-メリクリな探索員の日常1-1-
年末のこの時期。今所属しているチームリーダーから『今日、俺の家で集まろうぜ! せっかくのクリスマスなんだから今日は楽しもう!』なんて誘いがあった。
けれどあまり参加する気がなくて断ってしまった。馴染めていないわけじゃない。仲は良いし優しくしてくれてる。断った時も『そうか。また今度誘うよ!』って言ってくれていた。けど最初に所属していたチームが解散して点々といろんなチームを渡り歩いた私にとって仲間というより……傭兵?っていうのかな。雇われたメンバーとしてなんて気持ちで今はいるんだ。仲間っていうよりは稼ぎ仲間なんだって意識がどこかにあったのだと思う。
そして探索の合間に旭日隊が探索員アプリの掲示板に要請を出す異界調査を最近こなしていると、なんだか本当の仲間? でもこの表現は違うかな。距離感っていうのがよくわからなくなってきてしまった。
一人が楽なのかな。
でも多分、結局のところ私が馴染みきれてないんだと思う。最初にいたところは結構楽しかったし、まだ行ったことのない階層へ行く時は楽しさ半分、冒険心と不安感でいっぱいだったのを今でも覚えている。
探索を供にしたことのある仲の良い友達は、皆やりたいことが明確で探索から離れてファミリアマーケットの店員になってたり、武器防具を作る鍛冶職人になってたり、魔法研究者になってたりと様々な道を歩んでた。
そんな彼女らと比べると私っていまいち方向性っていうのかな。そういうのに欠けてる……いや欠けてしまったところがある。
そんな自立したくてもできていない自分が嫌で高校時代にいろんなバイトをしていろんな経験をして、そしてやりたいことを見つけるためにいろいろと見てきた。
つもりだった。
探索員になって冒険に出たのも何もない自分をごまかすためでしかなかったような気もする。
世の中はネガティブだったし。それは不安定にも不安にもなるよね。
実際興味があったのは事実。異界探索員の免許がきた時何もできなかった私が今では、自分より一回り大きい怪物を相手にタンクとして請け負うことができるようになったくらいに……
力が欲しい。守られたあの日にそう感じた。
女は男より力が弱い。だから、力仕事は男に任せる。女だから、男だからって理由で自分の可能性をつぶすようなことはあまり好きじゃない。無理があるときはあるけどね。
男女の特性は尊重すべきだと思うんだけど、押し付けるようなのは嫌いだ。異界は、そんな決められたように擦り付けられた常識を覆すだけの新しい常識を与えてくれる。
最初は、怖かった。どんどん身体能力が階層を行く毎に上がって、日に日に私が私じゃなくなるんじゃないかって思いもして迷いもした。けど、どこまで行ったとしても私は私だった。
と思いたい。あまり自信はないから困ったさんだ。
でもそんな困ったさんの私でも一つだけ心の真にあるものがある。それは、異界が出てくる前、初めて命の危機に落とされて、不安でしょうがなくって皆も不安で、でもなんとかしなくちゃって思って……なんとかならなくて、もうダメかなって思った時。
彼は、一人で私達を守るために動いた。あの時、私が行ってもよかったんだと思う。そのほんの少しの勇気がなかった。
あの時、そんな自分が情けなくって悔しくて化け物に追いかけられただろう彼が眩しく見えた。
そして、私達をかばってくれた彼は未だに見つからない。でも、きっと生きている……と思う。思いたい。
絶対にどこかで……何かをしているんだって、そう思ってる。というよりそう思えてならない。
もう5年も経ってるのにな。
探索員を続けていたら会えるんじゃないかって期待はしていた。だけど、佐々木さんが捜索願を出してみても見つからなかったし……死んじゃったのかな。
「たぁっだいまぁ!!」
玄関から無邪気な声を家中に響かせているのは妹の結華(ゆうか)。来年で高校2年生になる。私と違って、お父さんに似てブラウンがかった髪色が特徴的な妹だ。そのおかげで何度か小学生の頃だったかな……何度か注意を受けたり弄られたらしいけど、私は、綺麗で可愛いと思う。
私と同じように長くしようとそろえた髪を後ろにまとめて歩くたびにゆらゆらと揺れているのはなんだか微笑ましい。
少し活発で、元気がありすぎるせいか残念なところはあるけどかわいい妹。
「あ、ユキお姉ちゃん帰ってたんだ! それにこの良い匂い……シチュー?!」
「うん。せっかく帰ってきたし、ちょうど良い日だから私特性のシチューでも作ろうかなって思ってね」
「やったー! シチューだぁ! えへへ。せっかくのお休みなんだからゆっくりしてればいいのに。今日の夕飯当番は、妃奈(ひな)だったけどヒナは、今どこにいるの?」
「ヒナなら、そこでゲームしてると思うよ」と指さしてヒナのいるところへとそっと足音を立てずに忍び寄るユウカ。
ソファに横になりながら携帯ゲーム機かな。最近新しく発売されたスウィッチィという携帯ゲームにご執心だ。どうやら皆で遊べる格闘ゲームに熱をあげているみたい。
だから、なのかな。たぶんだけど……
「わぁ!!」とおどろかしてくすぐりを入れたユウカに対しヒナが「にぎゃああ!」っと声を荒げてから猛抗議した。
