-メリクリな探索員の日常1-2-
「レディーゴー!!」
軽快なBGMと供にゲームが始まる。ルールはいたってシンプル。けれど、この台乱闘スウィッチィファイターズは、ルールをいろいろなものにカスタマイズ出来て遊び方は無限大というのを売りにしているゲームだ。
そんなルールがたくさんある中で二人が選んだルールは3ポイント先取制で、互いに与えられたHPが削り切られるか台(ステージ)より外側に相手を押しやった方の勝ちとなる。
HPが削られれば、その場で倒れて爆散する。そして、画面の上から5秒間の無敵時間を得て復活する。
つまり3回、相手を台の外へ押し出したり落としたり、HPを削れば勝利するというのがこのゲームだ。
互いのキャラがステージの両端に足を着かせる。
先ず動き出したのはヒナの操るドン・ムッソリーニだ。すごい名前してるけど、なんなんだろうこのキャラ。
ユウカの操るニャンゴローへと駆けだすのかと思いきや、葉巻のようなものを咥えて低い声……いやハスキーボイスで「かかってこい」とアピールする。
「っふ。余裕で倒す」
「余裕をこいていられるのも今のうちだから!」
挑発に乗っかるユウカはまっすぐに駆け出した。そして、駆け込む速度を利用してまっすぐ突きを繰り出す。
しかし、この攻撃はあまりに単調すぎる。単調すぎるが故にアピールを終えたドン・ムッソリーニには届かない。
ジャンプして避けたムッソリーニは、軽くニャゴローの背中を小突いてダメージを入れた後、素早い蹴り攻撃のコンボが炸裂する。
ずんぐりむっくりの巨体には似合わない俊敏さで短い脚の蹴りが炸裂する様は、「おりゃららぁ!! おりゃららぁ!! おりゃららぁ!!」って叫んでるハスキーボイスを除けばまあ可愛い。
一方的にボコられるニャンゴロー。焦りの表情を浮かべるユウカがなんとかそのコンボから抜け出そうと必死に攻撃を繰り出そうとするもあえなく相殺される。
このゲームは同時にヒットしあった攻撃は相殺されてしまうのだ。
ヒナ曰く。本当に強い人達同士は、相殺の嵐で互いに一歩も譲らない攻防が繰り広げられてとても面白いのだそうだ。
だが、相殺されているのにも関わらずニャゴローの体力は徐々に減って行っている。
ドン・ムッソリーニの足の手数だ。ニャゴローの細剣を振る速度よりもムッソリーニの足の方が速いらしく、微ダメージではあるが着実にユウカのニャゴローのHPを削っていく。
この手法、案外魔物にも使えたりして……
しかし、ニャゴローもただだまってやられているわけではない。ここで赤いマントを盾にしたその時、ムッソリーニの背中へと瞬時に移動して一閃……細剣が光った。
特殊攻撃だ。
このゲームでは、キャラごとに4つの特殊攻撃と一つの必殺技がある。必殺なのに必殺足りえないものが多いのが突っ込みどころでは、あるもののニャゴローの特殊技の一つがマントを盾にして敵の攻撃をはらりとかわし攻撃をいれるカウンター技だ。
「っく!」
これには、ヒナも不意を突かれたようで悔しい表情を浮かべる。
「へっへーん!!」
「まだ、これからだし!」
二人の戦いはまだ始まったばかりだ。一閃して駆け抜けたニャゴロー。攻撃を食らい倒れたムッソリーニ。
しかし、HPの減り具合は依然としてユウカの方が大きくヒナは、まだ余裕がある。
そして、ニャゴローが駆け抜けた先へと追い詰めるムッソリーニの素早い足技でニャゴローは、ぼこぼこだ。
やられるたびに「にや!」っていうのだけど、ヒットする速度が速くて「にににににににににや!!」っとなんだか面白いことになっている。
この攻撃から逃れようと何とか画策するユウカだが、ヒナの前ではなすすべがない。上へ飛んでも、追い詰められ一歩下がったら踏み込まれてコンボを食らう。
そして、一歩下がってコンボを食らうんだとしたら……攻撃が絶対くるとわかる。
だとすれば、カウンターが使える。
