第22話 -小さな1歩-

 お昼休憩も終えて、支度を済ませる3人と2匹。刀と脇差の状態を確認しリュックを背負って狐の面をかぶる。


あくびをしてシュルリと首に巻き付くビー、伸びをして前足をなめまわすシロ。


取り外していたクレイモアを腰へと下げ、異界石(いかいせき)製の小手を装着する紗雪とハルバードの状態を確認してリュックを背負った玲奈。準備は万端、探索は再会された。


「あ、春人さん! ここからマッピング変わりますよ?」


「私は、練習がてらやってるので気にしなくても大丈夫ですが、玲奈さんも練習ですか?」


「そんなところです! それに今、春人さんが先頭で紗雪さんをはさんで私が後方にいますからね。索敵に専念できると思いますよ?」


「ああ、確かに。それじゃ玲奈さんにお願いしますね」


今までのマッピング経路のメモを見せて簡単にメモを取る玲奈。マッピングを変わってもらい、歩みを進める一行の前に早速マグナ・アラネアの集団が現れる。


「いますね……」


「私にも見えます……」紗雪が春人越しにつぶやき、さっと岩陰に隠れる。


「注視した限りだとマグナ5匹、アラネア6匹の大所帯ですけどどうしましょうか?」それぞれが疎らに散っていて数えにくかったが確かだ。


「アラネア祭りですね……」


玲奈の一言でふと思ったが大宮異界へ入ってからアラネアとねずみまみれだから、侵入した毎日がアラネア祭りな気がする。けれど、あいつら案外鍋にするとおいしいんだよなぁ。


マグナ・アラネアもおいしいのかな? 大きいと大味になりやすそうだからいまいち期待できないが試しにやってみる……いやいや、下調べしてからやった方がいいだろう。


「マグナも鍋にしたらおいしそうですよね」


「「え?」」


どうやら受け入れがたい様子の紗雪と玲奈。アラネアを前に食べた時はカニのような風味でおいしかったんだけどなぁ……


「はるさん……いつかお腹を壊して死なないか私は心配ですよ……っとまぁ、とりあえず。今回、数が多くてとてもリスクがあります。一旦分散させて処理したいのですが……私がちらっと見た限りだとマグナしか見えなかったので、正確な位置がよくわかりませんでした。はるさん」