「今やってる最中だったのに! 勝てるところだったのに!! ユウカの馬鹿!」と言うヒナ。「だって、たっだいま!って言ったのにおかえり~もないんだもん。気づいてないから驚かしたくなるのは人の性ってやつじゃん~?」
さあ、ここからは、よくある言いあいの始まりだ。ヒナは妙に大人びている。わがままは言わないし、努力家だし、ゲームと本が大好きな小学生だ。だからなのか大体、姉の無茶ぶりを聞き入れておとなしくなるのがいつものヒナだったけど今は、違うようで猛反発。
「ユウカのせいでレートさがったああ! バカ! 脳みそ単細胞!! メモリの積んでないパソコン女!! 記憶領域0のポンコツ!!」
いまいち、貶してるだろう言葉が独特過ぎて、この子は本当に今年中学1年生になった子なのだろうかと考えてしまう。
私と同じ黒髪で今は、ゲームするのに邪魔だからとショートに切りそろえている。長い時はツインテールにしてみたり、ポニーテールにしたりといろいろ遊んだなぁ。
それとメモリを積んでないパソコン女ってどういう意味なんだろう。
「へっへんだ! レートなんてちょちょいのちょいちょいっと……ちょいとちょい? とあとすこしのちょいちょいと……もうちょっとのちょい位であげればいいことなのさ!」
もうそれは、『ちょい』じゃない。多分、ユウカはゲームがとても下手なので実際に自分ならどれくらいでゲームの腕をあげられるかなって考えて、そこを正直に言って出てきた言葉なんだと思う。
「もう、意味わからん!!」
ごもっとも。
姉ながら二人の言い争いには毎回頭を悩ませられる。うるさいとかそういうのじゃなくて、ヒナの言葉遣いの意味についてついつい何なんだろうって考えてしまう。なんでこんなに独特になっちゃったんだろう。
多分お母さんのせいだと思うけどね。お母さんが買ってきた本とか置いてあるのを読んでるもんなぁ。
両親は、二人とも自衛隊? の出身らしい。自衛隊かどうかも曖昧で私も詳しく仕事について聞かせてもらったことはない。ただ、海外に仕事で行ったり、災害地域に派遣されたり、今は……探索員になって時折調査に乗り出すようなことをしているというのは、私が異界探索員になった時に聞いた話だ。
だから今も両親は家に帰ってきてはいない。おやすみとかおはようの連絡はiFunを通してくる。
今度、しっかりとどんな仕事をしているのか聞いてみようかな。
「だからちょちょいのちょいのちょいちょちょいのちょいだってば!」
「ちょいが多い! ゲシュタルト崩壊する!! 簡潔に短く伝えろ!」
「何そのタルトおいしいの? ちょっとやそっとの甘い物じゃ私の舌はだまされないよ!」
「タルトじゃねぇえ!! 甘い物でユウカを釣ろうとか考えてないし! ゲシュタルト崩壊だし!!」
「タルトじゃん」
「馬鹿だぁああああ!!!」
「馬鹿じゃないし! 馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ! ってことはヒナの方が馬鹿なのではないでしょうか!!」
「もういいよ……特大のブーメランが飛んでるよ。しかもそれにぶっ刺さってることに気づいてねぇのが腹立つ!!」
「ブーメランの話なんかしてないし! よし、それならどっちが馬鹿なのかその台乱闘スウィッチィファイターズで勝負しようじゃないか!!」
あれ、この流れはユウカの方が不利なんじゃ……?
「飛んで火にいる冬のあほうとはこのことだな……いいよ。勝負しよう。ユウ姉が勝ったことないのによく挑む気になったよね」
「ふっふっふっふっふぅ。こんな決闘が来る日のために私は練習に練習を重ねていたのだよ!!」
「どんな矮小な練習をしてきたか見てやろうじゃない」
コントローラーを持つ二人。いつの間にか真剣勝負の幕が上がり後ろで二人を見守ることにした。
キャラ選択画面に移り、各々自分の好きなキャラを選ぶ。ヒナはキャラを真っ先に選んだ。私もヒナと少しだけ遊んだことがあるのだけど、そのキャラはゲーム内最悪の弱さを誇るといっていたキャラだった。
見た目はずんぐりむっくりしている。ドン・ムッソリーニって変わった名前のキャラだ。
セイウチみたいな見た目をしていて繰り出す技はゆっくりとしたパンチやらその巨体には似つかわしくない素早く繰り出す攻撃力の弱いキックが特徴なんだったっけ。
リーチも短く、使いこなすのが難しいって言っていたのを覚えてる。
きっとヒナの自信がそのキャラを選ぶ。個人戦績9割負け越してるユウカならたとえ真剣勝負でも負けるはずがないと。
ユウカは、真っ先に選んだヒナを見て少し焦るけど自分のペースにすぐ戻った。きっとユウカの強みはそこにあるんだろうな。
そして、選んだのはニャゴローという細剣とおしゃれな綿の付いた帽子、長靴ときれいなマントが特徴の小さい猫だ。確か、素早い動きて敵を翻弄してダメージは小さいけど圧倒的な手数で勝利をもぎ取る猫だったっけ。
「やっと最高難易度の敵を1回倒せるようになった実力見せてあげる!」
さあ、キャラの選択は終わりステージを選ぶ時間になった。お互いにフェアで戦おうという意見から何の飾り気もない、まさに1対1で戦うステージを選んでゲームが始まった。
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