そう睨んだんだと思う。ニャゴローは一歩下がった。その後にムッソリーニの勢いのある足技が炸裂しようとしたところでムッソリーニは止まったのだ。
だめだ。ニャゴローはマントを盾にして防ごうとするも空振る。「ふえ?!」っとユウカが間の抜けた声でマントを盾にした後の硬直時間のあるニャゴローを必死に動かそうとした。
必死に動かそうとコントローラーのスティックを横へ倒す。だがニャゴローは動けない。
必死に動かす理由は、ムッソリーニを見れば明らかだった。今まで足技しか使っていなかったムッソリーニ。
両腕の筋骨隆々? マスコット感あふれる軍手か手袋がボクサーにも見えるその出で立ちは伊達じゃない。大きく振りかぶっていたのだ。
今まで足技しか使っていなかったボクサーが、大きく腕を振り回しながらマントを盾にして動けないニャンゴローに向かって強烈な一撃を叩きこもうとしている。
特殊技、『ドンの鉄拳』だ。
特殊技の中では全キャラ最強とまで言われるパンチ。だが、その実大きく振りかぶるモーションをはさむため扱いずらく、それ以外に強い技がなく動きも緩慢なため最弱とまで言われた。
しかし、その鉄拳を食らえば最後HPは3分の2は持っていかれ台の端であれば確実に場外へ持って行ってしまう破壊力を併せ持つ。
その最強のパンチが今、炸裂した。
まるでショットガンでも撃ったような音が放たれ鳴り響く。ニャゴローは気が付けば場外へと爆散していた。
「ああああ!! やらかしたぁあああああ!!」
「まずは一本」
得意げな表情を作るヒナはご満悦だ。対してユウカはヒートアップしている。
「くっそぉおお!! 次! 次は絶対ぶっとばす!!」
今の一勝は、傍から見ているとなんだかすぐ決まってムッソリーニすごい強いって思いもした。だけど多分違う。
きっとあの特殊技は、あんな感じにそう簡単に決まらないんだと思う。
だってマントを盾にする前からヒナは、あの『ドンの鉄拳』を繰り出していたのだから。
多分マントを盾にしたのを見てから発動したんだと遅い。見てから発動したらきっとニャゴローのやりたいように攻撃されていたに違いない。
ヒナは、ユウカがカウンターを狙うのを見越してわざと攻撃を入れるふりをしていたんだ。
最初に罠に引っかかったように見せて相手を油断させ二度目が来たときに一気に自分の敷いた罠に突き落とす。
策士だ。
二戦目が始まり、ニャゴローは、またぼこぼこに蹴られていた。もはやサンドバッグだ。
「ににや! にや! ににににや! にににや! ににや!」というなんとも哀れで……可愛い声が漏れてる。
その状況を打開すべくニャゴローは飛んだ。
ニャゴローの本来の戦い方は機動力の高さを生かして、縦横無尽に駆け巡り相手の体力を削ることにある。
そのためカウンターの特殊技を一つ除けば移動系の特殊技があとの3つを閉める。
1つは電光石火だ。相手を一瞬で切って駆け抜けていく。しかし、これをしてもヒナの恐るべき反射神経で相殺されてしまい目の前でとめられた。
いうまでもなくその後は、ムッソリーニの素早い足蹴りの餌食になってしまう。
そして、ユウカなりに考えたのだろう。ジャンプして重力に任せてキャラは落ちていくので電光石火は斜め右下に飛ぶことになる。
これを利用しようとジャンプして電光石火をしたのだろう。
だが、これは裏目に出てしまった。
電光石火をしてドン・ムッソリーニを切りつけたとこまでは良かった。良かったのだ。ボコられていたニャゴローの気持ちも晴れるだろう。
晴れただろう……着地した先に地面があればの話なんだけどね……
「うわわわわとまれえええええ!!」
叫ぶユウカ。ニャゴローはもう遅いよぉおおって言いながら落ちていったことだろう。
「うそだああああああああ!!」
落ちて爆散し早くも0対2になってしまう。項垂れるユウカを他所にヒナはとても得意げな表情を浮かべた。
「馬鹿だと認めるなら今のうちだぞ。今なら土下座で済ませてやる。我を通して負けたのならアイスを奢れ」