「はいはい」


「前に出て引き付けることは可能ですか?」


「そうですね。開けてますし地面も足を取られるような起伏の激しいところじゃないから多分できます」


「わかりました。引き付けてる間に私と玲奈ちゃんで、分断されたアラネア達を処理していきますので、この方法でやってみませんか?」


「意義はないです」「私も特にありません」


作戦は決まり、俺は囮になることが決まった。

少数対多数のマグナとアラネアの各個撃破戦の幕が上がる。


 刀に手をかけ頬で風を感じる。ビーの毛並みをなびかせマグナとアラネアのいるところへと走り込んだ。


こちらへと気づいたアラネアの集団は猛スピードで追いかけてくる。いくつか飛んできたマグナの飛びつき攻撃を避けて逃げる。


すると紗雪が合図をくれた。


合図をくれた方へと走り、目の前に来たところで急な方向転換をする。


「成功だ」


見事にマグナ2匹だけを二人のところにおびき寄せることに成功し、残りを引き付けた。


なぜかアラネアよりマグナの方が動きは速い。ついてきた3匹のマグナ・アラネアを追い越し後方についてきていたアラネアの元へ行く。


狙いは右列に残されたアラネアだ。


駆ける。


そして踏み込む。

一連の動作を流れるようにこなした時、頭の中に突如閃くものがあった。


「奥義、剣乱旋華(けんらんせんか)」


踏み込んで空をかける。

こちらをめがけ4匹のアラネアが飛び込んできた。


踏み込みと同時に捻った体は宙で勢いを増し、抜刀の勢いで加速する。

飛び込んできたアラネアは6回にも及ぶ空中での回転斬りに巻き込まれ四散した。


四散したアラネアを見送り技を終えて着地する。「うっわ、これめっちゃ酔う……」


とりあえず、酔ってはいられないので追ってきているマグナとアラネアの飛びつきを避けつつ再度走りだす。



 目の前で春人の目にも止まらない、空中回転斬りを目にした紗雪。


「え、今のあれ何?! って悠長に見てられないですね!」


マグナ・アラネアの突進を受け止め弾き飛ばす。


勢い余り二度目の突進を繰り出そうとしてきたところに玲奈のハルバードが炸裂した。


振り下ろした斧部分は、マグナ・アラネアの腹部へとヒットし甲殻が割れる。


「ナイス!」弾き飛ばした後にやってきた2匹目のマグナ・アラネアに注意を向け飛びつき攻撃を避けた後にクレイモアを横から勢いよく叩きつけた。


足を持っていき、転がるマグナ・アラネアは腹を上にして起き上がれないでいるところに留めの一撃を入れる。


玲奈も一撃を入れたマグナ・アラネアと向き合う。


マグナ・アラネアの最期の攻勢とも思える姿勢に気圧され一歩引いてしまう。

「うぅ……」春人と紗雪の後ろから隙をついて一撃を入れ戦闘を運んできた玲奈にとって面と向かって大きなマグナ・アラネアと対峙するのは、とても勇気のいることだった。


「やれます!! 玲奈ちゃんなら大丈夫です!」


紗雪の一言で我に返る。


退いた一歩を前に出し、ハルバードを勢いよく後ろに持ってきて渾身の一撃を放つ「せい!!」飛びつこうとしたマグナ・アラネアの腹部に見事当たり突き刺さる。


だが、留めには至らず、腹を上に向けたところに紗雪がクレイモアで留めをさした。


「すみません……」


「大丈夫、一歩前進ですよ!」


「はい!!」


「はるさんのところに行きましょう!」


二匹のマグナ・アラネアとの戦いを終えて春人のところへと向かう紗雪と玲奈だった。



 3匹のマグナ・アラネアと2匹のアラネア。同時に相手にしても大丈夫だろう。けど、一歩間違えれば一撃もらってしまう……ここは、確実に一匹ずつ倒そう。


紗雪と玲奈が戦闘を終えてこちらへと向かってくる。


あっちは、片付いたみたいだ。


ならば……


壁際へと走ってその場にとどまる。


3匹のマグナ・アラネアは躊躇なく飛びついた。そして、壁を蹴り登り身をひるがえすと飛びついてきたマグナ・アラネアを壁に衝突させ一匹の頭部へと刀を突きさした。


「一匹!」


「任せてください!」


壁に衝突したもう1匹のマグナ・アラネアが紗雪のクレイモアの一撃で頭胸部と腹部を一刀両断される。


そして、後方より追ってくるアラネアも、ハルバードの回転斬りで二匹とも持っていった玲奈。


残るは一匹。

2匹のマグナ・アラネアの死骸を踏み越え現れた最期の一匹は「カチカチ」と音をたてて威嚇している。


そして、勢いよく玲奈に向かって渾身の飛びつきを繰り出した。


「やばい、間に合わない!」


「玲奈ちゃん避けて!!」


「え? !!」


青い血が滴り落ちる。ハルバードの矛先にまっすぐ飛びつくことになったマグナ・アラネアは、串刺しになりそのまま絶命した。


「はぁ……」驚いて崩れ落ちる玲奈。


「ああ、よかった……」肩を落とす紗雪。


「今のは、危なかったですね……」


運よく、怪我はなく討伐を終えた。

ふとシロを見やると最初にいたところから一歩も動かないでいたと思ったら、玲奈のすぐ後ろまで来ていた。


「わん!」


こちらを冷静に見ていた目はそっぽ向いて元居た場所に戻っていった。


「あはは、あぶないなぁって叱られちゃったんですかね?」


「これって……」


玲奈の身を案じて後ろまで来ていたのだろうか。今まで戦闘中はずっと後ろで待機していたシロが今初めて動いた。


シロの行動が一体なんなのか、よくわからないがマグナ・アラネアとアラネアとの戦闘に勝利した余韻をかみしめ解体に移るのだった。


「やっぱり甲殻を引きはがした先の身は、ぷりぷりでおいしそうなんですよ!」


「絶対、食べませんからね?」と春人を横目にナイフでアラネアの解体を進めていく紗雪。


「そんなにおいしいんですか?」ちょっと興味を持ち始めた玲奈だが、表情はひきつっている。


「ぷりっぷりでカニのようなおいしさですよ! ポン酢によく合いますね」

「きゅぅ!」


ほっぺに手を当てるビー、今の会話を理解しているのかちょっとびっくりしたけどかわいいから気にしないでおこう。


「ちょっと気になってきました……」


「玲奈ちゃん、はるさんのペースに引き込まれたら最期です! 蜘蛛ですよ? 大きな蜘蛛です! 解体するのは良いですが食べるって私はちょっと生理的に受け付けません……」


「う、確かに……蜘蛛は嫌です」


「おしい……」


「今、おしいって言いませんでした?」


「言ってないですよ。おいしいのに~って言いました!」


とりあえず、異界食仲間を作るのに失敗してごまかした。


マグナ・アラネアも十分に狩れたし、アラネアも多数狩れて今日の収入は期待できそうだ。


解体を終えて、今日の総合的な収入を楽しみにしながら先へと進んで行く。リュックに入らない分は紗雪のインベントリーバッグに入れることになり、アラネアの身も入れてくれないか頼んだけれど、「食べる分なら自分で持ってください!」と断られてしまった。


いや、確かにこの頼み事はちょっとあれだなと思い反省し探索を再開する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る