第26話 -その背中を応援したくて-
扉の横には、魔術関連研究室との文字が書かれていた。「到着しましたよ」の言葉と一緒に扉を開ける。
すると、広い部屋の中央にガラス張りの窓に包まれた青白い円形線があって周りには、謎の文字が書かれていた。
「これって……」紗雪の言葉に続けて玲奈。「魔法陣みたいです」
魔法陣、そうだ。まるで魔法陣のようなものが地面に描かれている。
「きゅぅ~」関心するように見てるけど君、あの中に入れらるかもしれないんだよ?
「さてさて、私の術式計を披露するとしますか! 言っておくけど非公開物だし、そもそも旭日隊極秘施設なんで他言したらどうなるかは想像にお任せするよ」
「「え?」」
玲奈と驚きが重なった。
「そりゃもちろん。昔馴染みのユキからの願いってのもあるし、その小動物たちは私も気になる」
「くぅ~ん?」達ってことは、『え? 自分も?』と言わんばかりに機微を傾げたシロ。本当にこいつらIQ高いな。
「まあ、調べる原理や理屈を一から講義しても良いけど。別にいいよね? そこの秋永ちゃんならもしかしたら理解が速いかもしれない」と玲奈を見るチナミ。
「はい、文字ですよね?」
「正解。どうして文字が引き金になるのかは未だ研究の余地がある。だけど、異界が出現して以降原子核と電子との間には何もないとされてきたが、あるエネルギーがあることが判明して、それが魔法現象の発現にかかわる大事な駆動力になっているのではないかと提唱した。私が!」
どや顔してる。魔法の発生理由についての解明をしたってことなんだろうか。だとしたらすごいことだけど、この術式計っていうのとなにか関係があるのだろうか。
「そこでだ。その駆動力の発生機序について……いやつまり、魔法ってどうやって出るの?という所の研究を私はしていたんだ。そしてわかったのが言葉、念、心、感情といったものが重要なファクターとしてサンプル少ないけど……統計的に割り出せたわけだ! でねぇ、ここからが私のすごいところなんだけど……」
なんか今、すっごい重要な話してるんじゃないかな。玲奈なんか熱心に聞いてるもん。
「言葉を具象化することに成功したんだ」
「そんなことが……」とつぶやく玲奈。話に置いていかれてる気がするけど「つまり、言葉を具象化するってどういうことなんです?」
「白縫君……もうちょっと想像力膨らませた方がもてるよ?」
想像力膨らませてもいまいちわからないのですが……ってか膨らんでないんだとは思う。魔法なんて使ったことないし、って思ったけど念や心、感情ってもしかして、あの蛍灯とかやたら技を撃った時のあの感触と同じものなのかな。ってことは俺も魔法を使っていたってことになるけど。
いまいちピンと来ない。
「まあ、例えばこんな感じかな」チナミの腰に備えてあった短刀を取り出し呪文らしきものを唱え始めた「レクタ・フラマ・ユーナ」と言い終わった時市ノ沢(いちのさわ)が慌てた「室長!! ここでそれはやめ────」
すると、短刀の先から炎の玉が形成されまっすぐ飛び壁に当たって爆散した。
「おおぉ」すごい。初めて見る炎の魔法だ。感歎の言葉を漏らすとチナミは得意気に「ふっふ~」っと鼻を鳴らす。
「ち~~~な~~~み~~~さ~~~ん?!!!」と入り口付近にいた市ノ沢(いちのさわ)が言い知れぬオーラを放っている。
「あ、ああ! え、えへへ。ごめーんね!」とチナミ。
「練習場、実験施設外で魔法を扱わないでくださいってこの前注意しましたよね?」
とても怖い眼鏡が現れた。オーラというか気迫というのか、とてもすごい。さっきまで普通の人だと思っていたのに一気に、この人も異界に潜ってるだろう力の片鱗を感じるだけの覇気が伝わってくる。
「わかってる! わかってるよぉ! 今のは試し! かる~い奴だから! ちょっと壁が黒焦げになって────」
ガラガラっと壁の塗料が崩れ割れ始めた。「ごめんなさい。後で修理お願いします」と小さい背丈をよりちょんとさせたチナミは、まるでビーより小動物だ。
そして、チナミは制御装置らしきところへと向かいスイッチを入れた。
「あの……ここにビーを入れるんですよね?」
「そうだとも? 入れなきゃ調べられないじゃないか」
「入れたら……どうなります?」と恐る恐る聞くとさっきまでの落胆っぷりはどこへやら「ふっふっふっふ……」と不敵な笑みを浮かべて「光る」そう一言残してそっぽを向いた。
「ただ、光るだけ……です?」
「ああ、特になにかあるわけじゃない。光る。綺麗だよ?」
綺麗とかそういうことじゃなくてどうしてそっぽ向いてんのこの人「信じて────」
「くどい! 別に焼いたり半身もいだり、薬注射してべろんべろんにさせるとかそんなことするんじゃないんだから! 黙ってその可愛いのを入れろ!!」
「わ、わかりました」
生唾を飲み込んでガラスの扉を開いて中へと入る。ビーを掴んで下ろそうとするが肩にしがみついてやだやだーっと「きゅっきゅきゅーーきゅー」って鳴いて離れようとしない。
確かに、魔法が存在するとわかった昨今、怪しげな魔法陣の上に取り残されるって結構不安だと思う。「気持ちは……わかるけど一旦離れよう。よくわからないけど君を調べられるみたいなんだ」と訳を話すようにビーの目を見ると「きゅぅ……」とあきらめ手を……いや、爪を引っ込ませた。
「こらこら! 乳繰り合ってないで速く置いてでてきて~」言い方よ……と思いおとなしくなったビーを置いて後ずさる。
「きゅ、きゅきゅきゅ!! きゅっきゅ!!」
ああ、不安そうな顔してる。大丈夫かな。
「構築スタート!」と周りに配列された魔法陣が青く光りはじめ、青い線の輪が丸く回転し始めた。
「確かに、綺麗」と紗雪。
「へぇ」っと食い入るように玲奈。
その光景の中で震える小動物は、今にも走り出しそうだ。そして、青い輪の回転が終わり、青白い光が消えた。
「さあ、終わったよ~おつかれさま」と軽く手を振るチナミ。扉を開けてビーを回収しに行くと恐るべきスピード……まるであのイタチのような速さで首にシュルリと巻き付いた。「きゅっきゅっきゅきゅう!っきゅ!」なんか言ってるけど。多分何か言ってるんだろうな。
「言葉がわかれば何言ってるかわかるけどわからん。ごめんな」と頭を撫でた。「きゅぅ~」落ち着いた表情で目を閉じるビー。
「さてさて、解析までちょい時間かかるからもう一つサンプル取っちゃおうか!」とちらりとシロを見るチナミ。
シロは気づいていたみたいだ。その視線を浴びる前にドアへと前足をこすりつけて開けようとして、その場から逃げようとしていた。
「さ! イッチー! その子連れてきて」とシロの近くにいた市ノ沢(いちのさわ)にお願いする。
「はい……」とシロの背中を見つめる市ノ沢(いちのさわ)。
「あの、どうしました?」紗雪が声をかけるも反応しない。
すると、市ノ沢(いちのさわ)は、ドアを開けてしまい。シロが脱獄を始めた。
「「「「え?」」」」
全員で驚きの言葉の代表格を口にする。
「ちょ! ちょ、ちょちょっとイッチー?! 何してんの?!」
「すみません!! あの子の……」
「あの子の? 何?」とゴクリと生唾を飲み込むチナミ。
「あの子のちんまりとした可愛い背中を見ていたら応援したくなっちゃいまして……」
「「「は?」」」
紗雪と玲奈は「え?」って言ってたと思う。だけど、これまた奇遇にも疑問の代表格の言葉を皆一様に口にした。
「って、はるさん! シロちゃん探しに行かなきゃ!」
「って、そうですね。行きましょう」
「私も!」
紗雪、玲奈に続いてシロを追いかける。市ノ沢(いちのさわ)さん……普通の人っぽそうに見えてやっぱりあの室長の秘書?をしてるだけあって普通じゃなかった。
そしてシロを見つける戦いが始まった。
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