「ぬぐぐぐぐ……」
こうしてユウカのマッチポイントが始まった。
勝ち目は限りなく0だ。いや0に近い。0にどれだけ何かを掛けたとしても0のままであるように残念だけど、ユウカは勝てないだろう。
「すぅー!」
ユウカが深呼吸する。この子の強いところはここなんだよね。
「私は折れないよ。どんなにダメでも、どんなにできなくても私はあきらめない」
「せいぜいあがくんだな」
不適に笑うヒナを他所に真剣な表情でコントローラーを握るユウカ。
ニャゴローは再び台地に立った。
ムッソリーニとニャゴローの最後の対決が今幕を開ける。
先手はニャゴロー、機動力の高さを生かした特殊攻撃で間合いを詰める。しかし、その間合いに踏み込んだとたん無敵とも思えるムッソリーニの攻撃がニャゴローを捉える。
しかし、ユウカは相殺を覚えた。ムッソリーニの攻撃をバックステップを交えて相殺していく。
「っく、なんて上級な技を」
ムッソリーニはずんぐりむっくりしている。攻撃の速度が速い足技ではあるが、移動速度自体は遅い。
なので間合いを簡単に決められ不利な状況に陥りやすいのが弱点だ。
その弱点を突いている。ユウカは真剣だ。
電光石火を隙ありと言わんばかりに繰り出し攻撃の合間を見てムッソリーニに一閃入れHPもわずかだ。
そして、来る。互いが互いの行動の読み合いをする。
お互いに攻撃を相殺してダメージを入れさせない。隙を作らせない。
ここで動いたのはヒナだった。
ムッソリーニが光りだす。『私の拳は弾丸なりぃいいいい!!』っとこれまたハスキーボイスで大きく膨れ上がった拳を前に突き出した。可愛くない。
必殺技だ。
HPを3分の2くらい持っていく必殺技。勝敗の要とも呼べる必殺技はゲージがたまれば撃てるがそう連発できるものじゃない。
けれど、これは当たる。当たってしまう。大きい拳はニャゴローの逃げ道をふさいだ。
だが、ユウカはあきらめなかった。「まだまだ!!」ニャゴローの目がキラリとか輝く。「にゃんにゃにゃにゃんにゃん!!!」とムッソリーニと違いとても可愛いボイスで必殺技を繰り出す。持っている剣に光がともされ大きな大剣となった。
必殺技は互いにぶつかり合い。相殺され、必殺技同士のぶつかった爆音がステージを震え上がらせる。
そして、輝いた先に我先にとニャゴローが一閃見舞った。
途端にムッソリーニは、爆散した。
「いやったあああああ!!! 倒したああああ!!」
「っく……」
勝ったのだ。ゲームが下手なユウカが、ヒナに一本取ったのだ。その一本は大きく、ユウカを喜ばせ闘志をみなぎらせる。その後のゲームもユウカは優勢に……
……ならなかった。その後はあっけなくニャゴローはボロ雑巾のようにサンドバックにされ勝敗は決した。
「まげだああああああ!!!! 私は馬鹿だああああああ」
「改めて聞くと滑稽な台詞だな」
「ぐぞおおおおお!!!! 次は負けない!! 負けないし!!」
「ほら負け犬、アイス奢れよ」
「ちくしょおおおおおお!!!」
「決着は着いた。さて、ユキお姉ちゃんもやる?」
「ん? 仕込みもひと段落したし、それじゃ私も一緒にやろうかな」
「ユキ姉やろやろ!! 今度は私もそのドン・ムッソリーニ使う! 絶対勝てるもんね!!」
ああ、それはきっとだめなパターンだなぁ。
「使うがいい。そのキャラの難しさを知らないお馬鹿な負け犬よ!」
「ぬあああああ!!! ユキ姉! 協定だ。二人であの巨悪の権化を倒すよ!!」
「巨悪の権化って」
つい笑ってしまった。
「1体2でもいいよ。プライドを捨てたユウお姉ちゃんがどこまで戦えるのか見ものだ」
こうして巨悪の権化事ユキを相手に何度も連敗を重ねた。
なんだかんだで、あの誘いは断って良かったなって思いながら、姉妹揃ってのクリスマスを楽しく過ごせたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます