第24 -犬か柴犬か、カワウソか魔物か-
「いや、刀のあんちゃん……さすがに12階層まで……ああ、うん。アングラ・マウス(つめねずみ)の爪にマグナ・アラネアの甲殻っとそれとアラネアと鎧ねずみの甲殻っと……そうかぁ、うん」
疑いのまなざしは晴れていない。
「素材はこの通りですぜ? 旦那! してどれほど色を付けてくれますかねぇ」
「きゅっきょきゃきゅきゅ~?」
のりを込めて高く買い取ってとお願いすると急にビーも茶色いマフラーになってるところから店主へと身を乗り出して問う。
「うおあ! そ、そいつぁ……マフラーじゃなかったのか?! カワウソか?!」
「多分正解です」
「きゅ!」
小さな前足を高らかに上げて挨拶をするビー。
「多分……? するってぇと飼ったんじゃなくて拾ったのか?」
「話せば長くなるのですが……そうです」
「きゅぅきゅぅ(うんうん)」
店主にビーがここにいる経緯を大まかに説明すると、いぶかし気にビーをじっくりと見てつるつるの頭を掻いた。
「魔物にしちゃ……ペットだな?」
「そうなんですよ。ペットです」
「ほぉ……これは世紀の大発見に近いことかもしれないぞ? 見た感じ眉毛以外普通のかわいいカワウソちゃんだが、魔物であるのなら魔物を使役できるってことだからな」
「あれ、魔物って物によっては使役できたりするんじゃないんですか?」
「いや、見つかっていない。魔物をコントロールする術も飼育する術もだ。地上に連れ出した魔物はしばらくすると謎の死を遂げることが多いんだが……」
「きゅきゅきゅ!!」
ほっぺ押さえてまじか!! みたいな顔をしているんだけど……会話を理解しているのかどうか。本当に気になる。
「かわいいなぁ……おい」
「本当にかわいいですよねぇ。私もこんな子が欲しいです」紗雪がビーを撫でる。ビーは喜んで頭を差し出した。
後ろで見ているシロはなんだか前足を1、2、1、2というリズムでふみふみしているのが目に入ったところで玲奈がシロを構う。
あぁ、やきもちやいてたのね。
「ま、とりあえずだ。そのことを新宿にある異界魔物研究センターにでも行って申請入れて調べてみるのも手だな」
「異界魔物研究センター?」
「なんだい、刀のあんちゃん。知らないのかい?」
「初耳ですよ?」
「となりのおねぇちゃんは?」
「私は、何度か足を運んだことがあるのでよく知っています。そこで働いてる子に変わってる子がいるのですけど……はるさん。今度行ってみます?」
「ビーとシロを人体実験にかけるんですか?……」
「そんな物騒なことしないですよ!」
「人体実験じゃなくて動物実験だな!」店主が頭を光らせながら突っ込みを入れる。
「ああ、動物実験……」息を吸って吐くような感覚で人体実験って言ってしまった。こいつらの理解力ならもうなんか、そう言ってもおかしくないような気もするから不思議だ。
「玲奈ちゃんも一緒に行ってみる?」
「え? あ、私もご一緒していいですか?」
「もちろん!」
「きゅ!」なぜかビーもうなずく。
「行きます!」
「決定ですね! 日取りは……また後でiFunに連絡入れますね」
流れるように新宿にある異界魔物研究センターなる場所へ行くことが決まった。
「ま、そこへ行けばこのビーちゃんって言うのかな?」
「きゅ!」
「しっかり、お返事できるなんてかわいいでちゅねぇ!!」
その濁声で赤ちゃん言葉はなんだか……とても違和感を覚えるけれど小動物愛にあふれる良い店主だ。
「ごほん、ビーちゃんが一体なんなのかもわかると思うし行政機関に登録すれば万が一魔物でも保護は出来るだろう」
「なるほど……」
「ああ、確かに。保護下に置かれている魔物も確かにいますからね」とそんなこと初耳なのですが?!と紗雪を見るが平然としている。え、これって常識なの?店主とか玲奈も知ってたのかな。
「魔物が地上に現れた場合、基本駆除対象だからな。けどどっからどう見てもちょい変わった可愛いカワウソで人畜無害そうな動物だから、誰かが変に探りを入れない限りペットで済むだろうさ」
「今日は良いことを聞きましたよ。ありがとうございます」
「なぁに、俺と刀のあんちゃんとの仲じゃねぇか! これからもごひいきに!ってことでその羽織の下に着ている異界石の装備ってぇ……」恐る恐る。店主は俺の全身を嘗め回すような目でじろじろと見ると「どこでお買い求めされたんですかねぇ?」と一言。
まじなトーンで最後の一言をささやかれ一瞬びくっとしてしまった。とりあえず、他の場所で購入した品を言及する尋問みたいなのは地味に怖い。
「渋谷のファミリアマーケットですよ。紗雪さんの友達に選んでもらったんです」
「なるほどな……さてさて、渋谷までは遠かったでしょう? 何かご入用な時はなんなりと聞いてくれて構わないんですぜ?」
ちら、ちらっとこちらを見る店主は何かを買ってくれアピールが激しい。なんだか、とてもたくましく感じてくるよこの店主。
「その時は、まあ相談しますよ」
素材を売り山分け分の金額を紗雪、玲奈のカードにチャージする。そして、店主がそわそわとしだした。
「最後に……」いつになく真面目な顔をする店主。「ど、どうしました?」恐る恐るその理由について問うと「その子撫でてもいいか?」なんてあっさりとした返事が返ってきたのでちょっと拍子抜けしてしまった。
「ああ、いいですよ」
そうですね。さっき撫でさせてほしいって言ってましたもんね。玲奈の足元にいたシロを玲奈が抱きかかえてくれて店主の前に差し出した。
「わん!」
そのあとは、すごかった。よしよしよしよしよし!!っと撫でまくりの猛攻撃をシロに仕掛け、撫で終わった後のシロはなんだか抜け殻のようにおとなしくなっていた。
ご愁傷様……
「わ!……ん」
撫でまくりの猛攻撃が終わり店を出ようとした時だった。「槍の嬢ちゃん」っと店主が呼びかける。
「はい?」振り向く玲奈。
「がんばってな。無理するなよ!」
最初から店主はきっと玲奈のことを知っていたんだろう。大宮異界で狩をしていたこととか……そして近くの素材買取店といえばここともう一つの所しかない。とすると、このファミリアマーケットを以前の玲奈達が利用していてもおかしくはない。
きっと、前のチームメンバーのこともよく知っていたはずなんだ。
玲奈は笑顔で答えた「はい! ありがとうございます!」
お店を出て、大宮駅まで歩く。
駅の改札口まで来て、玲奈と別れ紗雪も同じ方向だからと一緒に帰っていった。
こうして探索が終わったら駐車場へ行って家まで運転するだけだったもんな。なんだか進歩した気がする。進歩っていうのかな。前に進んだというか。
「さて、帰ろうか」
「きゅ!」「わん!」
シロとビーが答えてくれる寒空の下。駐車場へと向かい帰路に就いた。
「ピコン!」通知を知らせるiFun。
グループにレナが追加されました。
レナ:「改めてよろしくお願いします! 回復魔法とか槍の腕とか磨いて皆さんについていけるよう頑張ります!!」
白縫 春人:「レナさん、よろしくお願いしますね! 私も刺されないように頑張ります!(*‘∀‘)」
レナ:「それは……本当にすみませんでした!! がんばります!」
白縫 春人:「あ、いや。私もコミュニケーション不足だったんだし私も悪かったからさ。気楽に行きましょ(^ω^)」
レナ:「(;・∀・)」
夜空 紗雪:「はるさん、その顔文字だと目が笑ってないです(笑)」
白縫 春人:「えそうなんですか? じゃあ」
白縫 春人:「あ、いや。私もコミュニケーション不足だったんだし私も悪かったからさ。気楽に行きましょ!痛いのは大丈夫です(*´Д`)」
夜空 紗雪:「なんか・・・もう大丈夫です! 変態性が増しただけなので最後の一言は余計だと思います!(笑)」
レナ:「変態・・・」
白縫 春人:「ええ?! 全然変態じゃないですよ! この顔文字だと紳士? いやなんか刺されて気持ちよがってる変態に見えてきました(;´・ω・)」
レナ:「(笑)」
夜空 紗雪:「笑わせないでくださいよ! 自覚するのが遅いです(笑)」
夜空 紗雪:「最初からなんだか飛ばしまくりなはるさんですが、レナちゃんよろしくね!」
レナ:「はい。最初見た時のインパクトより親しみやすくてびっくりしました(=゚ω゚)ノ」
白縫 春人:「え? 最初見た時のインパクトって何ですか?!」
夜空 紗雪:「一旦それは置いておきましょう! っということで異界魔物研究センターに行く日程ですけど、いつ頃が良いですか?」
白縫 春人:「いつも肥満なんで明日でも明後日でも大丈夫です(。-`ω-)」
夜空 紗雪:「どや顔ですけど誤字が恐ろしいです・・・レナちゃんはどうですか?」
レナ:「肥満……じゃないですけど私も探索以外は、暇ではありますので明日、明後日でも大丈夫ですよ」
白縫 春人:「暇です!」
夜空 紗雪:「なんか唐突な暇アピールに見えますよ。訂正ですよね?(笑)それじゃ、明日は日曜日ですし、お休みにして明後日、新宿へ行きましょう! 場所は、新宿駅、時間はお昼過ぎで良いですか?」
白縫 春人:「訂正です! 大丈夫ですよ。ありがとうございます(^_^)/」
レナ:「okです!」
夜空 紗雪:「わかりました。研究室長に明後日行きますねって伝えておきますのでよろしくお願いします!」
研究室長? なんだか、随分すごそうな人と知り合いなんだな。ビーが一体なんなのかっていうのは確かに気になる……でも、それ以上にシロが一体なんなのかも気になる。しゃべる白い柴犬から普通の柴犬みたいに暮らしているけど、あからさまに理解力というか頭の良さが普通の犬と違う気がする。
だけど……行って何をするんだろう。調べるっていってもどう調べるのか。よく知らない施設で少しわくわくするけど二匹の正体を知るっていうのはなんだか少し不安だ。
「ひょっとしてお前も魔物なのか?」っと風呂上りでほかほかのご機嫌斜めなシロに問うと「くぅ~ん~?」の一言を残しそっぽを向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます