐る恐る確かめた。肉の味は、美味しかった。味自体は異世界らしく向こうと違っていたけれど、食材の味を壊さない自然な味付けが、少年の舌をゆっくりと満たしていた。
「美味しい」
「そう?」と言ってから、自分の料理を食べ始めるホヌス。彼女は栄介の感想にホッとしたらしく、木製のスプーンですくったスープを味わうように飲み始めた。「うん、確かに悪くない」
二人はそれぞれの調子で、今夜の夕食を食べ続けた。二人が今夜の夕食を食べ終えたのは……正確な時間は分からないが、店内の客達が騒ぎ出した時(たぶん、酔っ払いが騒いでいるのだろう)だった。
二人は店の会計所に向かい、二人分の料金を払った。二人分の料金を払ったのは当然、無限の貯金から金を下ろした栄介である。二人は栄介を先頭に、店の中から出て行った。
栄介は、店の看板に振り返った。
「悪くなかったね?」
「ええ」と、ホヌスも振り返った。「本当に。店の雰囲気も最高だった」
ホヌスは嬉しそうに笑い、栄介に目配せして、その足を促した。
栄介は、その促しにドギマギした。彼女は、誘っている。三大欲求の次点を満たしたから、次は下の欲求を満たそうと。彼に微笑み掛けた顔は、少年の劣情をそそる表情、その足を歩かせる魔性の笑みだった。
栄介はその笑みに肯き、彼女と並んで、夜の町を歩き出した。
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